あの日見た夢をもう一度、あの日見た光のその先へ 作:白髪ロング娘スキー
就活で忙しいのと、アクタージュのLINEスタンプが発売されていた事実を知って絶望していたのと、書けな過ぎてプロットを作り始めたのと、メルカリでアクタージュの108話から123話の切り抜きを購入した事などなど。
色んな事が重なり、更新が遅くなっています。
すみません。
……アクタージュのLINEスタンプ、欲しかったなぁ……普通に使い勝手良さそうなのがまた……
朝の食堂。役者やらスタッフやらが入り混じり、がやがやと騒がしいそこに足を一歩踏み入れる。
瞬間、先ほどまで仄かに廊下へと漏れていた料理の香りが強く鼻孔を擽り、食欲を強く掻き立てた。
食堂の中心には唐揚げや炒飯、キッシュに茶碗蒸しといった、大量の料理が山盛りにされたテーブルが置かれており、客は好きな物を取って好きに楽しめるバイキングとなっている。
その巨大なテーブルの周りには4人掛けのテーブルが無数に設置されており、その数は20は下らない。
しかし、それですら席の数が足りなくなり、一部のスタッフ達はビュッフェ*1を楽しみ始めているほどだった。
昨日、夜凪景と共に千世子が取って置いてくれていた晩飯を食べていた時にも思った事だが、かなり食堂が広いな。
ホテルの食堂といえば、テーブルの数は4人掛けが12個程度が普通なのだが、その倍近くあるとは。
それでも足りずに立って食事をしているスタッフがいる辺り、このデスアイランドという映画の撮影に掛けている力の入り具合が見えるが。
「す、すごいわね……」
立ち止まってそんな事を考える俺の袖を、共に歩いてきた夜凪景が引っ張る。
見れば夜凪景の視線はキラキラと輝き、大量に料理が盛られたテーブルへと釘付けになっていた。
もはや涎でも垂らしそうな程のだらしない顔である。
「これ、ほんとに好きなだけ食べていいのかしら? 私お姫様じゃないのに」
「周りを見ろよ、むさ苦しい男共が飯にがっついてるだろ。あれがお姫様に見えるか?」
「……あとで怖い人に怒られたりしない?」
「しない」
「過度に請求されたりしないかしら!?」
「しません……いいから、腹減ってんなら好きなだけ取って食え」
途端、目を輝かせながらも何処か不安そうにしていた夜凪景が、周りの迷惑にならない程度に駆け足で料理の載ったテーブルへと駆けだした。
どれを食べようかと迷った様子の夜凪景に苦笑しつつ、俺も料理を取ろうとテーブルへと近付いていく。
「む、おはよう夜凪、透歌さん!」
「ええ、おはよう武光君」
「ああ」
横からされたタケオミ*2の挨拶を適当に流しつつ、夜凪景が持っている皿をそっと奪う。
そして夜凪景の好きそうな物を選択してフレンチ料理の様に少量で、量よりも見栄え重視で盛り付けていく。
美しく完成した皿を夜凪景へと手渡し、今度は俺の分を盛り付ける。
夜凪景の皿とは違い盛り付けは適当に、量を重視した大盛りだ。
「わ、綺麗……でも量が少なくないかしら?」
「バイキングは好きに取って好きに食うもんだ。取り敢えずそれ食って、後は好きに選んで食え」
幾ら好きな物をチョイスして盛り付けてるからって、それで満腹になってたらバイキングの意味が無いだろ。
少しずつ、多種多様な料理を一度に沢山味わえるのがバイキングの楽しみなんだから。
嬉しそうに料理の載った皿を持って少しテーブルから離れ、食べ始めようと箸を握る夜凪景。
そんな夜凪景に、近くの席に座っていたスタッフが自分の皿を持って立ち上がり、席を譲った。
なんでも、スタッフには代わりがいるが役者に代わりはいないため、少しでもストレス無く過ごして欲しいのだとか。
考えは分かるしありがたくはあるが、そこまで気にする必要も無いと思うがな。
その程度で体調を崩すような体調管理の出来ていない奴など、切り捨てても問題など無いだろう。
どうせそういった奴は、生かしておいても足を引っ張る事しかしないのだから。
まぁ、譲ってくれるというのなら有難く貰っておくが。
先に座って食事をしていた人を退かしてまで座ってもいいのだろうか? 恐らくはそんな事を考えているのであろう夜凪景が、オロオロしながらこちらを見る。
