かめはめ波的な1
絶望。
緑谷出久の心中を表すにはその一言で十分だろう。
誰もが平等に与えられる筈の物を持てなかった、それは少年にとって残酷な現実だった。
「…おかあさん。どんなに困ってる人でも笑顔で助けちゃうんだよ…超カッコイイヒーローさ、僕もなれるかなあ」
「……!ごめんねえ、ごめんね出久!」
違う、僕が聞きたかったのはその言葉ではない、そうじゃないんだ。オールマイトが人々を救け出す動画を見ながら更に深い絶望感が心の中に広がっていく。
その時丁度見ていた動画が終わったのか、自動再生により次の動画が再生された。
『落ちこぼれだって必死に努力すりゃエリートを超えることがあるかもよ?』
近年目に触れることもなくなった昔のアニメ、それがレトロアニメの名シーン集という題名の動画の冒頭でたった数秒流れた。最早一部のマニアしか見ないようなその動画は確かにその瞬間一人の少年を救ったのだ。
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その少年が中学二年生となった年まで時は流れる。
「えー、おまえらも三年ということで! 本格的に将来を考えていく時期だ!」
担任の教師がピラっと一枚進路希望の紙を手に取る。
「今から進路希望の紙を配るが皆!大体ヒーロー科志望だよね」
そう言いながら教師は進路希望の紙を全て空中へと放り投げ、生徒の殆どが個性を使用する。
重要な紙を放り投げたり個性の使用を咎めるのが緩かったり色々と教師としてアウトである。
「せんせえー、皆とか一緒くたにすんなよ! 俺はこんな没個性供と仲良く底辺なんざ行かねーよ」
その言葉に生徒たちがブーイングを起こすも爆豪勝己は特に気にした素振りもなく言葉を返す。そして教師が勝己が雄英高を志望してると言うと生徒たちはざわつき始める。
この辺りから何となく嫌な予感がしていた出久は机に頭を伏せて腕で隠すように頭を抱えた。
「あ、そいやあ緑谷も雄英志望だったな」
ほれみたことか、嫌な予感だけはよく当たるんだ。
先程までのざわつきの代わりに自身に寄せられる視線と訪れた静寂は一瞬にして嘲笑の嵐へと変わる。
「こらデク!」
「わっ!」
目前に生まれた爆破を咄嗟に椅子の背もたれを掴み体を縦に回転して避け、後ろへと着地する。
「没個性どころか無個性のてめぇが何で俺と同じ土俵に立てるんだ!?」
その身のこなしを見て更に苛立ったように出久を見る勝己。
「…別に良いじゃないか、かっちゃん。小さい頃からの夢なんだそれに…やってみないとわかんないだろ?」
「なぁにがやってみないとだ!記念受験か!てめぇが何をやれるんだ!?」
先程より更に勢いが増した敵顔である。ヒーローになったら確実に見た目ヴィランっぽいヒーローランキングの圏内に入るだろうなと思いながらその場は無言で受け流した。
放課後
将来のためのヒーロー分析のノートを手に取りそそくさと帰ろうとするとそのノートを上から掴まれた。
「…何すんだよかっちゃん」
「話まだ済んでねーぞデク」
周りを見ると取り巻きも一緒にいる。
勝己がノートを取ろうとするが中々ノートは出久の手から離れずに逆に出久が引っ張ってノートを取り返した。
それをみた勝己が信じられないような物を見たような目で出久を見る。
「…は?おいデク、おまえ何をした?」
勝己は掌からニトロを出して爆破するという個性の関係上その腕には爆破に耐えうる強靭な筋肉が備わっている。その勝己が掴んだ物を取り返したという事はそれ即ち、爆豪勝己に無個性のデクが近しい力を持っているという事になる。
「何もしてないよ、それより話って?」
ノートのことがあったからか更に苛立ちながらも勝己が喋った事は要するに平凡な市立中学校から唯一の雄英合格者という箔をつけたいということだった。最後まで聞いてみみっちいと思った自分は間違ってないと思う出久。
「つーわけで一応さ、雄英うけるなデク」
出久の肩に手をポンと置きながら最後にそう締めくくる勝己。幾分か喋っているうちに余裕が出てきた様で先ほどの様にあからさまに苛ついているといった様子ではなくなってきた。
「いや、受けるけど?」
「あぁ!?」
が、この言葉により先程の様に苛つき始める、というか最早視線だけで人を殺せそうな勢いだ。
だがその視線を真っ向から見た上で出久は言葉を続ける。
「それにさ、さっきも言ったけど小さい頃からの夢なんだ」
「おいおい緑谷、夢じゃなくていい加減現実を見ろよ」
爆豪の取り巻きの一人が笑いながらそんなことを言うが出久は見もしないし気にも留めない、今彼が話してるのは爆豪勝己なのだから。
「——君に止められる程軽い夢じゃないんだ」
その言葉を聞いた勝己は今まで以上に怒気を放ちながら教室を出て行った。それを取り巻き達が慌てて追いかけて行くのを見てから出久はノートを鞄に入れて帰る支度をした。
