──────────第3アリーナ
月曜日
月曜日の放課後、俺は約束通り一夏達と訓練をすることになった。
ちなみに、一夏は今裏でISの最適化を行っている頃だ。名前は『白式』とかいうらしい、何でも昔織斑千冬が使ってた『暮桜』に似てるとか似てないとか……似てないか。ただ武装がおかしすぎる、雪片弐型とかいう剣しかないらしい。ま、たかが剣1つでもワイヤーを仕込むなり盾にするなり、使い方を工夫すればどうとでもなる。一夏がそこまで頭が回るならの話だがな。
「…………」
「あ、箒。一夏は?」
「もうそろそろ来る頃だ……全く」
打鉄を纏った箒がよろよろしながらこちらにやってくる。何やら怒った表情だ。
そういえば最適化やらはセシリアが手伝ってるんだっけか、それできれてるのか、わかりやすい奴だな。うさぎから聞かされた話では小学生の頃からその傾向があったとか、全く、女心が分からないにも程があるな。
『お前もな』
『ブーメランじゃい』
…………また何か聞こえた気が。
「おーい!終わったぞ!」
裏から一夏がよろよろしながら寄ってくる。
ふーん、あれが白式かぁ。名前の通り真っ白だな。しかし昔資料で読んだ『白騎士』に何処と無く似ている気がするが…………まさかな。
「はぁ、何とか間に合ったな」
「お疲れ様、セシリアさん」
「いえいえ、副代表として代表をサポートするのは当然の務めですわ」
「よし、それじゃあとりあえず基本的な動きから始めようか」
「おう!」
とりあえず、まずはISを動かすことに慣れてもらうために低空飛行でアリーナを1周する。
「おっと……」
「お」
一夏も箒も全然慣れていないのか、さっきから転んでいる。まるでクロスライザーを動かし初めた頃の俺のようだ、ああやってよろけて転ぶなんてしょっちゅうだったからな。正直無免許で自動車やら二輪車を動かした方がまだマシだ。
「お二人とも、まずは焦らず、落ち着いてイメージすることが大切ですわ」
「あ、ああ」
「て言われてもなぁ……ぎゃっ!」
一夏が壮大に転けた。
「大丈夫?」
「お、おう。何とかな」
これは暫くの間飛行訓練かな。
…………て、そうなると俺も流れで付き合わせられるじゃねえか。それはキツい。
「零さん?」
おっと、とりあえず今は1周だ1周。
「そういえばよ、零っていつもケイシー先輩に訓練してもらってんのか?」
「まあね、時々楯無さんが混じってくるけど」
「あの相部屋の人か?」
「うん」
そういえば一昨日の訓練にもついてきてたな。あの時は流石に驚いた、なんせいきなり背中に抱きついてきやがったからな。いくら同居人で少し親しくなったとは言え、何故抱きついてくるのか理解できなかった、案の定レインに見られて一悶着あったが……まあ大したことにはならなかったから良しとするか。イタズラ好きにもほどがある。
にしても本当に何がしたいんだあの人は。裸エプロンやら膝枕やら、更には抱きつきまで。
「おい零!」
「ん?」
ゴスっ!
