あの日見た夢をもう一度、あの日見た光のその先へ   作:白髪ロング娘スキー

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act6 プール

 

 日は昇って11時。

 2日かかった学校での撮影は終わり、さぁ帰って飯でも食おうと準備をし始めた俺達を依頼先の校長が止めた。

 なんでも贈り物があるため、少し待っていて欲しいらしい。

 

 そうして渡された弁当を食ったり、贈り物ってなんだろうなと夜凪景と会話をしたりしながら待つこと約1時間。

 俺達の前には、なみなみと水が張られたプールがあった。

 

「……え、なんでプール?」

 

 

 

 

 


 

     

act6        

        

……プール?

 

 


 

 

 

 

 

 季節は春、未だ冷たい空気の漂う春だ。

 しかも、ここはリゾートなどではない。学校の吹きさらしのプールだ。

 

 普通に考えて、この状況でプールに入るのは正気の沙汰ではない。

 しかし、折角のもらい物、無下にするのもいかがなものか。

 

 そう思った馬鹿二人が此処に居ます。

 

 

 はい、エントリー№1!

 

 俺!

 服装はとにかく動きやすい無地Tに短パン!

 因みに俺の分の着替えは全部使いきったから、これは夜凪景の服だぞ!

 普通にサイズが合ってなくてパツパツ気味なのがワンポイント!

 

 

 はい、エントリー№2!

 

 夜凪景!

 服装は俺と同じTシャツに短パン!

 ただし何故かTシャツには謎の I ♡ Humanの字が綴られてるぞ!

 ♡が何故か真っ青な上に、矢で射抜かれてるのがお茶目だね! 

 

 因みに二人とも下着の替えが無いので裸の上にコレ着てます!

 さぁ、プールを楽しもう!

 

 ……いや、マジで馬鹿じゃねぇの?

 

 一瞬本気で、あの校長が20万ぽっちの金を踏み倒すために、俺らを冷たいプールに沈めて抹殺しようとしてんのかと思ったぞ。

 その後、のほほんとした笑顔で、プールって気持ちいいですよねーとか言うから、「あ、こいつただの天然だ」って察したけどな!

 

 まぁわざわざ着替えたのだし、一切水に触れずに終わるのも勿体ないか。

 そう思いながらプールの水に手を突っ込み、くるくると巻いて渦を作ってみた。

 

 そうして驚いたのは、プールの水が仄かに温かかったこと。

 フェンス越しに立っている校長を見れば、謎のドヤ顔を返された。

 どうやら校長がプールで遊んでも寒くない様に配慮をしてくれたらしい。

 

 いや、そこに気を使う前に、プール以外の贈り物を考える事はしないのか……?

 そんな気持ちを込めて校長を見ていると、何故か校長はサムズアップをしてきた。

 そして、何故か満足げに笑って体育館へと歩いていく。

 

 いや、えぇ……?

 

「わぷ!?」

 

 そんな校長の後ろ姿を見つめていると、唐突に横から水が飛んできた。

 びしょ濡れになった髪を、犬猫の様にプルプルと振って水気を飛ばす。

 

 水が飛んできた方を見れば、夜凪景がプールの中に入っていた。

 その両手はお椀のように合わされており、こちらに向けられている。

 

「ね、トーカ」

 

「……なんだい、景」

 

「水が怖い?」

 

 ……ほぉ? 後悔するなよ?

 

 深く息を吸い、吐く。

 そして一瞬の間を置き、頭からプールに飛び込んだ。

 手を入れた時には仄かに温かった水が、嫌に冷たく感じられた。

 水の中でも鳥肌が立った感覚が分かる。

 

 背筋を伝う怖気を振り払い、水面に顔を出す。

 そして、先ほど夜凪景がいた場所から大体の推測を付け、手を薙ぎ払って水を飛ばした。

 弾丸のように飛ぶ水の斬撃が、夜凪景の顔を襲う。

 

「わぷ! ……やったわね!」

 

 楽し気に笑みを浮かべ、追いかけてくる夜凪景からイルカのように泳いで逃げる。

 そして、途中から夜凪景も走るのをやめて泳ぎ出し、しかし追い付けないと悟ると再び走り出した。

 

 だが俺だって人間、幾ら速く泳げようと息継ぎはいる。

 ぷは、っと一瞬水面に顔を出し、肺に空気を取り込む。

 そして再び潜ろうとした俺の横顔に水が叩きつけられた。

 

「ふふん!」

 

 見れば、胸を張って腰に手を当てた夜凪景が、満足げな顔をして立っていた。

 馬鹿な、狙っていたというのか!?

 

 ならば今度は此方の番だと、手で水を掬う。

 それを見た夜凪景が、即座に反転し、一心不乱にクロールで逃げ出した。

 それを待て待て、フハハハハ! と高笑いを上げながら走って追いかける俺。

 

 とその時、俺と夜凪景の間に、ぼちゃんと何かが落ちた。

 夜凪景は泳ぐのを止め、俺も足を止めた。

 

 そこに浮いていたのは、一つのバレーボール。

 当然、先ほどまでこんな物はプールに浮いていなかった。

 となれば、これを投げ込んだ人物がいる。

 

 そう思い辺りを見渡せば、プールフェンスの外に、何故かバスケのシュート体勢のまま固まった校長がいた。

 何のつもりです? と視線を送れば、何故かサムズアップを返される。

 

