あの日見た夢をもう一度、あの日見た光のその先へ   作:白髪ロング娘スキー

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act13 ブラックルーム

 

 シンと静まった暗い部屋。

 その中央にポツンと置かれたベッドで目を覚ます。

 

 今何時だ……?

 ぼやけた頭のまま、ベッド脇に置かれたスマホを手に取って電源を点ける。

 この部屋には時計が無いため、時間を知るにはスマホを見る以外に手段はない。

 

 ぽやーっとした光と共にスマホが起動し、時刻を知らせる。

 今は……7時か。

 まだ寝れるな。

 

「うぅ~、まぶしぃ……」

 

 寝起きの脳に電子の光が突き刺さる。

 もはや用済みのスマホを適当にポイっと投げ捨て、再び布団に潜り込んだ。

 

 この部屋に光が差し込む事は無い。

 

 ヨーロピアンクラシックな作りを意識したモダン調の窓。

 一種の芸術すらも感じるそれには分厚い遮光カーテンが引かれ、折角の豪華な装飾は誰の目にも留まる事は無い。

 

 天井には大小異なる玉が幾つも組み合わさっている、まるでブドウの様な形をした豪華なシャンデリアが吊るされており、部屋をぐんと華やかに見せている。

 そんな匠の技術が光る美しいシャンデリアも、今では電球を外されてただのインテリアだ。

 

 壁や床、天井にはベンタブラック*1を使用した壁紙が張られており、ただでさえ暗い部屋は真の意味で何も見えなくなっている。

 

 明かりを点けられる物が何一つとして存在しない部屋。

 明かりを反射するものが何一つとして存在しない部屋。

 この部屋で明かりが点くとしたら、それは先ほど放り捨てられたスマホ以外には存在しない。

 

 この部屋には光は差し込まない。

 その事実にただ安心して目を瞑る。

 

 そんな光一つ無い真っ暗な部屋に、そろりと侵入する人影が一つ。

 その人物は迷うことなく真っ直ぐベッドへと歩みを進める。

 そしてベッドの傍まで来ると、ゆさゆさと布団に包まった俺の体を揺らした。

 

「起きてトーカ、朝よ」

 

「んんぅ……よなぎけぇ、あと5ふん……」

 

「駄目よ、ご飯が冷めちゃう。それに夜凪景じゃないわ」

 

 んぅ? 夜凪景じゃない? だが声は明らかに成熟した女のものだ。

 夜凪景じゃないとして、今家にいる女は……雪か!

 

「え? ひゃっ!?」

 

 その事実に気付いた瞬間、布団を捲り上げて手を伸ばし、腕を掴んでベッドの上に倒した。

 体勢を崩した雪の腋に手を伸ばして体を抱え、勢いよく反対側を向いて梃子の原理で雪の体を持ち上げる。

 そのまま持ち上げた雪の体を俺の横に寝かせ、捲り上げた布団を俺達の体に掛けてフィニッシュ。

 最後に逃げられない様に足を絡めて抱き着けばあら不思議、お手軽雪の抱き枕の完成だ。

 

 雪の体から発せられる程よく温かい体温と、ふんわり漂うミルクのような柔らかい体臭が眠気を誘う。

 それにしても、雪にしては少し体が大きいような……気の所為か?

 

「あ、あわわわわ……」

 

 固まって動かなくなってしまった雪の体に頬を擦り付ける。

 少しずつ上がっていく体温と、フニフニと柔らかい感触が心地よい。

 

「だ、駄目よトーカ。こういうのはもっと段階を踏んで」

 

「ダメなのか?」

 

「う、だ、駄目じゃ……うぅ」

 

 駄目じゃないなら問題ないな。

 構わず擦り付け、マーキングしながらその柔らかさを楽しむ。

 

 にしても、

 

「少し胸大きくなったか、雪?」

 

「…………は?」

 

 あれ、上がってた体温が下がり始めた……

 両腕で抑えていた腕が無理矢理解かれ、顔を掴まれる。

 絡めていた筈の足はいつの間にか解かれており、寝ている俺の上に雪が座り込んだ。

 

 そして、俺の上を取ったまま雪の体が反り始める。

 ……あれ、嫌な予感。

 

