「やぁドクター。ご機嫌いかがかな?」
「やあモスティマ。おかえり」
「ドクター……それじゃまるで私たちが友人みたいじゃないか」
「いけなかったかな?」
「悪いとは言わないさ。ただ、私にとってはどうでもいいことだからね」
「つれないね」
「分かっていることだと思うけれど?」
挑発的な彼女の笑みに、つられたように苦笑いを浮かべる。
「やれやれ……君に私のことを友人と言わせるには、なかなか骨が折れそうだ」
「いらないよドクター。骨折り損のくたびれもうけ、ってやつになるよ?」
「……まあ、今更だからね。それに、私個人がモスティマと仲良くなりたいんだ。とやかく言われる必要はないだろう?」
「やれやれ……ドクター、大きな組織を束ねる人間が、個人に肩入れするのはどうかと思うよ?」
「ごもっとも」
口の端をニヤリと持ち上げると、モスティマも笑う。しかし、その笑顔が本物なのか、それとも偽物なのか、それとも……。きっと、彼女自身すら分からない。本当に、なにも思ってなどいないのだろうから。
サンクタ。天使を思わせる外見に言語を発した瞬間に顕れるらしい羽と頭の飾り。
しかし、サンクタの中には頭の輪っかと羽を黒く染めた者がいる。
堕天使。そう言われる彼らは、同士に銃を向けたか、はたまた他の原因があるのか……いずれにせよ、後ろめたい過去を持つ。
ロドスの重鎮のドクターである私。……そして、その目の前に居る軽薄な笑顔を浮かべるモスティマも、その堕天使の一人。
彼ら堕天使に共通しているのは、堕天使に堕ちた原因について、一切の追求が許されていないことだ。
そして、ロドスもそういった個人の追及を良しとしない組織である。
私自身が彼女と仲良くなって結果的にそうなってしまったらどうしようと思うことはあるが、それはそれだ。
「それはそうと……」
モスティマに向かって頭を下げる。
「モスティマ助けて……アーミヤが……アーミヤがいじめるんだ……」
「ドクター、来て早々にこれを言うのも良いことではないんだけれどさ、それは自業自得じゃない?」
「モスティマもそういうこと言うの……?」
製薬会社ロドス。世間一般ではただの製薬会社として認知されているが、実際は
しかし、ロドスが目指す最終的なゴールはそこじゃない。感染者を元のように生活出来るようにする。表向きのリーダーであるアーミヤも感染者の一人で、彼女を救うため出来たのが
いや、それは一旦置いておこう。直近の問題としては、作戦報告書を書こうとして行き詰っていることだ。何度書き直しても上手い表現が見つからない。というか現場で指揮を執ってるときはひたすら全力だ。誰かを死なせないように、これ以上犠牲者を出さないために……といえば聞こえはいいが、ただ冷静さを欠いているだけだ。
周囲から見ればそうでもないらしいが、内心は冷や汗をかきまくっている。
──と、いうわけで行き詰っているわけだ。この作戦報告書は各オペレーターが私の作戦展開傾向を推察するのはもちろん、戦場を知らない人間に対しても教本となるわけだ。生半可なものを書き上げたらアーミヤはともかくケルシーに殺されかねない……。
その点、モスティマは頼りになる。いつも冷静に全体を見ているから意見を参考に出来るのだ。
それだというのにこの堕天使様は……。
「すき!」
「え?」
「あ、間違った。発作が……ごめん今のなし今のなし!」
妙なことを口走ったからモスティマを困惑させちゃったじゃん!
どうするのさ……。もうやだおうち帰りたい……。
「違うんだ。いや違わないんだけど違うんだ……そう、つまり……なんだかんだで手伝ってくれるであろうモスティマに対する厚い信頼感から来るものであってあれ? でもこれじゃあ好意を否定することにはなってなくてあれぇ??」
頭が混乱してきた。私は一体なにを言いたかったんだんだっけ……。
「……ふふ」
もう! モスティマにも笑われたじゃん私! このままじゃ一生仲良くなれないんじゃ……!?
ぐぬ……なんとか打開策を……!
「ドクターはしょーがないなぁ。ほら、作戦ほーこくしょ、書かないといけないんでしょ?」
「あ……あぁ……」
はぇ? 嫌われて……ない……?
嫌われる覚悟してたんだけどな……いや、モスティマだから嫌われるってことないだろうし、どっちかっていうと私が気まずくなるのがやだっただけなんだけど……。
「ドクター、終わりました──」
「やぁ、アーミヤ。ごめんね。彼、今熱が入ったばっかりでさ、少し待ってあげてくれないかな?」
「モスティマさん。ロドスにいらしていたんですね」
「うん。ついさっきだけどね」
すごい……筆が進む……書けなかったと思ったところがモスティマのおかげで書けるようになってきた!
やっぱり人に頼ってみるもんだよね。ただ、それはそれとして今話しかけられると止まっちゃいそうだから待っててくれると嬉しいのは事実。まあアーミヤはいい子だから待っててくれるでしょ。
「ドクター、すごくいきいきしてらっしゃいますね」
「そうなの? 私と居るときはこんな感じなんだけれど」
「ドクターは素直ですから」
「こういうときは?」
「こういうときは」
女性陣二人がなにやら通じ合ってる気がするけど集中乱したら本当に終わらなくなっちゃう……どういうときなのか気になるところだけど集中集中……。
「それじゃあ、二人の時間をお邪魔しちゃ悪いですから少し時間を空けてきますね」
「ちょ……アーミヤさん!?」
「ふふ……」
楽しそうに笑みを浮かべて去っていくアーミヤの後ろ姿を見送ることしか出来ない……。
「頭の中に浮かんでたやつが……」
「ほら、まだ時間はあるから手伝ってあげられるよ?」
「お願いします……」
モスティマ小説の天啓が降りてきたので初投書です