正義と、大義と。   作:新田良

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第三十四話 あなたは誰なのか

 

 

 

 

 

 

 夢を見ていた。それは、暗い夢だった。

 

 夢なのに暗いとは、不可思議なものだ。

 

 これが夢だと自覚したのに理由はない。ただはっと、「これは夢だ」となぜか思った。

 もしかしたら、それが他人事のように見えたのかもしれない。

 それはまるで、古い映画のフィルムを再生するような。

 

 ただ真っ黒い画面の羅列が延々と続く。

 夜だからではない。この場所がいつも真っ暗闇だとなぜか知っていた。朝が来ても、昼になっても、夜になっても。

 

 空に明かりはない。そも、空と呼ぶにはこの空間はあまりにも狭すぎる。

 それなのに、この黒は途方もないほどに暗く、どこまでも遠かった。

 

 一つだけ、真っ暗闇に浮かぶ一筋の明かり。あまりにか細い光は、上から下へ糸を垂らすようにつうと延びていて、床に線を引いている。あまりに眩しく、頼りない弱い光。

 

 夢の主は、その光を恐れるように距離を開けている。

 

 深海の夜のような時間が、まるで何百年も前からそうであるかのように過ぎていく。夢の主はその間、零れ落ちた光の筋をじっと見ていた。

 

 長い永い、気が遠くなりそうな、気が狂いそうな時間が過ぎていく。

 弱かった光の筋が強くなり、やがて色を変えながら弱くなり、そして潰えたあとに強烈な白いものに変わった。

 

 足音がする。規則正しいものではない、たどたどしい拙い足音。

 夢の主は、その足音が嫌いではなかった。ただ、好きでもなかった。

 

 がらがら。

 

 光の糸が広がり壁になる。夢の主は眩しさに目を細めた。

 

 光の壁の中で、のっぺらぼうの男が真っ黒く浮き上がる。それは影法師のようだった。

 

 夢の主は差し出された六個入り百二十円のパンの袋を受け取る。

 このパンは好きではないが、食べ物だ。

 

 影法師の男はとても優しい笑顔で何かを言っているが、夢の主には届かない。

 

 潰れかけた目がようやく光になれる。

 夢の主は、自分のとなりを確認して、安心する。

 

 

 途端に広がる異臭、異臭、異臭。

 

 

 夢の主のすぐとなりには、朽ちかけた死体が眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏はハッと目を覚ました。

 

 途端に湧き上がる強烈な嫌悪感、そして吐き気。拒絶反応にも等しい抗い難い生理反応。

 

 身を起こして吐きかけるが、いま自分は布団の上にいるのだとかろうじて自覚し、口元を抑えた。

 

 「……うっ、ぉおおお……っっ!!」

 

 胃の中身をぶちまけたいのを懸命に抑える。せり上がってきたもので喉が焼ける。鼻につく匂いもした気がした。思わず涙までもが出たが我慢する必要がないと遅れて悟って放置した。

 

 気持ち悪い気持ち悪い、気持ち悪い。

 

 かたかたと身体が痙攣する。かちかちと鳴るのは歯の音だったのか。頭の中は霧がかったように迷子だった。

 

 一夏は声も上げずにじっと固まった。

 

 「―――、―――、―――、」

 

 いったいアレはなんだったのか。

 

 この数日見てきた白い夢とはまったく違う夢。意味がわからない。

 

 一夏は嵐が過ぎ去るのを待つ子供のように目を固く瞑って動かなかった。

 

 「―――か、―――しろ」

 

 いまは部屋の暗さが怖かった。先ほどの悪夢を思い出すから。

 

 アレはいったいなんだ?

 

 もしかして、アレは俺の知った光景だったのか? 

 

 違う、と首を振る。

 

 別に拒絶反応を見せたわけではない。単純に記憶の年齢と合わない。

 

 夢の主はせいぜい7〜8歳のように感じた。その年の一夏はまだ記憶がある。

 

 この記憶がすべて正しいのであれば。

 

 意味がわからない。でも、何かの意味があるように感じた。

 

 アレは―――

 

 「織斑一夏。聞こえていたら歯を食いしばれ」

 

 「―――は?」

 

 脳に浸透してきた声に我に返る。そして、その意味を理解する前に衝撃がきた。

 

 「ごおっ!?」

 

 頬に重い一発。

 おかしな声を出してから、自分が殴られたのだと理解する。

 

 身体が軽く飛ぶほどの一撃。泳いだ身体が畳の上を滑り、壁に顔から突っ込んだ。

 

