かつて極東には聖杯戦争があったらしい   作:つどい

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不審者ども

 

 弱い。

 

 サイズは大型のアラガミくらいだが、その耐久度は小型以下。一撃で消滅するなど、この時代のアラガミはペットにでもされていたのか、と疑ってしまうほどだ。

 

 精神に訴えかける見た目は私の時代にはいないタイプだが、見慣れればどうということはなかった。

 

 攻撃手段は口らしき器官による捕食と、触手による捕縛のみ。攻撃を繰り出す前の姿勢さえ見極めれば、回避は容易いものだった。

 

 急加速で肉薄し、正面から袈裟懸けに斬る。その間に別の個体から伸びてきた触手を回転切りの遠心力で躱しつつ、移動先にいる個体を水平に両断。すると丁度背後に追いつかれるので、振り向き様に剣を振る。

 余裕があれば【シュトルムカノネ】に交代し、密集した場所にありったけ連射。まとめて吹き飛ぶ様子は見ていて少し気持ちいい。

 

 だが強弱とやりやすさは別だ。隙を見ては銃弾を人型に打ち込んでいるのだが、新たなアラガミが発生して肉壁になってしまう。

 

 いっそ多少の負傷は覚悟の上でバースト化するべきだろうか、と悩んでいる時だった。

 

「……リュウノスケ、ここは退きましょう」

 

 そんな言葉が聞こえてきたと思ったら、アラガミの量が一気に増えた。このままでは決着がつかないと思ったのは相手も同じらしい。

 

 だが数が増えただけで、攻撃手段は変わらない。なら時間短縮を目指すだけだ。さっさと倒して追いついてやる。

 

 そう結論づけて処理していたのだが、

 

「く…………COOL!サイッコーにCOOLだよ!」

 

 無邪気な興奮を浮かべながら、青年が叫んだ。

 アラガミの動きが一斉に止まり、私も神機を降ろす。彼の隣にいる男はというと、魂が抜けたように呆然と突っ立っていた。

 

「アンタ名前は!?やっぱ人間で練習したの?その武器ってオーダーメイドってやつ?」

 

 アラガミの迷路を駆け抜けた青年は、キラキラした表情で質問を投げかけた。

 

「そ、そうだね。オーダーメイドかな」

「だよなぁ。こだわりって大事だもんな」

 

 一人でうんうんと納得している様子の青年。

 だがもう一人はというと──

 

「リュウノスケ。それは私より彼女を選ぶということですか?」

「あー……ごめん、旦那。俺やっとわかったんだ」

 

 青年は申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

「今まで色んな死を見てきたけど、違ったんだ。他人の死はその人のもので、見てるだけの俺が理解できるはずがなかったんだよ」

 

 そして、なぜか私を見て続けた。

 

「俺は他人の死神だった。でも求めるべきは俺自身の死神だったんだよ」

 

 よくわからないが、二人には通じる話なのだろう。まるで私に殺されたいと言っているように聞こえるが、きっと気のせいだ。

 そもそも殺しに来ないなら敵対する気はないし……。

 

「あ、もちろんセイハイ?を見つける協力はするよ。これでハイさよならってのも虚しいし、旦那には良い刺激貰ったからね。借りは返したいっつーかさ」

 

 和解ムードに突入し、ようやく話し合えそうだと安堵する。

 もちろん彼らを見送るつもりはない。できる瞬間に情報収集をしておかなければ、今の私に連絡手段はないのだ。それにセイハイに関する情報は早めに知っておきたい。

 

 私は無言で事の顛末を見守ることにした。

 それが良くなかったのかもしれない。

 

 

「そうですか。いえ、よくわかりましたよ。

 

 ──私を裏切るのですね」

 

 

 残念ながら私は気配を読み取ることはできない。アラガミを探すときは目視か錠剤、制御ユニット頼りで、事前に察するなんて特技はない。

 戦場に出た回数も百では足りないくらい経験しているが、戦士としての勘はこれっぽっちもない。

 

