IS、零   作:歩輪気

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21話目

VTシステムについてオリジナル設定があります。

戦闘描写やら戦術は下手です。


零、対戦、粘土

 ────────────────

 

 時は流れ、あっという間にトーナメント当日。

 アリーナにはいつもの観客から色々と勉強をしに来た各国のお偉いさん達がすし詰め状態でワラワラと客席に座っている。中にはお祭りごとということで、なにか怪しいものを配っている輩もちらほらいた。

 

「うわぁ……思ったよりも多いな」

「3年生にはスカウト、2年生には1年間の成果を確認するための腕ためしみたいなものも兼ねてるからね。1年でも上位入賞者ならチェックをつけられるかもしれないよ」

「これって、3年生にとっては就活みたいなものかな?」

「に近いかもしれないな」

「お、確かに。ここで決まれば後々楽だもんな」

 

 そんな人達を、着替え終わった俺と一夏、シャルロットとラウラちゃんは控え室に用意されたベンチに横並びで座りながら、壁に設置されたモニターでその様子を見ていた。こんなに人が敷き詰めていては見てるこっちが酔ってきそうだ。昔の姉さんの荒いドライブよりはマシかもしれないけど。

 

「ところでデュノア」

「なに?」

「お前の会社は来ているのか? 見たところ関係者は見当たらないが」

「え? あ、あー、それは……と、取引先との大切な会議があるから来れないって。ねえ一夏?」

「そ、そうそう」

 

 突然のラウラちゃんからの質問に2人はあからさまに慌てる。

 

 ちなみに、一夏とシャルロットは数日前に織斑千冬に助けを求めたらしい。考えに考えた結果、やはり身内で力があって1番助けを求めやすいあの人に頼んだんだとか。で、偶然にもその日、織斑千冬(と謎の偉い人)の方もデュノア社からシャルロットについて話したいことがあると言われたそうだ。まあ、学園側からすれば漸く話す気になったかこの野郎って思っただろうな。

 それで全員で話し合った結果、学園側もデュノア社の提案を了承して、全面的にシャルロットを保護することを約束した。デュノア社の方も暗殺者の特定と何時もの仕事で大忙し、だから今日は来れないとか。とりあえずはこれで一旦は落ち着いたのかな? 

 

 で、なんでそんなことを俺が知っているのかというと、俺もその場に立ち会ってたからだ。一夏とシャルが助けを求めた後ら辺だっけ、いきなり織斑千冬に呼び出されて『貴様も来い』って疲れた顔で言われた。一応シャルロットの話を聞いた人間の1人としてあの場に立ち会えって命令されたわけだ。

 いや、本当はこれ以上は面倒だから関わりたくなかったけど、シャルロットがどうしても一緒に来て欲しいって言うから仕方なく……楯無さんに何故か見えない槍を背中に突き立てられてたのもあるけど。

 正直同じことを繰り返し聞く様なものだったから眠かった。

 

 でもまぁ、これでデュノア社関連のことは一段落ついたってことか。

 

 ……にしても、あの時の織斑千冬の顔、何だか夜更かしした時のマドカに似てたよなぁ。見てて撫で……おい。

 

「おい零、聞いているのか?」

「え? なんか言った?」

「さっきから呼んでるよ?」

「対戦表がでてるって、お前聞こえてなかったのか?」

「あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事をね」

 

 いけないいけない、マドカが恋しすぎるせいか最近冗談抜きで織斑千冬を目で追っている気がする。

 

「……零」

 

 突然ラウラちゃんが耳打ちで話しかけてきた。

 

「なんだい?」

「……もしや教官のことを考えていたのか?」

「……え」

 

 ラウラちゃんからの言葉に俺は固まった。まさかラウラちゃんにバレていたとは……

 

「最近のお前は教官を見る度に目で追っているからな。嫌でもわかるぞ」

「まあ確かにそうだけど……」

「何かあったのか? もしや……」

「いや、特にそういうのはないけど……」

 

 ラウラちゃんが言いたいことは分かる。けどそれは有り得ない。

 

「……ならいい、だがあまり思い悩むなよ。試合に支障を来たすからな」

「うん、分かったよ」

 

 ラウラちゃんは何処か不安そうな顔を残しつつ、モニターに視線を戻した。今は試合前だ、相棒の足を引っ張らないためにも、悩まず気を引き締めないといけない。

 …………早くマドカに会いたい。

 

「ほら、あれ」

 

