IS、零   作:歩輪気

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22話目


零、奮闘、夏、命中

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「あれは……」

 

 教師専用の観察室。そこで一夏達の試合を観戦していた千冬は、モニターに映し出される映像に声を出した。

 

「な、なんですかあれ」

 

 千冬の隣で観戦していた真耶は思わず声を上げた。

 ラウラがいきなり電撃に包まれたと思ったら、次の瞬間には黒い塊へと変化していたのだ。しかも、その黒塊の形というのが、どこかの誰かさんにそっくりなのだ。

 

「……VTシステム」

 

 千冬は誰にも聞こえない声で小さく呟く。

 VTシステム……前に束が『こんなの不細工な代物だよ、ちーちゃんみたいに綺麗じゃないし、私ならデザインをちーちゃんにして足先から頭の先までちゃんと造るよ。あとむn』と愚痴で捨てるように話していたあのシステムが、今目の前で発動していた。

 

「(発動条件は確か……いや、それならラウラはどのパターンも満たしていないはず、束も外すとなると……なるほどな)……やってくれるな、ドイツ軍!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『非常事態発令! 現在行っている全試合を中止! 生徒と来賓のみなさまは速やかに避難してください! 繰り返します! ──────』

 

 突然、観客席にブザーが鳴り響き、避難命令のアナウンスが響き渡る。

 

「な、なに!? 何があったの!?」

「こ、怖い……立てない」

「だ、大丈夫? 頑張って」

 

 なんの前触れもなくアナウンスが流れたことで、観客席にいた生徒達と一部の来賓は混乱に包まれた。

 

「これは」

「さあ、けどやばいことだけは確かね」

「ええ、そうですわね」

 

 周りが慌てふためく中、試合を終えて客席で観戦していた箒も鈴、そしてセシリアは冷静に状況を判断していた。セシリアは言わずもがな、箒と鈴は以前の無人機襲撃事件で同じような目にあっているためか、自然と焦らず、冷静でいられた。

 

「とりあえず、わたくしは皆さんの避難誘導を行いますわ。鈴さんもよろしいですね?」

「……いいわよ。ホントは一夏達を助けに行きたいけど、こんなんじゃ何処もバリアー貼ってて無理だろうし」

「…………」

 

 鈴は顔を曇らせながら答え、箒は無言で不安に包まれる。冷静ではいるものの、両者とも一夏達のことが心配でないわけではない。助けられるなら今にでも助けに行きたいと考えていた。

 

『鈴ちゃん、聞こえる?』

「た、楯無さん! 一夏は! 一夏は無事なんですか!」

『もう、落ち着いて。大丈夫、織斑君は無事よ』

「零さんとデュノアさんは?」

『2人も生きてるわ』

「そっか……良かった」

「(一夏……)」

 

 楯無からの知らせを聞いた鈴と箒は各々安堵する。

 しかし、今どのような戦闘が行われているかも分からない。なら、自分たちのできることをするしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あれは……」

 

 俺は今、数十メートル先で鎮座する黒い塊に唖然としている。自分でも分からねえ、試合に負けて4人で帰ろうとしたら突然ラウラが叫び声を上げて、気づいた時には変な黒いものに包まれて…………なんだよ、あれ。

 

「ら、ラウラ! 聞こえるか!? ……ダメだ、繋がらない。なんなんだよあれは」

「……多分、VTシステムだよ」

「VTシステム?」

「VT……なんだそれ?」

 

 零の言葉に俺とシャルロットは首を傾げた。そんな名前、聞いたこともねえ。

 

「正式名称、ヴァルキリー・トレース・システム……簡単に言えば、歴代のモンド・グロッソの部門受賞者の動きをそのままトレースするシステムだ」

「ヴァルキリー……てことは」

「一夏の想像通り、あれは織斑先生をトレースしたものだよ」

 

 千冬姉の……だからあの時の千冬姉に少しそっくりなのか。

 

「……そして、こいつは操縦者にデカい負担をかける。だから条約でどんな理由があっても開発も研究も使用も禁止されてるんだ」

「そうなの?」

「ああ。そして、あれを使った操縦者は……最悪死ぬ」

「「!?」」

 

 零の言葉に俺達の背筋が凍った。

 

「じゃあ、ラウラは……一体誰がそんなものを」

「決まってるだろ。こんな阿呆みたいなことをするのは、開発したものを試したくて仕方がない輩だけだ」

「……まさか、ドイツ軍?」

「全く、よくもまあこんなことができるもんだ」

 

 ビーッ! ビーッ! 

