正義と、大義と。   作:新田良

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第十話 詐欺

 

 

 IS学園一年職員室。

 

 相変わらずやる気のかけらも起きない書類仕事を終えて、IS学園教師―――エドワース・フランシィはうわぁあと長い暗鬱な溜め息を漏らした。腕を枕にして、机の下では足は伸ばして、ぐでーっとだらしなく机に突っ伏し沈んでいた。

 手からボールペンがエドワース―――愛称エドの心の内を表すようにバタリと倒れる。

 

 華やかな外聞に反して、IS学園の体制とはひどく殺伐としたものだ。IS学園の教師は各国からある程度平等に配属される。それは多国籍で生徒に頼れる教師が一人でもいればいい、という考えもある、が。その実態は互いの監視である。IS学園にはテストのためにさまざまな最新技術の盛り込まれた装備が来る。また、入学する生徒たちも国を背負うエリートたちでもある。だから各国がそれらを守るため、各国が勝手なことをしないために暗黙の了解に近い形でそれぞれ配属されてくるのだ。

 

 かくいうエドも、カナダからそう云った名目でIS学園に派遣されてきたのだ。

 なのだが、活発快活な彼女にはそう云った“面倒くさい”のは性に合わない。たまたま教員免許を持っていたためIS学園の教員をやらないかと提案された時にはわくわくと心を躍らせていたが、IS学園の実態を聞かなくともその身で悟ってしまった時には辞職届を書いたぐらいである。さすがに思いとどまっても、その辞職届は書いて数週間は捨てられなかった。まあ、素敵な友人と再会できたし、かわいい同僚にも恵まれたので結果オーライと云うものだ。

 

 とまあ、それでも学生時代は宿題もしょっちゅうサボっていたエドには書類仕事などなんの面白味もない。一時間も文字しかない紙を眺めていると心身ともに疲れてくる。

 ので、『癒し』が必要なのだ。

 

 「まーやぁあああああーーーっ!!」

 

 「え、――― わひゃあっ!?」

 

 身体を横に倒し、となりのきゅーとな同僚にしなだれかかる。ただ寄りかかってもイスからずり落ちるので、そのビッグなきょにゅーを鷲掴みにすると、ベリーが三回ぐらいついてしまうきゅーとな同僚―――山田真耶は少女のような可愛らしい悲鳴を上げる。この悲鳴が甘美に聞こえるのはエドだけだろうか?

 

 エドの両手が地球外生命体のようにうねうねといやらしく動く。それに合わせて真耶の豊満な双丘が卑猥に形を変えていき、さらに色艶のあるか細い悶え声が震える唇から漏れてくる。

 

 素敵な悲鳴を上げてくれたのでエドの幸福度はインフレーション。明るい金髪は今にも輝きを放ちそうだ。それを職員室のほかの教員がまぶしそうに見ている。

 

 「ああ神様、どーしてまーやのお胸はこんなにおっきいの?」

 

 「ああ神様っ、どうして私の先輩はセクハラなんですかっ!?」

 

 「えー、千冬ったら私のまやまやにそんなえっちぃコトやってたの?」

 

 「エドさんのコトですっ! っていうか、私はエドさんのものじゃありません」

 

 「うんうんわかってるよ、まーや。まーやのおっぱいはみんなの共有財産だもんね」

 

 「人の胸を勝手に共有しないでくださいっ!」

 

 顔にトマトケチャップでもぶちまけたかのように真っ赤にして、真耶はセクハラ大魔王を胸から引っぺがす。胸を揉むと大きくなると云うが、もしそうならきっとエドのせいだ。そして、去年からさらに胸が大きくなっているので笑い飛ばせない。

 

 散々に弄ばれたあと、くすんと涙を呑んで、胸を隠して真耶は溜め息をついた。

 

 「どーしたの、まーや。溜め息なんて」

 

 「フランシィ先輩のせいですよ、もうっ」

 

 「ノンノン。その可愛らしい声でエドって呼んでよ。さっきみたいに」

 

 言われて真耶は怯んだ。実力主義であるが、わりと年功序列の根強い日本に生まれ育った真耶には抵抗があった。

 

 真耶が悩む姿を見てエドはふふふっと楽しそうに笑う。優しく言った。

 

 「まーやは真面目さんだなぁ。私のお里じゃ一年二年の先輩なんて友達みたいなもんだよ」

 

