かつて極東には聖杯戦争があったらしい   作:つどい

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神機の説明って大概宝具レベルなんですよね……
そんなヤバイもんをリーダーだけ取り替え放題っていう


海魔との対決

 

 こんな会話があった。

 

「君はアラガミじゃないの?」

「は?」

 

 夫妻が席を外した隙に尋ねると、ウェイバーは何言ってんだと言いたげな胡乱な目つきを向けた。

 

「お前また記憶喪失になったの?さっき紹介されただろ、孫だって」

「故障してるのかな……」

「お前の脳味噌が?大体何なんだよ、アラガミって」

「討伐対象。たぶん私はアラガミを仕留めるためにここに来た、と思う」

「ふーん」

 

 ウェイバーは私を値踏みするように見ながら、ちぎったパンを口に入れた。

 

「お前の妄想はどうでもいいけど、僕はアラガミじゃなくてウェイバーだからな」

「アラガミだよ?」

「は?」

「君からアラガミ反応が出てる」

「はあ?」

 

 意味わかんないんだけど、と顔を顰めるウェイバー。

 どうやらアラガミの自覚がなかったらしい。むしろ人間だと思い込んでいたような返事だった。

 

「お前やっぱり一回検査してもらった方がいいんじゃないの?反応がどうとか不思議ちゃんかよ」

「でも私にとっては真実だから」

「じゃあ僕にとっては幻想だ」

 

 ふむ、信じない派が増えてしまった。

 だからどうしたって話だけど。

 

「で、僕を殺すのか?殺せるようには見えないけど」

「月がある限りは殺さないよ。君は人間らしくしているし」

「らしくって、僕は人間だぞ?」

「わかってるよ」

「……言っとくけど、お前とは初対面だからな。居候だか何だか知らないけど、僕の邪魔するなよ?」

「わかった」

「本当にわかってるのかな……」

 

 表情に疲労を乗せたウェイバーは、ぐるぐるとシチューをかき混ぜながら言った。

 

「ていうか何だよ、その腕輪。宝石代わり?」

「オシャレ目的じゃないよ?」

「だとしてもデカすぎだろ。食事中くらい外さないの?」

「外せないかな。私の命がかかってるから」

「へぇ、そんなに大事なんだ」

「考えてなかったけど、外れる可能性もあるんだよね……こっちでも介錯してくれる人がいるのかな」

「僕はやらないからな。自殺志願者に付き合う暇はないぞ」

「じゃあ他を当たるよ」

「……おかしな奴だな」

 

 

『おっかしーなー』

 

 

「……同じことを、言うんだね」

 

 あの時、純白のあの子は私に抱きついてそう言った。

 遠くない記憶なのに、随分昔のことのように感じる。けれど映像を再生するように、鮮明に思い出せる。

 

「なぁ、お前は──」

 

 ウェイバーは何か言おうとした。けれどグレンさんが戻って来て、その先は聞けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 夕食後、ウェイバーは「ついて来るなよ」と何度も言って山方面に向かった。

 やはりアラガミは人間の食事では満足できないのだろうか。少し不安は残るが、夫妻に孫と認められている彼なら人間を食べることはないだろう。

 

 アラガミが性別を理解するのも、そう遠くない。なんて言っていたが、80年前に既に実現していたと知ったら、ペイラー博士はどんな反応をするだろう。

 

 くすんだ星空を眺め、夜の街を歩く。この時代のアラガミがウェイバーのように知性を持つ人型だとすれば、人混みに紛れて生活している可能性は高い。木を隠すなら森の中、というやつだ。

 

 さっそく超視界錠を飲むと、

 

「大型のアラガミ反応……!」

 

 しかも二体。挟み撃ちするように前方と後方にいるが、二体なら問題ない。

 

 まずは近い背後の奴からだ。そう思って顔を向けるが、こちらに気づいたのか反応が急速に遠ざかっていった。

 

 ……逃げた?