 そして理解した。

 あ、遊び道具が欲しいと思われていたのかと。

 その為に体育館に行き、ボールを持ってきたのかと。

 

 何故その思考に至ったのかは知らないが、取り敢えずその気遣いにサムズアップを返す。

 それを見た校長は、満足げに校舎へと戻っていった。

 

「トーカ?」

 

 校長を見送っていると、夜凪景がボールをビート板*1代わりにしてバタ足で泳いできた。

 

 そのボールを受け取り、試しに沈めてみる。

 当然ながら空気の詰まったバレーボールは中々沈まず、手を離せば即座に浮き上がってきた。

 だが、沈まないわけではない。

 

「よし、これ使って点の取り合いでもするか」

 

「ルールは?」

 

「相手側の壁にボールを着けたら得点、その瞬間反対側の壁がゴールになる」

 

 つまりは点取り合戦だ。

 俺が入り口側の飛び込み台、夜凪景が奥側の飛び込み台に立つ。

 俺は奥側の飛び込み台の壁に、夜凪景は入り口側の飛び込み台の壁にボールを当てたら一点。

 そして一点入ったら、今度は俺は入り口側の飛び込み台を目指し、夜凪景は奥側の飛び込み台の壁を目指す。

 

「ハンデとしてどちらが点を取っても最初ボールは景で、加えて俺は泳がない。そして、ボールを投げて壁に当てても点にはならない。これでどうだ」

 

「分かったわ」

 

 夜凪景にボールを預け、入り口側の壁に向かって歩き出す。

 そして壁を背にして前を見れば、夜凪景も同じく、壁を背にしてこちらを見ている。

 

「よし、それじゃあ始めるぞ」

 

 よーい

 

「スタート!」

 

 掛け声と共に、ほぼ同時に走り出す。

 二人とも一切止まらずに走り、水を掻き分けながら進む。

 そしてそのまますれ違い、そこで俺は足を止め、夜凪景も足を止めた。

 

 何もせずにただすれ違った事が不思議だったのか、振り返った夜凪景は首を傾げる。

 そんな夜凪景に、指の上で回転させているボールを見せた。

 

 それを見て夜凪景は目を見張り、自分の腕を見た。

 そこにボールは無い。

 

「え? あ、ボール! なんで!?」

 

「さーて、なんでだろうね」

 

 それよりいいのか? 取り返さないと点取られるぞ?

 

 ゆっくりと歩き出した俺に、夜凪景が慌てて泳ぎ出す。

 そうして俺が壁に着く直前で、なんとか追いつき立ち塞がる夜凪景。

 

 その胸に向けて、指先で回していたボールを放った。

 真正面に来たボールに、思わず両手を使って取りに行く夜凪景。

 だがその手は空を切った。

 

 回していた勢いのまま水上を滑るボールは、まるで夜凪景を避けるかのように綺麗なU字を描き、夜凪景の後ろへ回った。

 そのボールを反対側から回った俺が再び手に取り、壁に押し付ける。

 

 これで一点だ。

 

「……え、今何が起きたの?」

 

「ボールをスピンさせて水の上を滑らせた。ほら、ボール」

 

「あ、うん……うん?」

 

 首を傾げながら、入り口側の飛び込み台に向かう夜凪景。

 そして、暫くなにやらボールを沈めたり浮かせたりして遊んでいたかと思うと、壁を背にしてこちらを向いた。

 

「準備できたわ」

 

「よし、じゃあ次だ」

 

 よーい

 

「スタート!」

 

 またしてもほぼ同時に走り出す。

 しかし、今度の夜凪景は俺を避ける様子を見せず、逆にぶつかろうとするかのように真っ直ぐ突っ込んでくる。

 流石に正面衝突は危ないので、走るのを止めて歩く。

 

 そして夜凪景は、案の定止まることなく俺に突っ込んできた。

 なんなら勢いよく両手を使って俺に抱き着き、足も高く上げて俺の腰に巻き付けている。

 

 一瞬何のつもりだ? と考え、夜凪景がボールを持っていない事に気が付いた。

 その事に気が付いた瞬間、後ろからぱちゃんと何かが浮き上がる音。

 まさかと思い振り返れば、そこには予想通りバレーボールが浮いていた。

 

 なるほど、抱き着くのをカモフラージュにしたのか。

 そして眼前の夜凪景に気を取られている間に、足でボールを蹴って股下を潜らせたと。

 

 やるな、夜凪景!

 だが、抱き着いたままでは得点を取りに行くことは出来んぞ!

 

 そう思っていると、突然夜凪景が両手を離して背中からプールに飛び込んだ。

 腰に巻き付いていた足も離され、一瞬水面に細く白いしなやかな足が浮かんで消える。

 

 思わず下を見れば、一瞬水中の夜凪景と目が合った。

 そして俺の股の間を潜り抜けていく夜凪景。

 

 これは負けたな。

 そう確信し、苦笑いしながら振り返る。

 

 そこでは夜凪景が壁にボールを押し当て、笑顔でピースサインを送ってきていた。

 

「よし、次だ次! 次は負けん!」

 

「それは無理ね! 次も私が勝つもの!」

 

「お? 言ったな? おら次行くぞ! よーい!」

 

 

 そうして俺達は暫く夢中になって遊び……

 

 

 

 

 

 

 

「へくちっ」

 

 不意に、可愛らしいくしゃみがその場に響いた。

 

 

*1
浮力を得るために使う板状の水泳用具。浮き輪みたいなモン

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