 カナダはアメリカの隣にあり、国民の気色もわりとアメリカ人に似ている。もとを辿ればヨーロッパから新大陸に移民した同じ民族だ。訛りや単語の綴りが違ったりとするが、十数年前までは運転免許証だけで国境を超えることができた。

 

 エドの言葉に、真耶は、そうですけど…、と言うが長年の刷り込みは抜けない。

 難儀だなー、と笑いながら気力を充填してエドはノルマが見えてきた書類仕事に取り掛かる。

 

 エドにとって真耶は気安い同僚だ。殺伐とした環境のIS学園にはもったいないぐらいの純真な子である。同じく、同僚である織斑千冬もお互いに因縁のある相手であるが軽口を叩き合えるぐらいの仲だ。エドはこんな同僚がいるならまあいいかと納得して辞職届を破り捨てたのだ。

 

 いつもの賑やかな騒動が過ぎ去り、その発端のエドもボールペンを持ってさあやるぞと書類と睨めっこをはじめたところで、職員室のドアが四回ノックされる。

 

 「失礼します」

 

 そう言って入ってきた人物を見て、職員室の空気が明らかに変質する。

 エドは不快に眉を顰めた。この空気だ。この疑心暗鬼に満ちた薄っぺらい空間が嫌いだ。

 

 その原因を知るために、そこで初めてエドは職員室の入り口に視線を向けたのだが、先ほどの不快な気分が吹き飛ぶほどに驚いた。同じく真耶も目を丸くしている。

 

 職員室の出入り口に立っていたのは、IS学園をこの数日間騒がせた件の転入生だった。

 真耶がイスから立ち上がって駆け寄った。

 

 「わあ。どうかしたんですか、櫻井くん」

 

 「山田教諭、フランシィ教諭はいますか」

 

 櫻井は職員室全体から向けられた不審の視線をものともせず入ってきた。年不相応に落ち着いた様子だ。よほど肝っ玉が太いのね、とエドは感嘆の視線で眺めた。

 

 エドも千冬から事前に櫻井の転入を通告された組である。それは千冬に個人的な信頼を寄せられていると云う嬉しい事であるが、そのエドにも櫻井の詳細な情報が回ってきていないため櫻井に関する感想は情報を回されなかった組と同程度だ。

 

 一方で、対応に来てくれた真耶を見て櫻井が首を傾げる。

 

 「山田教諭、衣服が乱れてますが直したほうがいいですよ?」

 

 「はわっ!?」

 

 指摘されて涙目になった真耶がくしゃくしゃになったワンピースの胸元を抱いた。胸の部分だけがよれよれになっていたので恥ずかしさは尚更だ。

 

 顔を真っ赤にして真耶がしどろもどろになるので、エドが後ろからフォローを入れた。

 

 「まーやのおっぱいはみんなの共同財産なの」

 

 「誤解を招くようなコトを言わないでくださいっ!」

 

 「なるほど……」

 

 「頷かれたっ!?」

 

 とはいえ、櫻井が介入できるような話題ではない。羞恥に泣き出してしまった真耶の介抱をする手立てはないので無視を決め込むが、それがさらに真耶を傷つけたとは気が付かない。

 

 真耶が小さな拳を振り上げてエドをぽかぽかと叩く。痛くもかゆくもないエドが櫻井の手にしたクリアファイルに目を留める。クリアファイルであるがぼかしが入っているので内容が読み取れない。ファイル自体の厚さはそれほど多くは見えない。なかにはメモリスティックも入っていた。

 

 「で、君はどったの櫻井くん。私に用があるようだけど?」

 

 「フランシィ教諭は技術提供支援金の受理を担当されてますよね?」

 

 「う、うん。……ううんっ!?」

 

 「どっちなんですか……」

 

 エドがおかしな声を上げるので櫻井が呆れたように訊き返す。

 今度はエドがしどろもどろになって言いごもる。なぜならば今櫻井が提示した制度はIS学園で最も古い制度であるが一度も行使された事のない。エドもIS学園に赴任して三年であるが、存在さえも忘れていた。

 技術提供支援金とはIS学園の奨学金制度のようなものだ。ただし、それは生徒ではなく"ISに"適応される。IS学園に通う生徒は本国から多額の資金を援助されているので奨学金など当然必要などないのだが、専用機持ちのISはそうもいかない。ISの運営にはお金がかかるのだ。

 