 まさか手負いだったのだろうか。

 

 状態を確認しようにも、一向に目視できない。あまりサイズが大きくなかったのだろうか。だが中型に類するコンゴウでさえ人の背丈を優に超える巨躯を持つ。振動も物音も立てずに移動できるわけがない。

 

「……」

 

 いや、後で考えよう。今はもう一体の偵察が先だ。

 

 次の錠剤を飲み込み、後を追う。こちらには気づいていないのか、目標は悠々と移動していた。どうやら小型のアラガミも側にいるようだ。ウェイバーのような人型か、オウガテイルのような獣か……後者であれば仕留めよう。

 

 そんなことを考えつつ追跡すると、狭い路地裏に辿り着いた。大人が三人並ぶのがやっと、というくらいの幅だ。まして大型のアラガミが通ったとは考えにくい。しかし信じがたいが、反応はこの先にある。

 

 得体の知れない気味悪さを感じながら、人目がないことを確認する。そしてターミナルから武器を取り出し、警戒しながら奥へ進んだ。

 

 

 太陽の光を一切遮断した空間。

 そこにいたのは二人の人間だった。

 

 いや、見た目だけなら人間に見える。

 だがアラガミ反応はこの二体から出ていた。

 

「おや、子羊が迷い込んでしまった様子。どうしますか、リュウノスケ」

 

 リュウノスケと呼ばれた青年の手には、ウェイバーと同じく赤い模様が刻まれていた。少しデザインが違うが、小型のアラガミに共通する目印だろうか。

 

「じゃあもう一回見せてよ。旦那の殺り方ってやつ」

「では」

 

 髪を後ろになでつけた男が、袖から本を取り出した。暗くてハッキリ見えないが、人の叫び顔を貼り付けたような立体的な表紙だ。ぶっちゃけ悪趣味極まりない。見てるだけで気分が暗くなる。

 

「貴方には我が悲願の礎となっていただきましょう」

 

 どこかコークメイデンに似ている男は、鋭い爪でページをめくる。

 衝撃波でも撃つつもりだろうか。いつでも回避できるようロングブレードを強く握り、重心を低く構える。

 

 

 しかし何も起きなかった。

 否──男に変化が訪れた。

 

 

「ぁ……あぁ、まさか、まさかまさかまさか!このような巡り合わせが生じるとは!」

 

 奇妙な男は恍惚とした表情を浮かべ、魚眼に似た両目をカッと見開いた。

 その視線は一心にブレードに注がれている。

 

「……だ、旦那?どーしちゃったの?」

「処女の皮を被るなど、なんたる冒瀆!なんたる涜神!やはり私の行いは正しかった!だが、これでは実らない……悪戯に生贄を捧げるだけでは到底及ばない!」

 

 言っている意味がわからない。もしかして、私の話を聞いた夫妻もこんな気持ちだったのだろうか。

 

 だが彼はこちらの事情、というか神機を知っている様子。なら少しでも情報を集めたい。

 

「しかし、あぁ、なんということだ……!これを聖杯の導きとせずして何とする!」

「セイハイ……?」

 

 聞き慣れない言葉を復唱する。

 確か宗教関連の言葉だったはずだ。先程の発言といい、この人もカルト教団の信者なのだろうか。となるとセイハイは既存のアラガミの別名、あるいは未知のアラガミということか。

 

「問おう、我が同士よ!神の運び手よ!その剣に宿し名を聞かせなさい!」

 

 彼は両手を広げ、天井に吠えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジル・ド・レェは歓喜した。

 

 突然現れた乙女に、ではない。彼女が持つ大振りの剣に、霊基の底から狂喜に身を震わせたのだ。

 

 透き通った水晶のようなスカイブルーの刀身。その一部を覆う、珍しい意匠を凝らした黄土色の装飾。それが持ち主の意思と共鳴するように冷やかな剣光を放った瞬間、ジルは神の祝福を見た。

 

 そして名を聞き、確信する。

 聖杯の導きは我が手にあり、と。

 

