あの日見た夢をもう一度、あの日見た光のその先へ   作:白髪ロング娘スキー

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私は別にスターズが嫌いなわけではない事をここに宣言します。




act2 スターズ・エントリー?

 

「ここをこうして……よし、編集終わり!」

 

 体中から鳴り響く警告音を無視して作業を終わらせた。

 あとは、動画データを挿入したメールをこの前の病院に送って……よし、これで仕事は完了だ。

 

 病院側が送った動画を編集して短いPV(プロモーションビデオ)にするか、そのままwebサイトに張り付けるのかは知らないが、後の事は俺には関係ない。

 日頃愛用している配信サイトを開き、編集し終えた動画をアップロードする。

 投稿するタイミングは好きでいいと言われたので、今投稿しても問題は無い。

 ついでに動画概要欄に病院側のwebサイトへのURLとPRでも載せておけば満点だ。

 

「あー、床がつめたい……」

 

 投稿が完了したのを見届け、ごろんとフローリングに寝転がる。

 少し茶色じみたベニヤ板で出来たフローリングは、俺の疲れをねぎらう様に熱を上げる体を冷ましてくれた。

 

 何時もより長回しのカットが多かったし、筋肉痛もあって無駄に時間が掛かってしまったな。

 そう思いながら充電していたスマホを手に取り、充電器を抜いてメールを確認する。

 

 仕事の依頼は……1件だけか。

 そこまで急ぎという訳でもなさそうだし、返事はゆっくりと考えよう。

 他には……

 

「ん? 景からのメール?」

 

 いつ来たんだこれ? ……朝の9時? 今は……夕方の5時か。

 まぁいいや、今気付いたと言えば許してくれるだろう。

 で、用件はなんじゃろなっと。

 

「んー、これは……不味いな」

 

 痛みを訴える体を無視して立ち上がり、適当な服に着替えて家を出る準備をする。

 そのメールには、相談したい事があるの、今から会えないかしら? と書かれていた。

 

 因みにだが、夜凪景は割とネガティブ思考の寂しがり屋である。

 ……途中で何か土産でも買っていくとしよう。

 

 

 

 

 


 

     

act2        

        

スターズ・エントリー?

 

 


 

 

 

 

 

 夜凪家の玄関の引き戸をすぱーんと勢いよく開け放つ。

 家の中には目を丸くしながらこちらを見ている夜凪景だけがおり、姉弟はいない。

 もう6時近くになるのだが、まだ遊びに行っているのだろうか?

 

「あらいらっしゃい。どうしたの? そんな息を切らして」

 

 肩で息をする俺を見て怪訝そうに眉をひそめる夜凪景。

 まるで、何故そんなに息を切らしてまで急いで来たのか分からないとでも言いたげな表情だ。

 

 そんな顔を見て一目で察した。

 あっ、この反応あのメールの事を完全に無かった事にしているな、と。

 いっそ分かりにく過ぎて、逆に分かりやすい。

 

 訝し気にしながらもタオルを持ってきた夜凪景に、途中で買ってきた土産を突き出す。

 最低限の水を入れてある袋に入ったソレが、揺れる衝撃を嫌がるかのようにピチッと跳ねた。

 

「鯛、持ってきたよ。魚好きだろう?」

 

「嬉しいけれど、どうしたのその鯛……しかも生きてるわ」

 

「魚屋で生け簀に入ってたのを無理言って買ってきたんだ。捌くのは俺がやるよ」

 

 台所のシンクに鯛を放り入れ、手を洗ってからタオルを受け取る。

 多少オッサン臭いが、タオルで汗を拭き、首にかけて居間に座り込んだ。

 

 軽く辺りを見回せば、珍しく付けっぱなしのブラウン管テレビ。

 恐らく俺が来るまでに夜凪景が見ていたのだろう。

 といっても、日本刀の古刀を再現したとかいう内容だから、見ていた訳ではなく、ただ流していただけなのだろうが。

 

「こいつかぁ」

 

「知ってるの?」

 

「ちょっとした知り合いだ」

 

 こいつ才能無さ過ぎて何度もキレそうになったなぁ……

 まぁ今はそんな事はどうでもいい。

 

「それで、なんの用事だったんだい?」

 

「?」

 

「メールだよ。なにか相談したいことがあったんだろう?」

 

