地下ノ國ノ祈リ人   作:御鏡

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街へ行こう!

「あなや、学園長殿の語は尚長く……ねぶたくなりき………」

 

校内放送が終わると同時に、オーエンは欠伸と共に呟いた。教壇上から教室を見渡せば、数名机に突っ伏している生徒が見えたが、それを起こすのは彼の仕事では無い。

 

「さぁ、汝ズも帰りたまえ。また明日会おうぞ」

 

起きている生徒に向けて告げ、オーエンは教室を去った。

彼が去った後、リリィは後ろを振り向く。

 

「ほよ…ユウリお姉ちゃん……寝てるの……」

「マジか。優里さん、ひょっとして瑞輝と同じタイプの人か……?」

「いつもこうなんだよね…任せて、起こし方は心得てるから」

 

驚いた顔をする葵を横目に、瑠花は机に伏して寝る優里へ近付いた。そして、徐に手を伸ばすと彼女の脇腹を擽り始めた。

 

「ん…んんぅ……」

「じゃあ、瑠花さんが優里さんを起こしてる間に俺は瑞輝を…って、起きたのか、瑞輝」

「あー…良く寝ましたわー……」

 

まだ眠いのか、瑞輝が目を擦りながら身体を起こす。同時に、瑠花に擽られていた優里が、大きな笑い声を上げながら飛び起きた。

 

「ちょ、ストップ、スト〜ップ!擽ったいよ〜!」

「アハハ、ユウリちゃん、良く寝てたねぇ」

 

ゲンがクスクスと笑い、優里は恥ずかしそうに頬を赤らめる。

 

「あはは……ごめんね、つい寝ちゃってたみたい」

「大丈夫だよ。って言うか、俺も寝てたし」

「おいおい、皆寝過ぎだろ…」

 

葵が呆れた様子で溜息を吐くが、優里はケラケラと笑う。

 

「まぁまぁ、良いじゃん。ほら、早く行こ!リリィちゃんとゲンガー君に、街を案内してもらわなきゃ」

「案内するの〜っ!」

 

ふすふすと、得意気に飛び跳ねるリリィの様子に、優里達は顔を見合わせると笑い合った。

 

 

「さて、リリィちゃん。何処から案内しよっか」

「ん〜…クロロワールからが良いと思うの!」

「良いね〜」

 

校舎を出て、案内のプランを話し合いながら歩くゲンとリリィの後ろを、優里達が着いていく。

 

「ねぇ、リリィちゃん。クロロワールってどんな所なの?」

「んーとね…クロトワ・クロロワールって言うお店なの」

「まぁ、簡単に言うと喫茶店だよ。コーヒーとパンケーキが最高でね〜」

 

リリィの説明に、ゲンが付け加える。それを聞き、瑠花が目を輝かせた。

 

「パンケーキ!良いねぇ……!」

「ルカお姉ちゃんもユウリお姉ちゃんも、絶対気に入ると思うの!」

 

リリィが楽しそうに答える。そんな少女達の様子に、瑞輝は頬を緩ませた。

 

「良いっすねー、華のJKって感じで……」

「おっさんかよ、瑞輝」

「いやはや、リリィ氏達のように輝いている方々を見るとつい……」

 

苦笑いする葵に、瑞輝はそう返事をした。

そんな会話をしながら歩いていると、リリィがくるりと振り返って笑みを浮かべる。

 

「ついたの〜!」

 

そう言った彼女の視線の先には煉瓦造りの建物があった。看板には『CROLOWALE』と書かれている。カランコロンと鳴るドアベルが鳴り響き、来客を知らせる。店内に入るとコーヒーの香りがふわりと漂ってきた。中には店員らしき兎の獣人が1人立っているだけで、他に人影は無い。

 

「いらっしゃいませ〜!」

 

女性店員が此方に気が付いたのか、パタパタと出迎えに来た。身長は優里達よりもやや低く、中高校生程の年齢に見える。腰まであるだろう、白い髪が印象的だ。

 

「って、リリィちゃんにゲン君!いらっしゃい。後ろにいるのは、お友達かな?」

「そうなの!今日お友達になったの〜!」

「ふふ、良かったねえ。あっ、そう言えばお兄さんも来てたよ!案内するね〜」

 

女性店員は笑顔でリリィに頷くと、そのまま歩き出そうとして…くるりと振り返って頭を下げた。

 

「そうだ!申し遅れました。私、ヴィッキーって言います。ヴィーちゃんって呼んでください!リリィちゃんとゲン君のお友達とあらば、サービスしちゃいますよ〜っ!!」

「あ、はい、ご丁寧にどうも……」

 

葵が頭を下げ返すと、彼女は再び歩き出した。外観からは想像も付かなかったが、店内は思っていたよりもずっと広く、落ち着いた雰囲気で居心地が良い。

 

「スナッチャーさ〜ん!リリィちゃんがお友達を連れて来たみたいですよ〜!」

 

ヴィッキーに案内された先には、ゲンと瓜二つの青年がいた。もっとも、その表情は、ニコニコしているゲンとは違って、無表情だが……カウンターを挟んだ向かい側には、店主らしき狼の獣人が立っている。ヴィッキーはすぐに狼の獣人の元へ行ってしまった。

 

「随分大所帯だね、新しい友達かな?」

「…であれば、喜ばしいな」

 

スナッチャーと呼ばれた、ゲンと瓜二つの青年が席を立ち、優里達の元へと歩み寄る。そして、リリィの前まで来ると、その頭を撫でた。

 

「…友達が出来たのか」

「うん!」

「お前が嬉しそうで何よりだ」

 

