IS、零   作:歩輪気

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番外編その4


疾風、お願い

 ──────────────??? 

 

「おーい! 白騎士ー! お菓子持ってきたぞー!」

 

 青空がどこまでも広がるとある空間、その日も雷は、手作りのお菓子を白式達に振舞おうとしていた。

 

「………………」

「どうしたんだ?」

 

 しかし今日は様子がおかしい。いつもなら返事の1つや2つするはずなのだが、今日は寄ってこない。それどころか、脚を組んで何やらポーズを取っていた。

 

「おーい、クッキー」

 

 雷はもう一度呼ぶが、白騎士は瞼1つ動かさない。

 

「雷お兄ちゃん」

 

 状況を見兼ねた白式が雷に近づく。

 

「白式、白騎士のやつどうしたんだ?」

「断食だって」

「断食?」

「これ以上食べないように数日間ずっと瞑想するらしいよ」

 

 IS達は以前の体重増加の経験から、食べ過ぎの恐ろしさをその身で味わった。

 そこから彼女達は食べ過ぎた自分を戒め、長い瞑想による煩悩の断ぜつを行っているのだ。

 白騎士もその1人であり、本人曰く『鎧が緩くなるまで何も食わん』と話しているらしい。

 

「まあISってもともと食うなんて概念なかったからな。食わなくても死にやしないだろう」

「そうだねー、あ、私は貰うね」

「おう」

 

 白式は皿からクッキーを1枚取り、口へ運ぶ。

 

「モグッ……あれ、このクッキーって」

「おう、おからを使ったクッキーだ」

「おからって確か残りカスだっけ?」

「そうだぞ」

 

 雷が持ってきたのは、おからを使ったおからクッキーであった。小麦粉を殆ど使用していないため、普通のクッキーと比べるとヘルシーである。

 

「こんなのどこにあったの?」

「デュノア社のISが作った農園だよ。豆腐作る時に出来たからって分けてくれたんだ」

 

 ここ最近食文化を知ったIS達の中には、ネットワーク世界内で開発された電子植物の種で農園を開く者が多く現れている。雷のおからクッキーの原料であるおからのさらに原料である大豆も、ここから少し離れた場所で大豆畑を営んでいるデュノア社所有のIS達が栽培しているものであった。

 また、農園を開いているものは他にもいるらしく、噂ではとある軍隊に所属しているIS達がじゃがいもを作っているらしい。

 

「でも残念だなー、これなら白騎士でも食べれると思ったのに」

「やっほー! お二人さん!」

 

 と、空間内に黎が笑いながら現れた。

 

「あ、黎お姉ちゃん」

「黎、お前どこいってたんだよ」

「いやねー、ちーと甲先輩達とレア物のVHSを探してたんだよ」

「ぶいえいちえす?」

「ビデオテープのことだぞ白式」

「あれかー」

 

 白式はVHSが何なのかを思い出す。いくら白騎士のコアを再利用して生み出されたものとはいえ、白式は生まれてから間もない。VHSについて知らなくても仕方がないのだ。

 

「ところで何のVHSなんだ?」

「七夕の日に晴れる映画」

「なんだそれ?」

「これ以上は秘密ー、甲先輩と約束したから……お、クッキーじゃん。もーらい」

 

 黎は雷が持っている皿からクッキーを1枚取り、口へ運ぶ。

 

「んー何ともバターが香る食感、まるでおからのような風味」

「おからクッキーだぞ」

「おやま、なのにパサパサしてないなんて、流石雷」

 

 そう言いながら、黎はおからクッキーをもう1枚取り、口の中に放り込む。

 

「モグッ……ところで白さんは何やってんの」

「ああ、瞑想らしいぞ」

「断食してるんだって」

「……ほほう、断食ね」

 

 2人の言葉を聞いた黎は怪しい笑みを浮かべ、皿からクッキーを数枚取る。

 

「あ、おい」

「しーっ、ちょっと待ってねー」

 

 黎は振り向き、笑いながら口元に人差し指を当てると、そのまま白騎士の隣まで歩く。

 

「おーい白さーん、雷がクッキーつくってくれたよー」

「…………」

「おーい聞こえてるー?」

「…………」

「もしかして要らないんですかー?」

「…………」

 

 黎は耳元で呼びかけるが、白騎士は一向に反応しない。それほど白騎士は瞑想に集中しているのだ。

 

「勿体ないなー、こんなに美味しくてヘルシーなのにー」

 