 けれど反射神経には自信がある。

 

 足元で蠢く影を捉えた瞬間、全力で青年を引っ張って後退した。

 

「ぐえっ」

 

 すると私達がいた場所にボコボコと血潮が広がった。その中から巨大なアラガミが、うっそりと生えるように現れる。牙のような襞がついた触手。口らしき器官。今までと同じ個体だが、圧倒的に大きさが違う。こいつは一撃では倒せなそうだ。

 

「失望しましたよ、リュウノスケ。慈悲など不要でしょうが、せめて贄になりなさい」

「そんなっ、違うんだって旦那!……旦那!?そこにいるんだろ!?」

 

 悲痛な面持ちで青年が叫ぶ。

 だがいくら待っても返事はなかった。

 

 仲間割れだろうか。あの男、青年が私に話しかけたのが相当気に入らなかったらしい。だからってこんな置き土産は欲しくなかった。というか私は話しかけられただけなんだけど……。

 

「とばっちりだ……」

「いやぁ、ほんとごめん。でもアンタなら倒せるでしょ?」

「どうかな。やってみないとわからないよ」

「うーん、あのレベルで謙遜かぁ……」

「?」

 

 大型版はウネウネと触手を揺らし、こちらを誘っているようにも見える。だが馬鹿正直に戦ってやるつもりはない。どうせ待ってくれるなら盛大にもてなしてあげよう。

 

「君、ちょっと目を瞑ってくれる」

「え?なになに、俺何かされちゃうわけ?」

「瞑らないなら潰してあげようか」

「了解であります!」

 

 ポケットから取り出したのは、使い慣れたスタングレネード。一気にカタをつけるも良し、攻撃の隙を作るも良しな便利グッズである。

 そもそも目があるのかわからないが、試すだけタダだ。どうせ在庫(おかわり)はいっぱいあるし。ダメだったらホールド地獄にしてやる。

 

 ピンを抜いて、地面に叩きつける。地下だったせいか、空間を白く染めた光は目を閉じていても強烈だった。これには触手も怯んだようで、頭上で星が回っている。

 

 ここからが勝負だ。

 時間ギリギリまで切り続けて、少しでも体力を削る。かといって触手の餌食になってしまうのは本末転倒だ。意識が戻るタイミングで再度混乱状態に陥れ、無防備になった敵を蹂躙する。

 

「Giaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 終わりが近いのか、断末魔の叫びをあげながら最後の抵抗を見せる触手。

 だがダメージを負い続けて鈍くなった動きはスローモーションのようにもたついていて、喧しい口に照準を合わせるのは簡単だった。

 

「Gi、ia」

「うるさい」

 

 ドン、と吸い込まれるように銃弾が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近の男の子は細いのねぇ。大したものはないけど、たくさん食べて頂戴」

「いやぁ、手料理食べるのなんて何年ぶりだろ?このスープとか超おいしいっスよ!ザ、家庭の味!って感じで」

「あらあら、明日はもっと頑張っちゃおうかしら」

「一気に賑やかになるなぁ。ああそうだ。マーサ、彼の部屋なんだが……」

 

 老夫婦と一人の青年が仲良く会話している。

 一見すると家族団欒の光景だが、青年は居候が連れて来た他人である。お世話になっていて言うのもアレだが、人を信用しすぎじゃないか、この夫婦。

 

「おい」

 

 声変わりしきっていない、やや高めの声。不機嫌そうに腕を組むウェイバーは、ドアの隙間から様子を見ていた私を二階に引きずった。

 

「なんてもん連れて来てんだよ!絶対わざとだろ!?」

 

 部屋に入るなり、ウェイバーは噛みつくように声を上げた。

 

「ああもう、邪魔するなって言ったのに!やっぱりわかってないじゃないか!しかも、よりによってま……ぁ、アイツを連れて来るなんて……はぁ、お前本当はこっち側の人間じゃないのか?誰かに依頼されて僕の邪魔しに来たんだろ」