そんな夜凪景に一つ頷き、気にしないで座っちまえと顎を向けた。
少し申し訳なさそうな顔をしながら、夜凪景は席を譲ったスタッフに対して小さく頭を下げ、ちょこんと席に座る。
その向かい側に俺も皿を置き、椅子に座って箸を握った。
「「いただきます」」
同時に手を合わせ、皿に載った料理に手を伸ばす。
唐揚げを一個箸で挟み、口の中へと放り込み歯を立てた。
途端、カリッとした歯応えの衣が破れ、漏れ出た肉汁が口の中に溢れて満たす。揚げてからさして時間が経っていないのであろうアツアツの唐揚げが、まるで爆弾の様に口内でじゅわっと弾ける。
脂っこいものの代表格である唐揚げであるというのに脂っぽさは全くなく、寝起きの繊細な味覚でもくどく感じずに食べられている。
美味いな、コレ。
「おいひぃ!」
上がった声に前を見れば、同じく料理の美味さに驚いたのであろう。夜凪景が片手で口を押さえながら、目を見開いてもぐもぐと咀嚼していた。
そしてごくりと口の中の物を呑み込むと、興奮した様子でこちらを見てぶんぶんと小さく手を振る。
「これ、凄く美味しいわトーカ!」
「そうだな、朝だというのに無理なく食べられる」
「これルイとレイに持って帰れないかしら!?」
「夏場だし腐ると思うぞ」
あと料理を持って帰られても普通に困るだろ。
どう思うよ。1ヶ月映画の撮影に行っていた姉が、何故か腐りかけの飯を片手に帰ってきたとかなったら。少なくとも俺は情け容赦なく、この1ヶ月何してたんだお前って突っ込むぞ。
大人しく他の役者たちのサインでも貰ってこい。
「ふむ、楽しそうですな!」
「あ、武光君」
「おいおい、お前そっちに座んのかよ……失礼しても?」
「好きにしろ」
むふー! っと楽しそうに鼻息を荒くする夜凪景の隣にタケオミが座り、一拍間を置いてからミナトが許可を取って俺の隣へと座る。
ミナトの持つ皿は茶色で埋まっており、野菜による彩りが一切存在しない。
反面、タケオミの皿は……
「す、凄い量ね武光君……」
ウィンナーにトマト、ミートスパゲティにたっぷりとデミグラスソースが掛けられたハンバーグ。
そんな肉だらけの皿の中央には炒飯で出来た山が立っており、まるで山にかかる太陽の様に手の平大の目玉焼きが炒飯の山へとしなだれかかっている。
そんな炒飯の山の頂上には一本の旗が突き刺さっており、そんな見るだけでもお腹が埋まってきそうなスタミナプレートの周りをヒクヒクと動く伊勢海老が囲っていた。
……なんというか、色んな意味で食欲が失せて来る一皿だな。
つかその伊勢海老どっから持ってきた、テーブルの上に伊勢海老なんか無かったろ。
「朝食は役者のエネルギーだからな! 朝しっかり食べずにいい芝居なんか出来ないからな!」
お前は食い過ぎだと思う。
「なんだ、夜凪はそれだけか?」
「あ、いえ、これはトーカが盛り付けてくれたの。取り敢えずこれを食べてから好きな物を食べに行けって」
「ふむ? ほぉー? 卵焼きにアスパラガスの胡麻和え、ひじきにオクラの肉巻き、レンコンのきんぴらか。体に良いものだらけだな!」
「それにどれも消化を助ける物ばかりだな。やっぱり夜凪にだけは優しいんだな、この人……」
言われる度に機嫌が上昇していく夜凪景から目を逸らし、自身の皿に向き合う。
ほうれんそうのお浸しを口に入れ、一旦口の中をリセットし次の料理へと箸を進める。
そうして黙々と料理を口の中に放り入れていると、突如目の前に少し食べかすの残る皿が突き出された。
皿の持ち主を見れば、むふーっと笑顔を浮かべた夜凪景が両手で皿を持っている。
「……なんだ」
「次も盛り付けてくれないかなーって」
「自分で行ってくればいいだろう。そうやって何を食べるか迷うのも、バイキングの楽しみの一つだぞ」
そう言うと、夜凪景は少しだけしゅんとして皿を自分の手元に下げた。
斜め前と横、それから少し離れたところから何か言いたげな視線が俺に突き刺さる。
無視して食事を進めるも、俺へと向けられる視線は途切れず刺さり続ける。
……
…………
………………ああ、もうしょうがねぇなぁ!
「おら、皿貸せ!」
「あっ」
今日のバイキングメニュー全部この一皿に美しく詰め込んでやるよゴラッ!
