────────────フランス 午後1時
「ああ、それでは頼む」
ここはフランスのデュノア社。
そこの社長室にて、デュノア社社長アルベール・デュノアが電話越しに役員の1人と会議の打ち合わせを行っていた。経営が落ち込んでいても会社は忙しい。企業というのは、赤字でも生産が止まるまで働かなければならないのだ。
「ふぅ」
アルベールは通話を切り、一息つく。
「(あの子は元気にやっているだろうか……)」
ふと、アルベールは1人の少女のことを思い浮かべる。いくら何でも男装させてIS学園に男として入学させたのは無理があるとアルベール自身も分かってはいた。しかし、彼女を守るためには仕方なかったのだ。
「あなた、入りますよ」
「ああ、いいぞ」
部屋に入ってきたのは、アルベールの妻であるロゼンダであった。
「はい、コーヒー」
「すまないな」
アルベールはロゼンダから差し出されたコーヒーを1口飲む。
「あの子……大丈夫かしら」
「報告を見る限りは、まだ……」
いくら何でも今回の計画には無理があった。しかし、それしか方法がなかったのだ。たとえ彼女から恨まれたとしても…………。
「情報はまだ掴めないか?」
「ええ、調査員にも調べてもらってるけど……何せ何千人もいるから」
「そうか……早く探さなければ」
ピルルルルッ
「ん?なんだ?」
突然、アルベールの端末に連絡が入る。番号を確認するが、全く身に覚えのない相手であった。
「……はい」
アルベールは恐る恐る通話に応じる。
『アルベール・デュノアですね』
「……そうだが、君は誰だ?」
『……そうですね、0とでも言っておきましょうか』
相手は0と名乗った。異常に野太い声からして、恐らくボイスチェンジャーを使用しているのだろう。
「イタズラなら切るぞ」
『まあまあ待ってください、今日はお話したいことがありまして』
「話だと?」
『ええ、そうです……あなたが娘であるシャルロット・デュノアをIS学園に送った理由と暗殺派のことについてね』
「!?き、貴様!」
アルベールは立ち上がり、机を強く叩きつける。それもそうである、声の主はシャルロット・デュノアの名を呼んだ。さらにはシャルルが女であることも、暗殺派がいることも知っている。見ず知らずの奴が1番知られては行けない情報を知っているのだから、焦るのも無理がない。
『ご安心ください、このことはまだ何処にも話していません』
「……貴様…………何処でその話を」
『いえなに、知り合いのとある科学者からデュノア社の裏について色々と教えてくれたものでしてね、知らないといけないので一応ご報告をと思いまして』
「報告?」
アルベールは0の言葉に気の抜けた声を漏らす。
『ええそうです、一応そちらのお力になれるかと』
「……本当だな」
『ええ、勿論…………とりあえず、話だけでも聞いて貰えませんか?』
「……わかった、聞こう」
「ちょっとあなた」
声を上げようとするロゼンダを、アルベールは無言で手を上げ、黙るようジェスチャーをする。
『言っておきますが、逆探知等は無駄です。こちらも対策は行っています。下手な真似はしないように』
「……いいだろう」
『……とりあえず、まず信じてもらうためにこちらが持っている情報をお話します。報告はそれからでよろしいですね?』
「……ああ、分かった。話してくれ」
アルベールがそう答えると、0は知っている情報を話して行く。
彼、アルベール・デュノアは、正妻であるロゼンダ・デュノアと愛人である女性……即ちシャルロットの母親の2人の女性を同時に愛していた。そしてアルベールは愛人との間に血の繋がった娘……シャルロット・デュノアを儲けており、彼は娘のことを大切に思っていた。
愛人である女性が他界したと連絡が入った際、アルベールはシャルロットを正式に養子として、娘として迎え入れようと考えていた。当然これを聞いたロゼンダは怒り狂い、夫である彼を問い詰めた挙句、本邸にやってきたシャルロットを殴ってしまった(しかし、生まれつき子どもを授けられない体質であり、夫との間に子どもが出来なかったロゼンダからすれば、今回の夫の行為は裏切りである。その事を踏まえれば、彼女が夫とシャルロットに手を挙げてしまったことは仕方の無いことかもしれない)。
