あれから、京が泣き止んだ後、色々な話をした。
今読んでる本の話だとか、何が好きで、何が嫌いか。
俺たちのグループにも入らないか、と誘ったのだが自分の力で何とかしたいらしい。
たった数時間で強くなったものだ。
俺と話しているときの京は、教室で見たときより何倍も明るく見えた。
話を終えたころには下校時刻を過ぎており、荷物を取りに学校へ戻り、一緒に帰ることに。
終始、京は笑顔で俺と話をしていた。
京が俺の家族となって、色々環境が変わり始めた。
まずは学校での京の扱いだ。
あの川神百代の兄として知られている俺がいるからか、椎名菌などという奴はもういなくなっていた。
相変わらず、岳人や大和は関わろうとはしなかったが。
だがその代わり、目に見えないいじめが始まった。
話しかけられても無視をしたり、京の私物に罵詈雑言を並べ立てたり。
京は俺に言うことはなかったが、周りの反応でいやでも気づく。
犯人を探し出して、徹底的に痛めつけてやったが。
そんなことがあってからは、悪口も言われなくなったらしい。
だが、無視は相変わらず続いているようだった。
いつか、京の理解者が増えることを祈るばかりだ。
俺たちは相変わらず原っぱで遊んでいる。
大和とは、この前のことがあってから少し気まずくなってしまっているが。
「なあ、おかしくねーか?この草どんどん大きくなってる」
気づいたのはキャップだった。
「たしかにな、前まで2メートルぐらいだったはず」
「3メートルぐらいあるね。背伸びてるね」
「夏だから成長してるんじゃない?そんなアタシも成長してるわ!」
「そーかぁ?ちんちくりんじゃねえか」
「岳人、一子の悪口を言ったか?」
何か聞こえた気がするが気のせいのはずだ。
一子の悪口をいう馬鹿などここにはいない。
「い、いや。言ってないぜ」
その草は二ヵ月後には5メートルくらいにまで成長していた。
あまりにも成長が早すぎるので、俺たちはこの草が何かお化けの類かなどと話していた。
最終的には百代がじじいを呼んで、それがリュウゼツランと呼ばれる花だということを知った。
それはもうすぐ咲くらしく、皆でこの花を見ようと約束したのだ。
「いいなぁ、私もその花一緒にみたいな」
「京も来ればいい」
俺はいつものように、俺たちのことを見つめていた京と会話をしていた。
「私なんかが行って迷惑じゃないかな?」
「……迷惑なわけないだろ。そんなこと言う奴は俺が殴る」
俺たちはもう完全に、家族と呼べる間柄だった。
俺は家族にしか話さない口調で、京は俺になら何でも話せるというふうに。
「……ふふっ」
「どうした?京」
「うん。この前、直江君が話しかけてきてくれたんだ」
「大和が?……何を話したんだ?」
俺はずいぶん驚いた、あの大和が京に話しかけたことに。
このまえ言ったことに、何か感じたのだろうか。
「本の話とか…、いろいろ」
「そうか」
そのときの京は嬉しそうに語っていたにも関わらず、顔は暗かった。
やはり、何か言われたのだろう。
大和は体裁を気にするから、学校では話しかけるなとでも言ったのだろうか。
「京。お前も絶対来い、約束だ」
「…うんっ、約束する」
そうして花が咲く前夜。
川神には大型の台風が来ていた。
俺たちはこっそり家を抜け出して、リュウゼツランの様子を見にきている。
「なぁ!リュウゼツランは普通に栽培されてるらしいぜ!今回駄目でもどっかで見ればいいだろ?」
大和はそういったが、キャップがそれを否定する。
俺もそうだ、京と約束したこの花じゃないと意味が無い。
「百代。俺たちでみんなを守るぞ」
「ああ。姉は心強いものだからな」
そうして皆でリュウゼツランを風のあたらないようにして、俺と百代は飛来物の処理をしていた。
そうしていると、意外な先客が現れる。
「……あ」
それは京だった。
この台風にも関わらず一人できたらしい。
「あぶねーからけーれ!」
「いいよ手伝え!人手は多いほうがいい!」
「……うん!」
完全にリュウゼツランを保護し終え、俺たちは帰路につく。
「よし、まずは椎名とワン子を家に帰すぞ」
百代はキャップと大和、卓也を連れて帰り。
俺は岳人と一子、京を連れて帰る。
「じゃーな、恭夜。ワン子を頼んだぞ!」
「ああ」
仲間の心配を欠かさないのがこいつのいいところだ。
少し、自重して欲しい場面が多いが。
「じゃーね、きょうや!椎名さんも!」
一子は俺と京に向かって大きく手を振って、別れの挨拶をする。
京も声をかけられたのが嬉しいらしく同様に手を振っていた。