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ブツブツと独り言をしながらトンネルを歩く出久。
「今日は重りをつけて鍛えようかな、あと実戦をイメトレして……」
本来の時間軸であればただのヒーローオタクの糞ナードに特化していた側面がこの世界では修行オタク、或いは修行バカの方向にも振り分けられていた。
もちろん従来の通りヒーローオタクの気質も残っている。
「腕立て伏せを1万回と「Mサイズの……隠れミノ」……!」
背後に感じた嫌な気配に咄嗟に横へとステップを踏み、勢いそのままに上に行くために壁を蹴り流れるように天井を蹴ってヴィランの後ろへと着地する。
「身体強化か、良い個性だ……その体俺にくれよ」
日常の中に突如現れた悪意に足が竦み手が震える…などという事はなく出久はその頭と体をフル稼働させていた。
「すばしっこいやつだな、ますます気に入ったぞ」
「流動体……打撃は無効と見て良い、基本的には点の技は有効じゃないだろうし……拳圧で吹き飛ばすのがッ!」
ヘドロのようなヴィランの攻撃を回避しながら回していた頭が対応策を思いついたと同時に何か巨大な力が凄まじいスピードで迫ってきてるのを感じた。
「(……下、下から何か来る!)」
修行により得た研ぎ澄まされた第六感、或いは直感力とも言えるものによりそれを出久が察知した時にはもう既にその巨大な力の持ち主はヘドロヴィランと出久の丁度真ん中にあったマンホールの蓋を殴り上げ出久の目の前に現れた。
「もう大丈夫だ少年!」
「(オッ、オール……⁉︎)」
出久がその名を浮かべるよりも速く拳を引きマンホールから出て来た男はヘドロヴィランへと振り抜いていた。
「TEXAS……SMASH‼︎」
ヘドロヴィランに向かって放たれたその一撃は、風圧でヘドロヴィランの体を吹き飛ばしその威力を衰えさせぬままトンネルの外へと突き抜けていった。
「は、はは」
あまりの威力に思わず笑ってしまう。これがNo. 1、平和の象徴と言われるオールマイトの力。
「さて、少年。怪我は無いかい?」
「だっ、大丈夫です!」
あたふたと、リュックに入ったノートにサインを書いてもらおうと取り出す出久。
「いやぁ、すまないねオフだったのと慣れない土地で少し浮かれてしまったかな! しかし、君のおかげで無事詰められた!」
会話をしながらもペットボトルにヴィランを詰め終わったオールマイト。ついでにいつの間にサインを書いたのか、ノートのページを開いた瞬間にはもう既にサインが書かれておりあまりの早技に出久はぎょっとした。
「じゃあ私はこれを警察に届けるので! 液晶越しにまた会おう!」
「えっ、もう……まだ」
「プロは常に敵か時間との戦いさ、それでは今後とも」
グッと跳ぶためにしゃがんだオールマイトの足にしがみつきオールマイトと共に空へと跳びたった。
「離しなさい、熱狂が過ぎるぞ⁉︎」
「す、すいません!でもどうしても直接聞きたいことがあって!」
「オーケーオーケー、わかったから目と口閉じな!」
一瞬で遠く離れた地面を下に見て、顔面に感じる風圧に堪えながらなんとか出久は言葉を放った。
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「個性がなくても貴方みたいなヒーローになれますか!」
出久が喋っている中でオールマイトの体からは煙が上がり萎んでいく。
「恐れ知らずの笑顔で助けてくれる最高のヒーローに僕も…ぉぉぉおおお⁉︎」
「……」
「し、萎んでる、え⁉︎ニセモノ…細!」
「私はオールマイトさ」
「ウソだー!」
吐血しながら痩躯の男性、オールマイトは言った。彼が言うにはプールで腹筋を力み続けてるのと同じ感覚らしい。
「いや、でも亀仙人的な……一応あり得るのか?」
「見られたついでだ少年」
「へ?」
そして語られたのは五年前負った傷のこと、後遺症で今のヒーローとしての活動時間は三時間と言うことだった。
「とてもじゃ無いが、個性なしで成り立つとは言えないね」
「……それでも僕はヒーローに、「少年、夢を見るのも良いが相応に現実も見なくてはな」……」
人を助けることに憧れるなら警察官になるという手もある。そう言いながらオールマイトは下へ続く階段を降りていった。
「……まだだ、まだ諦めるには早いぞ」
一人取り残された出久はそれでもまだヒーローになる事を諦めなかった。その時、出久の耳に爆発音が聞こえて来た。
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爆発音が聞こえて来た商店街へとやってきた。ヒーロー達の動きを見て学ぶ為の日課のようなものだった。
「(……あいつなんで!)」
