真剣で家族に恋しなさい!    作:HidEnd

3 / 10
川神院という場所

あの試合から、数時間。

百代はすっかりいつも通りになっていた。

 

「さすがだ、恭夜!この私を負かしたんだからな!」

 

「……たまたまだ。今度やったらどうなるかわからん」

 

「ふふっ」

 

負けても尚、嬉しそうに笑う百代が印象に残っている。

やはり、自分と切磋琢磨しうる人間がいたことが嬉しいのだろうか。

 

「そんなことより、もう飯の時間だぞ。百代」

 

「……恭夜!」

 

「何だ?」

 

「やっぱり、私は妹か?」

 

「……そうだな。かわいい妹だ」

 

「……そうか」

 

わかっている。

こいつの気持ちが、妹ではいられないことくらい。

それでも俺は、家族を傷つけるとわかっているから、こう答えるのだ。

 

少しの沈黙の後、百代は俺の手を引いて歩き出す。

 

「ほら、行くぞ。恭夜」

 

そういって振り向いた百代はどこまでも笑顔だった。

 

妹は、強い。

心からそう思った。

 

 

そんな日々が続いたある日のこと。

俺と百代は学校へ通っていた。

 

まあ、俺たちも一応小学生。

これが当たり前の生活なのだが、何か違和感を感じるのは仕方がないだろう。

 

二年C組。

俺たち兄妹はこのクラスに通っている。

 

そして、俺は単独一年の教室へと向かっていた。

そう、今まで川神院のことで忙しかったし、新しい友達も出来ていたようなので

あまり関わらないようにしていたのだが、やはり心配だったからだ。

 

もう一人の妹、岡本一子のことが。

 

「じゃまするぞ」

 

そういって一年の教室に入る。

目的の人物はすぐそこにいた。

 

向こうもこちらに気づいたようで、びっくりした顔をしている。

 

「きょ、恭夜?」

 

「ずいぶん遅くなった。一子」

 

「きょうやーーー!!」

 

抱きついてくる一子。

久しぶりに会えたことが嬉しいのだろう。

 

教室内は唖然としていた。

それはそうだろう、普段泣き虫で通っている岡本一子が見知らぬ人間に抱きついているんだから。

 

「おいワン子。そいつ誰だ?」

 

そこで近づいてくるのはバンダナを頭に付けた少年。

 

「もしかして…、よく話しに出てくる恭夜というやつか?」

 

もう一人、ニヒルさを感じさせる知的な少年。

前、原っぱで見かけた一子と遊んでいた奴らだ。

 

「はじめましてだ。俺は川神恭夜、こいつの兄貴分だ」

 

「えへへー」

 

紹介しながら、一子の頭をなでる。

 

「おう、俺は風間翔一!キャップでいいぜ!」

 

「ふっ、これもまた運命というやつか。……直江大和だ」

 

「恭夜ー、タッちゃんには会った?」

 

「……まだこっちで会ってない。何してるんだろうな」

 

「そっか……」

 

「なんだかわからないが、お前面白そうだな!」

 

きらきらした顔で話しかけてくる風間。

 

「まさか、キャップ?」

 

「おう!」

 

二人で顔を合わせて意思の疎通を図っている。

ずいぶん、こいつらの仲は深いと見える。

 

「どうしたんだ?風間」

 

「恭夜!俺たちの仲間になれ!」

 

「……」

 

仲間というのが、何かはわからないがこちらを喜色満面といった顔で見つめてくる一子を見て

断るという選択肢はなかった。

それに、仲間というよりは。

 

「家族になら、なってもいい」

 

「家族?」

 

「あー、恭夜は何故か家族にこだわるのよね。私もならないか?って言われたし」

 

「なんだか知らんが、いいぞ!」

 

「ふっ、家族か。こういうつながりも悪くない」

 

大和はいつもこんな感じなのか?

と、一子に視線で訴えると、笑ってごまかされた。

 

今、後の風間ファミリーの原点がここにある。

こうして俺たちは家族になったのだから。

 

「よろしくな。キャップ、大和、一子」

 

家族には甘い、と自負する俺は親しみをこめて名前を呼んだ。

それに対して三人はそろって笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

そうして迎えた放課後。

俺はあせっていた。

 

ずいぶん、百代を待たせたことに。

さらにもう一つ、一子と一緒に帰ることになったのだが、百代は許してくれるだろうか、と。

 

「待たせたな、百代」

 

「遅いぞ!恭……夜?そいつ、誰だ?」

 

何故かすごく驚愕した目で見てくる百代。

 

「話したことあるだろう?俺のもう一人の妹、一子だ」

 

「ふ、ふふふ、ふふっふふふ」

 

狂った笑い声を上げる百代。

 

「ひぃっ!?きょうやー……怖いよぅ」

 

そういって再び、俺に抱きつく一子。

 

「おい、百代。あんまり一子を怖がらせるなよ」

 

俺がそういった瞬間、ぶちっという音が聞こえた気がした。

 

「ふ、ふざけるな!!」

 

そのまま殴りかかってくる百代。

 

「!?どうしたんだ?」

 

「妹は、私だろう!?」

 

……嫉妬していたらしい。

妹という立場に我慢できないくせに、こういうことには嫉妬する。

矛盾しているきがするが、まあこいつも一応妹なんだが。

やはり、同い年だからなあ……。

 

「あほか。そんなことに嫉妬してたのか」

 

「うっ。別に、嫉妬なんかしてない!」

 

「ほう、なら別にいいだろう?」

 

「くっ、恭夜め。こんな美少女を泣かせてたのしいのか……!」

 

「どの口が美少女と…、寝言は寝て言え」

 

まあ、美少女だが?

