あの日見た夢をもう一度、あの日見た光のその先へ 作:白髪ロング娘スキー
ヤンデレを書くための参考になるかと思って未来日記とSchoolDaysを見てました。
諦めました。あと誠死ね。
仄かな月明かりがこんこんと辺りを照らしている。
白く濁ったさざ波が砂を掻き分け、押し寄せては引き上げていく。
静かな砂浜には、浚われるさざ波の音だけが静かに響き、月明かりを反射して鈍く輝いていた。
人の気配が無く、自然の音のみが支配するどこか心地よい空間。
何処か触れてはいけないような神聖さを感じるそこに、一つの足音を紛れ込ませた。
背中に掛けた物に手を伸ばし、ゆっくりと引き抜いて砂浜に突き刺していく。
目を閉じ、両手に持つそれに全意識を集中させ、静かに呼吸を繰り返す。
さて、やるか。
前を向き、静かに一歩を踏み出した。
………………
…………
……
お夕飯を食べ終わり、自室への道を一人歩く。
その途中、ふと彼に軽く小突かれた額を撫でた。
撮影終了後、私は自室で貰ったVを見ながらベッドで横になり寛いでいた。
湯島さんが台詞に一瞬詰まったシーン、もうちょっと丁寧にフォローしてあげた方が良かったかな?
でも、今回の撮影でどれくらいやれば監督が納得するのかをまだ把握出来てなかったし、丁度良かったと思う。
湯島さんに限らず、他の皆もこのシーンで今回の監督の方針がなんとなく理解出来たはずだ。
たとえ軽いミスをしても、今回の監督は気にせずOKにしてしまうと。
……でもオーディション組の子たちに伝わってるかな? もうちょっと分かりやすく伝えられればよかったんだけど。
少し反省しながらVチェックを進めていると、インターホンが鳴った。
誰だろうとドアの覗き穴から見てみれば、そこにはオー君が立っていた。
すぐにドアを開け、何か用でもあるのかと尋ねた私に返ってきたのは、無言のデコピンだった。
痕が残らず、かつ脳に響く様な痛みはあるという、絶妙な力加減のデコピン。
唐突なデコピンにハテナマークを浮かべる私に、彼は何も言わず満足そうに立ち去った。
暫く混乱していた私であったが、段々と落ち着いてくると、デコピンをされた理由に思い至った。
あー、これ嘘がバレちゃったかな? と。
教えたのは監督かな? でもわざわざ話すとは思えないし、多分バレたのは偶然だろうな。
どっちにしろ、この理由はもう使えなくなってしまったし、別の方法を考えよう。
そうして暫く考えていると、携帯のアラームが鳴り、お夕飯の時間になった事を私に知らせた。
完全にVチェックの事を忘れていた事に気付き、自分で自分に呆れる。
Vチェックの続きをしたいが、きちんとご飯は食べないと健康に悪い。
健康の悪さは美の悪さに繋がるから、そこはしっかりしなければいけない。
という訳で、バイキング形式のお夕飯を食べに行ったのだが、そこにオー君の姿は無かった。
お夕飯の時間は2時間、待っていれば来るかなと思っていたが、待てど暮らせど彼はやって来ない。
仕方なく、記憶に残る彼の好物を皿に盛って取って置いてもらい、私は自室に戻る事にした。
そうして今自室へと向かっているのだが……本当に彼は何処に行っているのだろうか?
