あの日見た夢をもう一度、あの日見た光のその先へ 作:白髪ロング娘スキー
独自設定の使いどころさん。
まだ三人称を上手く使いこなせてなくて少しおかしな事になってます。
そしてようやく一巻が終わった事に気付いて死にそう。
目標12巻なんだぜ……?
「で、お前から貰ったって言ってスカウトチケット見せたら黒山墨字の奴なんて言ったと思う?」
「んー、あり得ないーとか?」
「夢の見過ぎで頭がおかしくなったんだな、いいから早く寝て目を覚まして来い、だ。欠片も信用しちゃいねぇあの野郎」
「あはは、面白い人だね。でも記者会見の翌日に放送された特集を見ながらだったんでしょ? それでいきなり取り出したなら仕方ないんじゃないかな?」
広い建物の通路、そこを透歌と千世子が一緒に並んで歩く。
周囲を歩く人は一人もおらず、通路には二人分の足音だけが響いている。
そんな通路を歩きながら透歌と千世子は言葉を交わす。
先日起きた事を思い出して少しキレ気味の透歌に、まぁそうなるだろうねと千世子は苦笑いで返した。
「それで夜凪景には何か言いたげな目で見られるし、挙句雪にまで偽造じゃないのかと疑われたからな」
「へぇー、雪って誰のこと?」
「ん? ああ、お前は知らないか。スタジオ大黒天は知ってるか? 黒山墨字の立ち上げた小さな撮影事務所だ」
「確か夜凪さんが所属してるんだっけ?」
「そうそう。で、そこの制作を担当してる人だよ」
そんで今の俺の義理の姉でもある。
そう言葉を締め括る透歌を何を考えているのか分からない顔で千世子が見上げる。
「ふ~ん? 人なんだ」
「なんだ、ペットだとでも思ったか?」
「ううん、名前で呼んでるんだなって」
「まぁあの人の事は尊敬してるからな。それに借りもある」
あの人が居なければ俺は夜凪景と出会う事も無かったし、きっと今もあの誰もいない家で一人膝を抱えて蹲っていただろう。
緩やかな人間としての死を止め、更には生きる気力まで与えてくれた人なのだ、柊雪という女は。
だからこそ俺は柊雪という女を尊敬する。
本人に言った事は無いけどね。
そう言って誇らしげに語る透歌を、千世子は微笑まし気に見つめる。
「そっかぁ……一回会ってみたいなぁ、その人」
「夜凪景と同じ事務所所属なんだ、この業界は広いようで狭い。これから少しずつ関わる機会も増えていくだろう」
「そっか、それはちょっと楽しみかな」
相変わらず何を考えているのか分からない顔のまま、千世子が目を細めて笑みを浮かべた。
こういう時に相手の感情を読み取れないのは少し不便だ。
そんな事を思いながら、透歌は千世子の歩幅に合わせて通路を歩く。
「あ、そういえばあの公園、少し前にリニューアルされたよ」
「あの公園? ……ああ、馬橋公園の事か」
少し首を傾げ、記憶を探った透歌が思い当たった公園の名前を零す。
そんな透歌の小さな呟きに千世子は満面の笑みを浮かべ、胸の前で両手をぎゅっと握り締めた。
「そう! あの公園遊具の老朽化が激しくてね、危ないからって撤去されそうになってたの」
「うん? リニューアルされたんだろう? 撤去されるのか?」
「ううん、そこに私がちょっと手を出してね。私だけだと力が足りなかったから、事務所の力も借りてそういう企画にしてもらったんだ」
「ほー、それで。だがお前がそこまでする理由はあったのか?」
「当然! だって私達の思い出の場所でしょ?」
あの公園があったから私は貴方に出会えたし、あの公園があったから私は今こうして女優として活動している。
貴方に言われて役者を目指した公園で、一度役者を諦めかけた私をもう一度役者にしてくれたあの公園で。
貴方ともう一度歩きたいんだよ。
……なんて、恥ずかしすぎて貴方には言えないけれど。
頬を少し色付かせて微笑む千世子に透歌は首を傾げ、まぁいいかと軽く流した。
「お、着いたみたいだな」
少し遠くにある扉に貼られた紙。
そこに書かれている映画『デスアイランド』オーディション会場の文字に透歌が足を止める。
続いて足を止めた千世子が、少し顔を顰めている透歌を見上げた。
「……夜凪さんが不安?」
「いや、夜凪景は問題ない。よほど審査員の目が曇ってなければな」