「……私は」

 

「まっ!?」

 

「景よ!」

 

 石で殴られたような痛みと共に、光が無い筈の部屋で視界が光に包まれた。

 

 

 

 

 


 

     

act13        

        

ブラックルーム

 

 


 

 

 

 

 

「あー、どうしたの? その傷」

 

 箸でサバの味噌煮を切り分け、口に運ぶ。

 米を一つまみ取って同じく口に入れ、豆腐とわかめの味噌汁を啜る。

 そしてきゅうりのお新香に手を伸ばそうとした時、雪に声を掛けられた。

 

 そちらを向けば、白米の入った茶碗を持った雪が俺の赤くなった額を見つめていた。

 先程から声を掛けるか迷っている様子だったが、どうやら好奇心が勝ったらしい。

 

 ちらりと隣で同じ食卓を囲んでいる夜凪景を見る。

 目を瞑り、口だけを動かしてポリポリとお新香を齧るその姿は、私不機嫌です! と言わんばかりであった。

 あんまり刺激しない方が良さそうだ。

 

「ベッドから転げ落ちただけだ」

 

「え、でも景ちゃんの額も……」

 

「ベッドから転げ落ちただけだ」

 

「いや、でも」

 

「ベ ッ ド か ら 転 げ 落 ち た だ け だ」

 

「……まぁいいや」

 

 このまま問い詰めても意味がない事を悟ったのか、諦めて朝食を食べ始めた雪。

 その隣では黒山墨字が何かを察したように笑っていた。

 おう何笑ってんだ、テメェの味噌煮食うぞコラ。

 

「で、どれくらい泊まってくんだ?」

 

「んー、暫く仕事無いし、っていうか墨字さんが断っちゃうし。だから1週間くらいは」

 

「いや、これを食い終わったら行くぞ、柊」

 

「へ?」

 

 雪の言葉を遮り、お新香を齧る黒山墨字。

 その顔は此方に向いており、しかし視線は夜凪景に向いていた。

 

「あの役を演じられそうな役者を見つけたかもしれないからな」

 

「かもしれない? 見つけたじゃなくてですか?」

 

「ああ。99%いける。だが確証が無い。その最後の1%を確かめる」

 

 夜凪景に向けていた視線をこちらに向け、そして朝食に視線を戻した。

 

 正直、そこまで俺の目を信頼されているとは思っていなかったから少し驚いた。

 精々メモだけしておいて、後で暇があったら確かめてみるか程度の気持ちで聞かれていると思っていた。

 

 まぁどちらにせよ結果は同じことだ。

 あの才能の塊を見て目を焼かれない奴はいない。

 もしいるとしたら、そいつは今すぐ転職すべきだ。

 

 お新香を齧りながら、そんな事を思う。

 

「それにしても、いつ見つけたんですか? 昨日までスターズの審査員なんかしなきゃ良かったってイライラしてたのに」

 

「ちょいと思わぬ出会いがあってな」

 

「昨日の今日で? ……まさか墨字さん」

 

「あぁ。お前だよ、夜凪」

 

「……私?」

 

 サバの味噌煮をモグモグと咀嚼していた夜凪景が、ぽけっとした表情で顔を上げる。

 そしてきょろきょろと周囲を見回し、何故か俺達全員から見られている事に気付いてぱちくりと目を瞬かせた。

 どう見ても話を聞いていなかった反応だ。

 

 それを見て黒山墨字がポリポリと頭を掻き、ため息を一つ吐いた。

 まぁそう呆れんな、興味の無い話なんぞ誰でも聞き流すだろ。

 

「つまりだな、景。このおっさんがお前の才能を見込んで一緒に働かないかって言ってたんだ」

 

「え、嫌よ?」

 

 即答だった。

 もはや脊髄反射と言っても過言ではないほど食い気味に拒否していった。

 あまりの即答具合に、全員思わず夜凪景を見たまま呆気に取られる。

 

 その反応に、夜凪景が不機嫌そうにぷくりと頬を膨らませた。

 そして俺を一瞬見て悲しそうな顔を浮かべ、俺の腕を掴んで抱き寄せてむんっと胸を張った。

 