スナッチャーは、リリィの頭を優しく撫でていたが、不意に優里達に視線を移す。

 

「リリィが世話になっている」

「あ、いえ、そんな…今日友達になったばっかりで……」

 

急に話しかけられて戸惑いつつも、瑠花が挨拶を返す。その隣で、葵がおずおずと口を開いた。

 

「あの…失礼ですが、スナッチャーさんって、ゲンと双子か何かですか……?」

「……嗚呼、その事か」

 

スナッチャーが口を開くと同時に、ヴィッキーがスナッチャーの名を口にした時から、すっかり存在感を消していたゲンが、ひょっこりと顔を出す。

 

「あ〜…アハハ……その…実は俺のこの姿って、彼の姿を借りててね……」

「そうでもしなければ、ドッペルゲンガーは永遠に知られぬ影法師だ。だから、私と……」

「お〜い、お前ら〜」

 

スナッチャーが続けようとした時、後ろから声が掛かった。店主である、狼の獣人だ。

 

「立ち話も良いけど、長くなるんだったらテーブル席に行ってくれないか?今はお前らしか客がいないから構わないけど……」

「嗚呼、すまんな、ヒュー」

「折角俺とヴィーちゃんがメニュー表も準備しといたんだぜ?」

 

ヒューと呼ばれた店主は肩を竦めながら、テーブル席に誘導する。テーブル席に着くと、そこにはメニュー表が置いてあった。

 

「んしょっ……と」

 

一番最初に席に着いたリリィが、メニュー表を広げる。それを覗き込んでみると、どれも美味しそうなスイーツの写真が並んでいる。

 

「わ……こんなに種類があるんすね……」

「ね〜、どれも美味しそう!」

 

瑞輝が感嘆の声を上げると、優里も興味深そうに頷き、各々どれを注文しようかと悩み始めた。

 

「このパンケーキ見て優里!めっちゃ美味しそうじゃない!?」

「わ、分かった、分かったから落ち着いてよ瑠花ぁ……」

「……小生はコーヒーで良いっすわ……」

 

瑠花は先程からパンケーキを推し続けている。そんな中、瑞輝はコーヒーしか頼まないつもりらしい。その様子を見て葵が苦笑した。

 

「お前……相変わらずコーヒー好きだな」

「美味いんすよ、マジで。葵氏も1杯どうすか?」

「……まぁ、良いか。折角だし、俺も頼むよ」

「因みに、私のオススメはパンケーキとコーヒーのセットだ」

「「ヴィーちゃん/私のふわふわパンケーキと俺/ヒューくんのドリップコーヒーね」」

「嗚呼、そう、それだ」

 

ヒューとヴィッキーが同時に言い、スナッチャーは淡々と相槌を打つ。その様子に、葵が苦笑を浮かべる。

 

「随分息ぴったりなんですね……」

「当然です!種族は違っても夫婦だもの!!」

「なんでヴィーちゃんが偉そうなの」

「あぅ」

 

ヴィッキーが何故か得意気に答える。だが、ヒューに頭を軽く叩かれ、「ペショペショ…」としょんぼりとした様子で、そっぽを向いてしまった。

 

「はは……と、とりあえず皆決まったっぽいし、注文するか……」

 

そんな2人の様子に、苦笑を浮かべたままの葵の言葉を皮切りに、それぞれ注文を済ませたのだった。

 

 

数分後、テーブルの上にはリリィと瑠花の前にはパンケーキが、優里の前にはショートケーキが運ばれて来た。パンケーキから漂うバターの香りが、鼻腔を擽る。

 

「いただきま〜す!んー……やっぱりおいひいの……!」

 

幸せそうな声を上げるリリィに釣られ、優里と瑠花もそれぞれ頼んだ品を口にする。

 

「…美味っし〜!」

「美味しい……っ!ふわっふわの生地に、甘さ控えめのクリームがたっぷり入ってる……!」

 

2人は思わず顔を見合わせると笑みを零し、その後も夢中になって食べ進めた。その様子を見ていた瑞輝もコーヒーを口にする。

 

(…あー、やっぱコーヒーはブラックっすわ……)

「この良さが分かるか……貴様とは良い珈琲が飲めそうだな」

(エッ今この方小生の心読みませんでした?怖〜!)

(こっちの方が良いか?)

(ヒェッ、直接脳内に……!)

 

美味しいと繰り返しながら食べ進める学生達を見て、ヒューとヴィッキーが満足そうに笑う。

 

「ふふ、皆美味しそうに食べてくれて嬉しいなぁ」

「だな……まぁ、ヴィーちゃんの作るパンケーキは絶品だもんね?」

「うんっ!」

「……よーしよしよしよしよし……」

「えへ、えへへ」

 

まるで子供のように喜ぶヴィッキーの頭を、ヒューが優しく撫でる。ヴィッキーは気持ち良さそうに目を細めると、もっと撫でてと言わんばかりに頭を押し付ける。その誰が見ても微笑むだろう光景にさえ、鉄仮面のような無表情のままスナッチャーが口を開いた。

 

「さて、改めて自己紹介と行こうか」

「あ〜、もうこんな時間だ……ごめんだけど、俺は先に帰るね」

 

スナッチャーの言葉に、慌てた様子でゲンが席を立つ。が、その手を掴んで、スナッチャーが彼を引き止めた。

 

「リリィも連れて行ってくれ。友人なら自己紹介は済んでいるだろう?」

「……はいはい、分かりましたよ……っと、リリィちゃ〜ん、行こっか」

「は〜い!」

「皆、またね〜」

 

ゲンが諦めたように答えると、スナッチャーは掴んでいた手を離す。代わりにリリィがその手を握り、2人は店を出て行った。

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