その後アルベールは何とかロゼンダを説得し、シャルロットを引き取ることに納得してもらった。
しかしここである問題が発生した。そう、シャルロットを暗殺しようと企む者がデュノア社内にいることが発覚したのだ。犯人を探そうにも、デュノア社には何千人という社員が働いており、下手に動けば探りがバレてしまうかもしれない。もしそうなればシャルロットの生命の危険がある。
そこでアルベールは考え出した。シャルロットを代表候補生にすれば彼女の安全を確保出来ると、経営難を理由に彼女をスパイとしてIS学園に入学させれば、暗殺派の奴らも外部からは手出し出来ないと考えたのだ。男装させたのは入学させるための追加理由でしかなく、白式とクロスライザーのデータ取りも、言わば政府に納得してもらうための理由付けの1つに過ぎなかった。それが結果としてシャルロットを苦しめることになってしまったのだが。
『こうしてあなたはシャルロットを無事学園に入学させ、彼女の身の安全を確保した。そして今現在、政府にいる知り合いの協力者とともに極秘で暗殺派について調査を行っている……そうですね?』
「…………」
0の話を聞いたアルベールは唖然とする。まさか計画のことだけでなく、シャルロットの出生まで知られていたとは夢にも思わなかったからだ。
『間違っている箇所があれば訂正を』
「……いや、寧ろ全て的確すぎて何処から突っ込めばいいのか」
『それはそうでしょうね……で、これで信じてもらえましたか?』
「……ああ、少なくとも君が暗殺派でないことは信じよう」
『ありがとうございます』
「……それじゃあ、報告を聞かせてくれ」
『はい、では報告します。今現在、IS学園ではシャルロット・デュノアが女であることは把握済みです。勿論、裏でデュノア社や政府が関わっていることもね』
「やはりか……」
アルベール自身もこんなお粗末なやり方、バレない方がおかしいと考えてはいた。寧ろバレないのは奇跡に近い。
『しかし学園側も単にスパイとして疑っている訳ではないようです。男装させるにはそれ相応の理由があると向こうも考えているようで、それを踏まえた上で入学を許可したようです。協力を求めるのもありかと』
「そうか……」
『……アルベール社長、私が言うのも何ですが……このことを娘さん……シャルロットさんにお話した方が良いのでは?』
「……そうしたいがな。今更遅いだろ」
『……彼女は今も苦しんでいます。何故男装させなければならないのか、何故こんな苦しい目に合わなければいけないのか』
「…………」
『貴方は話すべきだ、これ以上彼女を苦しめないように。今なら学園側も協力してくれるかもしれない。だから』
「…………ふ」
0の気の入った言葉に、アルベールは少しおかしいのか、小さく息を吹く。
『どうしました?』
「すまない、まるでシャルロットの気持ちを知っているよう言い方だったからね」
『……情報からそう解釈しただけですよ』
アルベールの言葉に0は淡々とはぐらかす。
「……ありがとう、学園の件については考えておく」
『そうですか。では、私はこれで』
「待ってくれ、君は一体何者なんだ」
『……ただの暇人ですよ』
ブチッ
0は一方的に通話を切る。
「…………はぁ」
「あなた……気は確かですか?」
「ああ、これでも正気のつもりだ」
アルベールは右手で前髪を抑えながらため息を吐く。いづれは娘のことがバレると考えてはいたが、まさかこんなに早く来るとは思ってもいなかったのだ。
「さっきの電話、信じていいんですか?」
「あそこまで的確に言われたら信じるしかないだろう……それに私自身、いつかは話さなければならないとは思っていたからな」
「…………」
「……とりあえず、やってみるしかないだろう」
「……ええ」
「……さて、それじゃあ早速話す練習でもするか。ロゼンダ、君も同席してもらえるか?学園だけならともかく、1人であの子と会話するのは流石に間が持たないよ」
「もう、不器用なんだから」
「はぁ……全く、一体どこの誰なんだか」
アルベールは再びため息を吐く。しかしその顔は不安に包まれながらも、まるで何処か突っかかりが無くなったような、決心したような表情であった。