「じゃあ、どうしてそんな不安そうな顔をしてるのかな?」
「……夜凪景の才能に目をくらませた共演者がポカをやらかさないか、少しな」
メソッド演技というものは自然過ぎるが故に際立ち、そして才を持たぬ凡人には理解されにくいものだ。
そして持つ者の足を引っ張るのは決まっていつも持たぬ者なのである。
時は少し遡ってオーディション会場の中。
レイジャー*1張りの広い空間には総勢500名の役者達がずらりと列を作って並び、オーディションの開始を今か今かと待ちわびていた。
そんな役者たちの前、壇の上。
舞台裏の幕から、一人の男がコツコツと革靴が床を叩く小気味良い音と共に姿を現した。
「大作映画のメインに無名役者の姿を見た事があるかい? あるはず無いよね。むしろ殆ど同じ役者の顔が並んでいる」
唐突に現れ、壇上を歩きながら話を始めた謎の男。
その男の登場に一部の例外を除き、並んでいた役者達がみな一様に闘志に溢れた深い笑みを浮かべた。
ついに始まった! と。
「仕方ないんだ。売れる役者を使わなければ映画は売れない。では、こう思った事は? 『自分の方がこいつより演技が上手いのに』『チャンスさえあれば自分の方が輝けるのに』」
壇の中心にまで歩を進め、男は自分を見上げる者達に向き直る。
室内にも関わらず何故か掛けているサングラスのブリッジを指で押し上げ、男は笑う。
「うんうん、その可能性は十分あるよ。だってすでに、日の目に当たっている宝石の数よりも地べたを転がる原石の数の方が多いのだから! ということで。三次審査まで勝ち進んだ500名の原石の皆、よろしく」
両手をバッと広げ、歓迎の意を示す男の名は手塚由紀治。
スターズ所属の演出家であり、デスアイランドの監督であり、そして
その演説を一部の例外……夜凪景がぽけっと見つめる。
あれが、トーカの言っていた手塚由紀治……
トーカが言うには才能があるのに無駄にさせられている人間、らしいけれど。
……髭の形凄いわね。
どうやってあの形にしてるのかしらと疑問に思いながら手塚由紀治を見つめていると、ふと彼がこちらを見ている事に気が付いた。
あっ、目が合った。
そう思いながら瞬きを一つすれば、既に彼は別の方向を向いていた。
……気のせいかしら? なんだかトーカと似たような視線で見られた気がしたのだけれど。
首を傾げて不思議に思っていると、左側からすぅっと息を吸う音がした。
「こちらこそよろしくお願いします!」
わっ、びっくりした。
唐突に隣から上がった大きな声に一瞬肩を震わせ、そちらを向く。
そこには自分の頭一つ分は背が高そうな男が立っており、男は清々しい笑顔を浮かべて言葉を続けた。
「沖縄出身烏山武光18才! 地べたに転がってはいません! ご期待下さい!」
「うんうん、君すごく古いタイプだね。頑張って」
「はい!」
手塚からの反応を貰い、満足そうに笑った男がこちらからの視線に気付いてこちらを向く。
こちらを見下ろす彼に視線を合わせる為、景は少し顔を上げて男を見上げる。
「どうかしたか?」
「いえ、おっきな声に驚いて」
「ああ、すまないな、クセだ」
「へぇー」
癖って事は何時も大声を出してるのね、普段どんな事をしている人なのかしら。
土木関係のアルバイトをしている人かしら? 背が高いしガタイも良いからスポーツ系の可能性もあるわね。
そんな事を考えながらぽけっと烏山武光と名乗ったその男を見ていると、その反対側、右隣から声が掛けられた。
「そいつ馬鹿に見えるだろ、多分違うぜ。500人もいるんだ、少しでも目立たねぇと実力も見られない内に落とされかねない。だからオーディション前に馬鹿な真似して目立っておくのは悪い手じゃない。代わりに悪く見られる可能性のある諸刃の剣だけどな」
「そういえばトーカも言ってたわね。名が売れていなければどれだけ実力があっても落とされる可能性はあるって」
「そのトーカって奴は知らないが、その通りだ。そいつオーディション受けるのに慣れてるな」
「やっぱりトーカの言う事は正しいわね!」
ふんすと鼻息荒く、想い人の凄さを改めて認識して興奮する景。
そんな景を見て、男は呆れたように声を掛ける。
