あの日見た夢をもう一度、あの日見た光のその先へ 作:白髪ロング娘スキー
集合場所を出発してから4時間。
途中で30分の休憩を挟みつつ、バスが走る。*1
少し前まで聞こえていた会話の声は今や聞こえず、バスの中はパラパラと紙をめくる音だけが響いている。
初対面の人間と4時間も会話を続けられる人間は滅多にいないからな。
俺に話しかけてきそうな夜凪景は、俺の肩に頭を預けて目を瞑っているし、静かなものだ。
一定のテンポで繰り返される夜凪景の寝息をBGMに、静かに台本を読み込む。
「む……? おお!?」
パラパラとページをめくっていると、前の席から大きな声が上がった。
静かな空間の中、唐突に上がった驚いたような声に視線が集まる。
声の上がったその先では一人の男が立ち上がっており、窓に額を押し付けながら外を眺めていた。
男の視線を追う。
視線の先、窓の外に“それ”が見えていた。
「おお! あれがデスアイランド!」
「正確にはそれを撮影するための島だけどな」
「あの島で、これから私たち撮影をするんですね……!」
海を隔てた先にある離島。
今回撮影する映画、デスアイランドの撮影現場。
小さく見えるその島は未だ遠く、到着までは相応の時間が掛かるだろう。
しかし彼らにとっては、これからの撮影に対する期待で胸が膨らむものであるらしい。
皆一様に立ち上がってふらふらと窓へと近寄っていき、獲物を見つけたゾンビの如くゴツゴツと窓に額をぶつけ始めた。
そんな珍妙な光景に、これ今外から見られたら恐怖映像じゃないか? という考えが頭に浮かぶ。
即座にそんな考えを下らないと一笑に付し、頭から破棄して台本読みに戻った。
「んぅ……」
台本読みを続ける為に視線を下に下ろした瞬間、俺の肩に頭を預けていた夜凪景がむくりと起き上がる。
そして寝惚け眼のまま周囲を見渡し、不思議そうに小首を傾げた。
「……あれ、何してるのかしら」
「見るな、Tウイルスが移るぞ」
窓に群がる感染者達をぼけっと眺めている夜凪景の肩を抱き寄せる。
再び俺の肩に頭を置く形になった夜凪景は、考えるのを止め、再度眠る事にしたらしい。
少しして、再び俺の耳元に静かな寝息が掛かり始めた。
………………
…………
……
離島へと移動するためのフェリー。
そこから降りたバスが、少し移動してから駐車場に止まる。
バスのエンジンが止まると同時に、我先にと荷物を持って降りていくオーディション組。
まるで、修学旅行に浮かれる学生のようなテンションの彼らを見送り、未だ眠っている夜凪景を起こして共に降りる。
「んん~! っふぅ、よく寝たわ」
バスから降りた夜凪景は、軽く伸びをしてから固まった体を解すため、軽い準備体操を始めた。
それに続いて俺も軽く肩を回し、固まった体を解し始める。
道中ずっと夜凪景に寄りかかられてたから肩が痛ぇや。
肩を回しつつ、バッグから事前に配布されたスケジュール表を取り出す。
一日目は……カレン率いるスターズ組と、オーディション組が出会う最初のシーンの撮影か。
恐らくスターズ組は既に、無人島の砂浜で目覚めるシーンの撮影に入っているだろうな。
顔合わせの時間は無さそうだ。
……いや、もしかしてわざとか?
前の顔合わせの時に、スターズ組と会えなかったのは仕方ないだろう。
大御所芸能事務所のスターズに所属している俳優だ、忙しくて来れないのも仕方がない。
だが、今日は違う。
今日は少し早めにオーディション組が出発すれば、十分顔合わせをする時間は取れた筈だ。
まさか、スターズ組とオーディション組が顔合わせをした結果、仲良くならない様にされている?