「お前だ! お前のせいでリンは死んだ! お前がアプリの指示を無視したから!」
自身の首を持ったリンの異様な遺体が、教室の壁に背を預けている。
その遺体の横に突き立っていた刀をカヅキ*3が拾い上げ、リュウゴ*4へと向けた。
「ぐ、偶然だよ! 【デスアイランド】にそんな力あるわけないだろ!?」
「私は止めろって言った筈だ! 何が起こるか分からないから指示に従った方が良いって!」
落ち着けよ、そう言いリュウゴが近付こうとするものの、錯乱するカヅキは手に持った刀を振り回してリュウゴを傍へと近寄らせない。
振るわれる度にヒュンヒュンと空気を切り裂くそれは、当たれば死にかねないであろう事を強く意識させる。
段々と自身へと近寄ってくる確かな死の足音に、リュウゴも焦り、言葉が強くなっていく。
「ッ、ああそうだよ! 確かに俺はどうせ誰かのおふざけだ、アプリの指示なんか無視しちまえって言った! でもこんな事になるなんて誰が想像出来んだよッ!」
瞬間、何かを思いついたかのようにリュウゴが口の端を上げてニヤリと笑った。
「そうだ、そうだよ。【デスアイランド】なんかあるわけねぇ。だがアイツなら出来る。お前も思ってんだろ? その刀だってきっとアイツのだぜ」
「やめろ、黙れ……ッ!」
「シュウゴだよ! アイツだ、アイツが犯人だ! 【デスアイランド】なんかじゃない! そんなおかしなオカルトなんかよりもずっと信憑性がある! そうだ、アイツが犯人なんだよ!」
「ふざけるな! あの人がそんな事をする訳がない! する訳がないんだあああああ!!!」
「なっ、やめっ」
錯乱しきったカヅキが手に持った刀を振り上げる。
先程の様な、脅しの素振りではない。確かな殺意を持って、振り上げられた刀が振り下ろされた。
不意を突かれた上に、リュウゴはその自身の命を奪い去れる一振りを防げるような何かを持っていない。
隙だらけのリュウゴの体へと振り抜かれた刀が食い込み……
「うわぁ~」
ぺそっ、とふざけた様に倒れた。
「カット!」
「ちょっと! 真面目にやってくださいよ竜吾さん!」
監督の声と共にカメラが止められ、スタッフ達が次の撮影への準備に取り掛かる。
その中、和歌月が最後の最後で気を抜き、適当な芝居をした竜吾に詰め寄る。
「えー、どうせ切られるトコは次のカットで撮るんだからいいじゃん。和歌月真面目過ぎー、ねぇカントク」
「そうだねぇ、まぁOKかな。切られるシーンは次のカットというのも確かだしね」
「むぅ……」
監督からも味方されなかった和歌月が拗ねた様にむくれる。
その膨らんだ頬を竜吾が指で突っつき、切れた和歌月に脳天へと拳を叩きこまれた。
そんな光景を手塚は綺麗にスルーし、言葉を続ける。
「じゃ、次の撮影いこっか。竜吾君が和歌月さんに切られて、それを目撃した3人のシーンだよ。準備は出来てるかな?」
「「「はい」」」
手塚の言葉に、カヅキによる殺人現場を目撃した3人、夜凪景と湯島茜、そして木梨かんなが返事をする。
メイクを施していたスタッフが隅の方へと移動するのを見届けながら、かんなが景へと話しかけた。
「いよいよ撮影開始ですね夜凪さん……初台詞、緊張します……」
「そうね。……ねぇ、茜ちゃん、かんなちゃん」
「はい?」
「……?」
「がんばりましょう。出来るわよ、私たちになら。なんてったって、あのオーディションを受かったんだもの」
ふんわりと笑顔を浮かべてそう言う景に、少し景から距離を取っていた茜は、緊張に身を震わせていたかんなは、くすりと笑みを零した。
「そうやね。どんな撮影でも、あのオーディションよりかはマシやろ」
「3!」
茜は下らない事で悩んでいたとでも言うかのように苦笑し。
「がんばりましょう、夜凪さん!」
「2!」
かんなはいつの間にか収まっていた体の震えに、改めて夜凪景への尊敬を深めた。
「1!」
そんな二人を見て、景はにっこりと微笑み、前を向いた。
「ハイ、テストォ!」
「テスト!」
そして、カチンコの音が鳴る。
クリスマスプレゼントって24日の夜から25日の朝までの間に置いておくものなんですって。
だから……