真剣で家族に恋しなさい!    作:HidEnd

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ただの獣となることを

俺が感謝すべき人間は山ほどいる。

まあ、もちろん鉄心のじじいや釈迦堂のおっさん、ルー師範代や百代もその中に含まれる。

 

そして、俺が孤児院で過ごしていた一子と忠勝、今は一子関連で感謝しなければならない人間がここにいる。

 

 

「あなたが恭夜君かい?……一子から話は聞いてるよ」

 

そう、この老婆。

一子を引き取ってくれた人である。

 

「いえ、一子を引き取ってくれたこと、兄貴分として元保護者として感謝しかありません」

 

「そんなに固くならなくていいのよ。私が好きで引きとったんだから」

 

「恭夜ー、お菓子いるー?」

 

「ああ、頼む」

 

「……あの子も最初は泣いてばかりいてねぇ。恭夜君と忠勝君の話ばかりしていたんだよ」

 

「……それは、嬉しい話で」

 

「それが最近になって、恭夜君に会えたからか元気になってねぇ。いつもあなたのことばかり話すよ」

 

一子らしい話だ。

忠勝に会えたら同じようなことになるだろう。

 

「おばあちゃん!恭夜に言わないでって言ったのにぃ」

 

「すまないねぇ、飴あげるから許してくれないかい?」

 

「わー!ありがとう、おばあちゃん!……ぐまぐま」

 

さすが一子の引取り人。

扱いに長けている。

 

「それでね……、恭夜君。実は、わ……ごほっ、ごほっ!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「おばあちゃん?」

 

急に咳き込み出したので、俺と一子があわてて駆け寄った。

 

「だ、大丈夫……。ぐぅっ!」

 

さらにはうめき声まで出す始末だった。

これは異常すぎる、俺は狼狽する一子をなだめて救急車を呼ぶ。

 

「ど、どうしよう!恭夜、おばあちゃんが!」

 

「……落ち着け!一子。今、救急車をよんだ」

 

「……きょ、…うや、くん」

 

小さくかすれた声で俺を呼びかける。

 

「……!?」

 

「一子の……こと、たのみ、ますね」

 

「……恭夜!おばあちゃん、何て!?」

 

俺はただ立ち尽くすしかなかった。

隣で叫び続ける一子。

救急隊の人が駆けつけてくるまで、ただ呆然としていた。

 

病院に着くと、あわただしく医者や看護師たちが駆け寄ってくる。

俺に医療の知識はないので何を話しているのかはわからないが、良くない状態であることだけはわかる。

となりで震える一子の手を握ってやり、ただ手術中というランプの前で立ち尽くす。

 

そこで聞こえた話によると、もう遅すぎると。

それが聞こえた一子は、ただひたすらに泣きじゃくる。

俺は両親の死とは違い、何か心に穴ができたような、そんな気がした。

 

程なくして、俺が呼んでおいた川神院の連中がやってきた。

百代は一子の姿を確認すると、ただ抱きしめてやり、じじいやルー師範代はただそれを見守っていた。

 

 

 

 

 

そのまま一子のおばあちゃんは亡くなった。

俺たちは、つながりのあった俺たちグループのみんなにそのことを伝える。

 

突然の一子の親代わりといえる人の死は、少なからず皆に影響を与えたようだ。

暗い雰囲気の中、あっという間に葬式の日取りが決まり、俺たちはそれにさんかした。

 

そこで問題になったのが一子の処遇である。

一子はもともと孤児なので、親戚はいない。

岡本の親戚では、誰も引き取ろうとする物好きはいなかった。

いや、ただ一人いたか。

とても濁った目をした男だ。

一子のことを女としての対象としてか見ていない下種な奴だ。

 

「やだよぅ。アタシ、あんな人のところに行きたくない!皆と一緒にいたいよ」

 

「……どうにかなんないの!?このままじゃワン子が!」

 

「どうにかするしかない。だが、いったいどうする?」

 

「くそっ、あんな奴にワン子をやれるか!」

 

「そうだよ!あんな奴のところにいったら、ワン子絶対だめになる。私はわかる」

 

「……」

 

「百代?……どうした」

 

「……私に任せろ!」

 

百代が突然声を上げる。

皆はそれぞれ一子の心配をしているが、俺たちにはできないことはないと信じている。

今回も、百代と俺という存在がいたなら即解決できる。

だが、俺としてはそれは賛成できない手段だ。

 

「まさか、百代。お前……」

 

「ああ!ま、私がいれば大丈夫だ!」

 

百代のその自信に皆、希望がわいたようでそれぞれ百代へ信頼の意を示す。

一子にいたっては、救いの目だ。

だが、俺は……。

 

 

 

 

 

皆と別れて、川神院に帰ってきた俺たち。

百代は、早速自信の根拠を試そうと思ったようで鉄心のじじいに話しかける。

 

「じじい、ワン子をうちの養子にできないか?」

 

「……モモ、ここがどこだかわかっておるのか?」

 

「わかってるさ、ここは高名な川神院。武術の才がないやつはいらないと言うのか?」

 

「そうじゃないわい。無理に武術をやらせたりはせん。じゃが、あの子はここでやっていけるかのぉ?」

 

「大丈夫だ、私がいるからな!」

 

「……待った」

 

「どうした恭夜。お前もじじいに何かいってやれ」

 

