正義と、大義と。   作:新田良

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第十七話 IS学園の日常

 

 

 

 “うーん。困ったことになったぞ”

 

 一夏はまるで他人事のように首をひねっていた。

 

 愛機――――――白式を展開した一夏の目の前には、同じく彼女の愛機であるフランス第二世代機――――――ラファール・リヴァイヴを展開したシャルロットがいる。彼女が、一夏の対戦相手となったわけなのだ。これは由々しき事態だ。

 

 「よろしくね、一夏」

 

 金髪の少女はにこやかに笑って嬉しそうに手を振るが、一夏の心は晴れない。トーナメントBは専用機持ちとしか当たらないとわかっていた事とはいえまさか最初にシャルロットと当たってしまうとは……。

 

 一夏は先のタッグマッチトーナメント戦でシャルロットとペアになったわけであり、彼女の実力は嫌というほど思い知らされている。また、自主練でも講師としてお世話になっているのだが、情けないことに模擬戦で勝ちを拾ったコトがない。ちなみにシャルロットはどちらかと言うと、体で覚えろタイプであるのでよく模擬戦をしてくる。

 

 リヴァイヴはまさに後付武装(イコライザ)による多様化を図った第二世代機を象徴する機体だ。大容量の量子変換領域には多種多様な銃器がインストールされている。スタンダートなアサルトライフルから戦場ではあまり使われないショットガン、果てには重機と呼ぶべきパイルバンカーまで入っている。

 

 対して、一夏の機体は拳銃すら装備されていないブレードオンリー、鎧侍にジェットエンジンを捻じ込んだような特攻機。櫻井曰く、空飛ぶ白檜の棺桶。……失礼にもほどがある。

 さらには機体の相性が悪いのもさることながら、一夏とシャルロットとは技術の差と云う大きなる壁が立ちふさがっていたのだ。

 

 「……そう言っても誰だったらいいと云うわけでもないんだが」

 

 よくよく思い返せば、専用機持ちのなかで最も未熟なのは自分なのだ。

 一夏は気持ちを切り替えて顔を引き締めた。こんな理由で嘆いていても仕方がない。それにこれは好機と見るべきだろう。せっかく櫻井や箒たちが自分を鍛えてくれたのだから、と一夏は己を鼓舞する。

 

 試合の開始まで一分を切った。会場の高鳴りは頂点に達している。

 

 一夏は乾いた舌を舐めた。覚悟はもう決めた。引く気はないし、引くだけの勇気はない。幸か不幸か彼女のコトはよく見知っている。あとはそれを幸か不幸かどちらに秤を傾けられるかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんでキミたちがいるわけ?」

 

 カフェオレを淹れ直して櫻井は胡乱な目を、管制室に入ってきた箒とエレナに向けた。櫻井のいる管制室は関係者以外は立ち入り禁止のはずだが。

 言外に出ていけと文句を含ませたが、そんなものが通じる彼女ではない。

 

 「センナくんだって入ってるじゃないっスか」

 

 「僕はれっきとした関係者だ。あとセンナくん言うな」

 

 「まーまー、いいじゃないっスか」

 

 「私が呼んだんだ」

 

 コーヒーを飲みながら千冬が言うが、櫻井は嘘だと直感した。その実、嘘である。千冬は厳しい教師であるが割と生徒に甘い教師だ。確かに管制室は立ち入り禁止であるが、それはどこの管制室でもある一般的な規則であり、この管制室に一人二人の生徒が入ってきたところで問題はない。

 

 櫻井は今度は非難の視線を向けるが千冬は知らぬ顔をする。櫻井は内心で文句たらたらであっても、さして理由がなければ黙る。合理主義者の痛いところだ。

 櫻井はますます不満顔になる。合理主義者で冷淡なようで意外と百面相なところが彼の好ましい一面である。

 

 「いやー外は暑いっスねー。エアコンもないなんて正気の沙汰じゃないっスよ」

 

 「ここに来たのは冷房目的か。それに非限定空間にエアコンなんてあるわけないだろ」

 

 「でも喉が渇くじゃないっスか」

 

 「インスタントで良いならアメリカンがあるけど」

 

 櫻井がぞんざいな仕草で机の上のインスタントコーヒーの瓶を指した。

 

 「……むー、IS学園はコーラじゃなくてコーヒーばかりが置いてあるのがいけないっス」

 

 「ガロン単位でコーラを摂取する国なんてあっちぐらいだ」

 