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「ふう、終わった終わった」
とりあえずこれで一通りすんだか……俺って交渉とかそういうのに向いてないな、絶対。向こうが思ってた以上に信頼してくれて助かったよ。
「…………にしても、なんだってこんなもの」
これは驚いた、まさかうさぎから『デュノア社関連のメール』が送られてくるとはな。流石に誰が暗殺を企ててるかまでは書かれていなかったが。しかしまぁ、こんな真実が裏にあったとは。ていうかやっぱり学園側も動いていたのか、まあ楯無さんの素振りからして気づいてるのに動いてない方がおかしいか。
ちなみにうち(亡国機業)はこの件に関与していないようだ。ま、エクスカリバーみたいに一部の奴らに需要があるわけじゃないからな。たかだか適性がある少女1人殺したところでこっちには何のメリットもない、デュノア社内の奴が勝手にやったことだ。世の中の悪事全部がうちの仕業なんてとばっちりにも程がある。
うさぎもうさぎだ。あの盗聴魔、何を考えているのかさっぱり分からない……どちらにしろ、俺はあのうさぎに遊ばれてるのは間違いないな。
まあそれはいい、余計な手間が省けたからな……それよりも、今回の(一方的に押し付けられた)情報の見返りだがこれまた変だ。『クーちゃんを1日お出かけに誘いなさい』だってさ。つまりクロエさんと1日付き合えってことだ。まあ、その程度で済むならこっちとしてはお安い御用だ。マドカに合成写真を送り付けられるよりは全然いい。
さて、俺の役目はここまでだ。あとは向こうで勝手にやってくれるだろう。これで何が起きても俺は一切責任を取らない、俺はただ報告しただけだ。
ガチャッ
「おかえりなさい、添い寝にする?膝枕にする?それとも……」
「…………」
「あーん、無視しないでー」
俺は扉の前で巫山戯ている楯無さんを無視し、そのままベッドにダイブする。
あーあ、何で関係もないデュノアの件にここまで首突っ込んでるんだか。つくづく自分がバカだと思ってしまう。
こんなことやってもシャルルがあの胸で抱きしめてくれるわけでもないし…………マドカよりも大き……いやいや、マドカの方が大きいに決まってる、絶対…………あの温もりが恋しい。
「……と、いけないいけない」
さっきうさぎと約束したのを忘れるところだった。今日中にクロエさんへメールを送らないと同じくマドカに写真を送り付けられる。
正直、亡国出身だってことをバラされるよりもマドカに怒られる方が怖い。それでマドカに嫌われたら一生立ち直れない。
「えーっと……」
俺は端末の画面を操作し、クロエさんにメールを打つ。
日にちはとりあえずトーナメント後ら辺を聞いてみるか。お出かけってことは街中がいいよな、場所はこの近くにあるショッピングモールがいいか、それともちょっと離れたところか……一応世界に2人しか居ない男性操縦者って扱いだからあまり遠くへは行けない。それにクロエさんの目のこともある、ちゃんとした場所を選ばないと、本人にも聞いてみるか。
あ、それと読み上げ機能付きで送らないと。
「なにしてるの?」
楯無さんがベッド横からにやにやしながら顔を覗かせてきた。
「友達にメールを打ってるだけですよ」
「ふーん、そう」
楯無さんは画面を覗き込もうとさらに詰め寄る。この人はいつもこうだ。
「もしかして彼女?」
「違いますよ」
「お姉さんにも見せて」
「嫌です」
俺はベッドからたちあがり、椅子の隣まで移動する。それでもなお見ようとする楯無さんの猛攻を躱しつつ、俺はクロエさんへのメールを打っていく。思った以上に執拗い、そんなに他人のメールが見たいのかこの人は。別に俺が友達とメールを打ってもいいじゃないか……一夏もこんな目にあってなきゃいいけど。
……よし、出来た。
ピッ
「はい、おしまい」
「もう、恥ずかしがり屋さん」
楯無さんは笑みを浮かべながら口元で扇子を広げる。扇面には『ムッツリ』と書かれていた。
「誰がムッツリですか」
「本当のことでしょ?」
「別にムッツリじゃないですよ」
「えー、でもこの前画面見ながらニヤニヤしてなかったっけー?」
この前って……もしかしてスコール姐さんがドレスを着たマドカの写真を送ってきた時か?