 「おぶ」

 

 先ほどとはまったく違う意味で涙目となった一夏は、いきなりの狼藉者を睨みつけた。

 

 真っ暗闇の中、櫻井千奈はご丁寧にも拳を振り抜いたまま尋ねてきた。

 

 「目が覚めたか織斑一夏」

 

 「……な、なにをするんだお前」

 

 「仕事をしていたらいきなり奇声を上げはじめたからぶん殴った」

 

 「……ありえねぇ。ありえねぇよ……、ふつうここで殴るか……」

 

 一夏は思わず顔を覆ってしまった。殴られた側の奥歯がじんじんと痛む。歯が抜けていないか心配だったが大丈夫そうだ。

 

 櫻井は目を眇めて見下ろしている。一夏の様子を判断しかねているようだが、一夏には自分の心の中を探っているように見えた。

 その薄暗さでいまは日が出始めたばかりの明朝なのだと頭の隅で知覚する。

 

 櫻井は至極真面目な顔で口を開いた。

 

 「で、年甲斐もなく漏らしたか?」

 

 「……は?」

 

 「だから、怖い夢にビビって漏らしたのか。おしっこ」

 

 「バッ……、漏らしてねえよ!」

 

 思わず必要以上に大きな声で否定する。事実ではないがなんとなく恥ずかしい。

 

 櫻井はつまらなそうに肩をすくめて下がった。見やれば、部屋の隅に置かれたテーブルの上には、紙束があった。それと小さな電灯がぼんやりと灯のように櫻井の横顔を照らしている。

 彼はそれ以上茶化して来なかった。もしかしたら、先程のは単純に一夏を落ち着かせるための冗談だったのか。

 

 「じゃあ、いったいなんだ」

 

 「ええっと、実はだな……」

 

 一夏は言葉を詰まらせた。

 

 理由は単純だ。

 夢など起きれば消える。そして煙のように有耶無耶になる。

 残るのはその夢への感情だけだ。

 

 濾し取られた嫌悪感。ただ不快で、ただ恐ろしい。

 

 どういうわけか、櫻井の顔を直視できなかった。

 

 「……いや、なんでもねえ。ただの悪夢だ」

 

 一夏は布団をかぶり直した。何故か無意識に櫻井とは逆の方を向いて。

 

 しばらくして、ペンが紙を滑る音がする。櫻井が仕事に戻ったのだ。外はまだ暗いはずだが、小さな明かりを頼りに。

 

 ペンの音に紛れるように声がする。

 

 「織斑一夏。不幸に遭遇した時の対処法を教えてやる。まあ、そんなコトもあるかと適当な理由をつけて納得するコトだ。―――人は他人事ならどこまでも残酷になれる」

 

 一夏は布団を深くかぶった。

 

 やはり、櫻井千奈とは相容れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 臨海学校は二日目からが本番だ。

 生徒によっては一日目の自由時間が楽しみという生徒もいるが、非限定空間でのISの訓練はそれにも優るとも劣らない楽しみでもある。

 

 「班分けは事前に配られた資料通りだ。練習機は四人一組で。初期点検が終わり次第、歩いたりして慣らしておけ。前半が終了次第で飛行訓練に移る。非限定空間における注意事項を今更復習なんぞするなよ?」

 

 【はいっ!】

 

 生徒の声が綺麗に重なる。

 

 今回、臨海学校に持ち出された訓練機の数は打鉄八機、ラファール・リヴァイヴが八機の総計十六機。IS学園が保有する訓練機は三十機であるため、半分以上もの数がこの臨海学校に用意されたことになる。

 

 しかし、生徒は基本三十人が四クラスあるため百二十人を十五機で回さなければならない。

 そのため、四クラスを午前と午後で二つに分け、一機に四人を割り当てて回していくのだ。

 

 現在、午後の部の生徒は旅館の大広間で非限定空間における詳細な制度や注意事項、そして緊急時の対応方法などを学んでいる。

 

 訓練時間は四時間あるが、非限定空間での飛行訓練など滅多にあるものでもないので、生徒たちは普段よりも手際良く作業を進めていた。

 

 その素直さに苦笑はすれど、同時に呆れも感じてしまう千冬だった。

 

 「まったく、普段からもそのぐらいの熱意で点検作業を行え馬鹿者め……」

 

 仕方がないと納得しつつも、思わず苦言を言わずいられなかった千冬はため息をひとつ。

 

 そんな彼女の隣で櫻井が電子チェックボードを操作しながら、

 