彼も私と同じで、ご飯を食べなければ上手くパフォーマンスが出来なくなるタイプの筈なのに。
少し歩き回り彼を探すも彼は見つからず、自室に戻った私はVチェックを再開した。
しかし、彼の所在が気になり、Vチェックは遅々として進まない。
無機質に流れる映像の上を、同じく脳へと繋がる事の無い無機質な眼球が撫でる。
……時間の無駄だな、少し気晴らしに歩こう。
さて何処へ行こうかな。
何も考えずに部屋を出た私は、そう考えてから特に行きたい場所がない事に気付いた。
……もう寝ようかな。そう考える私の耳に、遠くで鳴るさざ波の音が小さく響く。
そうだね、折角島に来てるんだし海でも見に行こうか。
自室へと向いていた足を外に向けて歩みを進める。
履いているサンダルの踵がロッジの木製の床をコツコツと叩き、心地の良い音を鳴らす。
砂の上を歩けばサクサクと軽快な音を鳴らし、そこに私が歩んだ軌跡を残した。
それがなんだか楽しくて、わざと音を立てるようにステップを踏んでいく。
サクリと一歩、軽く跳ねて一回転。
着地と共にステップを踏み、ゆっくりと回ってからアラベスクを刻む。
ふわりと舞う体を両の腕を振って回し、ステップを踏んで跳ぶ。
さくりさくりと音が鳴る度に、無地の砂に天使が痕を残していく。
夜空の下、木の隙間から月が見下ろす中で天使が踊る。
ふわりと舞う体が月明かりを反射し、後光のように照らされる。
地に残る足跡はまるで、ふわりと落ちた天使の羽のごとく美しい物へと昇華されていく。
そこに残る醜い生の痕すらも、無機質で美しい物へと変えていく。
確かに今、この瞬間、この月明かりの全ては天使一人の為だけに存在していた。
踊りながら砂浜へと歩を進めていく。
軽快な音は鳴り止まず、自分がここに居る事を確かに証明している。
変わらずサクサクと音が鳴り、しかしそこに小さくキィンという金属音が混じった。
その音に思わずワルツを止め、混じった音の方へと顔を向ける。
もしかして、誰か居る……?
金属音は止まない。
こちらに近付く訳でもなく、遠ざかる訳でもない。
ただそこにあるといった感じで、ひたすらに音を響かせている。
音の主が誰なのか気になり、そっとその音の元へと近づいていく。
森を抜け、視界が開けたそこに音の主は居た。
両手に刀を持ち、宙に4本の刀を浮かせながら舞うその人物。
如月逢魔が、そこにいた。
手に持った刀が振るわれる。
風を切り裂き、横一文字に振るわれた刀が浮いている刀を叩いて回転させた。
くるくると回る刀の鍔に切っ先を引っ掛け、打ち上げるように切り上げる。
刀を振るった事で傾いた体。
彼はそれを正す事無く更に傾け、足を振り上げて刀の頭を蹴り上げる。
倒れ行く体を止める事なく彼は砂浜に片手をつき、地に残った足を振り上げた。
振り上げられた足は刀の刃に添えるように触れ、回転させながら打ち上げる。
片手で倒立した状態の彼はもう片手に握った刀を振り、地に落ちかけた4本目を刀の峰に乗せた。
地に足をつき、落ちてきた3本の刀を峰に乗せた刀に着地させる。
まるで崩れかけのジェンガのように重ねられた刀、それを手に持った刀を振り上げる事で鍔に当て、連鎖させるように重なった刀を全て打ち上げた。
そしてまた、繰り返すように違う動きで宙に舞った刀を一本も落とす事無く、彼は踊る。
邪魔になるからか長い髪は後頭部で纏められており、刀を振るう度に髪が広がり宙に舞う。
くっきりと見える彼の顔には遊びが一切なく、目は鋭く尖り口内で歯を強く噛んでいるのか、きつく口が閉じられている。
美女と見まごう程に美しく整った顔にはびっしりと汗が浮かんでおり、激しく動く度に雫となって宙を舞う。
月明かりに照らされる中、ふわりと広く髪が舞い、刀によって軌跡が煌めく。
飛ぶ雫が光を反射し、全てが彼を際立たせるアクセントとなっていた。
それはまるで神事。
神を崇め祭り、尊ぶ様な神聖な儀式。
現実離れした、この世にあらざる美しい光景。
それが今、私の目の前にあった。
「あ……」
「ッ誰だ!?」
私もああなりたい、あんな美しさを手に入れたい。
紛い物の天使ではなく、あの神子に尊ばれる程の神に……
そう思い、一歩踏み出した。
サクリ。
履いていたサンダルが砂に沈み、足音を立てる。
不味い! そう思った時には既に、舞い踊っていた彼は動きを止めて此方へと顔を向けていた。
彼に構われていた刀たちが、拗ねるように音を立てて砂に沈む。
「……なんだ、景か」
「え?」
なんでここで夜凪さんの名前が?