 一夏が指をさし、俺はモニターに映し出されたトーナメント表に目を向けた。

 

 Aブロック 第1試合

 凰鈴音 セシリア・オルコットVS篠ノ之箒 相川清香

 

「箒、初っ端から専用機持ちのタッグとバトルか」

「しかも相手は鈴とセシリアさん……あの二人ってペア組んでたんだ」

「なんか直前まで決まらなかったみたいだぞ。セシリアの方は抽選で良いって言ってたけど、鈴の方があたしと組んで欲しいって」

「へー、あの二人がね」

「イギリスと中国の代表候補生……篠ノ之箒はどこまで持つか」

 

 正直、一般生徒2人が代表候補生2人を相手に勝てるとは思わない。けど俺とラウラちゃんが見る限りだと、箒はこの数日間かなり己を鍛えていた。一夏よりも回避率とドローンの撃沈数は多い。だからもしかしたらいい所まで行けるかもしれない。

 

「あとで一声かけたら?」

「うーん、そうするか」

 

 きっと箒も実力を出せるかもしれないし。

 

「あ、僕達だよ」

 

 と、考えていると次のトーナメント表が映し出された。

 

 

 Aブロック第2試合

 巻紙零 ラウラ・ボーデヴィッヒVS織斑一夏 シャルル・デュノア

 

 

「まさか、お前らが相手とはなぁ」

「運がいいのか悪いのか……」

 

 まるで仕組まれたような対戦表に、俺たちは苦笑いを浮かべた。まあ箒と相川さんよりはマシか。

 

「どんな相手だろうと手加減はしない。全力で行くぞ、零」

「ああ」

「俺達も」

「うん」

 

 俺たちは笑みを浮かべながらお互いを見合った。

 なんというか、こんな友情シーン的な何かを昔見た気がする。大概この後何か起こってた気がするけど……フラグか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 がキンっ! 

 

「くぅ、量産型なのになかなか効くじゃない!」

「私も伊達に鍛えていない!」

「あたしだって、負けてらんないのよ! セシリア!」

「分かりましたわ!」

 

 ピシュッ! ビジュっ! 

 

「くっ……なんのこれしき!」

「(いいガードですわ、箒さん)」

 

 早くもAブロック第1試合、専用機持ちペアVS量産型ペアの戦いは、意外にも量産型が負けじと押していた。特に箒は葵だけでなく、焔備を使用して鈴とセシリアを牽制しており、相方である清香はその援護という形で、落とされないように身の守りを固めながら連携を取っている。常に真剣勝負を求めてきた彼女にしては珍しい戦法だ。この成長ぶりには、クラス副代表であるセシリアも内心喜んでいた。

 

「相川!」

「はいよ!」

 

 そして今も、箒は清香の名を呼び、彼女と交換する形で葵と焔備を投げ合う。

 

「させるかぁ!」

 

 ヒュンッ! 

 ズダンッ! 

 

「うわっ!」

「ふんっ!」

 

 箒は葵ごと自身をなぎ払おうとする鈴の顔面に既に弾切れになっていた焔備を投げつけ、彼女が体制を崩したその隙に清香の葵をキャッチした。

 

『箒、頑張れよ』

『あ、ああ……努力する』

 

「(一夏、見ていてくれ……お前の応援は無駄にしない!)」

 

 試合前に貰った一夏からのエールを脳内で復唱させながら、箒は葵2本を構えた。

 

「一夏は……一夏は貰ったぁぁぁ!」

「渡さんっ!」

 

 一夏との約束のために箒は葵を鈴に向け、『試合で優勝すれば一夏と付き合える』というありもしない噂のために鈴も双天牙月を箒に向け、お互いに叫声を上げながら突進をしかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふーむ、これがIS学園、そしてIS同士の闘技ですか……実に素晴らしい』

「ええ、わたしもつい興奮してしまいました」

 

 そんな彼女達の試合を、人気のない場所から、赤い布地に黄色い模様が染められた袴を纏った女と、彼女が抱える小型ディスプレイに映る男が不敵な笑みを浮かべながら観戦していた。両者ともに後へ引かない戦いぶりに、男の心と体は醤油ラーメンを食した時と同様に揺さぶられ、その様子に女は満足そうに微笑んだ。

 

『あのような発展物がぶつかり合い、争い、そして共に支え合うこの光景……ここでしか観れないかもしれませんね』

「ええ」

『しかし……非常に残念です。できればこの目で直接見たかった』

「わたしも、Iさんと一緒に見たかったです」

 