いや、そりゃあ確かににやけたけど……仕方ないだろ、何時ものマドカとは思えないぐらい綺麗だったんだから。
……あれ、これってムッツリ?
「(ふーん、やっぱ零君ってムッツリ助平ね)」
楯無さんが心の中で笑っているとも知らずに、俺はムッツリについて考え込んだ。
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「…………へへ」
「おいM、なににやけてんだよ」
「…………え、いや、何でもない」
「もしかして零から何か言われたのか?」
「な、何でもないって……」
「なになにー……凄く綺麗だよ……ですって」
「お、おいスコール!」
「なんだ、Mのドレス姿の感想かよ。てかもう先月のだろそれ」
「何回も見ちゃうほどうれしかったのよ、ねーM?」
「う、うぅ…………」
…………ピキーンッ!
「……今零が誰かをデートに誘った気がした」
「お、おい、いきなり真顔になるのやめろって」
「この子ったら……日に日に悪化してるわね」
────────────────とあるラボ
「束様、夕食です」
「ありがとー」
とある薄暗い……とまではいかないものの、室内にしてはまあまあ暗いラボ内。束はクロエから差し出された黒い何かを口の中へ運ぶ。
「ど、どうでしょうか?」
「んー!とってもおいしーよ!」
「ほ、ほんとですか!」
「うん!とってもおいしーおかきだね!」
「……それ、コロッケです」
「oh……」
クロエの言葉に束はやってしまったと声を漏らす。どうやら今回はコロッケを作るつもりが、揚げすぎて中まで固まるぐらい真っ黒焦げにしまったようだ(しかしゲル状に比べればまだマシなようだ)。
「…………」シュンッ
「だ、大丈夫だよクーちゃん、こんなに美味しいんだから零君が食べても大丈夫だよ(多分)」
「……そうでしょうか?」
「大丈夫だって、私の目に狂いはないよ(多分)」
いくら天才でも、愛しい娘であるクロエの作る未知の料理に関してはあまり自身を持って言えないようだ。
「……ん?」
突然、クロエの端末からメールを受信した音が鳴り響く。クロエが連絡をとる相手は束ともう1人ぐらいなので、誰からのメールかは直ぐに察した。
「…………」
「クーちゃん?どうしたんだい?」
端末を確認したクロエはまるで銅像のように固まり、次の瞬間プルプルと体を震えさせる。
「た、束様……れ、零さんから……でした」
「ほほう、で、なんだって?」
「こ、今度……一緒にお出かけしたいと……」
「おー!やったねクーちゃん!零君からデートのお誘いだー!」
「で、デート!?」
「うん!これでまた1歩前身だー!」
「は、はい!」
突然のことにクロエは困惑しつつ、満面の笑みを浮かべた。
『ゼロってなんだ?ゲームか?』
『無〇の人でしょ』
『〇能の人って誰だよ』
『人じゃないよ』
一応シャルロットの件は前進しました。ご都合主義です……。
原作のシャルロットを学園に送った経緯が簡潔すぎて『あれ、あっけない』と感じました。