「……よく分からないが、そいつを盲信するのは止めておけよ? 誰だって間違う事はあるんだ。っと、そうだ。お前名前は? 俺は源真咲」
「夜凪景よ、夜凪って呼んで。よろしく」
「ああ、よろしく夜凪」
「おー? なんや、早速女の子と仲良くなっとるんか真咲ちゃん」
ひょっこりと真咲の後ろから一人の女の子が顔を出した。
「別にそんなんじゃないですよ、茜さん」
「冗談や冗談。ちゃぁんと分かっとるから安心せぇ。うちは湯島茜や、よろしくな夜凪ちゃん」
「ええ、よろしく」
湯島茜と名乗った少女が差し出した手にこちらも手を伸ばして応える。
すると彼女は満足そうに笑みを浮かべ、握手した手を軽く上下に振った。
「にしても全然緊張しとらんね、やっぱり慣れとんの? オーディション」
「いえ、これが初めてよ」
「ほんまに!? 凄いなぁ、うちの時は緊張しっぱなしやったわ。はー、初めてでここまで残るとか凄いわ。確かに夜凪ちゃん美人やもんなー」
「茜ちゃんだって美人よ?」
「ほんま!? お世辞でも嬉しいわぁ~」
お世辞なんかじゃないのだけれど……
それを言おうとするも、それを伝える前に控え室への移動が始まった。
5分程度かけて移動した先にあった控え室は、学校の教室と同じくらいの広さがあった。
部屋の中には沢山の長机とパイプ椅子が置かれており、好きな場所に座って良いとのことだったので、つい先ほど知り合った3人と並んで座る。
座った感触からしてパイプ椅子のクッションはとても薄く、長時間座っているとお尻が痛くなりそうだ。
クッションでも持ってくればよかったかしら?
「ふぅー、こっからが長いねんなー。4人ずつしか見てくれへんのに500人も。うちらの番には日ぃ暮れてるかも」
「自分の出番まで待つのも役者の仕事でしょ、いい加減慣れましたよ」
そう言い、真咲が一冊の本を取り出した。
本のタイトルにはデスアイランドという文字が書かれており、それを見た景は思わずぱちくりと目を瞬かせた。
「真咲君それ台本? なんでもう持ってるの?」
「は? ……え、それマジで言ってんのか? デスアイランドはコミック原作の映画、付け加えれば原作自体もかなり有名だ。それを一回も読まずに、っていうか知らずにオーディション来るってナメてるのか? 少し調べれば分かる事だろ」
「えと、ごめんなさい……?」
「む? それを言うなら俺も読んでないぞ」
信じられないといった様子の真咲に思わず景が謝った。
それを見た武光が、あっさりとした口調で景に同調する。
「俺達は役者、ならば演技力と人柄で勝負をすべきだ! 作品に媚びても仕方ない!」
「……どっちが正しいのかしら?」
「バカ、こっちに決まってんだろ。アンタ、武光つったか。役への順応性や努力を媚びるだなんて表現してんじゃねぇよ、手前の不器用さと努力不足を正当化すんな。ほら、夜凪」
苛立った様子の真咲が景に持っていた本を差し出した。
思わずそれを受け取る。
「えっと?」
「原作を読んだ上で活用しないのは勝手だ。だが読まずにオーディションに挑むのはただの怠慢だ。貸してやるから読め」
「真咲君はいいの?」
「俺は暗記してるからな」
じゃあ読ませてもらおうかな。
そう思い漫画を開こうとして、その漫画が景の手から取り上げられ机に置かれた。
「そんなものを読んだら演技が引っ張られるぞ夜凪! 活用しないのは勝手というが、人は見たものを活用出来る時が来れば活用してしまうものだ! しかも今は演技前、一番感情が揺れやすい時だ! 読んだ結果演技が崩れては元も子も無いだろう! まさかそうやって夜凪を潰すのが狙いか君!」
「あ”あ”!? お前こそ何も知らない夜凪を審査員の前に出して失敗を誘わせるつもりじゃないだろうな武光!」
「君はオーディションで「昔から原作と監督の大ファンです」とか聞いても無いのに語り始めるタイプだろう! 実力で勝負しろ!」
「実力で勝負してるわ! ガチでファンになってからオーディションに挑んでるだけだ! それも役作りの一つだろうが!」
景を挟んで己の主義主張を怒鳴り合う二人。
喧嘩内容からして二人とも自分の事を考えてくれている事は理解したが、だからといって自分が原因で誰かが喧嘩している事に良い気はしない。