 「ここ最近は整備関係の授業が続きましたからね。ISに乗れるとはいえ油まみれになるのは普通のお嬢様にとっては遠慮したいのでしょう」

 

 「整備点検のルーチンの密度を増やしたのはお前だろうが」

 

 「おや、知っていましたか。学園長には適当な理由をつけておいてくださいと頼んだのに」

 

 千冬は鼻を鳴らした。

 少しだけ、声を潜める。

 

 「……工作対策か?」

 

 「ええ、IS学園の防御体勢に穴があるのは知っています。派遣された教師、入学した生徒、あるいはIS学園創設時に設計に揉めに揉めたどさくさに紛れて設置された物理的電子的な抜け穴。これらを直接的にしろ間接的にしろ駆使すれば工作作業は難しくない。IS学園の訓練機は関係者であれば誰でも触れますから」

 

 櫻井がチェックボードに指を走らせれば、無数の情報が次々と切り替わる。

 

 「ISは生身や精神が機械と密接に関わり合っている。肉体のDNAデータがISのシフト移行や単一仕様能力に関わるように、ISが人間に作用するコトはあります。……数週間前のラウラ・ボーデヴィッヒの時のように……」

 

 「……、たしかにな。それはそうだ」

 

 櫻井の言っているコトは事実だ。否定する必要もない。

 

 しかし、それは同時に無視され続けているコトでもある。

 

 かつてヒトと同じぐらいの知性を持つ人工知能を創造しようとした研究者がいた。

 それが可能かどうかはさておいて、ここでひとつの問題が挙げられる。

 

 ヒトと同等以上の人工知能がヒトに反旗を翻したたどうするのか、である。

 

 何十年も前から、これまで幾度となく映画や小説の題材となったありふれたものだ。

 研究者はみな馬鹿にした。

 彼らにとっては機械は道具で、ヒトとの主従関係は絶対に崩れないと思い込んでいるのだ。

 

 「人間だって所詮は膨大なルーチンワークの集合体です。錯覚や誤認、感情次第ですぐにバグを起こす」

 

 だから、櫻井はヒトと機械に何の差がある?

 

 話を聞いていた千冬は複雑な心境になった。

 櫻井は俯瞰的な視点で見るコトに長けている。しかし、それは同時に"物事に対して他人事"でもあるとも言えるからだ。

 

 「……櫻井、お前は一般人にはモテなさそうだな」

 

 「……織斑教諭以上には経験豊かだと断言できます。というか、その年でヴァージンなのになに余裕こいてんですか。十代ならともかく、あんまりいき遅れると相手も警戒しますよ」

 

 「お、お前にだけは説教されたくないわ!」

 

 千冬は顔を真っ赤にして櫻井の後頭部を殴った。割りと洒落にならない部分だった。

 どうも気にしていたコトらしい。

 しかし、千冬の場合は告白などされても、相手が超絶イケメンでもバッサリ斬りそう(誤字にあらず)ではあるが。

 

 あまりの衝撃にうずくまっていた櫻井だったが、ハッと顔をあげる。

 

 「はっ…! まさかここで気の利いたコトを言えるようになったら織江にもお兄ちゃんと呼んでもらえるのか……!?」

 

 「そんなコトを言ってるから呼んでもらえないんだろ……」

 

 「……ええっと、ほら、織斑教諭にも素晴らしいとこがありますよ……!

  あんなとことか、その、どっか

 ……………………………………、」

 

 「黙るな! 考えてからものをしゃべろ傷つく! ……え、本当に思いつかないの?」

 

 櫻井が三秒ほど真面目な顔で考える。

 

 「……、下着が黒い」

 

 「お前の性癖なんぞ訊いてないわ! だいたい今日は白だ!」

 

 マジですか!、と反応した櫻井の脳天に千冬が拳を振り下ろした。人体から鳴ってはならない系の鈍い音がする。

 

 「ま、また殴られた……。織江にしか殴られたコトないのに……」

 

 「ああ、うん、可哀想にな……」

 

 容易にその光景が目に浮かぶ。

 櫻井はたまにバカになるので日常茶飯事なのだろう。

 

 「人を憐れむのはやめてください」

 

 「違う。軽蔑してるんだ」

 

 「そうですか……」

 

 「本当に、転入初日のお前が懐かしいよ」

 

 櫻井はよくわからないといったふうに首を傾げる。

 

 「僕は至極真面目ですよ」

 

 「それはそれでタチが悪いな。お前は黙っていたほうがカッコいい」

 

 千冬に言われて櫻井は小さく笑った。

 