 IS学園では頻繁に模擬戦が行われている。これは各国にとっては専用機の自己進化機能が高まるので大変喜ばしいコトである。が、財布にはとっても優しくない。ちなみに、程度に差はあれど、一般的に軍事用の航空機のアフターバーナーは一秒で一万円である。精密機械の殴り合いをするので、経理にとっては毎度数十万、もしくは数百万のお金が飛んでいくため悲鳴が上がっているのだ。

 

 アメリカほどの大国ならばまだいいが、ISの開発がギリギリの小国中堅国ではそんな資金の余裕もISのコアの余裕もとてもだがない。

 

 そこで、そんな救済処置として技術提供支援金がある。この制度は、その演習中に得られた稼働データをIS学園側に提供すれば、その演習中で使われた経費をIS学園側が負担すると云うのもだ。

 

 しかし、世界の最先端であるアメリカでさえも五里霧中暗澹冥濛なIS産業では些細なデータも重大な糸口になるかもしれない。よって各国はその制度は魅力的であるが出し渋るのだ。小国の場合は飛びつきたいのだが、基礎技術を貰うためにライセンス生産している国ばかりなのでその原産国が制度活用を認めないので行使できない。また、制度を行使しようにも、本国でそれが稼働データ提供と支援金とを秤にかけなければならないので時間がかかる。だが、ISを壊れた状態で放置すると自己進化機能に重大な変質が起きてしまう。

 

 などと、さまざまな理由が複雑に重なり絡まり、この制度はついに開校八年経った今でも一度も申請されたことがなかった。申請用紙さえも幻と云われる。

 技術提供支援金の受理を担当しているはずだったエドも提出されたファイルの前で固まってしまった。説明は受けたが、この後なにをするのかすっかり忘れてしまっていた。

 

 職員室の空気も停滞している。噂に聞いていたがまさか本当に存在したとは。

 困ったのはエドだけではなく、櫻井も困った。

 

 「……あの、フランシィ教諭」

 

 「えっ、ああいや、それ言い出したの君が初めてだったもんだから、ね……?」

 

 なんとかなけなしの教師としての威厳を保とうとするが、保てているか怪しいところ。

 

 「提出届の受理欄にサインをして織斑教諭のところに届けるまでがフランシィ教諭の仕事です……」

 

 エドの慌てふためきようで悟った櫻井が説明する。大丈夫かなこの学園、と何度目になるのかわからない心配をした。

 

 ごまかしたいのか乾いた笑い声をあげてエドがファイルを受け取った。ファイルを手渡す櫻井の白い視線が何よりも痛い。

 申請用紙を見れば丁寧な細い字で必要事項がすべて書かれている。概要欄には『本演習で使用された補填』と書かれていた。専用メモリスティックのデータ容量を示すランプもグリーンだ。

 

 エドはおそらく櫻井は一夏の代わりに来たのだろうと判断した。櫻井はISを使用できないし、櫻井が一夏の面倒を見ているのは周知の事実だからだ。

 

 「うーん、こういうのは織斑くん本人が持ってきて欲しいんだけど」

 

 「織斑一夏はこの手の書類の書き方なんて知りませんよ」

 

 苦笑して櫻井が言う。それもそうだ、とエドが納得した。 

 うむ、と記述欄も文句なしに自然と頷きかけて、最後に請求金額に見て思わず吹き出した。

 

 「ぶふぅっ!? は、八万ドルっ!? ちょっとぼったくりすぎじゃないっ?」

 

 一ドル百円換算すれば八百万である。たしかに、脚部の修理にしては破格の値段だ。むしろレートが破たんしそうだ。

 エドのIS学園教員としての年収を超えた金額に意気込んで訊き返す。

 

 それに対して櫻井の返答は平然としていた。

 

 「白式は完全な単一仕様機なので部品の発注がオーダーメイドなんですよ。予備部品にそれほど余裕もないしそれならこの制度を使って金をふんだんに引き出したほうがいい。それにあんなくだらない模擬戦で払うお金はびた一文もありませんよ」

 

 経済的です、と言う守銭奴。『ふんだんに』と云うコトはぼったくりだと自白しているではないか。

 エドもふざけているように見えるがIS学園の一教員である。不正を見逃すわけにはいかない。

 

 「あのね、櫻井くん。わかっているとは思うけどこの制度はそれに見合った価値がないといけない―――」

 

 「言ったでしょ、白式は完全な単一仕様機。その稼働データは千金に値しますが。記述には『データの価値に見合った』と書かれています」

 