 そこまで言うと夜凪景はポンッと手を打ち、寝室へと入っていく。

 さほど時間もかからず出てきた夜凪景の手には、なにやら紙の束が握られていた。

 何故か少し不安げに出された紙の束を受け取る。

 

「多分これね」

 

 多分て……いやまぁ、今『思い出した』からなんだろうけれど。

 やれやれと思いつつも、手渡された紙の束に視線を落とす。

 

「……む、芸能事務所のオーディション?」

 

 紙の表紙にあったのは、スターズ芸能事務所開催俳優発掘オーディションの文字。

 一体どこからこんなものを、という考えが思考を過ったものの、まぁそこはひとまず置いておくとしよう。

 

「スターズのオーディション、か」

 

「エントリーしてみようと思ってたの。どうかしら」

 

 どうかしら、と言われてもな。

 

「景がどうしても行きたいって言うんなら、それでいいんじゃないか?」

 

「む、その反応、もしかして反対?」

 

「反対……まぁ反対だね」

 

 スターズという芸能事務所の事は知っている。

 テレビを付ければ、大抵どれかの番組に一人はスターズ所属の俳優がいる。

 それくらいに名が知れている芸能事務所なのだから当然だ。

 スターを作るという荒唐無稽な経営理念を、実際の形にしようとするその努力だけは(・・・・・)素晴らしいものだと思う。

 

 しかし、だからこそ俺はスターズという芸能事務所にそこまでの価値を見出せない。

 

「スターズはスターを作り出そうとしている。そこは知ってるかい」

 

「ええ、でなければエントリーしたいなんて思わないわ」

 

 まぁそうだよね。

 そこを理解してるなら話は早いな。

 

「言ってしまうと、スターズの作りたいスターってのは平均なんだ」

 

「平均?」

 

「そう、平均の高さだ。少し前にストームってアイドルグループがいただろう」

 

 リーダーが結成を辞意し、一人はすぐ解散のつもりでそれまでの仮加入。

 一人がパスポートの所持を伝えたら何故かハワイに連れていかれ、知らぬ間にストームに。

 残りの二人に至っては、リーダー含めてCDデビューの存在すら知らなかった。

 

 そんなグダグダな状況で結成されたのがストームというアイドルグループだ。

 そして意外や意外、このグループが出した初めてのCDがいきなりオリコンランキング一位を掻っ攫い、その勢いのまま二年後にはレギュラー番組を獲得。

 最終的には紅白歌合戦に出場したり、メンバーの一人がハリウッド映画に出演したことすらあった。

 男アイドルとしては異例の大成功を誇り、一世を風靡したジュニーズ所属のアイドルだ。

 

「知らないわ」

 

「あー……まぁ、世間に聞いたら100人中80人はその存在を知ってるってくらいのアイドルグループだよ」

 

「凄いわね」

 

「まぁアイドルとしては大成功の部類だろうね。だが、偽造とはいえ彼らはスターだ」

 

「……えーっと?」

 

 俺はストームに興味は無いが、その功績は認めている。

 例え一人一人の技術は拙くとも、彼らは輝いていた。

 だからこそアイドルとしては異例な20年という寿命を誇ったのだ。

 

 なんなら、この時代にストームありと歴史に刻まれ、解散した後も愛されていくかもしれない。

 彼らほどに一人も欠ける事無く、寿命と知名度を維持し続けたアイドルはいないし、これからも滅多に生まれる事はないだろう。

 

 鉄腕時雄? あれは……農家じゃないのか?

 

「まぁ言ってしまえば、ストームはスターになった(・・・)。だがスターズはアイドルのストームを作ってる(・・・・)

 

「つまり、アイドルはいけないということ?」

 

「駄目だとは言わない。だが景、お前には合っていない」

 

 スターとは自然に生まれたものだ。

 アイドルとは砂を焼き、ガラスにしたものだ。

 

 スターは自ら光を放つ。

 アイドルは光を反射し、光ってるように見せかける。

 

 スターは一人でも輝ける。

 アイドルは一人では輝けない。

 

 スターは壊れない。

 アイドルは壊れる。

 

 アイドルとは所詮一時のものだ。

 才能の無い者を事務所が推し、一時的に人気になり、2~3年したらいつの間にか消えている。

 それが大多数のアイドルだ。

 

