あの日見た夢をもう一度、あの日見た光のその先へ   作:白髪ロング娘スキー

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act10 鍋パーティー 1-1

 

 何もない休日、俺は何も考えずにベッドで猫のように丸くなっていた。

 布団を蹴り飛ばし、ベッドの中心でひたすら寝転がる。

 何もせず、何も得ず。そんな日も偶には悪くない。 

 

 そんなだらけ切った休日を過ごしていると、ベッド脇に置いておいたスマホが震え出した。

 気持ち良く寝転がって休日を満喫していたというのに、一体誰だ?

 

 ベッドに寝転んだままスマホを手に取り、画面に表示された名前を確認する。

 どうでもいい奴からの電話だったら無視しようと、そう考えて。

 

 そしてその名前を見た瞬間、急いでベッドから飛び降りた。

 荒れた髪を手櫛で整えて、咳を1、2回。

 

 よし、大丈夫だ。

 

『あ、透歌? 今大丈夫かな?』

 

「大丈夫大丈夫、全然暇だぞ! 随分久々だけど、急にどうしたんだ?」

 

『日本には少し前から帰ってたんだけど時間が取れなくてさ。で、少し暇が出来たから一回家に帰ろうかなって』

 

 ほう?

 

「じゃあなんか好きな物作るよ。何が喰いたい?」

 

『んー、じゃあ久々に鍋でも食べたいな、水炊き』

 

「オッケーオッケー。ついでにオクラとなめこマシマシで、だろ?」

 

『分かってるねぇ』

 

 スマホを肩と耳で挟み、ペンとメモ帳を取り出して鍋に使う材料を書いていく。

 手羽先に鶏もも肉、オクラになめこにキャベツ、後はネギ豆腐……っとそうだ。

 

「あとどれくらいで帰ってくるんだ? 明日? 明後日?」

 

『あー、うん。……今日』

 

「今日? 何時くらいだ」

 

『17時半くらいかな』

 

 時計を見る。時刻は15時半。

 ……急げば仕込みも間に合うか。

 

『急にごめんね? もうちょっと前もって言えれば良かったんだけど』

 

「細かい事気にすんなよ、俺達の家だろ? 何時でも好きな時に帰ってくればいいんだよ」

 

『ありがとねぇ、透歌』

 

「気にすんな、それより気を付けて帰って来てくれよ?」

 

『うん! あ、ついでに景ちゃんも呼んでくれるかな? 久々に顔見たいしさ』

 

「……りょーかい」

 

 電話をしながら、タンスから急いで服を見繕う。

 これは少し子供っぽいか……これは背伸びしすぎ?

 

 ……よし、これだな。

 

「じゃあ、鍋の仕込みして待ってるからな、雪」

 

『もー、お姉ちゃんって呼んでって言ってるのにぃー』

 

 

 

 

 


 

     

act10        

        

鍋パーティー 1-1

 

 


 

 

 

 

 

 水炊きとは、その名の通り肉や野菜でだしを取り、調味料を一切使わず水で煮る鍋の事だ。

 主に博多を中心とする九州と関西でよく食べられている鍋であり、相撲取りがちゃんこ鍋として水炊きを作る事もあるらしい。

 

 大抵は出汁すらも取らず、本当に水だけで煮るのだが、そうした場合は当然味が薄い。

 素材本来の味が楽しめる鍋と言えば聞こえはいいが、要は味のしない鍋だ。

 

 なので大抵の場合、鳥肉や昆布で出汁をとる。

 昆布を使用した鍋は水が透き通っており、鶏肉を使用した鍋は水が白濁している事が多い。

 そうして出汁をとった水でじっくりコトコトと具材を煮込み、ポン酢や醤油を付けて食べるのだ。

 

 雪はこの水炊きが好物であり、何が食べたいか聞かれると5回に1回は水炊きと答える。

 故に、得意料理の一つはと聞かれれば、水炊きと答えるくらいには作り慣れてしまった。

 

 ……水炊きを得意料理って、なんかカップ麺が得意料理って言ってるみた……いや、気にしない事にしよう。

 という訳で気を取り直して、早速仕込みに入ろうか。

 

 まずは水を火に掛けて沸騰させ、水が泡立ち始めたら火を弱めて手羽先を放り込む。

 手羽先で出汁をとっている間に、キャベツを千切ったりオクラとなめこの下処理をしたりする。

 30分ほど煮たら、今度は鶏もも肉を入れて再び30分煮る。

 

 その間に風呂を曇りひとつ無い程にピッカピカに磨き上げ、お湯を入れる。

 大体3~40分で張り終わるから、時間的にも丁度良いだろう。

 

 自動運転を回して足と手を拭いたのち、再び下処理に戻る。 

 豆腐の水分をふき取り、薬味として使えるようにネギを切っていく。

 あとはそれらをざるに盛り付ければ、具材の準備は完了だ。

 

