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「ほれ、作ってきてやったぞ」
「ん、サンキュー」
さて、山田先生にフルボッコにされたうえに腹が減った俺は今、屋上でレインと昼飯を食っている。ちなみに昼飯はレインが作ってきてくれた弁当の焼きそばだ。最近何かと一夏達と食うことが多かったからな、レインの作った弁当は久々だな。
「そういえばおめー山田のせんこうに負けたらしいじゃねえか」
「もぐっ、まあな。寧ろ現役並の実力を持つ人に俺みたいなペーペーが勝てるわけないだろ」
「……たく、俺との実戦サボって機械相手にシュミレーションばっかやってるからだよ」
「そうなのか?」
「そーだ」
まあシュミレーションのおかげで回避やらは上がったが攻めに関してはあんまり鍛えられてなかったからな。
今度からレインとも訓練するようにするか。
「…………そ、そんなことはどーでもいいけどよ。今日の弁当はどうだ?美味いか?」
「もぐっ、ああ、ソースがいい感じに効いてて美味いよ。にしてもお前が焼きそばを作るなんて珍しいじゃないか」
「た、たまには俺だってこーいうの作るって……」
レインは何処か恥ずかしそうに顔を赤くする。そんな女の子が焼きそば作るなんて恥ずかしいことじゃないだろうに。
にしてもココ最近よく焼きそばを食べる気がする。気のせいか?
「そういえばよぉ、お前ん所のクラス、今日転校生が来たらしいじゃねえか」
「まあな、姐さん達からはデュノアの方しか連絡が来てなかったから驚いたよ」
「その話だけどよー……単に姐さんが伝え忘れただけだぜ。俺ん所には来てたからな」
「おい、いいのかそれで」
姐さんも随分と怠けてんじゃねえか。
「まあいいんじゃねえの?ただドイツ軍のやべー部隊の隊長だから気ーつけねーといけねえがな…………で、説明してもらおうか」
「説明ってなんだよ」
「とぼけんな、お前そのラウラって奴と知り合いなんだろ?ドイツの隊長なんかといつ知り合ったんだよ」
誤解は朝に解けたと思ったが……どうやら噂は本当に1人歩きするらしい。
「昔ドイツに行った時に少し話しただけだよ、その時は軍関係者だとは思わなかったし」
「……ホントだな?」
「こんなことで嘘つく意味なんてないだろ」
「……そうか」
そう言うとレインら何処か納得したような、ほっとしたような顔をする。
別にラウラちゃんはそんな奴じゃないよ、多分。
「とにかく!デュノアの野郎のハニトラにはぜってー引っかかんじゃねえぞ!」
「分かってるよ」
分かってて引っ掛かりに行くアホなんて居ないだろう、そんなことしたら姉さん達からなんて言われるか。マドカに鎖に巻かれてマリアナ海溝に沈められるのがオチだ。
「……ところで零」
「?」
「お前ってプライベートの水着とか持ってたか?」
「あるけど……姉さん達の所に忘れたよ」
「そうか……んじゃよ、良かったら今度俺t「零!ここに居たか!」
誰かが俺の名前を呼んだ。
扉の方を見ると、購買で買った焼きそばパンらしきものを持ったラウラちゃんが立っていた。また焼きそばかよ。
「ラウラちゃん?どうしてここに?」
「なに、折角だからお前と一緒に昼食を取ろうと思ったのだ……ところでそっちの女子生徒は?」
ラウラちゃんがレインに目線を向けるが、レインはそっぽを向いてしまった。
「この人はダリル・ケイシー、僕の幼なじみだよ。それと3年生だからね」
「ダリル……そうか、貴方が例のアメリカの専用機持ちか。私はラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツのIS代表候補生を務めているものだ、よろしく頼む」
「……おーよ……軍人さん」
レインは目線だけをラウラちゃんに向けて挨拶する。普通に名前で呼べばいいのに。
「隣、いいか?」
「うん、いいよ」
そう言うとラウラちゃんは俺の隣に座り、焼きそばパンを頬張る。クロエさんに似てるな(クロエさんの方がもう少し年上か)……となるとやっぱりラウラちゃんは試験管ベビーか……まあいい。
にしても、焼きそばパンを美味しそうにモグモグ頬張る姿は何処からどう見ても小学生だ、昔のマドカを思い出す、あいつもよくこうやって美味しそうに菓子パンを頬張ってたっけ。今も一緒に1つの菓子パンを半分こしたりしてるけどね。
早く会いたい。
「ん、なんだいきなり」
「ん?あ、ごめん」
どうやら俺は気づかないうちにラウラちゃんの頭を撫でていたらしい。
昔もよくこうやってマドカの頭を撫でてたせいか、癖になってしまったよふぐっ!
「お、おいダリル。焼きそばを押し込むなって」
「うっせえ!黙って食え!」
なんて思ってたらレインが手作り焼きそばを俺の口に押し込もうとしてきた。これってアーンなのか?