 

「っ!? 来るよ!」

 

『…………!』ビュン! 

 

 シャルロットが叫ぶと同時に、千冬姉の形をした黒塊が雪片みたいな刀を出して零に突撃した。

 

 ガンッ! 

 

「零!」

「くっ……!」

「…………」

 

 クロスマッシャーと雪片擬きがぶつかり合う音が響いて、零と黒塊が睨み合いながら、刀と剣を弾かせあう。

 間違いない……あの動きは、千冬姉のものだ……それを、アイツは……。

 

「(……て、何考えてんだよ。ラウラが死ぬかもしれないってのに)」

 

 何故かラウラに対してわけのわからない怒りが湧いてきたことが気持ち悪くて仕方なかった。確かにあれは千冬姉の技だ。けどそれが今となんの関係があるっていうんだ、知り合いがやばい事になってるんだぞ! 

 

「れ、零!」

「来るな一夏! お前はSE切れのシャルロットを全力で守ってろ!」

「けどっ!」

「お前もSE殆どねえだろ! 死にたいのか!」

 

 いつもと違う口調で叫ぶ零からの威圧に俺はその場で立ち尽くした。

 

 ……俺は…………俺に出来ることは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 さて、今俺はとんでもないことに巻き込まれている。

 何せ今、あのVTシステムとかいうタチの悪いシステムがラウラちゃんを飲み込みんだからだ。

 ちなみにこのシステム、本来なら操縦者のダメージやら力の欲望やら色々と面倒臭い条件を満たして初めて発動するらしいんだが、場合によっては別の条件、例えば操縦者がいつまで経っても条件を満たさなかったりすると強制起動をおこしたり、開発者側が手動でやったりすることもあるらしい。

 にしても、まさか姐さんがついで程度で教えてくれたことがこんなところで役に立つとはね。

 

 ……いや、もうそんなことはどうでもいい。

 

「でやぁぁ!」

「……!」

 

 ガギンッ! 

 

 クロスマッシャーで斬りかかった俺を黒塊は雪片擬きで軽く受け止める。

 

 今はとにかくラウラちゃんを助けることが最優先だ。このシステム、下手すればパイロットの体がボロボロになって死ぬかもしれないクソみたいな代物だからな。

 こんなものをISに仕込んでおくなんて。あいつら、ラウラちゃんのことをなんだと思ってやがる。

 とりあえず隙だ、隙を見つけるんだ。

 

『零君! 聞こえる!』

 

 やり合ってる途中、突然プライベート・チャネルが起動して、画面に楯無さんの顔が映し出された。

 

「聞こえてますよ」

『今教師部隊とケイシーさん達が向かってるから……て、まさか』

「お察しの通り、VTシステムとやり合ってるんですよ」

『VTって……やっぱり』

 

 楯無さんもVTシステムぐらいは知ってるか。

 

「っっっ!!!」

 

 ザシュッ! 

 

「ちっ!」

 

 楯無さんとくっちゃべってる途中、黒塊は素早い動きで刀を上段に構えて斬りにかかってきた。なんとなギリギリ避けられたものの、今のはもろに食らっていたらやばかった。

 

「おうらぁ!」

 

 俺は一気に距離を後方に回避し、旋回しながらやつにワイヤーブレードとワイヤースラッシュの嵐をお見舞した。

 

 シュンっ! シュンっ! 

