真剣で家族に恋しなさい!    作:HidEnd

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新しい家族

あの日、自己紹介を済ませた俺たちは何をするのにも一緒だった。

勉強するときも、遊ぶときも、家事を手伝うときも。

 

ただ、一つ気に入らないことがあった。

新しい家族、一子のことだ。

 

一子を見ていてわかったのだが、こいつは泣き虫だ。

わからないことがあると泣き、転ぶだけで泣き、仲間はずれにされると泣く。

 

そんな一子だったから、この結果は当然だったのだろう。

一子は、俺たちがいないところでいじめられていた。

 

まあ、俺と忠勝に知られた時点でそいつらは粛清対象となったわけだが。

 

「……一子。大丈夫か?」

 

心配そうに、問いかけるのはツンデレ忠勝。

 

「ひっく……、だいじょうぶ。あ、ありがとう」

 

「一子、いいのか?あいつらを許しても」

 

そう、一子はいじめられていたにも関わらず、そいつらを許したのだ。

 

「いいの。わたしにもげんいんはあるとおもうし…、わたし、泣き虫だから」

 

一子は、そういう奴だった。

泣き虫で、でも優しい奴で。だから俺のことを気にかけてくれたのだろうが。

 

 

 

そうして日々が過ぎていき、俺たちのなかで一子が真っ先に里親を見つけた。

その人は優しそうなおばあちゃんで、この人になら一子を任せられると思った。

 

ただ…、問題は一子の方にある。

 

「やだよぅ…、タッちゃんときょうやと離れたくないぃ…」

 

やはりこいつは泣いていた。

本当にどうしようもない泣き虫だ。

 

「一子、心配すんな。別に一生あえなくなるわけでもないだろうが」

 

「そうだ。会おうと思ったら、いつでも会えるさ」

 

「ほんとう?」

 

悲しそうに瞳をふせてこちらを見る一子を見て、俺たちは同じことを考えたに違いない。

やはり、俺たちは離れられない運命にあるのだろうか。

 

おばあちゃんに手を引かれていく一子は、ずっと寂しそうだった。

 

 

 

一子が孤児院を出て行き数日がたったある日のこと。

俺たちは色々考えていた。

 

一子が引き取られた先は、川神市。

だから俺たちはそこの里親を探していた。

 

忠勝は比較的運が良かった。

この孤児院に、後継者を探しているといういかにも胡散臭い親父がやってきた。

 

何でも代行業というものを営んでいるとかで、芯のある子供をさがしているらしい。

 

そこで自ら名乗りを上げたのが、忠勝。

 

その親父は忠勝の目をしばらく観察したかと思うと、こいつだ!といって、あれよあれよという間に手続きが済んでいた。

 

「……忠勝。なんか怪しいおっさんだけど、だいじょうぶか?」

 

「恭夜。俺は先に川神に行く。……まあ、だいじょうぶだろ」

 

「ああ、一子にあったらよろしくな」

 

「おう」

 

そうして俺たちは拳を交わし、別れの挨拶を済ました。

忠勝が去るときの背中は、どこか遠くへ行ってしまうような気がした。

 

 

 

一子と忠勝がいなくなって数ヶ月がたってしまった。

まさか、やはり、俺が最後まで残ってしまったか……。

 

こんなところで、生まれつきの体質が邪魔をした。

そう、この莫大な気。大人をも萎縮させる威圧感。

 

こんないかにも只ならぬ人生を送ってきたと思わせる子供を引き取ろうとする奴なんぞ、誰一人としていないのは明白だった。

 

周りの奴らはどんどんと里親を見つけ、この孤児院では俺が一番の古株となっている。

 

だから、俺は外へと出ることにした。

自ら俺を引き取る奴を探そうと思ったのだ。

 

あては無かったが、それでも早く一子と忠勝に会いたかった。

まだ家族と思えるのはその二人だけだったから。

 

そうして街をうろついていた時のことだ。

どこを探しても引き取ろうとするやつなんかいなかった。

いらいらしていた俺は、自分も気づかないうちに気をあたりに撒き散らしていた。

そうしていて、俺でも感じたことの無い、莫大な気の塊が近づいてきた。

 

これは、俺と同等ぐらいの気か?

 

「ほっほっほ。……なんとまあ、ものすごい気を感じるかと思ったら、このような子供とはのう」

 

「誰だじじい?」

 

「……最近の子供はかわいげがないのう」

 

俺のような子供がいるのだろうか?