 エレナは口をへの字に曲げてイジけたが、櫻井は逆に呆れ果てた。

 アメリカ人のコーラ好きは異常だ。とにかくメニューにコーラがあり、街中ではどいつもこいつも飲んでいる。あの国はとにかくなんでも大きいが。デカイが正義と言わんばかりである。牛乳パックも2Lタイプが少量な国だ。アメリカはガロンを標準単位にしているが、それが理由なのかもしれない。ちなみに、一ガロンは約3.8Lだ。

 

 「じゃあ、このカフェオレ貰うっス」

 

 「―――――― あ」

 

 エレナが櫻井のティーカップを横取りしてそのまま飲み干してしまった。

 隣で箒がぎょっとする。あまりにトン拍子もない行動に櫻井は思考停止して呆気にとられている。口元をわななかせているのは怒りかそれとも驚きか。

 

 「……エレナ、躊躇ないな」

 

 その迷いのない行動に箒はほとほと感心してしまった。もし自分ならできるか、と想像したところで照れて顔を背けてしまう。頬が熱いのは気のせいではない。すぐ近くでは真耶も、おー、と小さく声を上げている。

 カフェオレを飲み干してエレナが甘いと感想をこぼす。ぺろりと舌を舐める仕草が年不相応に艶かしい。

 

 「ところで、センナくんはこの試合、どっちが勝つと思うっスか?」

 

 「――― え。……そうだな、シャルロット・デュノアかな。あとセンナくん言うな」

 

 櫻井が口出しする前に、エレナが先手を打つ。問われて櫻井が少し考え答えた。櫻井は物事の切り替えが早い。

 

 聞いていた千冬が片眉を上げ肩をすくめる。

 

 「なんだ手厳しい。お前、アイツを信用してないのか」

 

 「御生憎、織斑教諭と違って僕は織斑一夏と身内ではないのでそういった補正はかけられません。機体の相性からいってまず不利ですし、過去の対戦成績を見る限り勝ちは薄い。ISの操縦技術でシャルロット・デュノアに目の見張るほどの何かはありませんが全体的に高水準だ。まあ、いろいろ加味して勝率は四割五分といったところでしょう」

 

 ほう、と千冬が小さく感嘆を漏らす。散々シャルロットを持ち上げた割に、意外と一夏の勝率が高いことに驚く。かく言う千冬もシャルロット・デュノアのほうに分があると考えていた。

 状況を客観的に見れば間違いなく一夏が圧倒的に不利であるが、櫻井がそう思ったのは何故なのか。千冬は疑問を口にした。

 

 「どうしてそう思う? アイツには経験が絶対的に足りない」

 

 「たしかに。経験は足りませんが、織斑一夏は戦いに関してなかなかに良いものを持っている」

 

 ふむ、と千冬は頷いた。一般的に何事も経験が大事と云うが櫻井の答えはなんなのか、千冬は知りたくなった。

 

 「では櫻井が一番大事だと思うものはなんだ?」

 

 「インスピレーションと相手の間合いに踏み込む覚悟ですね」

 

 全面的な同意に千冬は頷いた。

 

 背後でドアが開く音がした。全員が後ろを振り返れば生徒会長が管制室に入ってきたところだった。手には分厚いファイルを抱えるように持っている。

 楯無は管制室を見渡して顔をほころばせた。

 

 「おや、かわいい新顔さんがいるわ。一年一組の箒ちゃんにエレナちゃんね」

 

 箒とエレナは生徒会長の顔は知っていたが、まさか向こうがこちらを知っているとは思わなかった。

 

 目を丸くする二人に、楯無はファイルをどんと机に置いて笑いかけた。

 

 「生徒会長たるもの生徒のコトは知っているものよ」

 

 「生徒についての詳細をつづったマル秘ファイルまで作っているしな」

 

 「あれ? なんで櫻井くんが知ってるの?」

 

 「……ホントに作ってたか」

 

 流石は日本の裏で暗躍し続けた更識家、と櫻井は妙な戦慄に顔を引き攣らせた。IS学園に入学してくる生徒はそれなりの情報規制が敷かれるものだが目の前の少女には障子紙程度のものらしい。明治維新後、情報がただ漏れ状態の日本を文字通り支えてきたのは伊達ではない。

 その普段の櫻井にしてはありえないほど親しいやり取りを見ていたエレナが手を上げる。

 

 「会長さんとセンナくんは付き合いが長いんスか? というかどういう関係?」

 

 その問いに楯無と櫻井は顔を見合わせる。

 

 そして、同時に顔を元に戻して言った。

 

 「友達以上恋人以下?」 「知り合い以上友達以下」

 

 見事にかみ合わなかった認識の差に、楯無が憤慨した。

 

 「あーっ、櫻井くんヒドい! 二人で熱い夜を過ごしたじゃない! 絶対友達以上の関係にはなったわよ!」

 

 【熱い夜っ!?】

 

 思わぬ言葉に管制室にいた当事者を除く全員が素っ頓狂な悲鳴をあげる。まさかアレか? この二人はそういう関係ですでにヤッちゃったのか?