 

 【機械剣ビヒモス】

 

 

 ビヒモスとは旧約聖書に登場する陸の怪物である。海の怪物リヴァイアサンと対になる存在であり、昔はカバやサイなどをモチーフに描かれることが多かった。しかし中世以来は一般的に悪魔として認識されるようになり、姿もゾウに似た獣に変化したという経歴を持つ。

 

 そしてこのビヒモス、実はクトゥルフの化身の一つと言われている。

 

 ジルの宝具「螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)」は、外なる邪神の世界を垣間見てしまったプレラーティーが記憶を封じるために記した本である。

 しかし封じたとはいえ、表紙だけでも影響力は大きい。そんな本を開いたとあらば、そして所有権が完全にジルに移っていることもあり、著者でなくとも邪神の残滓を感じ取れるようになっていたのだ。

 

「ではさっそく貴方の解放を──」

 

 しかし喜色から一転、ジルは表情の一切を消した。

 

「いえ、それでは面白くない。この程度ではジャンヌ復活には辿り着けない。違う、違う、違う。このままでは……変わらねば……」

 

 ジルはふと目の前の人物に焦点を合わせた。

 

 同士にして運び手の、最も生贄から遠い存在。そんな彼女を供物として捧げたら、どうなるのだろう?

 

「これですッ!まずは使者の魂を捧げましょう!」

 

 第一部隊のリーダーといえど、ビヒモスとクトゥルフの関係など知る由もない。なにせデータベースの説明はたった一文、「膨大な力を放出し続ける機械剣」のみ。多忙ゆえに神機名をわざわざ調査するという発想に至らなかった彼女を、一体誰が責められようか。

 

 会ったばかりのジルとクトゥルフの関係を見抜けなかったのも、至極当然と言えよう。人類最強のゴッドイーターと称されるリーダーだが、博識なわけでも、勘が鋭いわけでもないのだ。本質は第二世代の神機に適合しただけの、ただの人間である。

 

「なっ!?」

 

 短い悲鳴を残し、あっけなくリーダーの姿は無数の海魔に埋もれた。

 

 海魔の個々の能力は高くないが、螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)の恐るべき点は連鎖召喚による数の暴力にある。一人で太刀打ちするのは悪手でしかない。

 

「安心なさい。貴方の魂はジャンヌ復活の礎となるのです」

 

 新たな進化を遂げたジルは、純然たる感謝を込めて海魔の山に微笑んだ。

 

 聖杯戦争もサーヴァントも知らない状態では、どんな攻撃が来るか予想するのは不可能だろう。まして彼女は荒廃した世界に産まれている。逸話どころか名前すら知らない英霊は数多い。

 

 

 だが、知らないのはジルも同じだった。

 

 

 爆音が轟くと同時に、海魔だったものが飛び散る。

 

 バチバチと空気を裂く、青白い稲妻。

 その奥で、死んだはずの人物が銃口を向けていた。

 

「こいつら意外と速い……」

 

 淡々とした声が、動揺すら与えていないと物語っていた。

 

 リーダーがしたことは単純。回避と反撃だ。バックステップで海魔を避け、武器を変形。そのまま丁度セットされていた雷属性のバレットを打ち込んだ。

 相性の危惧もあったが、そこは「爆破系は大体強い」という脳筋思考が功を奏した。

 

 ジルは剣にばかり注目してしまったが、彼女が持つ武器は剣だけではない。第二世代の神機使いは銃形態も扱えるのだ。

 

 そもそも、ジルは大きな勘違いをしている。

 

 リーダーが操る神機は、同じく神の名を持つアラガミを材料に作られている。その材料を集めたのは彼女自身だ。屠り葬り狩り続け、そうして完成した神機の一つが機械剣ビヒモスである。

 

 

 神の運び手など、見当違いも甚だしい。

 

 彼女は神の敵対者──神を喰らう者(ゴッドイーター)である。

 

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