そういうやつを知っているといった顔だった。

 

「わしの名は川神鉄心。おぬしの才、ほうっておくには惜しい」

 

「!?……待て。川神といったか?」

 

「ほう、知っておるのか?」

 

「まさか、川神市に住んでいるのか?」

 

「住んでるも何も、わしは川神院総代じゃぞ」

 

ふふん、と威張るようにするじいさん。

 

「そんなことはどうでもいい。川神にすんでるなら、じじい。俺を引き取れ」

 

「どうでもええって、おぬし。わしでも傷つくぞ……」

 

嘆息する。

そして、どうやら養子に迎えてくれるようだ。

正確には、このじじいの息子夫婦が引き取ることになるらしいが。

 

「ここが、川神院か?」

 

「そうじゃ。恭がここの一員になるというなら、鍛錬には参加してもらうぞい」

 

引き取ることになってすぐ、このじじいは恭と呼ぶようになった。

まあ、なんだ。

別に悪い気はしなかった。

 

「じじいーーーー!!!」

 

そのとき、院からものすごい大声を上げて蹴りをじいさんに向かって放つ少女。

 

「ほっ!?何をするかモモ!総代に手を上げるなど厳罰ものじゃぞ!」

 

「知るか!おいくそじじい、私のおやつを勝手に食っただろう!」

 

「ほっほっほ。何を言うか。モモがこの間、勝手に食べた高級羊羹よりかは安いわ!」

 

「そういう問題か!」

 

そして再び蹴りを放つ少女。

俺は、内心共感していた。

 

いや、おやつのことではない。

この強大な気を、俺と同等くらいの気を持つ存在がいることに対してだ。

 

「ん?……誰だこいつ?」

 

「やっと気づきおったか。モモ、おぬしの兄じゃ」

 

「……は?」

 

「俺の名前は川神恭夜。よろしくな、妹」

 

「ふ……」

 

「ふ?」

 

「ふざけるなーーー!!?私に兄がいるわけないだろうが!」

 

「養子にしたんじゃよ、モモ」

 

「……養子?この高名な川神院に養子?」

 

まあ、確かに高名らしい。

じじいが言うには、武術の頂点にたつ場所だとか。

 

「なるほど、確かにいい気だ!」

 

「……なんで喜ぶ?まあ、理由はわかるが」

 

「おお!わかるか、恭夜!」

 

ああ、わかっている。

俺と同じくらいの気を持つこいつのことだ。

今までいろんな苦労をしてきたのだろう…。

 

「とりあえず…、兄といっても同い年だ。ただ先に生まれただけのことだ」

 

そう、もともとじじいに同い年の孫娘がいることは聞いていた。

 

「そんなことはどうでもいい!私と、たたかえ!」

 

「……」

 

なに言ってんだこいつ?

 

「あほか、モモ!気は高いと言っても、武術は素人。勝てるわけなかろうが!」

 

「いたっ、たたくなじじい!」

 

俺の前で広げられる不毛な争い。

俺はこいつらをほうっておいて、師範代と呼ばれている人にここの案内をしてもらった。

 

「うン、確かにすごい気だネ。総代が養子にするにもわかるヨ」

 

この人は、ルー・イー。

川神院師範代という地位についているらしく、感心するようにこちらを見てくる。

 

「生まれつきだからな。……これのせいで俺がどれだけ……」

 

「ん?何かいったかイ?」

 

「いいや、何でも」

 

その日は、何事もなく過ぎていった。

 

 

 

川神に来てから数ヶ月。

俺は色々と考えていた。

一子のこととか、忠勝のこととか、百代のこととか。

 

一子はまだいい。

来てから一日もたたないうちに、見つけた。

以外にも、すぐそこの原っぱであそんでいるのを見かけた。

 

そのときに新しい友達と仲良くやっているようだから、特に声をかけることはしなかった。

 

問題は忠勝だ。

まったく、この川神で出会わない。

もう半年もあっていない気がする。

まあ、さびしいというわけではないが。

気になるのだ、幼馴染、家族として。

 

あいつのことだから余計な心配すんな、といいそうなのでそこまで心配しているわけではない。

ただ、単純に、会いたかった。

 

もう一つの問題が、百代だ。

あれから、ことあるごとに俺にちょっかいを出すようになった。

 

だがこの数ヶ月で俺はわかってしまった。

 

武術の才は、それほどないということに。

これは致命的だ。

川神院の養子として、ふさわしい実力を身に付けなければここにいる存在意義が問われてしまう。

 

じじいは、気にしていないようだが、門下生たちに示しがつかないだろう。

 

だから、俺は積極的に鍛錬に参加していた。

いくら才がなくても、この気だけは百代やじじいを超えているといわれた。

 

これを利用できれば、そこそこ強くなれるというのが俺の見解だ。

なぜなら、気というものの扱いを見せてもらったが、これはありえない、の一言に尽きる。

 

これさえ十全に扱えると、そもそも攻撃がきかない。

それに、気を放出するだけで相手を倒すことも可能。

これに武術の才はあまり関係が無い。

ただ日々の積み重ねで、上達するはずだ。

 

 

 