……流石に勘繰り過ぎか。
どうやら俺も、ずっと座りっぱなしだった事が堪えているようだ。
目を瞑って鼻根を指で挟み、ぐにぐにと揉む。
「トーカ? どうかしたの?」
「いや、少し疲れてるなって思っただけだ」
大丈夫? と髪を掻き分けて覗き込んでくる夜凪景に、大丈夫だから離れろと頭突きを叩きこんだ。
額を押さえて涙目で呻りだした夜凪景を無視し、歩き始めたガイドに付いて行く。
この後は、オーディション組の為に用意されたコテージに荷物を置き、衣装に着替えて撮影の開始を待つ事になる。
うむ、らしくもなく少し楽しみになってきたぞ。
用意された衣装に着替え、小道具を持って外に出る。
外では、同じく着替えが終わったオーディション組が集まり話をしていた。
その輪からは少し離れた場所にいる夜凪景を見つけ、近寄っていく。
夜凪景の衣装は、上は紺色の半袖シャツに灰色と蘇芳色のストライプネクタイ。
下は白地に茶色のチェックが入ったスカートと黒のタイツを穿いており、腰に巻かれたベルトが夜凪景の腰の細さを主張している。
全体的に特徴は無く、主張も弱いシンプルな衣装だ。
しかし、よく見れば夜凪景の魅力はしっかりと引き出している衣装でもある。
元々夜凪景は顔やスタイルが良いから、無駄に着飾る必要は無い。
シンプル・イズ・ベスト、それを良く理解した作りの衣装であった。
どうやら、美術班*2に有能な奴が居るらしいな。
「景」
椅子に座り、コップに注がれた緑茶をぼうっと覗き込んでいる夜凪景に話しかける。
声を掛けられ、顔を上げた夜凪景が俺を視認すると共に勢いよく席を立ち、嬉しそうに此方に向かって駆け足で走って来る。
「トーカ! 似合ってるわね、その衣装!」
「お前こそな。どうやら美術班に出来る奴が居るらしい」
「誰かは分からないけれど、感謝しなきゃいけないわね」
「そうだな。着心地も悪くないし、良い仕事だ」
ただ、生地が少し分厚いのが気になるな。
季節と撮影場所が鬱蒼とした森の中という事を考えると、蒸れて汗をかきそうだ。
逆に言えば、それ以外には特に問題はない。
とはいえ、蒸れた事によって流れた汗でメイクが崩れるかもしれないから、後で要望を出しておく必要はあるか。
「それにしても……」
夜凪景が視線を下へと向けた。
その視線を追えば、俺の手元へと辿り着く。
どうやら、俺の持っている小道具が気になるようだ。
「刀、大量ね。そんなに使う事ってあるのかしら」
「使うシーンはあるが……正直邪魔ではあるな」
俺の手に握られた小道具を軽く揺らす。
鞘に入った状態の6本の模造刀が、カチャリと音を立てた。
俺の演じるシュウゴというキャラは、どうやら原作では6本の剣を使って戦う元剣道家らしい。
過去、色んな有名校からスカウトが来ていたのを蹴って、カレン*3というキャラの為に今の学校に来たという設定なんだとか。
原作は未修だから詳しい所は俺は知らない。
だが、正直6本も使うくらいなら1本、多くても2本での戦い方を極限まで極めた方が強いと思うんだが、そこら辺どうなんだろうか。
まぁ漫画特有の謎理論だと言われたら納得するしかないんだが。
「今回の撮影で6本同時に使うシーンがあるから、それまでに使いこなせる様になっとかなきゃな」
「無茶ぶりにも程があるわ……」
「まぁ、俺なら出来ると判断して俺にこの役を当てたんだろ」
ならその期待に応えてやらなきゃな。
「トーカが良いなら別にいいけれど……なんかトーカが便利に使われてるみたいで嫌な気分だわ」
「使える奴が使う、出来る奴がやる。たとえ不満でも、出来ると信頼されて割り振られたのなら、後はやるしかないのさ」
これは便利に使われてるんじゃなく、適材適所というものだよ。
今回の撮影でレベルの高い殺陣が出来る奴は俺と夜凪景くらいだ。
バスに乗る前に話し掛けてきた男と、顔合わせの時に来ていたスターズの女も出来そうではあったが、それでも夜凪景には一歩劣る様に見えた。
結果、高い水準の殺陣が出来る男が俺しかいないのだ。
なら俺がやるしかないだろう。
それを丁寧に説明するも、理屈では分かっていても感情が納得出来ないらしい。
夜凪景が、不機嫌そうにぷっくりと頬を膨らませる。
その膨らんだ頬を指で突き、ゆっくりと空気を抜いていく。
……なんかこれ楽しい。
「ぷしゅー」
「皆さん揃ってますかー? そろそろ撮影が始まるので準備をお願いします!」
オーディション組の集まるコテージにスタッフの声が響いた。
夜凪景の頬から指を放し、手に持った刀をテーブルの上に置く。
一本、また一本とテーブルに広げた刀を手に取り、背中に背負ったホルダーベルトに収めていく。
一本一本は200g程度で軽いとはいえ、6本も背負えば1.2キロだ、多少重心がズレる。
これも慣れなければいけないなと思いつつ、前に向かって一歩足を進めた。
「行こうぜ景、撮影開始だ」
鬼滅の映画が公開3日間で興行収入46億、10日間で107億、17日間で157億、24日間で興行収入204億8361万1650円、31日間で233億4929万1050円。
国内で5番目に売れた映画がハリーポッターと賢者の石の203億円なので、これを抑えて5位に。
しかも一位の千と千尋は6週で150億に対して、鬼滅は3週間で150億。
ついでに言えば、ライバルになりうるハリウッド映画などはコロナで撮影が延期している上に、ソーシャルディスタンスで映画館の席が一つずつ空いてたのを全席解放した為に興行収入は更に跳ね上がると予測……
これもっと興行収入周りの設定はっちゃけちゃってもいいんじゃなかろうか?