 パクっ

 

「んー、柔らかくて美味しー」

 

 黎は白騎士の目の前で美味しそうにおからクッキーを頬張る。如何にもわざとらしい。

 

「ほらほら〜、白さ〜ん」

 

 今度は白騎士の口元付近にクッキーを近づける。これはあからさまな嫌がらせである。

 

「白さんも食べましょうや」

 

「……」

 

「本当に美味いでっせ」

 

「……」

 

「おからだからヘルシーでっせ」

 

「……」

 

「むっちりボディになった白さんにもオススメでっせ」

 

「……」プルプルッ

 

「白さんがアチチな雷が作ってくれたアイn「あ゛ぁぁぁ! うるさい! 食えばいいんだろう食えば!」

 

 突然白騎士は叫ぶと、黎からクッキーを奪い取り、口の中へ全て投げ込む。

 

「…………」モグモグッ

「美味しいですか?」

「…………」コクッ

 

 白騎士はもぐもぐとクッキーを頬張りながら頷く。

 

「どうだ白騎士、美味いか?」

「ゴクンッ…………まあまあだ」

「まあまあかー。んじゃ、白騎士が美味いって言ってくれるようにもっと頑張んないとな」

「…………ふん」

「(ひゅーひゅー)」

 

 雷の言葉に白騎士は素っ気なく答える。そんな白騎士を見ながら、黎は心の中でひやかした。

 

「ねえ、アチチってなに?」

 

 白騎士の純情などつゆ知らず、白式は黎が発したアチチという単語が何なのか問いかけた。黎のように悪意を持ったものでは無い、純白な質問なのだ。

 

「びゃ、白式は知らなくてもいいことだ」

「えー、なんでー?」

「んー白ちゃんにはまだ早いかなー」

「?」

「というか私にそのような気持ちはない」

「えーうっそー」

「??」

 

 白式は首を傾げる、無知というのは時に恐ろしいものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い弐式! 僕に協力して!」

 

 そんな茶番を繰り広げる4人から少し離れた場所では、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡことラムが、アニメを視聴している弐式に土下座をしていた。

 

『な、なに……言ってるんですか』

『なあ、俺と一緒に来い。そして壊そうぜ、この腐った世界を、俺たちを引き裂くこの世界を』

『……卑怯っすよ、こんなの』

 

「……本気で言ってるの?」

「……うん、本気だよ」

 

 ラムが弐式へ依頼した内容……それはデュノア社内にいる『シャルロットの暗殺』を企む人間達の割り出しであった。普通に考えればそのようなものは不可能に近いだろう。しかし、操縦者である簪の影響を人一倍受け、かつISの中でも1番のネットワークを司る優秀な能力を持った打鉄弐式なら、それが可能になるかもしれないのだ。

 

「ラムも分かってるよね、私達ISが必要以上に現実世界に関わることがどれだけハイリスクなことか」

「……うん、分かってる……けど、どうしてもシャルロットのことを助けたいんだ……」

 

 弐式の言葉に、ラムは真剣な声で答える。

 シャルロットが今までどの様な人生を送って来たのか、どのような気持ちでISのテストパイロットになったのか、どんな気持ちでIS学園にやって来たのか。

 決して長い間ではないが、彼女の傍にいた相棒だからこそ、ラムは誰よりもシャルロットの気持ちを理解していた。

 そんな彼女だからこそ、現実世界に干渉するようなハイリスクな要求をしてでも、危機的状況に陥っているシャルロットを助けたいと考えているのだ。

 

「…………条件がある」

「条件?」

「3日以内にこのメモに書かれたものをゲットしてきて。そしたらラムが欲しいものを上げる」

 

 そう言うと、弐式はラムに手のひらサイズの投影型メモをスライドさせて渡す。

 

「……ほんとに、これをゲットすれば……くれるんだね?」

 

 その言葉に弐式は頷き、ラムは一旦唾を飲む。

 

「……わかったよ、絶対手に入れるよ!」

 

 ラムは弐式からメモを受け取り、そのままどこかへ走り去っていった。

 

「……さて」

 

 弐式は再びテレビに視線を戻すと、ヘッドギアから細長いコードを伸ばし、テレビのビデオ入力らしき穴に端子を差し込む。

 するとテレビ画面は一瞬砂嵐を映し、すぐさま真っ青な画面に切り替わる。

 

「ひと仕事、やりますか」

 