その時出久の目に入ったのはヘドロヴィランとヘドロヴィランに捕まりながらも爆破で抵抗している幼馴染みの姿、そしてそれに爆破により近くへと近付けずにいるプロヒーロー達だった。
「(あいつ、オールマイトが捕まえた筈……落としたのか? 僕のせいで……)」
先程は自己防衛の為にヘドロヴィラン相手に立ち回ったが自分が襲われているわけでもないので何かが出来るはずはない。そしてオールマイトは……辺りを見回すと胸を押さえながら息苦しそうにしているガリガリの状態のオールマイトを見つけた。
「(僕のせいだ……プロヒーローは動けない、有利な個性を持ったヒーローが来るまで……ッ!)」
様々な思考が脳内を埋め尽くす中、捕らえられていた勝己の顔が目に入った瞬間、出久は駆け出していた。
「バカやろー止まれ!」
何故体が動いたのかは分からない、後ろからプロヒーロー達の声が聞こえるがそれを気にしている暇はない。対応策自体は先の戦いで出来ていた、実際に規格外(オールマイト)がそれをしている姿も見た。ならば後はそれを試すだけだ
「さっきのガキか……鬱陶しい!」
ヘドロヴィランへと駆けながら手を腰だめへと持っていく。
「(か……め……)」
「(デク⁉︎)」
掌を球体を作るような形して身体中からそこへと力を集めていく。その間にもヘドロヴィランの攻撃や爆破が迫ってくるが横へと避けながらさらに力を溜めていく。
「(は……め……)」
その力をより近くで解放する為にヘドロヴィランの懐へと一瞬にして潜り込んだ。その速度は一時的にヘドロヴィランの視界から出久を消した、勿論懐に居る以上すぐにヴィランも気付いたが確かに出来た一瞬の隙はその攻撃を放つには十分だった。
「このクソガキ「波ぁぁあ!」がっ!」
凄まじい速度を持って突き出された両手からは青白いエネルギー波が出てくる……筈がない。無個性である以上そういった明らかな異能が出久に使えるわけがない。
しかしその突き出された両手から生み出された突風、所謂拳圧によりほんの一部分、勝己の周囲のヘドロは吹き飛んでいた。とはいえまだ体の半分近くはヘドロに囚われている。
「かっちゃん、手を!」
「なんでてめぇが…!」
出久は右腕を勝己に向かって伸ばした。かめはめ波(物理)の反動で殆ど腕に力が入らなくなった為勝己に掴んで貰わないと此処から助け出すことが出来ない。勝己も自身の周りのヘドロは吹き飛んだがそれは一時的なものですぐに元通りの状態になる事はなんとなく理解していた。それでもそう言わずにはいられなかった。
「君がっ! 助けを求める顔してた!」
既に勝己の周りのヘドロが戻り始めている。これ以上は話している時間も無いことを悟った出久が急かすと悪態を吐きながらも勝己はヘドロから解放され自由になった右手で出久の腕を掴んだ。
「クソがぁっ!」
「ふざけるな……もう少しなんだから邪魔をするなぁ!」
「無駄死にだ! 自殺志願かよ!」
あと少しで勝己の体が自由になるといったところでヴィランが渾身の一撃を放ってきた。それを見たプロヒーローのうちの誰かが叫ぶと同時にようやく周りのプロヒーロー達が動き出すが当然間に合うわけがなく思わず目を瞑った出久にヘドロヴィランの攻撃は直撃したかにみえた。
「「……⁉︎」」
「君を諭しておいて……己が実践しないなんて……‼︎」
いつまで経っても襲い来るはずの攻撃が来ないことを疑問に思い出久が目を開けるとそこには見上げる程の巨躯を持ったヒーロー、オールマイトが攻撃を受け止めている姿があった。しかし、その体は至るところから煙が出ており吐血すらしているという酷い状態だ。
それでも、平和の象徴として、一人のヒーローとしての意志は微塵も衰えず寧ろ強くなっていった。二人の腕をオールマイトは掴んだ。
「プロはいつだって命懸け! DETROIT SMASH!」
莫大な力をひめたその拳はヘドロヴィランを吹き飛ばし、上昇気流を作り出して雨を降らせる程の威力を見せた。
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「デク!」
プロヒーロー達の説教から解放されて家へ帰る途中で出久は呼び止められた。
「てめぇに助けられてなんざいねぇ、俺一人でもやれたんだ無個性のてめぇが見下すんじゃねぇよ、恩売ろうってのか?俺に……! クソナードが!」
そのまま踵を返して後ろへと帰っていったヘドロヴィランに長時間拘束されていたのに元気な勝己を見た出久はただただタフネスの凄まじさに感心するばかりであった。
出久の戦闘力は20〜30くらい?
ちなみにかめはめ波(物理)は本当は相手に直接当てる技なので拳圧を飛ばす技ではない。
この後オールマイトと会ってOFA受け継いで〜みたいな流れになるのかな?と思いつつ此処で切りました。中途半端で申し訳ない!いつか続きを書くかも