 「織江にもよく言われます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実習の行われている海岸から一kmほど離れた場所はコンテナ置き場だった。海辺からちょうどBの字状に岸壁で区切られたそこは機密の多いものを運ぶにはもってこいだった。

 砂浜に揚陸艇でコンテナだけが送られてきているのだ。

 

 いつもの専用機持ちメンバーに加え、簪と、そして専用機持ちではないがどういうわけか箒も千冬のとなりにいる。

 

 次々と運ばれ荷卸されていく光景は少しばかり圧巻だ。

 

 一夏は自動でコンテナを運んできて荷卸をしていく小型無人揚陸艇を見ながら感心していた。

 

 「はー……、今時はこんな感じなのか……。なんかどんどんハイテク化されていくもんだな」

 

 感嘆なつぶやきを漏らした一夏。

 となりでチェックボードの画面を叩いていた櫻井がなに言ってんだコイツみたいな流し目で一夏を見る。

 

 「織斑一夏……。ISを使っているような奴がいまさらこの程度で驚いてどうする」

 

 「む……、言われてみればたしかにそうだな」

 

 「そもそも、アレは関係者以外は立ち入り禁止の規則に従って新規開発されたレアケースだ。決められた大きさ、決められた場所にしか積み荷を運べない。誤作動で積み荷を落とされたらたまったもんじゃない。今のところはもっとも汎用性が高い道具は結局は人間の脳みそだ」

 

 櫻井が並んだコンテナとチェックボードとを見比べながら歩く。

 やがて、一番端に置かれたコンテナに近づき、記されたナンバーとを見比べて、遠くで作業を眺めていた織江を手招きする。

 

 近くまで来た織江は嫌々そうにコンテナを見た。

 

 「届いたの」

 

 「届いたっぽいよ。っていうか、そんな嫌そうにしないでよ。僕が決めたコトじゃないんだし」

 

 「櫻井櫻井。なんだコレ?」

 

 一夏が尋ねると、櫻井はコンテナの扉に取り付けられた鍵に暗証番号を打ち込みながら、

 

 「織江の専用機。詳細は知らない。……ってなんで僕に知らされてないんだよホントに……」

 

 頭を抱えたそうにしている櫻井。

 

 しかし、その答えは扉を開いてわかった。

 

 扉や壁は見た目と一夏の予想に反してかなりの厚さだった。最重要機密を運んでいるのだから、当たり前といえば当たり前ではあるのだが。

 

 コンテナの床は二層になっていて、その上層にはキャスターのようなタイヤが付いている。どうやら中身をすぐに引き出せる工夫らしいが、あいにくこの下は砂浜だ。タイヤは早々に砂に足を取られて使い物にならなくなる。

 櫻井はため息をついて一夏を見た。

 言われなくとも櫻井の言わんするコトはわかった。

 

 一夏は白式を展開。

 そして、二層になっているコンテナの床の上層を掴むと引き出しのように引き出す。手間取るが、コツを掴んで最後はスムーズに引き出せた。

 

 「はい、ご苦労。さて、中身は……。これは……」

 

 現れたのは待機体勢の漆黒の機体だ。白式のような西洋の甲冑を思わせる丸みではなく、空気を流すような鋭い流線型をしている。

 

 出てきた代物に櫻井が反応しかねていると、そこへ千冬が箒を伴ってやってきた。

 

 「ほう、随分なものがやってきたな。大和の専用機か?」

 

 千冬が面白いものを見た、といった顔でコンテナの中身を見物する。

 

 「……これが、専用機」

 

 一方で、箒は複雑な面持ちでそれを見る。

 

 櫻井は織江の専用機であるらしい機体を眺め回しながら、何とも言えない微妙な顔をする。

 

 「なんでコイツがここにあるんだ……」

 

 「ん……? どうしたんだ櫻井。何か問題でもあったのか?」

 

 櫻井はコンテナ内側のコンソールからチェックボードへとデータを移しながら、

 

 「日本製先行試作実験機白雪。大出力エンジンと高機動戦のデータ採取のために開発された実験機です」

 

 「……黒いぞ?」

 

 思わず、一夏と箒、千冬は櫻井と白雪とを二度ほど視線を往復させてしまった。

 そこに鎮座した機体は名前に反して、真っ黒だった。

 

 「もともとは白かったんですよ。少なくとも三ヶ月前までは。まあ、白式を抱えた日本が専用機なんておかしいと思ったんですが、まさかコレを引っ張り出してくるとは……」

 

