「じゃあ俺真下やる。草薙は北側、雪音は南側な」
勝手にそう言って黒鉄は空中に恩恵で足場を作り、それを蹴って落下速度を加速させた
「行くぜ、《暴喰者》!」
黒鉄から溢れ出す濃密な闇が何匹かの生物をかたどる
それは空を飛ぶような見た目をしていないものの、地上に降り立つと同時に徘徊を始めた
黒鉄は黒鉄でビルの屋上に着地し、恩恵を準備する
「全く勝手だよな、あいつ。じゃあ雪音、頼んだ」
「はい。久しぶりに恩恵をフルで使えますね」
雪音は取り出した大剣を構えた
それは夜斗が持つものとほぼ同じ大きさで、雪音の細い腕では持つことさえ厳しいように見える
しかしそれを、雪音は片手で持ちながら南を見た
ちょうど雪菜が魔術回路を破壊し、落下し始めた欠片が宙を舞っている
「《破壊者》ブースト・セプタ!」
雪音の霊力が異常なレベルに増強される
そしてその霊力を乗せて、剣を振り抜く
と、霊力が斬撃のあとをなぞるように飛来し、広範囲に拡散した欠片を破壊していく
振り抜いた剣に霊力を乗せて斬撃を飛ばす。これ自体は雪菜にも教えればできることだ
しかしそれを、半径数百メートルの範囲で1キロほど飛ばすことは夜斗をもっても難しい
「最初っからとばすなぁ…。天津!禍津!」
草薙が召喚した双剣が合体し、さらに元雪霞狼である氷月歌と融合した
巨大な槍となったそれを、草薙は全力で投げる
「《災厄者》災厄顕現。神槍スピア・ザ・グングニル!」
真っ直ぐに巨大な欠片を破壊したあと、速度を落とさずに縦横無尽に空を飛ぶその槍が、周囲の欠片を破壊していく
順調にも見えたが、一つ巨大な欠片が、3人の守る場所を離れて長距離へと飛ばされていくのが見える
「間に合わねぇ…!黒鉄!雪音!」
「無理だ!もうアラガミを召喚できねぇし、俺が喰うには遠すぎる!」
「私の斬撃の飛距離では届きません!」
「眷獣も間に合わねぇぞ…!」
草薙がそれでも足掻こうとビルの屋上を踏みしめようとしたとき、欠片が消失した
欠片の向こう側に見えるその人影は…
「夜架…」
非番であるはずの夜架が腕を振るった。それだけで消えた
第零機関のいう非番というのは、原則的には本州の本拠点にいるという意味だ
それなのに、ここまで来て欠片の破壊を実行した
「無茶しやがって…」
草薙が呟くと同時に、夜架が落下を始めた
もう満身創痍だったのだろう。落下に抗うための恩恵すら起動していない
しかしその夜架の姿が消えた
「私を置いていくとは水臭いではないか、草薙」
「莉緒…!正直助かった」
「すぴりだす?に置いていかれたときには500回ほど殴ろうとも思ったが、その言葉が聞けただけいい。許そう」
草薙の背後に夜架を抱えた莉緒がいた