「京、明日皆で写真を撮るんだ」
「…うん、私も行く」
「……そうか」
力強く京は返事をしてくれた。
もう、京は大丈夫だろう。
後は、大和や岳人がどういうかが心配だった。
翌日。
「はーい、みんな並んでー!」
岳人のお母さん、島津麗子さんだ。
この人は昔は強かったらしい、じじいに聞いた。
やはり親子だな、と思ったのは記憶に新しい。
リュウゼツランはちゃんと咲いていた。
50年に一度という割には、そこまできれいな花ではなかったが俺たちにとって大切な花だ。
「これは俺たちが守った花だ!何もしなくても咲いたとか言う考えはなしで!」
「ずうずうしいけどその方が楽しいよね」
「俺たち皆が力を合わせたからこその結果だ」
「よし、お前ら集合!写真撮るぞ!」
空き地の入り口に、京の姿が見える。
まだこっちにくることをためらってるようだ。
「京!……写真撮るぞ!」
「ああ、お前もこいよ!」
俺とキャップの声に反応しているが、なかなか足を踏み出せない。
「大和、お前に怖がってるフシがある。お前が連れて来い」
キャップがそういって、しぶしぶ大和は京の下に。
京がこちらに来ると、みんな歓迎の声をあげてくれた。
これをきっかけに京の仲間になってくれればいいが。
「じゃあ、撮るよ!」
百代は大和にちょっかいをかけながら、岳人は堂々と、卓也は隣の京を意識して、キャップはポーズを決めて、一子は拳を前に、俺はそんな皆を見守るように。
「次に咲くのは50年後か」
「おじいちゃんだね」
「ま、わたしは壮絶な修行のおかげで若々しいままだろうが」
「よし!また50年後、ここで写真を撮るぞ!」
「うん、楽しみ!」
俺たちはここで誓う。
50年後にまた、そろって同じポーズをとって写真を撮ろうと。
これが俺たち家族のリュウゼツランの誓い。
さて、そんなことがあってからの翌日。
いつものように学校へと来たわけだが…。
今日は、なんとなくいやな予感がしていた。
「おー、恭夜!どこいくんだ?」
「百代、ちょっと中庭のほうにな」
「?気をつけてなー」
些細な危機感だった。
虫の知らせだろうか、それでも気になったから中庭の方へ。
そこで目にしたのは、久しく見ない光景だった。
京が少年たちに囲まれて、罵詈雑言の言葉を並べ立てている。
その近くにいるのは、大和。
何をしているのか、深い後悔の顔だ。
ここに来てやっと理解したのだろうか。
大和が中途半端な思いで、京に話しかけ、学校では無視の意を示す。
すこしでもやめろというべきだった。
でももう大和はいえる。
一度後悔した大和はすぐに行動に移した。
椎名京という少女を救うために。
「どうしたんだ?恭夜」
「……キャップか」
「あれ、大和と椎名じゃねーか!?」
「ああ、行くか」
「おう!」
キャップと俺は、大和に殴りかかろうとしていた奴を吹っ飛ばす。
「キャップ!恭夜!」
「へっ、面白いことしてんじゃねーか、大和!喧嘩なら俺も誘え!」
「大和…、家族になる覚悟は出来たか?」
「……正直、家族とかはわからん。ただ中途半端ではいられないことはわかった」
「……そうか」
「ニヒルももうやめだ。そんなんじゃ誰も救えない」
「恭夜…、ひっく、ううぅぅ」
やはり俺は甘いのだろう。
京が泣いてる姿を見るだけで、少年たちに容赦はすることはない。
一般人だろうがそんなことは関係ない。
ただ、家族の敵を排除するのみだ。
「キャップ、大和。やるか」
「おう!」
「ああ!」
それからはあっという間だった。
俺という存在がいる以上、少年たちの命運は決まったようなものだ。
騒ぎを聞きつけた教師たちが駆けつけるまで、俺はそいつらを殴り続けた。
京の悲しみをぶつけるように、京の思いを味わわせてやるために。
「京、もうお前をいじめる奴はいない。そうだろ?大和」
「ああ、椎名を俺たちのグループに入れよう。いいよな?キャップ」
「おう!もちろんだ!」
「……あり、がとう」
涙交じりの声でお礼をいう京は、それでも笑顔だった。
それからは大和の情報操作によって、学校へうわさがめぐった。
あの椎名が、風間たちのグループに入ったと。
それだけで少年たちはいじめるのをやめた。
川神百代と川神恭夜の報復を恐れたためだ。
それに、実際殴られ続けた奴は全治三ヶ月の怪我を負ったということもあって、尚更危害を加えるやつなどいなかった。
その代わり川神恭夜は職員室へと呼び出され、叱りを受けることになったのだが。
その数日後、椎名京はほんの少しであったが笑う姿がたびたび目撃される。