 ビーッ ビーッ

 

『おっと、そろそろ時間ですね』

「あら、もうですか?」

『はい……巻紙零、そしてそのお仲間さんたちの試合を是非とも見たかったですね』

「ふふ、御安心ください。彼らの試合はわたしがしっかり覚えておきますから」

『Sさんには何から何までお世話になりますね』

「もう、わたし達の仲ではありませんか」

『ふふ、それもそうですね……ではSさん、頼みましたよ』

「はい」

 

 映像がプツリと切れると、女はディスプレイを袴の中へ仕舞い、火照った表情で試合の続きを観戦した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

「緊張してきたな……」

「一夏、大丈夫?」

 

 時は流れ、Aブロック第2試合開始数分前。

 西口では、ISを展開したシャルロットと一夏がその場で待機していた。が、直前になって一夏は軽く身を震わせ、その背中をシャルロットが摩っていた。モニター越しでは単なる集合体にしか見えなかった観客達も、ここではその声援が振動となって響き渡っている。おまけに大勢の観衆の、しかも未確認ISが襲撃したあの日よりも多い人数の前で戦うのだから、緊張するのも無理がないのだ。

 

「とりあえず確認するよ。まずボーデヴィッヒさんだけど、彼女の操縦技術は多分、学年内でも1位の実力を持ってるよ」

「ああ、訓練の時に見てたけど……あれは凄かったな」

「そう、おまけにAICも装備してるから、真正面からやり合うと簡単に堕とされる。一夏なんて特にね」

「はっきり言わなくても……で、零の方は?」

「零の方も中々だね。ボーデヴィッヒさんとの訓練も見てたけど、あの連携はなかなか崩せないかも。それで連携したらまず武装が雪片だけの一夏を堕とす」

「……となると、1体1に持っていくしかないか。けど零と上手くやり合えるかなぁ」

「……そこなんだけどさ」

「?」

 

 意味深な顔をするシャルロットに一夏は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 一夏達があれこれ考えているだろうその頃、クロスライザーを展開した俺は、シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラちゃんと一緒に作戦の事前確認を行っていた。

 

「奴らは1体1を仕掛ける」

「そうなの?」

「おそらくな」

 

 一夏達は俺達の訓練で連携プレイをしっかり見ている、シャルロットもそこら辺は警戒しているだろう。

 あれだけ一緒に訓練してたらそりゃあ警戒されるか。だからあまりやりたくなかったけど……。

 

「で、どうする? 操縦技術と機体性能からして一夏を先に潰すのもありだが」

「……いや、シャルルのことだ。こっちが一夏を潰すことぐらい予想はしてると思うよ。ラウラちゃんの言う通り、1体1に持っていくと思う」

「そうなるな。では私がデュノアをやる。零は一夏でいいか?」

「ああ」

 

 流石にシャルロットが相手じゃ俺も勝てる気がしない。あいつの高速切替とかいうやつは一夏とのやり合いでも確認させてもらったからな、あの連撃は受け止めきれない。

 

「……そうだ」

「ん?」

「この試合で勝ったら何か奢るよ」

「いきなりどうした?」

「単なる景気づけだよ。この方がやる気出るかも」

「……では、お前の手料理を食べさせてくれ」

「OK、何がいい?」

「うむ……焼きそばがいい、萌やし入のやつを頼む」

「りょーかい」

 

 焼きそばか……美味く作れるといいな。

 

『これよりAブロック第2試合を始めます。選手は入場してください』

 

 お互いに約束を交わし、俺たちはアナウンスの言われた通りにスタジアムに向かって飛び出す。一夏とシャルロットも同じタイミングで飛び出したようで、お互いに定位置で止まった。

 

「よ、手加減はしないぜ」

「ああ、もちろん」

「全力でいくよ」

「ああ」

 

 俺達は睨み合い、

 

 …………ビ────! 