「私はトーカと一緒に働くの。私はトーカの傍にいるし、トーカだって私の傍にいるって言ってくれたわ。だから、ごめんなさい、黒山さん。貴方と一緒には働けないわ」

 

 椅子に座ったままぺこりと頭を下げる夜凪景。

 黒山墨字は肩をすくめ、どうすんだよ説得しろ如月と視線で訴えてきている。

 雪に関しては妙にほのぼのとした雰囲気だ。

 

 にしても説得しろって言ってもなぁ……

 私はトーカの傍に、トーカも私の傍に、か。

 これがカギか? よし。

 

「あー、それ聞いて俺もぉ、一緒に働こうかなぁ? なんて、思ってるんだが……どうよ?」

 

 説得ヘタクソか人間の王! という視線にじゃあテメェが説得しろ! とキレ気味に返す。

 

 さて反応は……?

 

「んん……でも、うぅん……」

 

 あ、意外と悪くない。

 この路線で行け黒山墨字! と視線で送る。

 それを受け取った黒山墨字が一つ頷き、口を開いた。

 

「あー、そうだな。話は変わるが夜凪、恋愛映画は見るか」

 

 ……こいつ思いっきり俺が渡したバトンを放り捨てやがった!?

 

「え? ええ、ローマの休日とかカサブランカとか」

 

「ほぉ、いいのを見るな。でだ、恋愛映画において大事な物はなんだと思う?」

 

 この野郎、俺の渡したバトンを放り捨てたんならちゃんと説得しきれよ、と若干の恨みを込めた視線を送る。

 それに対して黒山墨字がちょっと待ってろと返してきた。

 何か考えがあるのか? ならいいが……

 

 にしても恋愛映画において大事な物?

 

「恋愛描写、じゃないの?」

 

「そりゃあそうなんだがもうちょっと細かくだ」

 

「細かく……キス、とか?」

 

「そう! それだ!」

 

 夜凪景の答えにビンゴ! と人差し指で夜凪景を指す黒山墨字。

 雪は生暖かい目で夜凪景と組んでいる俺の腕を見ている。

 

「恋愛映画ってのはどうしても口付けがいる。世の役者たちはその口付けをする。好ましく思ってる役者から特に何とも思ってない役者。なんなら大っ嫌いな役者相手にもキスをする。お前、それでもいいのか?」

 

 ちらりと夜凪景がこちらを見上げ、俺の唇を見ていたかと思うと、顔を赤くしてブンブンと首を振り出した。

 そして今度は黒山墨字の顔を見たかと思うと、即座にうげぇ、と嫌そうな顔をする。

 黒山墨字の額に青筋が浮かんだ。

 

「今の確かめ方は大変イラッと来たがまぁいい。嫌だったろ? でも俺ならそこをどうにかしてやれるぜ」

 

「どうにかって?」

 

「具体的に言えば、そいつだけに相手をさせてやる」

 

「トーカにだけ……」

 

 そこで手ごたえを得たのか、すぅっと息を吸い、上を向いた。

 

「あー! どうするんだろうなぁ! 展開に必要なんだけどなぁ! 嫌な相手とでもキスはしなきゃなぁ! さぁーて、相手はどうするんだろーなぁ!?」

 

「一生付いてくわ黒山さん」

 

 決着が付いた。

 勝者である黒山墨字は俺に向けてサムズアップを送りながら、敗者である夜凪景と握手をする。

 契約で結ばれた奇妙な友情がそこにはあった。

 

 その様をずっと見ていた夜凪姉弟がポツリと一言呟いた。

 

「「大人って汚いね……」」

 

 安心しろ、お前らも十分大人だ。

 そんな俺の言葉に、双子は心底嫌そうな顔を返して来たのであった。

 

 

*1
カーボンナノチューブで出来た光の99.9%を吸収する黒い染料。これを塗ると、そこだけ切り取られたかのように黒に染まって何も見えなくなる。一説ではあらゆるものを吸収するブラックホールと同等の黒さなんだとか




 
暑すぎて眼鏡のフレームが歪んでました。
何も気付かずに眼鏡かけたせいで、壊れた眼鏡のフレームが私の耳を切り裂いていった……
痛いよう、痛いよう…… ( ;꒳; )


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