あの日見た夢をもう一度、あの日見た光のその先へ 作:白髪ロング娘スキー
今まで特に何も考えずに1人称で書いてましたが、3人称の方が描写がしやすくて書きやすいらしいですね。
という事で3人称で書いてみたんですが、スランプに陥りかけました。
3人称の方が書きやすいとか嘘やったんや……
シチューのCM撮影から数日、透歌達はCMの編集が一通り済み、サンプルが送られてきたと聞いてスタジオ大黒天の事務所へとやって来ていた。
「景ちゃん? 景ちゃーん? あれ、イヤホン付けてないのにな……景さん? 夜凪さーん?」
そんなスタジオ大黒天の事務所の中で、自称美人制作である柊雪が椅子に腰かける少女に声を掛けた。
声を掛けられた少女の名前は夜凪景。
有名YouTuberの片割れであり、ついこの間役者になったばかりの女の子である。
そんな新米役者である少女は今、三角座りでぼけっとパソコンを眺めていた。
パソコンにはシチューを作っている3つの動画が繰り返し流されている。
飽きもせずひたすら同じ動画を見続ける少女に、雪は少し引いていた。
「集中力が凄い、というよりはもうそれ以外目に入ってない感じだね……」
「嬉しいんじゃねぇの? 新米とはいえ、役者になってから初めて撮影した映像作品だからな」
そんな少し引いた声を出す雪に、スタジオ大黒天の主である黒山墨字が声を掛ける。
そしてどうせその内戻ってくるからほっとけと一言呟き、黒山は再び新聞の流し読みに戻った。
「でも4時間近くもあのままですよ? 体にも悪いし、透歌も何か言ってやってよ」
「……ん? 何か用か?」
スマホを弄っていた黒い髪の毛の妖怪が僅かに顔を上げる。
サラリと髪が揺れ、その隙間から二つの紫色の光が顔を見せた。
「だから景ちゃん! 4時間前からずっとあの体勢のまま微動だにせずパソコン見てるんだよ? 体に悪いよ!」
あと普通に怖い! と黒山の髪を握り締めて喚く雪に、毛羽毛現が一つため息を吐いた。
そしてボリボリと髪を掻きながら、横目に雪を捉える。
「今までにも気に入ったシーンがあったりするとよくこーなってたよ。……気にしないでいい」
そう呟くその姿はどこか気だるげで、あまり気分が良いようには見えない。
何時もとは少し違ったその姿に、雪が首を傾げた。
「どうかしたの? 風邪でも引いちゃった?」
「風邪じゃないから安心しろ。ただ、少し面倒な事が起きてな」
そうは言うが、気にするなと言われると気になるのが人の性である。
まるで人形のように反応の無い夜凪景は後回しにして、雪は萎びた毛羽毛現……柊透歌に顔を向けた。
「面倒な事ってなに? また粘着質なファンでも現れた?」
「そういった輩は晒すか交番に放り投げるから問題ない。……ただ、明日の撮影で急遽新しい人間が来る事になっただけさ」
「明日の撮影? 確か明日って……何か連絡来てましたっけ墨字さん?」
目をぱちくりと瞬かせ、黒山に話を振る雪。
そんな雪の言葉に黒山が新聞を畳んで放り投げ、言葉を返す。
「夜凪に時代劇のエキストラをさせる予定だな。だが俺には何も連絡は来てないぞ」
「あ? エキストラ? なにそれ」
「え? ……もー、また墨字さん何も伝えてないの!?」
今初めて聞いたぞそれ、と椅子の背凭れに身を預け、顔を上に向けながら目だけで見下ろす透歌。
そんな透歌を見てまたか、またなのかと雪が黒山に憤る。
柊姉弟からの鋭い視線に、黒山が悪かったよと観念したかのように手をひらひらと振った。
「それで? 明日の撮影ってなんだ。それは夜凪の撮影より大事な事か」
「まぁそれなりに大きい仕事ではあるな。俺のパルクール動画は見たか?」