 

 箒はなんとなくエレナの顔を見れなかった。恐る恐ると櫻井を見れば冷たく目を眇めて楯無を見ている。

 

 「熱い夜……? たしかに熱い夜だったね。激しすぎて死にかけたし。いろんなモノが飛んできたし」

 

 「あわわわわっ。だ、ダメですよ櫻井くん! まだ未成年なんですからもっと健全なお付き合いをですね……!」

 

 真耶が顔を真っ赤にして目を回す。その場面を想像して勝手にオーバーヒートしてしまったようだ。

 

 「まあ、飛んできたのは曳光弾とかRPGだったけど。爆撃された時はさすがにビビった……」

 

 「おい物騒だな!」

 

 堪らず箒が叫ぶ。なんとなくオチがあるようだったが、まさかとんでもないところに話が墜落した。まさか二人でブラックホークダウン? それは友達以上と言うか戦友だった。むしろ友達なんかよりも絆が固そう。そして何よりオマエらはいったいナニをしていた?

 

 冗談はここまで、と話を戻した櫻井が楯無に問うた。

 

 「ところで会長が何故ここに?」

 

 「なんでって、ここがIS学園の状況を見るのに一番だからだけど。何かあったらすぐ駆けつけられるしね」

 

 「……? 今日はIS学園内だけの行事だ。どっかの高官が来るわけでもないし、そこまで構えなくても……。いったいなんです、織斑教諭。それに山田教諭も」

 

 櫻井が言葉を区切る。何故なら千冬と真耶が櫻井に憐みの視線を寄越していたからだ。居心地の悪い空気に身をよじりながら座り直す。

 

 「そうか、櫻井は知らないのか」

 

 「櫻井くん、恥ずかしい事じゃないですよ。まだ転校してきたばかりなんですから」

 

 「その憐れむ視線なんとかなりませんかね。だから、いったい何がですか」

 

 千冬が神妙に頷いて言った。

 

 「IS学園は何かしらの行事をするたびに問題が起きるというジンクスがある」

 

 「じゃあなんで頻繁に行事が詰まってるんだ……?」

 

 「大丈夫ですよ櫻井くん。何事も慣れです」

 

 達観していた。慣れていいのかそれは。大丈夫かIS学園と櫻井は問いかけたくなったが代わりに。

 

 「……、今から中止にできるかな」

 

 「うーん。ISにやっと乗れるって生徒を上げて落としてるから、もしかしたら櫻井くん狩られるかもね」

 

 もはや何事も起きないコトを祈るしかないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 試合のブザーが鳴る。それは現代の法螺貝だった。

 

 瞬間、一夏は奔った。地に着いた足が土塊を蹴り飛ばして残らず置き去りにする。引き絞られた矢のように前に向かってただ愚直に疾走。航空エンジンを改良した大出力ブースターの推力は両翼で二十tにも及んだ。

 

 シャルロットは息をのんだ。彼女は試合開始と同時に一夏に両手のアサルトカノンを向けていた。それなのに、一夏は臆さず向かってくる。白式の特性を考えれば当然であるが、それは"異常"だった。

 

 一般的に下級生の模擬戦は華がない、と言われている。

 それは技術的な問題もあるだろう。ISは生身ではありえない動きも可能なのだから致し方ない。

 しかし、最たるものは"畏れ"があるのだ。

 銃を向けられたら恐ろしくてすぐに回避行動を取る、というのは熟練者でもある。反射的に回避行動に移れるからむしろ望ましいぐらいだ。銃を向けられているのに回避しようとしない奴はただの馬鹿だ。

 

 問題はそこではないのだ。

 

 銃を人に向けて撃てばどうなるか。

 こんな問い、今時大人だけではなく子供でも答えられるだろう。実際に銃が普及した国では銃の扱いの前にその銃の恐ろしさをまず最初に教える。

 銃を人に向けて撃てば人が死ぬ。これは動かない現実、確かな事実。

 