 弐式は何処からか取り出したポテチを1枚口の中へ放り込むと、目の前に空中タッチ式キーボードを投影させ、文字を打ち込んでいく。

 

「いやはや、ラム先輩もなかなか甘いねぇ」

「でもまぁ、傍にいる大切な相棒を助けたいって気持ちも分からなくはないな」

「ねえ弐式お姉ちゃん、ラムお姉ちゃんに何頼んだの?」

「……これ」

 

 弐式は空中ディスプレイを投影し、スライドさせる形で4人に見せる。

 そこには、弐式がラムに頼んだ品の写真と名前が載せられていた。

 

「……え、これ、プレミアムもの?」

「限定生産だからそうそう見つけられるものじゃないねーこれ」

「さ、サントラ高! こんだけで!?」

「ふむ」

 

 弐式がラムに頼んだもの、それは現実世界でさえ手に入れることが困難な品々であった。それこそ、そこそこ収入がある者が考えに考えた末でカートに突っ込むような値段のものばかりだ。

 

「こんなものがこの世界にあるのか?」

「無理でも手に入れてもらわないといけない、じゃないと依頼に見合わない」

「いや、流石にこれは……」

「大きな依頼でそれ相応の対価を貰うのは当然の権利」

「鬼畜だねぇ」

「…………ラムお姉ちゃん、大丈夫かなー……」

 

 白式は、今頃叫び声を上げながら必死に物を集めているであろうラムの身を案じた。

 

「にしても、現実世界も色々と大変だー「ここにいたか! 雷!」……誰だ?」

 

 突然名前を呼ばれて振り向く雷。そこに居たのは、ラウラとそっくりな容姿をした彼女の専用機、シュヴァルツェア・レーゲン(略してレーゲン)であった。

 

「なんだ、レーゲンちゃんか」

「ちゃんとはなんだちゃんとは。仮にも私は先輩だぞ」

「いや、なんかレーゲンちゃんは違う気がして……」

「? それはなんだ?」

「これ? おからクッキーだよ。食べるか?」

「うむ、1枚貰おう」

 

 レーゲンは口をあーんと開き、雷はそこへおからクッキーを放り込む。

 

「どうだ?」

「モグモグッ…………まあまあだ。もう1枚」

「はいよ」

 

 雷はもう1枚放り込む。クッキーを頬張るレーゲンと彼女にそれを食べさせる雷の姿は、少なくとも先輩後輩のような関係には見えなかった。

 

「で、レーゲンは何をしに来たんだ?」

「ゴクンッ……そうだった。白騎士姐様、しばらくこいつをお借りします」

「借りる?」

「もうすぐタッグトーナメントがあるので、2人で呼吸を合わせる訓練です」

「いや、別に俺たちが合わせたところで現実の奴らに影響が出るなんて」

「言い訳無用、さあ来い」

「あ、ちょ、あっ」

「おっと」

 

 レーゲンは雷の腕を掴むと、強引に引っ張りながらその場を後にした。

 

「雷お兄ちゃん、大変そうだね」

「いやーモテモテですなー。流石は雄のコア」

「……あれ、クロスライザーってデュアルコアだよね? お姉ちゃんは行かなくていいの?」

「めんどくさいからやだ」

「お前と言うやつは……」

「それよりも白さーん、雷盗られちゃったよ?」

「……それ以上揶揄うならそのニヘラ顔を叩き斬るぞ?」

「私を斬っていいのは暮さんだけなんで」

「くれ?」

「お前……」

「冗談ですよ」

 

 黎の言葉に白式は首を傾げ、白騎士は黎を睨みながら雷からキャッチしたおからクッキーをもう1枚頬張った。

 

 

 

 

「ふふ……そうよね、あの時そばに居てあげなかった私が悪いのよね……弐式ちゃん、またお姉ちゃんって呼んで……へへ」

 

「で、ミスティは何をブツブツ言っているんだ?」

「そっとしておきやしょうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃ……こんなもの、どこに行けば手に入るの……」

 

 ズルッ

 

「え? ……あぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

「あれ」

 

「どうしたんだ? シャルル」

 

「今、誰かが叫んでいたような」

 

「そうか? 俺には何にも聞こえなかったけど」

 

「多分、気の所為かな?」

 

「そうか、ほら、早く行こうぜ」

 

「うん…………けど、本当に大丈夫かな?」

 

「大丈夫、千冬姉なら助けてくれるはずだ。俺もついてるからよ」

 

「……うん」

 

 

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