 うぅっ、とエドが怯む。たしかにそうだ。むしろ世界唯一のIS男子操縦者の稼働データとなれば各国がまさに千金を積んでも欲しがる。

 

 価値とはその希少性である。その価値の違いが世界の貿易を成り立たせている。そのデータを知っている櫻井にしては織斑一夏の白式の些細なデータなど保存する価値もないがそれを持っていない、さらにはその内容をいまだ見たコトもない側にしてはその価値は跳ね上がる。

 

 観念したようにエドが受理欄にサインをしたところを見て櫻井は細く微笑む。

 

 「はい、終わったよ。悪いけどそれ織斑先生のところに出してきてくれる? って、なんでそんな詐欺師みたいな悪い笑みを浮かべてんの?」

 

 「いえいえ、まさかこんなに上手くいくとは」

 

 「……はい?」

 

 意味が分からず、エドと真耶が首をそろって傾げる。

 申請用紙を受け取った櫻井がエドの持つメモリスティックを指す。

 

 「その中には白式のデータは入ってません、ほぼ」

 

 「……どゆこと?」

 

 「その中に入っているのは打鉄の稼働データです、ほぼ」

 

 エドの思考がしばらく停止する。

 

 「―――いやいやいやいやいやまてまてまてまてっ!!

  なにそれ、どういうコト、ちょっと待てってのっ?」

 

 さっさと職員室から退出しようとする櫻井を、エドがその肩に飛びついて引き留める。強引な止め方に櫻井が煩わしそうに振り返る。

 

 「なんですか、その年をおんぶする甲斐性はありませんよ」

 

 「高給取りの自衛官が何言ってんの。ていうか、ナニ。君いま自分がナニしたかわかってんの?」

 

 「不正はしてませんよ」

 

 「いやだって君―――」

 

 「あの模擬戦の白式のデータだけじゃ容量がとても足りなかったので代わりに打鉄のデータを入れておきました」

 

 もしも本当にデータを入れることになれば、その稼働データは十秒である。模擬戦が始まって一夏がライダーキックをぶちかまし、その衝撃で鈴が気絶してしまうと云う冗談のようなデータだ。とてもだがメモリスティックのデータ容量をグリーンにできない。

 そもそも、六百万の価値など白式の希少性を差し引いてもないし、誰も欲しがるはずがない。ついでに言うと脚部部品交換に八百万もかからない。

 

 もちろん、エドはこんな理由で納得できるはずもない。

 

 「だから―――」

 

 「僕はきちんと『本演習で使用された補填』と書きましたが」

 

 「……つまり、何が言いたいの……?」

 

 櫻井から揺るがない自信のようなものを感じてエドは混乱した頭を冷ました。櫻井の表情はあいかわらず変わらない。

 

 「一夏たちの模擬戦のとなりで行われていた模擬戦で使われた打鉄のデータです。あれは日本が新しく生産したもので互換データを取るために今日だけIS学園に送っていたものです」

 

 これまでの櫻井の供述を鑑みて、一つの結論に至る。

 

 「つまり、これは白式の稼働データと詐称して、何の価値もない打鉄の稼働データを渡して八百万をふんだくろうと云う魂胆?」

 

 「それは誤解です。というか、正解をわかっているのに訊かないでください」

 

 「………この申請用紙には私と千冬の二人のサインが必要だけど。千冬じゃなくてまず私に持ってきた理由は?」

 

 「織斑教諭は守銭奴だと直感してお金に関して手抜きの一切もないと思うので」

 

 「それはつまり私ならざるだと思ったのか

  …………この八百万の法外な金額は?」

 

 「とりあえず在り得ない金額をふっかけて冷静な判断能力を奪いました」

 

 「それはつまり八百万で私の眼がくらむと思ったのか。不覚にもくらんだけれどもっ!