「長過ぎて見てねぇ」
見とけよという透歌の言葉に、夜凪の演技見てるだけで時間潰れるわ、何個あると思ってんだお前の動画と返される。
それなら仕方ねぇかと思いつつ、透歌が話を続けた。
「それでパルクールをしたんだが、その運動神経に目をつけられてな。映画始まる前の映画泥棒いるだろ、カメラ頭の」
「ああ、スーツ着て赤色灯頭に捕まってるあれか」
「そう、あれだ。あれを付けて追いかけて来る赤色灯頭からパルクールをして逃げるっていう撮影だ。因みに一ヶ月前から入ってる仕事な」
「ったく、言っとけよそういう事は」
黒山の見事なまでのブーメランに、お前が言うかと透歌が笑う。
白けた雪の視線など気にもせず、黒山が続きを促す。
「それで?」
「あーそれでな、撮影に出て来る女優が急遽変更になった。で、その新しく来たって役者がなぁ」
「なんだ、お前にも苦手な奴がいたのか」
「俺だって人間だぞ? 嫌いな奴の一人や二人はいるさ。むしろ大量にいすぎて困ってるね」
ほーんと興味無さそうに黒山が呟く。
そこで一旦会話が止まった事を察して雪が疑問を漏らした。
「それで? その新しく来た役者って誰なの?」
「ん? 結構有名な役者だぞ。スターズの」
「ねぇ、黒山さん」
約4時間ぶりに発された夜凪景の言葉が透歌の言葉を遮った。
4時間ぶりに動いた!? と肩を震わせて驚く雪に首を傾げながらも、景は黒山に目を向けた。
そんな夜凪景に、黒山が体ごと向き直る。
「どうした」
「私、ちゃんと成長出来ている? 前に進めているかしら」
どこか漠然とした、中身の無い言葉。
そんな言葉に、ハハッと黒山が笑う。
「どうした、不安になったのか?」
「違うわ。ただ、あの選択で本当に良かったのかと思ってしまって」
「……めんどくせ」
思わずといった様子で零された黒山の言葉に雪が目を剥いた。
折角相談してくれてるんだから真面目に答えなさい! と怒る雪の視線を、分かったよと黒山は適当に流す。
そうして一拍、何かを考えた後に黒山が口を開いた。
「それで、なんでそう思ったんだ?」
「思ったの。好きに演じて、それをトーカにフォローしてもらう。これって結局いつもと変わってないんじゃないかしらって」
「あぁ、結局台本とは違う演技してたもんなお前」
シチューのCMに採用された演技は結局、一番最初に演じたおてんば娘の演技であった。
二番目の恋するおてんば娘の愛情料理も、三番目の愛情溢れる静かな調理も良くはあった。
しかし、クライアントは恋する乙女より、母親の様な愛情よりもおてんば娘の楽し気な調理が気に入ったらしい。
ただ、他のものも素晴らしくはあるため、持ち帰って使うかどうかを議論はしてみるそうな。
そんな三つの中から選ばれて採用されたおてんば娘であったが、実はその演技は台本からはかなり外れていた。
台本ではわちゃわちゃと楽しそうに
シチュー作りの失敗も、父親とのシチュー作りの約束も本来台本には無かったのだ。
「それで悩んでるわけか。だがそれを確かめるためにさっきからずっとそのCM見てたんじゃねぇのか?」
「ええ、そうなのだけど……どうにも判断出来なくて」
「ほーん。どう思うよ、小僧」
唐突に話を振られ、明日やって来る役者とLINEでチャットをしていた透歌が顔を上げた。
そして先の演技の内容を振り返り、どう言おうかと頭を悩ませ始める。
台本に従わず勢いで突き進み、俺がそのフォローをする。
それを言われてしまえば、確かにいつも通りだなとしか返せない。
だが演技の内容に関して言えば明確にいつもと違う点があった。
しかしこれは成長と言っていいのか?