一夏に呼ばれたと思った瞬間、俺は壁に衝突する。顔面から入ってしまった、マスクがなきゃもっと痛かっただろう。
「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ」
とりあえず楯無さんのことは後回しにしよう、今は深く考える時間はないからな。クラス代表戦とやらが待っているらしいし。
負けたら姉さん達から何を言われるか
…………。
────────────数日後
「ではこれよりISの基本的な飛行訓練を実践してもらう。織斑、オルコット、巻紙、前に出ろ」
俺とセシリアさんと一夏は織斑千冬の指示通りに前に出る。
今日は1組と3組が合同でグラウンドに集合していた。
なんでも1組と3組(本当は4組もらしいがまだ専用機が完成していないらしい)に専用機持ちがいるということで、この際せっかくだから合同でやってしまおうと言うことらしい。先生と話はつけてあるから大丈夫だとか。
「よし、展開しろ」
「「「はい」」」
言われた通りに展開する。
俺とセシリアさんは1秒もかからなかったが、一夏3秒かかった。これでもかなり早くなった方だ。白式が来たての頃なんて5秒経っても出来なかったからな。
「おい織斑、遅いぞ。最低でも1秒でやれ」
「は、はい…………」
こう見るとスコール姐さんはまだ優しかった方だな、厳しいけど上手く出来ればちゃんと評価してくれた。
厳しいけどね。
「よし、飛べ」
その掛け声とともに、俺たち3人は上空へ飛ぶ。
背中の黒い翼型スラスターを広げる。いつ見ても禍々しいな、これ。
それとやっぱりセシリアさんは慣れてるだけあってかなり速い。これもチェルシーさんとエクシアちゃんの教育の賜物なのか。
よし、大体ここまで飛べばいいか。
「零さん、なかなかお上手ですわ」
「どうも、でもセシリアさんには適わないよ。流石は代表候補生」
「ふふ、ありがとうございますわ」
「今零の野郎がイチャイチャしてる気がするぜ」
「どうしたのケイシーちゃん?」
ゾクッ
「?どうかしましたの?」
「ううん、なんでもないよ」
今寒気が…………多分レイン辺りに何か言われてるな。
「おーい!」
暫くしてようやく一夏が追いついてきた。
「やっと追いついた……」
「お疲れ様」
「お疲れ様ですわ」
「あはは、いやぁにしてもイメージってなかなか難しいなぁ」
「そうかい?一夏のスラスターなら翼型だから羽ばたくイメージとかできると思うんだけど」
「んー、羽ばたくか……」
そう言うと一夏の背中のスラスターがひょこひょこと小さく羽ばたき始める。いや、まああってるけど。
「お、何となく分かった!」
「そう、それは良かった」
まあイメージ出来たならいいか。
『よし、では1人ずつ急降下からの完全停止をやってみせろ。目標は地面から10cmだ』
下から織斑千冬が指示を出す。
「ではお先に失礼しますわ」
セシリアさんが先に急降下した。
ふむ、どうやら成功したようだ、代表候補生だから当然か。
「零、先にいいぞ」
「そうかい?じゃあお先に」
俺はクロスライザーとともに急降下する。前やった任務で数十メートル上から落ちたのを思い出すなぁ、あの時は骨折ったけど、ISだからその心配はないだろう、痛いだろうが。
「ふむ、20cmか。初心者にしてはよくやった方だな。次は上手くやれ」
「ありがとうございます」
さて、後は一夏だが…………遅いなあいつ。まだあそこにいるのか。
「大丈夫……うん大丈夫だ」
セシリアと零が降り、残るは一夏1人となった。しかし一夏は中々1歩を踏み出せずにいる。不格好とはいえ、練習で何度か軽い降下はやった。が、この高さからは初めてである。
「(一夏のやつ、何をやっているのだ?)」
そんな一夏をみて箒は不審に思った。ここは男なら1発やれと言いたいところだが、怒鳴った所でどうしようもない。さてどうするか、箒は考え、1つの案を思いつく。
「山田先生、少しの間でいいのでインカムを貸して貰えませんか?」
「え?は、はい」
真耶は箒にインカムを渡す。
「うーん、どうすれば……」
『あー、一夏!』
「ほ、箒?」
一夏は突然聞こえた箒の声に反応する。
『大丈夫だ、あれだけ練習したんだ。お前ならやれる、自分を信じろ』
「……そうだな、俺ならやれる!いくぜ白式!」
箒の言葉に元気をもらった一夏は勢いよく急降下する。
グングンとスピードは上がっていく、その姿はまるで落下する天使のよう。
「ありゃダメだ」
「ダメですわね」
しかし零とセシリアにはこの後起こることが予想出来た。
とりあえず周りにいる学生の前に庇うように立つ。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ズドオォォォォォォォォォンッ!!!