「ふむ、2人は仲が良いようだな」
そりゃあ小さい頃から一緒にいたからな、マドカよりも付き合いが長いし、俺にとってはもう1人の姉貴みたいなもんだ。
しかしこの状況は仲がいいと言えるのか?
「もぐ……あ、そうだ零」
「むぐ……なんだい?」
「今度学年別トーナメントがあるのだが、良かったらペアになってくれないか?」
「僕なんかでいいの?」
「ああ、私もここに来たばかりで親しい人間はお前しかいないからな。それに先程の戦闘でお前とならやれる気がしたのだ」
「軍人の勘ってやつかい?」
「多分な」
ああそうか、今度学年別トーナメントがあるのか。何でも実戦的な模擬戦闘をイメージするために二人一組でペアを組まされるんだとか。レインとフォルテさんは学年が違うから同学年の誰かさんと組むらしい、レインに関しては友達と組むんだとか。
それにしてもおかしくないかこのトーナメント、普通なら専用機持ちと一般は分けるはずだろうに。こんなの学校の部員とオリンピック選手を競わせるようなもんだ。ま、俺はオリンピックなんて程遠いけどな。
まあいい、特に組む相手ももいなかったし。一夏は多分一応男のデュノアとだろうし。
「いいよ、一緒に頑張ろう」
「ふむ、礼を言う。では後で書類を渡すから、そこに名前を書いてくれ。私の名前は書いておいた」
何とも準備がいい。
「……くそ……専用機持ちタッグだったら俺だって……」
何やらレインが呟いた気がするが。気のせいか。
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「今零が他の女の頭を撫でた気がする」
「貴方最近怖いわよ?大丈夫?」
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「ハロー零」
「ん?鈴か。今から一夏と訓練かい?」
「まあねー、あいつったらセシリアとばっか訓練やってるでしょ?だからたまには私ともやれって言ってやったのよ」
それはまた随分と強引だ。
「でも転校生も一緒にやることになるんじゃないの?」
「まあね、本当は2人でやりたかったけど……」
今本音が漏れた気がしたけど聞かなかったことにしておこう。
「……で、アンタの方はどうなのよ?」
「どうって何が?」
「聞いたわよ、あんた三組の転校生と付き合ってるらしいじゃないの」
ええ、何でここまで噂が広がってるの。ていうか独り歩きをするにも程がある。
「だからそれは勘違いだって、僕はその子とは知り合いなだけで恋人でもなんでもないよ」
「え?そうなの?」
「そうだよ」
「ふーん、そう。まあいいや。それじゃあ、あたしは一夏の所に行くから、また明日ね」
「うん、明日」
それにしてもまさかここまで広がるとは……これはいつか姉さん達の耳にも届きそうで怖いな。
────────────第3アリーナ
「おらぁ!」
「おあ!」
その日の放課後、俺はアリーナで久々にレインと実戦訓練を行っていた。
がら空きだった俺の腹目掛けてレインに蹴りを入れられたが、その場で頭を軸に回転して逆さまになるように避けた。これもシュミレーションのおかげだな。
あ、ちなみに例のキューブは今箒に貸している。今日はレインとやり合うから特に使わないからな、それに箒も熱心なようだから貸さない訳にはいかないよ。
俺はすぐさまクロスマッシャーを展開し、至近距離からレインに斬りかかる。しかしやけに鋭い剣でいとも容易く塞がれ、火花が散った。やっぱプロは違うか。
「ほらほら!どうしたどうした!もっと斬りやがれ!」
「分かってるって!」
俺はそのまま体制をすぐさま立て直し、クロスマッシャーと蹴りをレインに浴びせる。しかしクロスマッシャーの斬撃は剣で切り落とすように塞がれ、蹴りは躱される。
これ以上の攻撃は無理だと判断し、俺はすかさず後方に下がり、胸装甲のワイヤースラッシュレイン目掛けて放つ。
レインは横に移動して躱そうとするが、このワイヤースラッシュはワイヤーブレードと違ってある程度なら標的を追ってくれる。現に今も移動するレインを追っている。
「あーくそ!鬱陶しい!」
レインはイラつきながら俺に向かって両肩の犬頭から炎を放つが、俺は下に移動して躱す。
「ファングッ!」
そしてすぐさまライザーファングをヘル・ハウンドに向けて射出する。
「この!」
犬頭から炎が放たれるが、ライザーファングは赤いビームソードを出したままのまま側面を向け、それを弾く。
と同時に俺はそのまま加速をかけ、爆風を突き抜けてクロスマッシャーで一気に斬りかかる。
レインは後方へ逃げようとしたが、の前にクロスマッシャーの刃がヘル・ハウンドの装甲を少し切りつけた。
「やるようになったじゃねえかお前」
「褒め言葉どうも」
レインは上空から俺を見下ろすように嬉しそうに笑っていた。
しかしシュミレーションばかりでなくこうやって人間相手に訓練をするのもかなり重要だな。特にレインは学園内でもトップ3以内に入る実力者だ。1位は多分楯無さんだな、国家代表だし。