 

「っ!帰ったら覚えてろよ!」

 

妹は、弱かった。

 

「帰るか…、一子」

 

「うん!」

 

そうして、一子と帰った帰り道。

俺たちは今まで会えなかった分のことを話し合っていた。

 

ひさしぶりに会った一子は、泣き虫は代わっていないが、少し成長している気がした。

 

もう一人の家族は、どこにいるのだろうか?

一子に心配させたんじゃ、兄貴失格になるな。忠勝。

まあ、あいつは兄貴以上になりたいと願っていたみたいだが。

 

そのとき、俺は余計なお世話だ、ボケ!と聞こえた気がした。

 

 

 

川神院に帰ってきた。

いつものように、掃除当番の修行僧にねぎらいの言葉をかける。

 

それに低頭して答える修行僧。

最近思うが、俺の立場がどんどん高くなっている気がするのは気のせいだろうか。

 

「恭。おぬし、モモになにいったんじゃ」

 

「あー、じじいか。まあ色々とな」

 

「まあ、後で謝っておくのじゃぞ。それと、釈迦堂の奴が呼んでおる」

 

「釈迦堂のおっさんが?……今から行く」

 

「……恭夜」

 

「?」

 

恭夜と呼ばれるのは初めてだった。

何かあるのだろう。

ただ言葉を待つ。

 

「お前がどんな道を選んでも、孫には変わらん」

 

「!?……はい」

 

じじいには感謝している分、一番楽に話せる存在だ。

一番の家族はこの人だろう。

よき理解者で、よき親として導いてくれる。

俺は釈迦堂のおっさんの話がどういうものかもう感づいていた。

 

とりあえず、おっさんの部屋に向かう俺。

 

「おっさん、来たぞ」

 

「おいおい、……百代でも師範代と呼ぶぞ。恭夜ぁ」

 

「では師匠」

 

「師匠ってお前、まあ違いねえが」

 

「それで何のようなんだ?」

 

「ああ、俺は後数年でここを出る」

 

「!?……それを俺に話してどうする?」

 

「まあ、落ち着けや。俺の武道の思想はこことはあわねえ。どいつもこいつもぬるい考えのやつばかりだ」

 

「……」

 

「近いうちに、衝突するだろうな。まあ、それはそれでいいんだが……。恭夜、俺とこねえか?」

 

「……鉄心のじじいには?」

 

「話してある。お前のこともな」

 

「……さすがだな。あの人はいつでも俺たちのことを理解してる」

 

そう、じじいはいつでも釈迦堂のおっさんと俺の事を見ていた。

どんな思想を抱えているか、俺がそういう考えを持っていることも見抜いているだろう。

 

正直、じじいも反対しているわけではない。

川神院総代としての行動に縛られているだけであり、俺たちを非難しているわけではないのだ。

 

「じじいは裏切れない、だからこそ先に許可を得たのか」

 

俺自身もなじめない部分はあった。

ここで鍛錬を重ねても、結局俺には武道の才はないのだ。

少なからず、俺を正当な後継者ではないと罵るものもいる。

 

結局ここの総代になるのは百代なのだ。

嫉妬するわけではないが、本当にここの人間であったらと思わない日々は無かった。

だから、おっさんについていくのも悪くない選択肢の気がした。

 

「ああ、俺も行こう。だが、どうして俺なんだ?」

 

「はんっ、お前は俺と同じだからな。じじいに拾われ、俺と似た思想を抱く」

 

「それだけじゃないだろ?」

 

「まあな。ま、そりゃおいおいな」

 

「くくっ」

 

「ははっ」

 

やはりこの人は、誤解されやすい人だ。

誰よりも武道に正直なのに、誰よりも武道から遠ざけられる。

誰よりも優しいのに、誰よりも嫌われる。

どこか、忠勝を思わせる雰囲気が心地よかった。

 

俺たちは本当に似たもの同士なのかも知れない。

 

心配なのは百代のことだが…、じじいの言ったように俺が孫であるように、百代は俺の兄妹だ。

そのときが来たなら、自然となるようになるだろう。

 

話を終えた俺は、百代の機嫌を直すために百代の部屋へと向かった。

 

 

 

「百代ー?」

 

呼びかけても返事はなかった。

いつまですねているというのか、この妹は。

 

「……さっきはすまなかった。つい、一子を優先させるようなことをいったな」

 

「……ふん」

 

「許してくれたら、俺のおやつをやろう」

 

「そ、そんなものにつられるわけがないだろ!」

 

「……いまなら、俺と一緒に寝ていい権利もつくぞ?」

 

言った瞬間、ドアが開かれる。

 

「本当か?」

 

「本当だ」

 

「……ずっとだからな!」

 

「……ああ」

 

今は、これでいい。

百代とじじいと、この院のみんなが俺の家族だということに変わりは無いのだから。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。