「いいか景、お前には才能がある。スターズの教育理念である高い平均、アイドル作りには根本的に合っていない。お前がスターズに行けば、お前自身の才能を無為にする可能性がある。俺にはそれが耐えられない」

 

「……むぅ」

 

「まぁ無理にとは言わない。参加したいならすればいい。周りの無才能者達との違いを理解する事も大切だ」

 

 そして夜凪景と無才能者の間にある絶対的な才能の差。

 それを理解した時、未だ微妙に理解しきれていない俺の話を、お前は真の意味で理解するだろう。

 

「どちらにせよ、好きにすればいいさ」

 

 これで話は終わりだと伝えるように、手に持った紙束をテーブルの上に置いて立ち上がる。

 そろそろ夜凪姉弟も帰ってくるだろうし、調理の邪魔にならない様にさっさと鯛を捌いてしまおう。

 

 まな板を用意し、袋に入ったままの鯛をまな板の上に乗せた。

 わりと適当にまな板の上に放ったからなのか、鯛が元気にビチビチと跳ねる。

 おーおー、活きが良いねぇ。

 

 さーて、まずは鱗を剥ぎますか! と準備を始めた俺の背中に、夜凪景が覆いかぶさった。

 なんだなんだと圧し掛かってくる夜凪景の顔を見れば、何故か機嫌悪そうにぷくりと頬を膨らませている。

 

「あー景さんや、ちょいと邪魔ですよ?」

 

「……反対?」

 

 退いてくれアピールを無視して肩に首を預けてくる夜凪景。

 それを見て、失敗したなぁと悟った。

 

 恐らく、夜凪景は俺からの応援を求めていたのだろう。

 先程の俺がしたような小難しい話は別に求めておらず、ただ頑張れよの一言が欲しかったのだろう。

 

 だが、それを悟ったからといって、素直にそれを言うかどうかは別だが。

 

「反対だ、と言ったらどうするんだい?」

 

「……諦めるわ。芸能事務所は他にもある筈だもの」

 

 そう言いながらも、思いっきりしょぼんと肩を落ち込ませる夜凪景。

 ……仕方のない子だね。

 

「スターズに行きたいのならば応援するよ」

 

「……」

 

「一人じゃ不安って言うのなら、俺が一緒に行ってフォローをしてもいい」

 

「……」

 

「安心しろ、俺は何時でもお前の傍にいる」

 

「!」

 

「けど、どちらにせよ最後に決めるのはお前だ。それは分かるね、景」

 

「…………うん」

 

「よしよし、いい子だ」

 

 わしゃわしゃと夜凪景の頭を撫でまわす。

 あうあうと呻っている夜凪景の髪が撫でられ過ぎて面白い事になってきた頃、ガラガラっと玄関が開いた。

 

「「ただいまー!!」」

 

「あ、おねーちゃんおにーちゃんに頭撫でられてる!」

 

「大人の恋愛だぁぁ! えっち!」

 

「えっちではないでしょ」

 

 おーおーうるせーうるせー。

 

「帰ってくるのが遅いぞ! 何処でなにしてた!」

 

「ウルトラ仮面ごっこ!」

 

「おままごと!」

 

「楽しかったか!?」

 

「「うん!!」」

 

「ならよし! 今度からは早めに帰れよ! そら、早く手洗ってこい!」

 

「「はーい!」」

 

 どたどたと洗面所に駆けていく姉弟を見送り、鯛を袋から取り出して捌く準備を始める。

 あ、鱗剥ぎがないな……仕方ない、包丁で剥ごう。

 

 まだ生きてるから、鱗を剥ぎやすい様にまずは首落としてーっと。

 

「おさかなだぁぁ!」

 

「触ってもいい!?」

 

「いいけど、危ないから背びれには気を付けろよー?」

 

 そうして恐る恐る触りに行く姉弟の姿に笑いをこらえながら捌く準備をしていると、くいくいと袖を引っ張られた。 

 見れば、夜凪景が目をキラキラと輝かせて鯛を見ている。

 

「……私も触っていいかしら!?」

 

「お、おぉ……いいけど」

 

 許可を出された瞬間、興味津々で鯛を突っつきに行った夜凪景。

 何とも微笑ましい光景だ。

 

 っと、そうだ。

 別に触るのは構わないのだが、注意だけはしておくか。

 

 お~い、そいつまだ生きてるからあんまり触ると暴れるぞ~?

 

 

 ……あっ

 

 

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