……まぁいいか、言えって言ったのは黒山だしな。
言う事を決め、うむ、と頷いて透歌が口を開いた。
「変われているかいないかであれば、変われている。ただそれが成長であるかは俺には分からない、というのが俺の答えだ」
「つまり?」
「景が暴走する時は何時も決まって俺に
「一緒にシチューを作ろうって言いだしたのはお前だろ」
「あれは提案をしたんじゃなく提案をさせられたんだ。楽しそうに料理をしていた娘が料理に失敗したからと何かを言えば非難を浴びる。だからあの場面では共に作ろう、上手くなっていこうと提案をしなければならなかった。俺が演技をするのではなくさせられた、この違いは明白だ。というかお前なら気付いてるだろ黒山墨字」
白けた視線を向けられた黒山が視線を逸らす。
わざわざ俺に夜凪景に優位に立たれた事を言わせやがって。
青筋を立てる透歌を、よく分かっていない雪が宥める。
そんな光景を尻目に、黒山が夜凪景に話しかけた。
「ま、そういう事だ。お前はちゃんと変われてるよ」
「ならいいのだけれど……」
「よく分かりませんけど、ちゃんと景ちゃんは成長出来てるって事でいいんですかね?」
「そうだな。成長というよりは変化だが、前に比べれば上々だ」
帰っていく景と透歌を二階から見送る。
透歌の腕に抱き着く景は心底楽しそうだ。
抱き着かれている透歌は鬱陶しそうだが。
そんな光景を見下ろしながら、黒山は夜凪の選択を思い出す。
『そうか。で、どうする?』
『私は……どっちも選ぶし、どっちも選ばないわ』
『というと?』
『役者にはなる、けれどトーカと演技は続けるという事よ』
『強欲だな』
『あら、何かを求める女は美しいって前にトーカが言ってたわよ?』
全く、あの強欲女め。
ああ言われたら猶更綺麗にしてやらなきゃいけなくなるだろうが。
楽しそうに笑う黒山に雪が話しかける。
「なんか最近楽しそうですね、墨字さん」
「あ? なにがだ」
「気付いてないんですか? 少し前までずっと仏頂面だったのに、最近は笑う事が増えてますよ」
思わず口元に手をやる黒山。
そしてフッと軽く笑う。
「ま、ずっと探してた原石サマだからな。楽しくもなるさ」
「それじゃ、ちゃんと成長させてあげないといけませんね」
「まーな。うし、鉄は熱い内に打つぞ」
「はーい」
次の日、透歌は撮影場所へと向かう都心行きの電車に乗っていた。
ガタンゴトンと車両が揺れる音が車内に響く。
車内はコピー&ペーストされたかのような特徴の無い人で溢れており、車両が揺れる度に人が左右に流れていく。
窓からは等間隔に流れていくビル街が映っており、そんな新鮮味の無い景色に眠気が湧いてくる。
そんな眠気を我慢しながら、透歌は夜凪景の選択を思い出していた。
『私は……』
「役者にはなる、けど俺からは離れない、か」
どちらの選択肢も選ばず、されど両方の良いとこだけは取っていく。
そんな強欲な選択をした夜凪景のことを。
「まぁ、少し計算外ではあるがまだマシか」
役者になる選択をしてくれただけで十分だ。
一番最悪なのが俺と生温い現状を続ける選択をする事だからな。
それに比べたら十分な選択だ。
満足そうにうんうんと頷く透歌。
そんな透歌の肩にポンッと手が乗せられた。
なんだ? と振りむけば、そこには黒キャップを被り、ハーフリム眼鏡*1を掛けている小さな女がいた。
おおよそ頭一つ分程度の差がある上に、黒キャップの唾であまり表情が見えない。
誰だコイツ? そう思うと同時に透歌の口は動いていた。
「誰だ、お前。痴漢冤罪か?」
「違うよ!? もー調子狂うなぁ……誰だと思う?」
いや知るか、誰なんだよお前。
眉を顰めて目を細める透歌。
それを見て透歌がイライラしてきている事を悟った少女は、黒キャップを傾け、少しだけ顔を晒した。
「じゃあ、これでどうかな?」
「! お前、なんでここに」
ホワイトアッシュのセミショートにシミ一つ無い真っ白な艶肌。
まるでドレスのような深いスリットが入った白いワンピースに水色のカーディガン。
黒キャップにハーフリム眼鏡と白マスクをしているその女。
「あ、分かった?」
「分からん訳がないだろう。電車はこの際いい、昨日のLINEで教えたからな。だが送迎はどうした。何時も送迎の車で移動なんだろう」
「君と居たいから、今日はいらないって断っちゃった」
「ぬかせ。……仕方ない、バレない様に掴まってろ」
スターズの天使、百城千世子がそこにいた。