「これ何の植物?」

「聞けよ!のんびり屋さんか!?」

「あ、造花じゃないんだ」

「本格的に追い出すぞ」

「ごめん、ちょっと好奇心が疼いて」

「ただの観葉植物だろ……」

 

 植物に触る機会なんてそうそうない。公園の落ち葉さえ集めたくなってしまう私にとって、葉の感触は貴重だった。

 

 この世界に来て数日経ったが、まだ慣れないことばかりだ。潜入捜査でもないし、無理に溶け込む必要はないのだが……なんだろう、場違い感がある。

 

「そうだ、あの人と知り合い?ずっと避けてるみたいだけど」

「なわけないだろ、初対面なのに」

「本当に?」

「本当だよ。疑いすぎじゃないの?向こうだって僕のこと知らないだろ」

「……じゃあなんで隠したの?」

 

 それ、と赤い手の甲を指さすと、ウェイバーは飛び退いた。街で見かける野良猫といい勝負ができそうだった。

 

「お、お前、令呪が見えるのか!?」

「レイジュ……?」

「やっぱりこっち側の人間じゃないか……!すっかり騙された……記憶喪失のフリして僕を殺す機会を窺ってたんだ……!」

「えっと、落ち着いて……」

「ち、近寄るな!ライダー!ライダー!」

 

 何の呪文だろう。いや、一単語で洗脳するのは難しいか。

 それでも身構えていると、突如として右側──テレビがある方向から威圧感を覚えた。

 

「全く、それでも余のマスターか?小娘一人に怯えるなど嘆かわしい」

 

 燃えるような赤毛に、見たことのない奇妙な服。だが目を引くのは男の体そのものだ。屈まなければドアすら通れなそうな長身に、全身を覆う圧倒的な筋肉。色んな意味でウェイバー三人分はありそうな巨漢が腕を組んで佇んでいた。

 

「…………新しい入居者?」

「妙案だな!さっそく夫妻の許可を取るとしよう」

「待て待て待て!お前らなんで僕の許可は取らないんだよ!」

「留守だったから聞けなかった」

「余の覇道は誰にも止められんのだ」

「喧しいわ!今後一切、絶対、頑固として、僕は許さないぞ!」

「おぉ、少しはらしいことが言えるではないか」

「これ以上心労を増やされるのは勘弁だ!大体もう空き部屋はないんだから……ていうかライダーに寝床は必要ないだろ」

「何を言う。せっかく目の前に知らない世界が広がっておるのだ、味わわねばもったいないではないか。お主もそう思うだろう?」

 

 ウェイバーに抱きつかれながらドアに進もうとする偉丈夫と目が合い、私は表情を引き締めてスッと右手を出した。

 

 互いの眼光が全てを物語り、もはや言葉は不要だった。

 そしてパァン!と掌が強い衝撃音を発する。

 

「そこ!なに強い握手交わしてるんだよ!」

「お主、名は何という」

「じゃあリーダーって呼んでください。貴方は?」

「余は……そうだな、ライダーと呼んでくれ」

「あ、名前だったんだ」

 

「お前ら僕を無視するなーー!!」

 

 





今回の装備

刀身
【機械剣・ビヒモス】
膨大な力を放出し続ける機械剣[氷・爆]
氷・雷の二属性を持つロングブレード。付属スキルが「体力↑大」「オラクル↑大」「器用」と至れり尽くせりだが、氷と雷が弱点のミッションが少ないため実はあまり使わなかったりする。
ビヒモス…旧約聖書に登場する陸の怪物

銃身
【シュトルムカノネ】
雷獅子の怒りがこもるという帝砲
付属スキルで体力がかなり増えるが、剛○タワーの付属スキルと被るのが難点。
Sturm kanone…ドイツ語で「嵐の砲」

装甲
【剛雷タワー】
周囲の物体から電力を集める絶甲

強化パーツ
【特殊移動】
空中ジャンプができる。あとスタミナがちょっと増える。
【オートエイム】
自動照準機能。とても助かる。強化パーツの一枠は大体コイツ。
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