 「なにか問題でもあるのか?」

 

 箒が触れそうで絶対に触れない距離で白雪を見回しながら尋ねた。

 

 「いや、機体自体に問題はない。ただ、ISの新規開発を目的とする専用機制度とは少し反する機体なんだ」

 

 「と、言うと?」

 

 「この機体が開発されたのは五年前だ。五年前と言えば世間ではようやく第二世代機に転換し始めた頃だな」

 

 機械技術の黎明期だった第二次世界大戦ならいざ知らず、現代では軍事で五年前といえば最新鋭と言って過言ではない。空の覇者であったF-22ラプターの試作機であるYF-22ですら初飛行は1990年のことなのだ。

 

 そういった観点ではISは驚くほどの速さで進化を遂げているといえるが、それはISの自己進化機能によるものだ。ISの進化速度でISの五年前といえばそれなりに旧型というコトになる。 

 

 太陽に反射する白雪を織江は無表情で眺める。

 

 「五年前といってもコレは一応は白式の姉妹機」

 

 「え、そうなのか?」

 

 「この前、千奈が説明したって聞いたけど?」

 

 それを聞いて一夏も気がついた。

 

 「白式を開発するときのみっつの計画のうちのひとつかなのか?」

 

 「そうだ。白雪は大出力エンジンと高速機動時の運動補助プログラム構築のために試作された機体だ。コンセプトは『間合いの概念を文字通り削るほどの圧倒的な運動性能』。装甲は薄いが空力的にも優れている。基本的な機構は打鉄に準じてるからこんな細い形(なり)でも近接格闘能力はかなり高い。まあ、あくまで重量に対してのエンジントルクが高いというだけだが―――」

 

 早口で櫻井は次々と説明を並べていく。たまに思うが、櫻井はいわゆる説明したがりだと思う一夏だった。

 

 織江がどこかうんざりした様子で櫻井をたしなめた。

 

 「千奈、長い。それでどうするの?」

 

 「どうするって、これは織江の専用機だ。いまから調整をしないと」

 

 櫻井が白雪の背後にまわる。

 

 「……載せてるエンジンも変わってる。これは試作されてた集合型の偏向スラスターだ……。とりあえずデータを頭に入れ直すから後にしよう」

 

 「わかった。じゃあ終わったら呼んで」

 

 「その前に、コレの名前はどうする?」

 

 「名前?」

 

 織江は首を傾げた。

 

 「マニュアルを見れるんだが、名前が空欄なんだ。中身もそこそこに改良されてるし、載せているエンジンもガラリと変わってる。この色で白雪なんて名前もおかしいでしょ。名前を自分たちで決めろ、って倉持博士からメモが挟まってる」

 

 織江は仕方がないといったため息をひとつ吐いた。

 そして、自分の専用機となる名無しの機体を見やるが、 弱々しく首を振った。

 

 「……わからない。千奈が決めて」

 

 それっきり有無を言わさず織江は離れていってしまった。

 

 残された櫻井はやれやれと肩をすくめた。

 

 「まいったな。コレそのまま開発コードになるから僕が決めるのは避けたかったんだけど」

 

 「そう思うとかなり責任感じるよな」

 

 櫻井が一夏を見た。

 

 「織斑一夏。お前なら白式になんて名前をつける」

 

 「え、えーっとだな……、そんないきなり言われても困るぞ。…………シロ?」

 

 ペットかコイツ……。

 

 三人の感想は一致した。箒はどこか貧弱な思考に嘆いているようにも見える。

 

 「ではどうするんだ櫻井」

 

 「わー……、ノーコメントでスルーされた……」

 

 そうですねー、と櫻井はデータを流し見る。

 

 「朔……。朔夜にしましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ようやく物語の土台が出来上がってきました、ほんと完結はいつになることやら(汗)
 買ってもいない原作を本屋で立ち読みして、マドカとかいうキャラがいたなーなどと焦りました。正直予定変更で登場させようか迷っているところ。どうしようこのキャラ。
 次回はとうとうみんな大好き束さんが登場です!



 技術士の勉強の息抜きに書いていたらあっという間に二週間、ついてに試験まで一ヶ月切り。……死ぬorz。

 息抜きといえば最近、Fateのグランドオーダーとかいうソシャゲを始めましたが再臨素材が出なくて死ねる。レア5引いたのに性能がちょっと残念なキャラで死ねる。
 改めて自分のくじ運の悪さを痛感しました……(泣)

 唯一の救いはまだ夏休みなのでマイペースで要られるということぐらい…


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