『ふむ、1体1は問題無しか』
なんて思ってたらプライベート・チャネルでシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラちゃんが話しかけてきた。
「ラウラちゃん?どうしてここに?」
『先程タッグトーナメントの申請書を提出してきたところだからその報告を。それとお前個人の強さを確認していたところだ』
「またなんでそんなことを?」
『私はお前のパートナーだぞ?協力するにあたって相方の事をもう少し詳しく知らなければならんだろう?』
随分と勉強熱心なことで……って、ある意味当たり前か、何も知らない相手となんぞ組みたくはないからな。
さて、この後俺は何故か不機嫌になったレインから一方的に殴られた。一体何を怒ってるんだ。
──────────────学生寮
「君が巻紙零君だね」
「そうだけど……君は?」
レインとの訓練を終えた俺はさっさと自室へ戻ろうとしたが、その前に1人の男ではなく女が話しかけてきた。
そう、あのシャルル・デュノアだ。
「初めまして、僕はシャルル・デュノア。フランスから転校してきました」
「そっか。わざわざ挨拶ご苦労さま。確か一夏と同じ部屋だっけ?」
「うん、そうだよ」
「そっか」
「同じ男同士、よろしくね」
どう見ても女だろうが、なんて言えないな。ていうか実物を見たけど書類以上に女じゃないか。骨格と言い顔立ちと言い、寧ろなんで皆気が付かないんだか。
そういえば昔姉さんも1回だけ男装したことがあったな、どっかの潜入かなんかで。その時に『もともと男っぽい性格だからよく似合ってるね』って言ったら思いっきり殴られた。
それっきり男装なんてやらなくなったな、別に似合ってないなんて言ってないのに。
「どうしたの?」
「ん?いや、なんでもないよ。デュノアちゃん」
「ちゃん?」
「あ……女の子っぽいからつい。ごめんね」
「う、ううんいいよ。時々間違えられるから」
ついやってしまったが……今一瞬焦ったな。
「じゃあ僕部屋に戻るから、何かあったら何でも聞いてよ」
「うん、ありがとう」
さて、目的はどうあれ俺のISを狙うのなら黙っていない。まあ狙いは一夏だろうけどな。
ガチャッ
「おかえりなさい零君、早速だけどボーデヴィッヒさんと付き合ってるって本当かしら?」
……もう勘弁してくれ。
────────────────ー
「ボーデヴィッヒ、ちょっといいか?」
「む、教官。お疲れ様です」
その日の夜、ラウラの部屋を千冬が訪ねていた。ラウラは寝巻き姿であり、子供が着るようなキャラクターがプリントされたパジャマを纏っている(暗いところで光る)。
「……あー、とりあえずその寝巻きはどうしたんだ?」
「クラリッサから渡されたものです。これなら裸でなくてもゆっくり眠れます」
「そ、そうか……(クラリッサめ、相変わらず訳の分からないものを)」
ラウラで遊ぶクラリッサに、千冬は心の中でため息を吐いた。
「ところで御用件は?」
「ん、そうだな。
学校生活はどうだ?初日ということもあって疲れてないか?」
「はい、確かに多少は慣れないことも多いですが……それ程疲れてはいません。クラスのもの達とも仲良くやっていけそうです」
「(ふむ、人間関係については大丈夫そうだな)そうか、なら良かった」
千冬は、生まれてから軍の中で人生を過ごしてきたラウラが学園での生活で孤立していないか心配していたのだ。が、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達との関係は良好であったためか、ラウラ自身はそれほど対人関係のコミュニケーションに関しては困っていなかった。
「……それともう1つ確認したいのだが」
「はい」
「お前と巻紙が付き合っているというのは本当か?」
「付き合う……それはつまり私と彼が恋人かどうかということでしょうか?」
「そうだ……あ、いや、そのような噂を他の生徒から聞いたものでな。
で、どうなんだ?」
「私と零はそのような関係ではありません、友人です」
「ふむ、そうか……ならいいんだ」
自分の勘違いであったと、千冬は心の中で安堵する。いくら教え子とはいえ、学園内で男子と不純異性交遊を行っているのなら、対処しなければならない。
実際は教え子から恋の相談やらなんやらを聞かれるのが少し怖かったと思っていたことは、千冬本人だけが知る秘密である。
「話は以上だ、初日で疲れただろう。ゆっくり休むといい」
「は!」
ラウラは背筋を伸ばし、敬礼する。
「ここは軍じゃない。敬礼は不要だ」
「はあ、そうですか」
千冬はラウラに背中を向け、その場を立ち去る。
────────────────ー
はあ…………疲れた。
あれから自らを鍛え上げると心に決めたが……やはり辛いものだな。
部活動との両立はやはり無理か……いや、それでは前の私と同じではないか。
よし、今日は寝てまた明日も頑張ろう。