しかも自分の両隣り、両耳のすぐ近くで。
景がだんだんとうんざりしてきたその時、真咲の襟が引っ張られ真咲と武光の喧嘩は中断させられた。
「はいはい、夜凪ちゃん挟んで怒鳴り合うなや、可哀想やろ。相手はオーディション初めての初心者やねんで? それに、作品に必要なら受かり、不要なら落ちる。役者なんてそんなもんやろ」
「だからどうやって必要としてもらうかの話してんだよ!」
「熱意は伝わるものだ! 自信を持て!」
「感情論!!」
「……私は」
景がぽつりと喋りだし、怒鳴り合っていた二人がそれに気付いて邪魔をしない様に言葉を止めた。
それに茜が一瞬何か違和感を覚え、しかし気のせいだろうと同じく聞く体勢に入る。
「私は、役そのものになること。やっていると自然になるもの。それが役作りだと思う。……皆真剣なんだって事はよく分かったわ、ありがとう」
そう言い、景は真咲に本を返す。
さらりと渡された本を受け取り、受け取ってから真咲は本を返された事に気が付いた。
「……え、マジで読まねぇの? つかお前の言う役そのものになるためには読んだ方が良いだろ? 読めって、特に3巻からの展開が凄ぇんだぜ?」
「それもうただのファンの宣伝になってもうとるやん真咲ちゃん」
茜が真咲の言葉にけらけらと笑う。
その時、控え室の扉が静かにがちゃりと開かれた。
「今から名前を呼ばれる方、どうぞ。湯島茜、源真咲、夜凪景、烏山武光、以上4名です。着いて来てください」
「……妙に早いな」
真咲の疑問に3人は内心同意しつつも、指示に従って控え室から出る。
通路には4人に加えて案内人を含んだ5人分の足音だけが響いている。
途中で通りがかった部屋の扉にはどれもオーディション控え室とその番号が書かれていた。
「ちゃんと控え室はあるな……どういう事だ?」
「俺の様な才能がいなければオーディションもすぐに終わる! 他の控え室は不作だったのだろう!」
「言ってろ……どうした、夜凪」
目を瞬かせながら武光を見ている景を疑問に思った真咲が問う。
それに対し「いえ、悪い事じゃないの」と前置きを置いてから景が話し始める。
「今の武光君の言葉、似たような事をよくトーカが言ってるなって。才能とか凡人とか」
「よーし、そいつの言う事はもう信じるな。7割くらい聞き流せ」
「難しくてあまりよく理解出来ない話をしている時は分からないから聞き流してるわ。3割くらいね」
「……そいつが不憫に思えてきたよ」
肩を竦め、顔も知らぬトーカに黙祷を捧げる。
今までの会話だけで夜凪景という人間がどれだけ天然で世間知らずなのかはよーく理解出来ている。
大変だな、トーカ。
……いや、才能云々をよく言ってるって事はそいつも変人だな。
やっぱ無しで。もっと苦労しろトーカ。
「……ま、兎も角だ。採用枠12に対して役者は500人。俺ら4人の中から一人も合格者が出ないかもしれないし、その可能性の方が高い」
「安心しろ! 俺は受かる!」
「私も受かるからこれで二人ね」
「……バカばっかかよッ……!」
「誰がバカやねん、うちも受かるで」
一拍置き、皆して声を上げて笑い合う。
和やかなムードに、何時の間にか全員の体に張り詰めていた緊張は解れていた。
「じゃ、4枠獲れるように頑張らなね! 暫定合格者同士のよしみや、作品の概要だけでも教えとくな夜凪ちゃん」
無人島に漂流した24人の生徒が愛と憎悪と謀略の渦に巻き込まれ最後の一人になるまで殺し合う。
デスアイランド
所謂デスゲームモノや、まんまやな。
「おっかない話やんなぁ」
「無人島、楽しみだわ。私無人島に漂流した事無いから」
「漂流て、んなもん誰もないやろ。やっぱおもろい子やな夜凪ちゃん」
「そうかしら?」
まぁたとえ何処だとしてもトーカがいれば問題は無いわ。
ただ一つ気になるのは、後でトーカがこのオーディションを見に来ること。
想像以上に早く私の出番が来たし、トーカ間に合うのかしら?
「そういえばそのトーカって奴はこのオーディションに来てないのか? それとももう落ちてるとか」
「トーカ? トーカならスカウト枠でもう合格してるわ。だから正確には採用枠は11ね」
「「「……は?」」」