 大体ここら辺で30分経つため、火を止めて鍋を冷ます。

 その間に使ったまな板や包丁などの道具を綺麗に洗ってから仕舞っていく。

 

 最後に鍋が触れるくらいに冷めたら、鍋を冷蔵庫に入れて仕込みは終わりだ。

 あとは食べる直前に火に掛けて温めればいい。

 

「さて、そろそろ時間だな」

 

 買い物に20分、仕込みに1時間半。

 合わせて約二時間、そろそろ雪が言っていた時間だ。

 

 まだかまだかとそわそわしながら待つこと少し。

 何者かの到着を知らせるインターホンが鳴った。

 

「来たか」

 

 玄関に向かい、髪をかき上げ深呼吸を一つ。

 さぁ、開けるぞ。

 

 ドアノブを掴み、ゆっくりとドアを開く。

 開かれたドアの向こうにいたのは、待ちわびた雪……

 

「あ? お前は……」

 

 ではなく、ガラの悪い(ヒゲ)モジャのオッサンだった。

 思わずかき上げていた髪を下ろし、肩を落とす。

 口からは自然とため息が漏れていた。

 

「……はあぁ、誰だよこのオッサン」

 

「初対面の人間相手に躊躇いなく毒吐くなお前!?」

 

 ヒクヒクと頬を引き攣らせて叫ぶ謎のオッサン。

 何の用事だよとイライラしていると、オッサンの後ろからひょっこりと雪が顔を出した。

 

「ただいま、透歌!」

 

「おお、おかえり雪!」

 

 長袖のジャージに短パンとタイツ。編み込みにしたキャラメル色の髪を後ろに流し、ゴムで結わえたこの女性。

 名前は柊雪(ひいらぎゆき)、20歳。

 自称美人制作であり、仕事の都合で滅多に帰ってこれない俺の同居人でもある。

 

 そんな彼女は、ハグをするために手を広げた俺に対し、呆れたような視線を向ける。

 そして、何処か不満げな顔をしながら、手を伸ばして俺の額を小突いた。

 

「だから、雪じゃなくてお姉ちゃんでしょー?」

 

 だが断る。

 俺にとっては雪はお姉ちゃんではなく雪だ。

 これだけは譲るつもりはない。

 

「それよりお風呂沸いてるぞ。水炊きの準備出来てるから、パパっと入ってきちまえ」

 

「むぅ、話はぐらかして。まぁいいや、じゃあ汗流してくるね」

 

「ゆっくり肩まで浸かって温まれよ? 上がったらマッサージもしてやるから」

 

 靴を脱いで家に上がる雪を見送る。

 さーて、まずはマッサージマットの用意をするか。

 

 そう思いながら玄関のドアを閉め……ようとして、その隙間に靴が挟まれた。

 閉まりかけていたドアは靴を噛み、半開きのままに止まる。

 

「いや待てぇ!? なにさりげなく俺を締め出そうとしてんだゴラァ!?」

 

「いや、不審者を我が家に入れる訳ないだろう」

 

「誰が不審者だ誰が!?」

 

「状況から見てお前しかいないだろ」

 

 ていうかお前は雪の何なんだ? 俺は知らんぞこんな髭モジャ。

 

 良く分からんから取り敢えず追い出しておこう。

 という訳で、ドアを開けようとするオッサンに足を引かせるためにドアに力を入れていく。

 オッサンもドアに手を掛けて必死に開けようと抵抗しているが、生憎こちらの方が巧い。

 徐々に徐々に閉まっていくドア。少しずつ視界から消えていくオッサン。

 

 よし、あと少し……!

 

「こーら、何やってるの」

 

 ラストスパートをかけ始めた俺の頭にチョップが落とされた。

 思わず手から力が抜け、力を込めて抑えていたドアが勢いよく開く。

 開いたドアからは、突然開いたドアに対応できず、コロコロと転がっていくオッサンが見えた。

 

 振り向けば、バスタオルを巻いた状態で腰に手を当てた雪がこちらを見上げていた。

 見えてはいけないものが見えそうになり、誤魔化すようにそっと視線を逸らす。

 

「いや、不審者を追い出そうと思ってな」

 

「あー、あの人は不審者じゃないよ。一応」

 

「おい柊ぃ……」

 

「冗談ですよ墨字さん。透歌、この人は黒山墨字。映画監督で……まぁ私の上司みたいなものかな」

 

 




 
主人公プロフィール


柊 透歌(ひいらぎ とうか)(17)】
9月15日生まれ 身長172cm AB型 YouTuber

【好きなもの】
才能、進化、夜凪景の才能、柊雪

【嫌いなもの】
自分の才能、無才能者、才能を無駄にする奴、肉じゃが

【趣味】
夜凪景の観察、昼寝


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