思わず彼の視線を辿る。
その視線は私の元へ、正確に言えば、それより少し下へと向かっていた。
手を添えていた木の下を見下ろす。
そこには何も言わず、ただじっと体育座りをしている夜凪さんがいた。
びっくりして思わず飛び退る。
「ん? なんだ、ちぃも居たのか」
「うぇ!? あっ、うん!」
「二人ともどうした、もしかしてもう飯か?」
「え」
ご飯? ってお夕飯の事だよね?
オー君はお夕飯に来てなくて、そして舞いが終わった瞬間にご飯かを尋ねて来る……
って事はまさか、2時間の間ずっと……ううん、それよりもっと前からずっと舞い続けてたの!?
もしかして、そう思い下を見る。
木に寄り掛かりながら、夜凪さんがこちらを見ていた。
瞬間、彼女のお腹がきゅるる、と音を立てる。
こっちもか!
「あー、言い辛いけど、お夕飯の時間はもう終わってるよ」
「そんな訳ないだろ、夜飯の1時間前に練習を始めたんだぞ」
3時間近くもやり続けてたんだね……
なんというか、分かってた事だけど滅茶苦茶すぎる。
こんなに汗を掻いているのも当然というものだ。
「今は既にお夕飯の時間から30分くらいは経ってるよ」
「……マジなのか?」
「うん」
「マジかよ、飯食い損ねた……」
彼が両手に持った刀を放り、四つん這いになって頭を垂れる。
きゅぅ、という可愛らしい音と共に、彼から音が鳴った。
思い切り落ち込んでいるその姿に、慌てて声を掛ける。
「あ、でもオー君の好きな物取っておいてもらってあるよ! 冷めてるかもしれないけど、それ食べてきたら?」
「マジで!?」
「うん! でも、夜凪さんの分が無くて……」
「それは一緒に食えばいいだけだし、そこまで気にしねぇよ。足りねぇだろうけど、朝飯まで寝ときゃ関係ないだろ。ありがとな」
そう言って彼は落ちた刀を拾い上げ、背中に背負った鞘に納めていく。
全てを鞘に納めた彼は、サクサクと音を立てながらロッジの方向へと歩き始める。
それを追う様に、夜凪さんが立ち上がって歩き始め、そして歩みを止めた。
くるりと振り返り、こちらを向く夜凪さん。
「そ、その、百城さん」
「……なにかな」
「その、ご飯、ありがとう!」
「気にしなくていいよ」
オー君の為に用意したものだし。
心の内を隠し、返事をする。
私の言葉に、夜凪さんが笑顔を浮かべた。
キラキラとした純粋なその笑みに、少しだけ心が痛くなる。
それはもう、私が失ってしまったものだから。
「いいから、早く行きなよ。お腹空いてるでしょ」
「うん! 本当にありがとう!」
もう一度礼を言い、頭を下げる。
そうして顔を上げた夜凪さんは、嬉しそうな足取りでオー君を追っていった。
私だけになった砂浜に、静寂が訪れる。
なんとなく寂しくなり、オー君が舞っていた痕を眺める。
ぼうっと足跡を見つめていると、サクサクと砂を踏む音がして、そちらに顔を向けた。
「……アキラ君か」
「なんだか嫌そうな顔だね。新鮮だ」
どことなく嬉しそうなアキラ君に少し……ううん、何でもない。
それよりも、少し気になる事を見つけた。
「アキラ君、ちょっとそこの木に寄り掛かってもらえるかな?」
「え? ああ、この木かい?」
「うん、それ」
先ほどまで夜凪さんが座っていた木、私が手を添えていた木。
アキラ君がそこに向かうのを見てから、私もオー君が舞っていた場所に向かう。
大量の足跡が残るそこに立ち、振り返ればアキラ君が木の元へと到着し、手を添えていた。
足音は、耳を澄ませなければ聞こえない程に小さい。
「着いたけど、ここからどうすればいいんだい?」
「うん、もういいよ」
「え? あぁ、そうかい?」
不思議そうに首を傾げるアキラ君を見ながら、私も心の中で首を傾げた。
オー君、夜凪さんの事に気付いてなかったような反応をしてた。
という事は、最初から一緒にいたのではなく、私と同様に後から来たという事だ。
……不思議だなぁ。
オー君、なんで私にはすぐ気付いたのに、夜凪さんの事には気付いてなかったんだろう?