 

 試合開始と同時に宙を舞った。

 

「ウオォォォォッ!」

 

 そして開始早々、一夏が瞬時加速をかけながら、雪片弍型で俺目掛けて突っ込んできた。先手必勝ってやつ、いや、初っ端から1体1に持ち込むつもりなんだろう。

 おまけに一夏の横からシャルロットが放ったライフル弾がラウラちゃん目掛けて飛んできた。これはもう隠す気はないか。

 

「ならお望み通りに!」

 

 彼の望み通りに、俺は翼型のスラスターを広げて片手のクロスマッシャーで雪片の一撃を受け止め、火花を散らしながらそのまま後退する。

 

「やっぱ防ぐよなぁ!」

「もちろん、で、こう!」

 

 俺はもう片方のクロスマッシャーで一夏の腹あたりに弾丸を放つ。爆発するように弾けると同時に白式の身体が大きく後退するが、一夏は羽を噴かせて何とか堪えた。

 が、そんな隙を逃すわけがなく、俺は空中を移動しながら一夏に向かって両脚のワイヤーブレードを伸ばした。

 一夏は気づいて逃げようとスラスターを四方八方に噴かせる。

 

「ほら!」

「くっ、うわ」

 

 ワイヤーブレードで翻弄させつつ、俺は一夏目掛けてクロスマッシャーの弾を放った。もちろん、無駄弾を出さないように一撃一撃を確実に狙いを定めて放った。これもラウラちゃんとの訓練のおかげだな。

 

「(やっぱ刀1本じゃ辛いなぁ……俺もライフルの1つでも持てたら)」

 

 なんてことを考えてそうな苦顔を浮かべながら躱し続ける一夏。にしても、スラスターはまだぎこちないけど、一夏も回避が上手くなっている。あの訓練だけでここまで向上するもんだ。箒も一夏ももしかしたら才能が眠っているだけなのかもしれないな。俺? 出来ればいらないな、そんなもん。ただのんびり死なない程度にみんなと暮らしたい。

 

「そこっ!」

「おわっ!」

 

 ワイヤーブレードが漸く一夏を捕らえると、俺はすぐさまワイヤーを巻き付けて一夏を引き寄せ、

 

 バンッ! 

 

 ……ようとしたところで、横から割って入るように弾が飛んできて、俺のライザーファングに被弾した。幸い壊れはしなかったものの、一瞬の隙をつかれて一夏がワイヤーを振り払って後退していった。

 やれやれ、やっぱ一筋縄ではいかないか。

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

『悪いシャルル! 助かった!』

「どういたしまして」

 

 一夏からのプライベート・チャネルに、シャルロットは言葉を返す。

 

 零と一夏が激しい戦闘を繰り広げている一方、少し離れた場所では、シャルロットとラウラによる高速の攻防戦が繰り広げられていた。

 

「はぁっ!」

「てゃあ!」

 

 ラウラは4本のワイヤーブレードを縦横無尽に操りつつ、時にリボルバーの音を鳴らし、時にプラズマ手刀で切りにかかる。対するシャルロットも同様に、高速切替による銃とブレードの連撃を放ち、ラウラからの攻撃を相殺していた。両者ともに一歩も引かない。

 

「流石だね、ボーデヴィッヒさん」

「お前もなかなかだ」

「ありがとう……けど、僕も負けてられないよ!」

 

 シャルロットはショットガンを構え、6連射をラウラに放つ。

 

「(僕は……私はもう迷わない、だって)」

 

 

 

『シャルロット……これが真実だ』

 

『デュノア社長……』

 

『……私は、あの日、嫉妬のあまりあなたに当たってしまった……謝っても謝りきれないわ』

 

『ロゼンダ……さん』

 

『……今まで、本当にすまなかった』

 

『……正直、頭の中が混乱してます。お母さんが死んでから何もかもぐちゃぐちゃで、使い捨ての駒にされてると思ったら本当はそうじゃなくて…………怒っていいのか、喜んでいいのか……けど、今はあなた達のことを信じます……僕も、今まで疑ってごめんなさい』

 

『シャルロット……』

 

『……お、お父、さん?』

 

『え?』

 

『ほらあなた、ちゃんと返事してください』

 

『そ、そんな急に言われても……』

 

『もう、浮気はするのにこういう時はチキンなのね』

 

『や、やめんか! 娘の前だぞ!』

 

『……ぷっ、あはは』

 

 

 

「(私にも、大切な人がいるんだ! だから……)負けるもんかァァァァァ!!!」

「くぅっ!」

 

 数日前のデュノア社……否、父と義母との会話を思い返すと、シャルロットは叫声を上げながらアサルトカノンとマシンガンを展開し、ラウラに向けて爆破弾と弾丸のの嵐を放つ。多少の不安は残りつつも、迷いと疑問を振り払った彼女の顔は、日の出のような清々しさを持っていた。

 

「(押されているな……しかし、私も負ける訳にはいかない!)……そこっ!」

 

 バシュっ! 

