あの日見た夢をもう一度、あの日見た光のその先へ   作:白髪ロング娘スキー

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act12 如月逢魔

 

 数年前、一人の子供がとあるテレビ番組に出た。

 番組名は『天才児集結! タレントバトル!』

 全国の天才児を集めて一番凄い天才児を決めようという、心底下らないバラエティ番組。

 

 とはいえ、ここで有名になった子供がそのまま業界の人間にスカウトされて働き始めた例もあった。

 特例とはいえ前例は前例、子供が有名になるのを夢見るアホ親共は尽きなかった。

 

 だが十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人。

 そういった連中が生き残れた例を俺は一つしか知らないけどな。

 

 で、そいつが出たのは一番最後。

 他の自称天才児たちが持ち芸を披露していく中、そいつはひとつの完成された芸術を見せた。

 そいつは普通に曲を演奏し、普通に絵を描き、普通に料理を作って普通に体を動かした。

 一度も動きを止める事無く、おかしな所など何一つありはせず。

 そいつはただ当然の事のように“それ”を成した。

 

 最初は誰もが理解出来なかった。

 一体こいつは今なにをしているのだと。

 だが少しすると、少しずつ“それ”を理解出来る者たちが出てきた。

 思わず隣の者の肩を叩き、まさかと囁き合い、そして確信に至ると一様に目を見張った。

 

 こいつ、他の天才児たちが披露した芸を真似してやがるのか、と。

 

 それを前提にして再度そいつを見れば、今度は多くの人間がその異常性に気が付いた。

 曲を演奏する、音を外す。

 絵を描く、癖の強い人物画。

 料理を作る、3つ星レベルの完成度。

 体を動かす、少し躓きながらも見事やりきる。

 次々披露されていくその全てが、つい先ほど見たものと全く同じものであると。

 

 音を外すタイミングとその音。

 人物画に出た強い癖。

 料理の味付けとその見た目。

 躓いた場所とその動き。

 そいつはただ他の天才児の真似をするだけでなく、一度見ただけでその芸のやり方と失敗、その全てを記憶して寸分違わず完璧に再現して見せたのだ。

 

 当然のことだが、そいつの名前は瞬く間に有名になった。

 テレビに映画や雑誌、あらゆる分野で引っ張りだこだった。

 どんな神業を持つ天才も、一度見ただけで凡人に変えてしまう子供がいると。

 

 だが、そこまではまだよくある話であった。

 突如彗星のように天才が現れて世間を揺るがす。

 事の大小はあれど、ここまではそいつはまだただの天才で済んでいた。

 

 問題はとある番組で起きた。

 作れる職人が死に絶え、失われた技術。

 それを探して見つけようという番組。

 

 その番組でそいつはやらかした。

 やりたくないとだだを捏ねないで習えばよかったと涙を流す職人の孫。

 その目の前で、そいつは失われた技術を使い、もう新しく作られる事は無いとされた品を作り出してみせたのだ。

 

 そしてそいつは一言こう言った。

 

『教えようか?』

 

 この一言に世界は震撼した。

 とうの昔に失われた技術、ロストテクノロジー。

 それすらもこいつなら再現してくれるのではないかと。

 

 そいつは今まで以上に引っ張りだことなった。

 四六時中マスコミが張り付き、平日は収録、休日も収録。

 祝日など無く、間を縫って失われた技術を再現し、職人に教えては復活させた。

 

 そんな偉業をポンポン生み出す奴を国が放っておく筈もない。

 そいつは初めてテレビに出てから僅か1年で重要無形文化財に指名され、最年少人間国宝となった。

 テレビはそいつ一色に染まり、名を聞かない日は一日たりとして存在しなかった。

 

 曰く、千年に一人現れるかどうかの人を超えた超人。

 付けられた渾名は人類の最終到達点、人間の王。

 

 しかし、そんな彼は一つの交通事故と共に世間からその姿を消した。

 ……そう思っていたのだが。

 

「まさか柊が匿っていたとは思わなかったぜ。なぁ?」

 

 

 

 

 


 

     

act12        

        

如月逢魔(きさらぎおうま)

 

 


 

 

 

 

 

 黒山墨字の吸うタバコの煙が、空に昇って消えていく。

 それを見ながらため息を一つ吐き、諦めて玄関に座り込んだ。

 

 誤魔化す事も考えたが、こいつは明らかに確信をもって聞いている。

 なら誤魔化すだけ無駄だろう。

 

「今は何やってんだ」

 

「YouTuberを嗜んでるよ。偶に国に催促されて仕事するけどな。最近だと古刀の再現方法なんかを教えてやった」

 

「ほーん、詰まんねぇな」

 

「今はそうでもないさ」

 

 面白い奴が傍に居れば、それだけで人生多少楽しめるもんだ。

 にしても。

 

「身長体重、髪型に体型。ここまで変わってんのによく気付いたな」

 

「気付いたのは偶然だがな。首のそれを見てなきゃ確信には至らなかった」

 

 首……玄関でバッタリ会ったあの時か。

 確かにあの時は雪の顔をより鮮明に見たくて髪をかき上げていたな。

 

 髪をかき上げ、首にあるそれを指でなぞる。

 注意しなければ分からないほど薄い裂傷の痕がそこにはあった。

 

「もうそれ、大丈夫なのか」

 

「問題ない。何年前の傷だと思ってるんだ」

 

「スターズの天使を守った名誉の傷だもんな」

 

「それこそ関係ない」

 

 人の未熟の証をあけすけに笑いやがって。

 というか、あの一瞬でこれに気付いて尚且つ人物の特定までしてくるとかどんな観察眼してんだコイツ?