そうして鍛錬を積み重ねた三年後。

俺は八歳になっていた。

相変わらず、才能はないままだ。

だが一般人より強いのは明らかだ。

そこらへんの武術家にも負けることはないだろう。

 

さらに、気だけは誇れる。

なぜならようやく、わが妹、百代と試合することになったのだから。

 

「恭夜。私は待っていたぞ!この日が来るのを!!」

 

「知っているさ。お前が自分と同じ強さを持つものに飢えていることくらい」

 

「ははっ、楽しみだなあ!」

 

「ずいぶん待たせた。すまなかったな、寂しい思いをさせて」

 

「っ!?……別に寂しくなんてない!ほ、本当だからな!」

 

何故か、頬を赤らめて主張する百代。

最近、俺のことを熱を帯びた視線で見るようになってきた。

いったい、何があったというのか。

 

「両者、準備は良いか?」

 

じじいの声がよく通る。

門下生たちの声も、もう聞こえない。

百代の気合も十分だ。

俺も静かに気を高めた。

 

「もちろんだ!」

 

「ああ!」

 

「それでは、西方!川神百代!」

 

「ああっ!」

 

「東方!川神恭夜!」

 

「おうっ!」

 

「いざ尋常に、はじめいっ!」

 

じじいが開始の合図を出すとともに、こちらにまっすぐ突っ込んでくる百代。

 

「だが、甘い!」

 

単調すぎる。

気だけを入念に鍛えた俺にとって、先の動作を読むことなどたやすかった。

 

「まだまだだっ!」

 

驚異的なスピードで拳を繰り出す百代。

俺はただ回避に徹する。

 

武術の才が無い俺にとって、パワーやスピードは完全に劣る。

だが、気のコントロールだけなら俺が圧倒的に上だ。

 

気を拳に纏わせて、タイミングを合わせる。

 

それだけで衝撃が起こり、距離を離す俺たち。

 

「おいおい、こりゃ半端ねえな」

 

そう声をだすのは川神院師範代、釈迦堂形部。

この人には、ずいぶん世話になった。

 

気の扱いは、この人に教わったといっても過言ではない。

鍛錬中に、少し話しただけで気に入られたのか、色々と気にかけてくれる。

 

院内では評判が悪いが、この人の在り方に俺は賛同をしている。

力は振るってこそ力。

戦闘衝動に身を任せるのも、武道家にとっては当たり前の行動だといえる。

 

少し話がそれた。

 

今、俺の前で楽しそうに笑う百代。

 

本当に嬉しいのだろう。

同い年で、自分と同等に戦える存在が。

 

まあ、俺は百代の何倍も鍛錬をこなして、この領域にいるわけだが。

しかも武道の才はない。

あるのは気の抜群のコントロールだけ。

 

だがそれも極めれば、頂点に立つことも夢ではない。

 

「ははっ、楽しいぞ。恭夜!」

 

「俺もだ!百代!」

 

百代の戦闘衝動が移ってしまったのだろうか。

こんなにも楽しいと思えた。

ただ拳を交わすだけで、気を放つだけで、ここにいるだけで。

 

それでも楽しい時間は終わりを告げる。

 

「はぁ…、はぁ。まさか、ここまでやるとはな」

 

それはそうだろう…。

俺はただ、気を使っているだけだ。

驚異的なスピードも、爆発的なパワーもありはしない。

 

ただ百代の動きを読み、気をコントロールして防御と攻撃をする。

それだけで、互角の勝負をしていた。

 

「俺もそう思っていた。見直したか?」

 

「ああ、正直恭夜には何の期待もしてなかったんだ」

 

「……」

 

「ただ気が異常な量を持っていても、体裁きはいつまでたっても一般レベル。それなのに……」

 

「それなのに、私をここまで追い詰めているんだからな!」

 

そう、もうすでに互角ではなくなっていた。

基本スピードが無い俺は、ほとんど動かない。

ただ気を操っているだけなので、ほとんど体力を失わない。

それも異常な量の気のおかげだ。

 

対して百代は、俺よりは少ない気。

さらに異常な動きで攻撃を加えている。

さらには気のコントロールはそこまでうまいわけではない。

 

次第に体力が落ちてくるのは明らかだった。

 

「楽しいぞ、恭夜!……だが!これで終わらせる!」

 

「ああ、お前の負けだ!百代!」

 

「ほざけ!」

 

互いに気を高めて奥義の体勢を整える。

 

「「川神流奥義」」

 

「無双正拳突き!」

 

百代が繰り出す技は、得意とする無双正拳突き。

 

「星砕き!」

 

俺が繰り出した技は、気を利用した星砕き。

 

気が尽きかけている百代と、まだ余力を残している俺。

どちらが勝ったかは明白だった。

 

「そこまで!勝者、川神恭夜!」

 

だが、負けた百代はずっと嬉しそうに笑っていた。

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