 

 シャルロットがアサルトカノンを仕舞うと同時に、ラウラはレーゲンのスラスターを噴出させながら一気に距離を詰め、プラズマ手刀でマシンガンを断斬する。

 

「ちっ!」

 

 シャルロットはマシンガンだったものを後方へ投げ捨てると、すぐさま別の武装を展開してラウラと刃を弾けさせた。

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

「くっ! おら!」

「やるじゃないか!」

 

 ラウラちゃんとシャルロットが激しい試合を繰り広げている頃、中盤に差し掛かった俺は一夏と斬りあっていた。お互い一気に斬りかかり、当たると1度後退してまた斬りにかかる、SFやバトルものでよく見るような戦い方をしていた。センサーがビービーうるさい。

 

「そこだ!」

「うわぁっ!」

 

 一夏が後退した一瞬の隙をついて、俺はまだ使っていなかった胸部のワイヤースラッシュで一夏の身体を拘束する。

 卑怯者に見えるかもしれないが、これは試合だ。単なる斬り合いだけが戦いじゃない。

 

「いけっ!」

「なっ……うわぁぁぁぁ!」

 

 拘束と同時にビームソードを伸ばしたライザーファング2基を一夏に向けて直撃させ、地面目掛けて押し落とした。一夏が地面に叩きつけられたと同時に、激しい爆音と砂煙が舞った。今の一撃で白式のSEは大分削られたはずだ。

 

 ……ん? まさか……

 

「マジかよっ!」

 

 俺はラウラちゃん目掛けて、自分でも気づかないうちに瞬時加速をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

「もうそろそろ限界じゃないか?」

「くっ、まだまだ、ヘッチャラだよ」

 

 試合開始から時間が経ったが、ラウラとシャルロットの攻防戦は未だ続いていた。が、体力面ではテストパイロットと現役軍人には差があるようで、シャルロットは軽い息切れを起こしている一方、ラウラはまだ余裕と言いたいような表情であった。

 

「(あれをやるなら……今だ!)」

 

 SEの残量から勝負の時期を感じたシャルロットはブレードでラウラを軽く弾くと、左腕に装備したシールドを彼女に突き立て加速をかける。

 

「そこっ!」

 

 突然見せた隙を逃さんと、ラウラは秘密兵器、AICを展開しようと腕を伸ばした。これでリボルバーを当てれば確実に勝利。そう確信した。

 

 バンッ! 

 

「なっ……!?」

 

 しかし、その一瞬の慢心が新たなすきを生み、別方向から放たれた弾丸をその身に受けた。

 

 弾が出された方角には、まるで『これはタッグトーナメントだぜ?』とでも言いたいような顔で、手持ちサイズの小型ピストルを握った一夏が砂煙に紛れながら立っていた。

 

「(まさか、あの時の……)」

 

 ラウラは一夏の足元に転がる先程の切り落としたマシンガンの残骸を見て瞬時に判断する。

 おそらく、シャルロットは何処かのタイミングで小型ピストルを展開し、それをガラクタになったマシンガンとともに捨てたのだろう。そしてそれを一夏が拾い上げ、ラウラに命中させた。

 

 シールドが崩れ、パイルバンカー『グレー・スケール』がその姿を表す。訓練でも武装でも一切見せていなかった隠し球を、シャルロットはラウラの腹部目掛けて突き立てた。

 

「(なるほど……1本取られたわけか)」

 

 一か八かのかけのようなやり方ではあるが、これは立派な戦術の一つだ。ラウラはバンカーが腹部に当たるまでの一瞬の間に、自らのミスを悟った。

 

 

 

「ラウラァァァ!」

 

 ガシャンッ! 

 

「がっ!?」

「えっ!?」

 

 ふと、零の叫び声が聞こえたかと思うと、目の前に驚異的なスピードでクロスライザーが割って入ってきた。

 と同時にバンカーが放たれる鈍い音が響き、肺の空気がなくなるような苦しい声が漏れた。

 

「…………あぁぁぁぁっ!」

「れ、れ……きゃあぁぁぁ!」

 

 ウイングスラスターを噴射させてその場に踏んばりながら、零は腹に打ち込まれたバンカーの激痛に耐えつつ、クロスマッシャーを暴れるように振るい、ラファールに切り刻むような連撃を放ち、パイルバンカーと左腕の装甲を弾かせ、シャルロットの叫びとともに吹き飛ぶ。

 

「零!」

 

 爆発とともにシャルロットとは別方向へ吹き飛ぶ零を追いかけるようにラウラはスラスターを噴出させ、彼が壁に激突する1歩手前でその体を受け止めた。

 