  ……………この申請書と全く関係ない白式の話をしたのは?」

 

 「とりあえずでっちあげた値段の信ぴょう性を高めるためにさらにでっちあげました」

 

 「それはつまり確信犯ということね。

  ………………君はこの制度にけっこう詳しいようだけどなんで?」

 

 「もちろん調べました」

 

 「それはつまりそれでこの制度が執行以来一度も行使されていないようなので私の知識も浅いと判断した、と」

 

 「ちょっと惜しいですね。執行以来一度も行使されていないのでこういった裏道がまだ露見していないと思ったんですよ。まあ、予想どうりこの制度はフランシィ教諭に一任されているのでサインした瞬間に申請が通るコトを憶えていないようで」

 

 サインする側のエドの判断で通る制度だ。だからエドの冷静さをなくし、判断を狂わせ、申請を通した。

 神妙に頷いて、エドは言いたいコトを統括した。

 

 「この詐欺師っ!!」

 

 「失礼ですね。ちゃんと規則に則った合法です」

 

 言われて櫻井はいたく傷ついたと云ったふうに顔を顰める。しかし、エドにも真耶にもその表情が政治家なんかよりも白々しく映る。そういえば、櫻井はたしかにエドが織斑一夏本人に持ってきてほしいと言ったが、櫻井は一夏が書類の書き方を知らないとは言ったが代筆したとは言っていない。そしてこの申請が一度も白式のものだとも言っていなかった。一応、白式のデータが僅かに入っているので嘘でもない。

 うっかりサインをしてしまったエドは悔しくなってがしがしとショートカットの金髪をかきあげた。

 

 「まったくなんて子供なの。国際機関相手に詐欺をするなんて」

 

 「だから詐欺じゃありませんって」

 

 「屁理屈はいいの。訊かれてないからって黙ってたらそれは確信犯だっての」

 

 「何言ってんですか。僕はちゃんと言いましたよ、『あんなくだらない模擬戦で払うお金はびた一文もありませんよ』って」

 

 「…………、」

 

 どうやらこの男は筋金入りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全敗北に打ちのめされたエドを置いて、申請用紙を持って櫻井は二つ目のサインを貰いに織斑千冬の執務室を目指す。千冬が職員室に居ては成功しない作戦であるのでタイミングが大事だが、この時間に千冬が職員室に居ないのは織り込み済みだった。

 

 サインがあるとはいえ犯罪一歩手前の荒業であるが、白式が金食い虫であるのは本当なのだ。これは白式を管理している櫻井にとっても由々しきことなのである。そも、一夏がライダーキックなんぞしてくれたものだから白式の脚部補助スラスターが損傷。軽い修理を行わなければならなくなったのだ。このぶんならこの先もふざけた理由で壊すに決まっている。

 

 「まあ、予算は確保できたわけだし」

 

 足取りも軽く、あっという間に千冬の執務室に辿り着く。

 

 扉を四回ノック。

 

 ここで、櫻井が顔を顰めた。ノックした途端に部屋の中から物音がすれど返事がない。扉に手をかければ簡単に開けた。

 

 「……、」

 

 まさか泥棒だとは思わないがいったいなんなんだ。

 わずかに警戒の色を浮かべて、櫻井は扉を勢いよく開いた。

 

 「あっ、まて―――」

 

 そんな声が聞こえた気もしたが、開いた扉の音で掻き消される。

 

 「…………、」

 

 「あ、いや、そのだな」

 

 部屋の中に居たのは慌てふためく織斑千冬。これはいい。なぜならここは千冬の執務室であるのだから。

 

 千冬の手にはカップラーメンが。まあこれも許せなくもない。今は昼食時で、食堂に行けばいいがたまにはカップラーメンの味も恋しくなるだろう。かくいう櫻井もカップラーメンは好きだ。

 

 ただ、問題なのが―――。

 

 「…………

  …………

  …………

  …………

  …………、」

 

 「こ、これにはわけが―――」

 

 ゆらりと踏み出した櫻井の足がビールの空き缶を蹴り飛ばした。乾いた音に千冬が怯えて身体を縮めた。その拍子に机の上からかぴかぴのマグカップが落下して割れる。

 

 ―――三日前に一日かけて磨き上げた織斑千冬の執務室が以前以上に汚くなっていたことだろうか。

 

 いったいどうすれば三日でここまで部屋が汚くなるのか。もはや才能だと言うほかない。

 日常的な汚さが許せない、三日前に掃除したばかりなのに前以上に汚い。この二つが相乗効果になって櫻井が爆発した。

 

 「織斑千冬ーーーッ!!」

 

 「ご、ごめんなさいっ!?」

 

 三日前に掃除魔王としてその恐ろしさを刻み込まれた千冬は涙目になって、頭を抱え小さくうずくまった。 

 

 その翌日、櫻井が手籠めにした千冬に掃除をさせていると云う噂が流れた。

 

 

 

 

 

 

 




 また原作にありもしないものをでっちあげてしまった……
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