百代はまさか、俺が反対するとは思っていないだろう。

何せ俺が一番かわいがっているのは一子なのだから。

 

「……俺は反対だ」

 

「!?……お前、何言ってるのかわかってるのか?……このままじゃワン子はあの男の下に行くことになるんだぞ!?」

 

「……それでも俺は一子を養子にするのは反対するしかない」

 

百代は見るからに怒りの感情をあらわにしている。

あそこまでワン子のことを気にしていたじゃないか、と。

じじいは俺の言いたいことがわかっているのだろう、ずっと黙ったままだ。

 

「ワン子はどうなる!?……お前、あいつを妹のように思ってたんじゃなかったのか!」

 

「百代、お前は知らないだろうがな。ここの養子になるということは、絶対に避けては通れないものがある。

武術の才が無いとわかれば、一子はみんなから白い目で見られるだろう。なぜこんな子を養子にしたのか?とな」

 

「……私たちが守ってやればいいだろう!?」

 

「……それだとお前の立場が悪くなるだろうが。お前は次期総代候補だぞ!」

 

「ふん、そんなことで総代になれなくなるなら、お前がなればいいだろう!」

 

「……わかった、じじい。いいな?」

 

「ふむ、いいじゃろう。そろそろ時期が来たというわけじゃな……」

 

「?……何の話をしている?」

 

「……川神百代!総代候補、川神恭夜が次期総代の名をかけて決闘を申し込む!」

 

「……な、何を言ってるんだ!?そんなこと今は関係ないだろう!」

 

確かに関係はない。

一子を利用するようで悪いが、川神院のため、百代のため、一子のためにやるしかない。

 

「これに勝ったら、俺は一子の養子を認めると共に総代の名をお前に譲る」

 

「!?……やってくれるな、恭夜。そこまでワン子のことを認めない気か!」

 

「モモ!落ち着くのじゃ、……川神院総代の名においてこの決闘を許可する!」

 

「もう一つ、これに俺が負けた場合。俺はここを出る」

 

「何だと?」

 

「前々から考えていたことだ。俺が総代になれないなら、ここにいる資格はない。一子のことも同じだ」

 

「……ふざけるな!総代の名に何の価値がある!?ワン子より大事だというのか、お前は!?」

 

「そうだ!川神院総代は伊達や酔狂で名乗っていいものじゃない!」

 

「……いいだろう、恭夜。今度は、私が勝つ」

 

「ああ、望むところだ」

 

「決闘は明日、両者それで良いな?」

 

「「応っ!」」

 

 

 

 

 

ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!

何がワン子の養子を認めない!?

総代になれないならここにいる資格が無い!?

あれは本当に恭夜か!?

私が唯一認めた、あの恭夜なのか。

ワン子を一番に考え行動する奴の考えだとは思えない。

 

私が勝ったら、恭夜はここを出る、その代わりワン子が養子になれる。

私が負けたら、ワン子は養子になれず、恭夜が川神院総代の座につく。

 

私にどちらかを選べというのか!恭夜!?

 

そもそもなぜこうなった?

私たちはただワン子を心配していたはずだ。

なのに、なぜ私たちが戦うことになってるんだ。

次期総代の名がそんなに大切だというのか、恭夜?

 

それに、お前が私に勝つことはもうないだろう。

実力の差がありすぎる。

前回は私が負けたとはいえ、それはまだ今よりも小さいころだ。

体がまだ完全ではなかった、だからこそ気の扱いがうまい恭夜が勝ったのだから。

 

お前は何を考えているんだ、恭夜。

 

 

 

 

 

今の俺にできることはこれだけだろう。

正直、総代の名などに興味はなかった。

一子のことは気にかかる、だが同時に川神院での百代の立場はどうなる?

 

ただでさえ釈迦堂のおっさんの影響を受けてる百代が、川神院でよく思われてはいない。

俺と百代、どちらが総代にふさわしいか、おそらく俺のほうに票は流れるだろう。

でも、それではだめだ。

じじいの孫は百代だ。

俺はただの養子、家族であるのには変わりないが、やはり総代となると正当な後継者を選ぶべきだ。

 

そもそも俺には武道の才がない。

俺は今回の決闘、勝つことができないだろう。

もう百代の体裁きに体が追いつかないのだ。

パワー、スピードはあの頃となんら変わってはいない。

体裁きで言えば、俺は川神院最低クラスだ。

気の量、気の扱いだけで勝てるわけがない。

 

百代もそれに気づいているだろう。

もしかしたら俺の思惑にも気づくかもしれない。

 

そして俺が負けることによって、川神院での百代の立場はより強固となる。

前回百代に勝ってしまったせいで、実力が俺のほうが上だという認識が強いのだ。

ここ川神院は、実力主義。

勝ったほうを認めざるを得ないだろう。

 

百代は次期総代として一子をかばう事が出来る、そして一子は川神院の養子となる。

 

これでいい、だれもが幸せになれる、最高の終わり方。

だが、百代にそれを気づかせるわけにはいかない。

 

俺がここを破門となる理由を突き出せばいい。

そうすれば、誰も俺を支持する奴などいなくなる。

 

そのためには、俺も向き合うときが来た。

自分の内にある戦闘衝動に。

俺の中にあるどす黒い感情に。

 

あの時、両親を殺したあのときから、俺は一度も本当の性格をさらけ出してはいないのだから。

俺自信、ただの獣となることを。

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