「零、しっかりしろ! 零」

「……うるさいなぁ、そんなに叫ばなくてもいいだろ」

 

 必死に体を揺らすラウラに、零はマスク越しに不機嫌そうな声を出した。

 

「お前と言うやつは……あんな無茶なことをするやつがあるか」

「……無茶で結構、あれって相当痛いんだよ」

 

 体勢を立て直しながら零は応えた。

 

 過去にオータムが敵ISからパイルバンカーを腹に受けたことがあったのだが、その後も数日間、オータムの腹には痣ができ、痛みに唸っていた。

 視覚的ではあるが、バンカーのおぞましい威力を知っていた零は、本能的にラウラを庇ったのだ。

 

「けど、こいつの装甲が分厚くて助かったかな……あ、勝負は?」

「ああ、それなら」

 

 ビ──ーッ! 

 

 試合終了の合図が鳴り響き、観客席から声援が上がった。2人がシャルロットの方に目を向けると、SEが切れたシャルロットと彼女を背負うように持ち上げる一夏の姿があった。

 残りSEの数値により、ラウラと零の勝利に終わったのだ。

 

「勝ったんだ……」

「ああ、私達の勝利だ」

 

『いやー、負けちまったなぁ。折角当たったのに』

「よくあんな突飛推しもないやり方を考えたもんだよ」

『ごめんね、でもボーデヴィッヒさんと零を倒すにはああでもしないとダメかと思って……ちょっとギャンブル過ぎたけどね』

「いや、私も久々に楽しませてもらったぞ」

「最後はなかなかめちゃくちゃな終わり方をさせたけどね」

 

 オープン・チャネルを通じて、4人は談笑しあう。

 何はともあれ、無事に試合が終了したのだ。

 

「……さて、帰ろ……てぇ」

「お、おい。大丈夫か? パイルバンカーか?」

「……ごめん、バンカーじゃなくて多分無理に加速したせいだと思う、どっかやったかも。まあ大丈夫だよ」

「ば! バカ! 大丈夫なわけないだろ!」

「このくらい平気だから。ほら、帰ろ。焼きそば作るから」

「あ、おい! ……全く」

 

 脇腹辺りを抑えながら入場口まで戻る零の背中を見つめた。

 

 さっき、間違いなく零はラウラのことを呼び捨てで呼んだ。そして揺らした際の第一声……いつもとは違う崩れた口調、あれこそが本当の彼の声なのかもしれない。

 

「……なんだ、この気持ちは」

 

 ふいに、ラウラは自身の胸の内に今までなかったざわめきが湧き上がっていることに気がつく。しかしそれは不安とは違う、何か別のものであることは彼女にも分かった。まるで舞い上がるような、不思議な気持ちだ。

 

 

 

 

 

『……VALKYRIE TRACE SYSTEM……FORCED BOOT』

「? なんだ?」

 

 突然、どこからともなく聞こえてきた声にラウラは首を傾げる。そしてすぐに全身に微弱な電流が流れているようなピリピリとした感覚が走っていることにきがつく。

 

「……こ、これは」

 

 バリバリバリバリッ! 

 

「うあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 悪寒が走ったのも束の間、ラウラの身体に激しい電流が走る。

 

「な、なんだ!?」

「え、なに!?」

「……ラウラちゃん?」

 

 ラウラの絶叫に3人は振り返り、苦しみの声を上げる彼女の姿に驚愕する。

 

「ラウラ!」

「くるなっ! 逃げろっ!」

 

 かけようとする3人を、ラウラは大声で静止させる。

 

「な、なんだこれは……い、いらない……こんな力、今の私にはいら…………あぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 まるで闇に誘い込むかのような感覚にラウラは反発しようとする。しかしすればするほど電流はさらに強まり、装甲はドロドロとしたものへと変わり、脚部、腕部、上半身と少しずつ彼女の身体を覆っていった。

 

「ラウラちゃん!」

「………………れ……い……」

 

 その言葉を最後に、ラウラは完全に黒塊に飲み込まれた。そして暫くして、それはあるものに形を変えた。

 

「(……織斑千冬?)」

 

 ラウラを飲み込んだ黒い塊。

 

 その形は、あの世界最強のIS操縦者、織斑千冬に酷似していた。

 




今悩んでいるもの
・鈴の家族の和解
・コスモスの登場

どれも後々まで残さなくても話の流れからして早い段階で回収出来そう。
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