一夏は勢いよく地面に激突し、地表に大きなクレーターを作る。
「馬鹿者!誰が地面に衝突しろと言った!」
「す、すんません」
ふと、一夏は箒に目線を向ける。が、箒は目が会った瞬間、ジト目でそっぽを向いた。
「(あーあ、怒らせちまったな)」
そう思う零なのであった。
「授業が終わったら穴をふざけ、いいな?」
「は、はい…………」
────────────────ー
「……さてと、ここら辺でいいか」
今日も一日終わりを迎えた。しかし俺にはやらないといけないことがある。いや、俺も久々に声が聞けるから楽しみなんだけど。
とりあえず連絡するか。
プルルルッ…………ピッ
『れ、零?』
「おう、マドカ。ようやくそっちに連絡できるようになったよ」
『そ、そうか。それは良かった』
そう、マドカとこうやって話すことだ。この数日間は勉強やら内部把握やらが忙しくて連絡なんて取れなかったからな。それに俺達にとっても要注意人物が同室だ、こうやって隙を見つけないと連絡なんて早々できない。
「で、そっちは元気か?」
『ああ、私は元気だ。ただオータムがちょっとな……零が女遊びをしていないかと不安でかなり飲んでいるんだ』
「はぁ、礼子姉さんったら。そんな心配してたら仕事に支障がでるだろうに」
『まあその度にスコールが冷水をかけてるから一応正気は何とか保っているらしい』
「姐さんには感謝しきれないな」
『ああ、そうだな…………なあ零』
「ん?」
『その……そっちでの生活は楽しいか?』
「……まあまあかな。でもハッキリ言うとマドカや姉さん達と一緒にいた方が楽しいよ。正直皆と離れてるのは寂しいな」
『そ、そうか。私も零が居ないと寂しいぞ。お前の作るご飯だってこいしい』
「俺も久々にマドカや姉さん達が作る料理が食いたいよ。ここも悪くはないけど、やっぱり1番は皆が作った料理だな」
ここの味はかなりいい。でも皆が作ったものには到底適わない。
『じゃあ……』
「?」
『こ、こっちに戻った時に手料理を沢山食わせてやる!だから絶対1回は帰ってこい!』
「おう、楽しみにしてるよ」
『……そ、それじゃあ、おやすみ』
「うん、おやすみ」
マドカからの通信が切れる。
それにしても何時になったら家に戻れるのやら。ま、夏休みとかに企業からの呼び出しみたいな感じで戻れるだろうから、その時だな。勿論レインも一緒だ。
「さて」
外は暗いし早くもどろうか。じゃないと織斑千冬にどつかれるだろうからな。それだけは勘弁だ。
…………ん?何だあのツインテール女、いや、女の子か?
「どこよここ……受付なんてないじゃない。大体広すぎんのよこの学園、早くしないと夜に…………あ、もうこんなに暗くなって……」
ふむ、迷子か。しかしこんなやつ見たことないぞ、転入生か?ま、とりあえず聞いてみるか。
「ねえ、どうしたんだい?」
「ん、アンタ誰?」
「僕は巻紙零、ここの生徒だ」
「へぇ、じゃあアンタが噂の男性操縦者の片割れなんだ。アタシは凰鈴音、今度からここに通うことになったの、よろしく」
ふーん、やっぱ転入生って奴か。しかしこんな時期に転入生だなんておかしな話だ、普通はもう少し後だろうに。それに凰鈴音、名前からして中国か…………時期が時期だからかなり臭うな。
「鈴音ちゃんか、よろしく」
「うん…………あのさぁ」
「?」
「ここの事務受付って何処にあるかわかる?」
「ああ、それならここを真っ直ぐ行って右に曲がって更に行った所にあるよ」
「そう、ありがとう」
「どういたしまして」
そう言うと鈴音ちゃんは去っていく。
何故だか分からないけど、また一夏関連のことで一悶着起きる気がする。
こっちに飛び火させるのだけは勘弁してくれよ。