 いや、人のこと言えた義理じゃねぇけどよ。

 

「で、何の用だよ。わざわざそれを言ってくるって事はなんかあるんだろ」

 

「まーな。撮りたい映画がある」

 

「それに出ろと?」

 

 別にそんな事くらい金積まれりゃ引き受けんのに。

 ……いや、違うのか。

 なるほどね。

 

 こいつ、柊透歌(天才)じゃなく如月逢魔(天災)が欲しいのか。

 

「いや、違うぞ?」

 

「は?」

 

「いや、だから違うぞ。……え、何、もしかして自分が求められてると思った? 自意識過剰だなおい!」

 

「………………」

 

 落ち着け、落ち着け俺。

 まずはこいつの用事を聞くんだ。

 嬲り殺しにすんのはその後で良い。

 

「じゃあ何の用なんだ」

 

「端的に言えば人が欲しい。撮りたい映画に相応しいだけの役者がいない」

 

「だから才能がある奴を知ってそうな俺に聞いたと?」

 

「そういう事だ」

 

 ……回りくど過ぎんだろ紛らわしい。

 

 まぁ、別にそこまでおかしい所もないか。

 確かに才能がある知り合いなんて掃いて捨てる程いるしな。

 だが、その程度の塵芥なんてこいつは求めちゃいないだろう。

 となると少し難しいか?

 

「そうだな、性別は?」

 

「女」

 

「才能は」

 

「お前以上」

 

 ほーん、女で役者で俺以上の才能の持ち主ねぇ。

 そら見つからねぇわ。

 

 そもそも俺を基準にしてる限り永遠に見つからねぇだろうな。

 そういう意味じゃ運が良かったな黒山墨字。

 いや、運が良かったのは俺の方か?

 

「いるぞ」

 

「まぁ期待しちゃいなかったから別に……いるの!?」

 

「いるぞ」

 

 お前がさっき弄り倒してた奴だ。

 

「さっき……ああ、夜凪景か。身内贔屓じゃないだろうな?」

 

「俺がYouTubeに投稿した動画を見ればすぐに理解出来るさ。あの全てを塗り潰す様な才能がな」

 

 あの才能を見れば誰もが魅了される。

 今は閉じた蕾だが、分かる奴には分かるだろう。

 あれは世界の頂点に立てる女だ。

 

 人の王を殺せる女だ。

 

「……その顔からして嘘じゃなさそうだな」

 

「顔?」

 

 顔に手を当てれば、吊り上がった口角がそこにあった。

 上がったそれを指で戻し、髪を前に垂らして顔を隠す。

 

 何処か呆れた様子の黒山墨字がタバコの煙を吐いた。

 

「俺に任せていいのか? その様子からして大事にしてるんだろ」

 

「俺は教育者じゃないからな。俺を追い抜いた夜凪景を導く者が必要になる」

 

「初対面の俺を信用出来んのかって聞いたんだがな」

 

 それこそ愚問だな。

 

「雪が無能の下に付くわけないだろう」

 

 笑みを向けながら黒山墨字にそう言うと、呆れたように肩をすくめた。

 そして短くなったタバコを携帯灰皿に放り入れると、もう一本タバコを取り出した。

 

「まぁそれが本当ならいいがな。ようやく良い仕事が出来そうだ」

 

「……は? ようやくってお前仕事は? 雪の給料は?」

 

「素寒貧だが?」

 

「あれ、俺は今すぐこいつから雪を引き離した方が良いんじゃないのか……?」

 

 思わず首を傾げる。

 ……まぁ雪が何も言わないって事は、雪も納得してるって事だろう。

 雪が納得してこいつの下についてるなら俺の出る幕は無いか。

 それに、いざとなれば俺が雪を養えばいい話だしな。

 

「それじゃあ俺は先に家の中に入るよ。アンタの分の食器と鍋は置いとくから、腹減ったら食ってくれ」

 

 すくっと立ち上がり、尻を叩いて汚れを飛ばす。

 そろそろ食器を洗って寝たいしな。

 

 ああそれと。

 

「アンタ、普段タバコ吸わねぇだろ。吸い過ぎると体に悪いぞ」

 

「あん? なんで分かった」

 

「ヤニの匂いが殆どしなかった。そんなに相応しい役者を見つけられて嬉しかったのか?」

 

「ハッ、アホ抜かせ。映画監督ってのは70億の中の1人を探し求める探求者だぞ? 失われた秘宝を見つけて喜ばない奴がいるわけないだろ。……それに」

 

 そこまで言うと、咥えた煙草に火をつけた。

 そして一つ煙を吐くと、こちらを向いてにやりと笑う。

 

「お前も同じ感覚、味わった事があるんだろ?」

 

 それに肩をすくめて返し、玄関の扉を開いた。

 

「虫唾が走る程に同感だよ、ロクデナシ」

 

 

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