 

 が、奴はどのワイヤーも躱す。小さく横にズレたり、昔やってた映画のワンシーンみたいに背中を沿って躱したり。

 ……幾ら模写とはいえ、織斑千冬は強いか。

 

「っっっっ!!!!」

「マジかっ!」

 

 突然黒塊は瞬時加速で俺に急接近してきた。さっきのあれ、瞬時加速じゃなかったのかよ……。

 奴からの突撃に俺はクロスマッシャーを盾替わりにしたが、やつの鋭い刀先はその装甲を貫いた。それどころか身体に少し刺さったっぽい。

 

「おらっ!」

 

 爆ぜる寸前のクロスマッシャーのどさくさに紛れて、右肩のライザーファングを奴の足先にぶつけて吹き飛ばし、クロスライザーを一気に後退させる。もし胴体をやったらラウラちゃんを殺しかねないからね。

 

 さて、どうする。クロスマッシャーの片方はやられた。このままやり合っても何も始まらない。あれは多分、ラウラちゃんが死ぬまで動き続ける、かと言って俺がこのままやっても俺のSEが尽きて殺される。

 全く、こうなるんだったら武器のひとつでも追加しておけばよかった。

 

「……賭けに出るか」

『賭けって……何をするつもりなの?』

「ごめん楯無さん、1回通信を切らせてもらうよ」

『あ、待って────』

 

 さて、もうこうなったら出るしかない……死んだら姉さん達やレインに会えなくなるかもしれないけど。

 

「…………っっっ!!!!!」

 

 耐えきれなくなったのか、向こうから突進してきてくれた。これはありがたい。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 らしくない雄叫びを上げながら、俺もあいつ目掛けて突進をしかけた。殺さないように、傷をつけられれば! 

 

 ガジャンっ! 

 

 クロスマッシャーと雪片擬きがぶつかり合う。

 

『っ!』

「マジか!」

 

 と思った矢先、奴はもう片方の腕から雪片擬き2号を生やしてきやがった。

 

 バンッ! 

 

 しかし横から何かが飛んできて、奴の振るおうとした刀を弾き折った。

 ……流石は主人公。2回も当たるなんて、こういう時の運は強い。おかげで隙が出来たよ。

 

 ザシュッ! 

 

 俺はクロスマッシャーを上へ反らし、その隙に胸のスラッシュを伸ばして奴の腹部に突き刺した。

 

「うおぉぉぉ!!」

 

 俺は奴の腹部に飛びつき、両腕で傷口を推し広げようと奮闘する。と同時に柴電が俺と黒塊に流れ始め、傷が裂ける度に電流は増していく。

 

 ガンッ! ガンッ! 

 

「ぐぉ…………うぉぉぉぉ!」

 

 暴れ狂うように殴り付けてくる黒塊の猛攻を受けながらも、俺はライザーファングを盾にしながら耐え続けた。時々胴体にも当たっているせいか、骨が少し軋むような音も聞こえてきた。

 

「…………っ! 見つけた!」

 

 そして引き裂いたその先に、ラウラちゃんの手が見えた。

 

「ラウラ!」

 

 俺は手を伸ばし、彼女の手を掴んだ。

 その瞬間、いきなり彼女を包んでいた泥が弾け飛び、四方八方へ……いかずに、そのまま俺とラウラちゃんを包み込むように覆いかぶさってきた。

 こんなのってありかよ。

 

「「零!」」

 

 一夏とシャルロットの叫びを聞いたと同時に、俺の意識は真っ暗闇に包まれた。

 

 …………マドカに会いたかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

「零!」

「お、おい。どうしたんだよM」

「あ、いや……今零が私の名前を呼んだような気がして」

「まーたそれかよ。お前大丈夫か?」

「いや、確かに聞こえたはずなんだ……」

「エムー、卵焦げてるわよ?」

「え? うわっ!」

「たく、こりゃあ重症だな」

「(そういうオータムもやけ酒の量が増えたけどねー)」

 

 

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