 だから、下級生は撃つことを躊躇う。

 エネルギーシールドが絶対防御があるから死なないと頭でわかっていても実感がない。目に見えぬものはあまりに頼りない。だからまず最初に近接ブレードで訓練する国も多い。ISの操作と模擬戦の空気を危機感の薄い近接ブレードで慣らしてからというわけだ。IS学園でも多くの打鉄が配備されている。 

 

 これらは何も不思議なことでもない。

 訓練された兵士が殺しあう実際の戦場でもよくあることだ。殺されることよりも殺すことを躊躇う兵士が多い。第一次世界大戦では前線の兵士の二十%が銃を撃てなかったというデータもある。

 

 下級生のISの模擬戦で華がないのはそういった理由だ。お互いがお互いを撃つことを躊躇い、かみ合わない歯車のようにぎこちない。

 

 それだというに、一夏はまるで銃口など目に入っていないのように突き進んでくる。

 

 「ほっんとに! 一夏ってスワってるよね!」

 

 シャルロットは心からの賞賛の意を込めて両手のアサルトカノンの引き金を引き絞る。12.7mmの銃弾が、六十一口径と云う長いバレルを駆け抜ける。

 車のエンジン程度ならあっさりと串刺しにするほどの脅威。物理刀一本。シールドさえも装備していない白式では防げない。火花が散った。

 

 しかし、銃撃の一拍後も一夏は依然としてシャルロットに迫りくる。その距離はすでに五十mを切っていた。

 

 シャルロットは目を瞬かせた。

 

 ――― いま、おかしくなかっただろうか?

 

 エネルギーシールドに反応したのならばもっと大きな光を放つはず。そしてその反動で多少の速度減があるはずだ。しかし、一夏はさらに加速しているではないか。

 

 呆然としていたシャルロットは、一夏が飛んできた銃弾を"雪片で弾いた"と云う事実に思考が結び付くまで時間がかかった。

 

 「――― なッ!?」

 

 さしも のシャルロットも絶句した。相対速度からしても必中だと確信した両手の射撃。それのどちらも弾き逸らされた。おそらく被弾面積の小さい極端な前傾姿勢と、ISの射撃補助システムから大方の予測を絞り出したのであろうがそれでも異常だ。あんな細い物理刀を楯に仕様など正気の沙汰ではない。

 

 なにより、それを迷わず即決した一夏の思い切りの良さに言葉を失った。

 

 それでもシャルロットの身体は反射的に次の行動に繋げていた。量子収納している暇はない。その場にアサルトカノンを取り落して即座に次の武器を取り出した。

 右手に連装ショットガン、左手にサブマシンガン。サブマシンガンは口径7.62mmでIS戦では頼りない口径であるがとにかく弾数が多い。装弾数が少ないショットガンのリロードするための繋ぎとしては優秀な武器だ。なによりとにかく銃弾をばら撒けるので牽制になる。

 

 だが、ここでさらに一夏は加速した。背部のスラスター付近で爆発のような衝撃が広がる。もはや弾丸となって疾駆する一夏は迅雷の如しであった。

 

 “ここで瞬時加速(イグニッション・ブースト)……ッ!”

 

 瞬時加速には集中がいる。まさか繊細なスラスター翼の操作が必要な高速機動中にやる人間など普通ではない。立て続けの驚きがシャルロットの防御をわずかに遅らせた。

 

 矢が駆け抜けた。

 前に向けたサブマシンガンが上下に泣き別れする。削られたシールドエネルギーの量にシャルロットは息をのんだ。

 

 振り返れば、一夏の手にした雪片が輝きを放っている。その輝きは一片の曇りと穢れのない純白。

 これぞかつての世界最強と同じ単一仕様能力(ワンオフアビリティー)――――――零落白夜。その能力はあらゆる光学エネルギー系統の無効化。

 

 わずかに掠れただけでリヴァイヴの半分のシールドエネルギーが消し飛んだ。まともに当たっていれば瞬殺だっただろう。いや、それですら加減されたのだ。零落白夜を全力で発動すれば、瞬間的ならば核の一撃すら耐えると謳われる絶対防御ですらも塵と化す。

 

 対して、一夏は思わず引き攣りそうになる顔をなんとか律する。冷や汗も拭いたいがISが展開された手足ではそれも難しい。アリーナのなかは風も吹かないのでなおさら汗をかく。

 

 正直言うと、今のは危なかった。アサルトカノンを雪片を楯にして防御するなど博打もいいとこだ。その後にシャルロットがショットガンを展開した時は内心大いに慌てた。かつてのシャルロットとの模擬戦でその脅威は身をもって知っていた。

 

 見ればシャルロットがちょっと悔しげな表情で一夏を見ていた。

 

 「むぅ、一夏にはまだ絶対負けないって思ってたんだけど。ホントに一夏は土壇場に強いね。先生として誇りに思うよ」

 

 「……はたして俺には先生が何人いるのだろうか」

 

 「へ? ほかにもいるの?」

 

 「凄い自信だ!? いるよっ、織斑先生とか!」

 

 「うーん、そこでまっさきに織斑先生が出てくるあたり一夏はシスコンだなー……。でも最近新しい先生はいいの?」

 

 首を傾げるシャルロット。一夏も首を傾げてしまう。

 

 「櫻井かー。櫻井は先生っていうより教官だな」

 

 シャルロットはなるほどその通りだと頷いた。ついでに、ビシバシしごかれてる一夏の姿が容易に想像できた。

 

 「間合いを図る一夏がいきなり突撃なんてしないもんね。というか、一夏よく怖くないね。慣れてるボクだって銃相手に突撃なんて怖いよ?」

 

 「……だって櫻井が特攻しなかったら宿題三倍に増やすって言うし……」

 

 なんと恐れてるのは櫻井の宿題の方だった!

 

 一夏は逃避するように目を逸らした。ただでさえ忙しい現状に忙殺されかけている。これは由々しき事態だった。

 

 シャルロットもそれを察して苦笑いを浮かべた。一夏を取られて恋する乙女も大変だが、その相手もなかなかハードな生活を送っているらしい。

 

 苦笑を微笑に変えて、シャルロットは武装をアサルトライフルに切り替えて、一夏に向けた。

 

 「ちょっと油断したけど負けないよ? まだまだ一夏に負けるとは思ってないし」

 

 「そりゃ辛いな。なら俺はもっと頑張らないとな」

 

 一夏も笑い返して雪片を構え直す。先ほどの不意打ちはもう通じない。これからが本番だ。

 

 遠距離武装を装備していない一夏も動けないが、シャルロットも迂闊に動けない。先ほどの邂逅で一夏と白式の潜在能力は底抜けしていると直感した。おそらく、あれは"全力"ではない。だとすれば、スピード重視にカスタムしたリヴァイヴでも追いつかれる可能性が十分にある。

 

 身体は動かないが心臓だけが勝手に高鳴りだす。緊張が頂点を何度も振り切り、そして―――

 

 その瞬間に、空から黒い何かが降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合が終わった鈴とセシリアは観客席からその光景を見ていた。鈴が隣を見ればセシリアが苦い顔をしている。きっと自分もそうなのだろうと現実に目を戻す。出来ればこれは夢で素敵な週末がこれから始まるならば、それはどれだけいい夢だろうか。

 

 現実逃避していても仕方がない。諦めた鈴はついこぼす。

 

 「デジャヴね」

 

 「デジャヴですわね」

 

 セシリアが神妙な顔つきでうなずいた。

 アリーナ外殻のエネルギーシールドを突き破ったそれは忘れようとも忘れがたい、つい一か月半前の出来事を思い出させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「起きてしまったな」

 

 「起きてしまいましたね」

 

 「櫻井くん、そのうち慣れるから頑張って!」

 

 「センナくんなんで泣いてるっスか?」

 

 「僕もう実家に帰っていいですか? ――― てか、慣れたくないこんなもん! 行事があるたびこんなコト起きるのか!? もう対空ミサイル置いとけよ、僕が自衛隊にかけあうからさ!!」

 

 堪らず櫻井が叫ぶ。完全に櫻井の処理容量を振り切った事態だ。箒はただ同情の目を櫻井にそそいでいた。

 

 一同が向き直ったモニターには、つい先日にIS学園を襲撃した無人機と似通った黒い人影が自分で創りだしたクレーターのなかに鎮座している光景を映し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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 大筋のストーリーは完結まで構想されてますが、細かい部分などで深刻なネタ不足にちょっといま悩んでいます。もしもこんなネタを考えてるんだけどSSを書く気はないといった方がいられましたらご提供ください。採用するかはわかりませんがとても助かります。
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