IS、零   作:歩輪気

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23話目

※一部文章を追加しました。


兎、零、セピア色

 ──────────────────────

 

 

『Cー0037……またお前だけ制御不能か』

『出来損ないが』

 

 

 これは、あの時の記憶か。

 

 

『全く、ISすらろくに動かすことが出来ないなんて』

『期待外れか……』

 

 

 相変わらず酷い言われようだ。何度思い出しても不快になる。

 

 

『(何故だ……何故私だけ……!)』

 

 

 私も、初めは現実が受け入れられなくて尖っていたものだ。周りに追い抜かされたこと、周りに見下されること、出来損ない扱いされたことが悔しくて、しばらくは唸っていたな。

 

 で、いつまで経っても適正が上がらず、陰口も収まらず、次第に自暴自棄になっていったわけだ。

 

 

『1度でいいから外出してみたらどうだ?』

『え……外出? しかし』

『たまの息抜きも必要だろう。服は私が貸してやる、ほら』

『あ、ありがとう……』

『着心地はどうだ?』

『悪くはない……』

『……ぐへへ』

 

 

 あの日、今の部下のクラリッサから服を借りて……待て、なんだ今の声。

 

 まあいいか。

 

 それで町に出て盗人をとっ捕まえて財布を落として……。

 

 

『道に落ちてたけど、これ、君のでしょ?』

 

 

 ……懐かしいな、この記憶も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────??? 

 

 

「……ここは?」

 

 過去の記憶から目を覚ますと、私の目の前に何も無い真っ暗な空間が広がっていた。本当に物ひとつすらない。私もISスーツしか纏っていない。

 

「うっ……」

 

 痛む頭を抑えながら起き上がり、先程までのことを整理する。確か零を受け止めて、試合に勝って、帰ろうとしたら変な声が聞こえて、身体に電流が流れて、装甲が黒い泥みたいに溶け始めて……。

 

「……VALKYRIE、TRACE……なるほど、そういう事か」

 

 あの時、謎の音声が発していた言葉。あれは間違いなくヴァルキリー・トレース・システムのことだろう。私だって軍人で部隊長だ、それくらいのことは知っているさ。

 

「……ははっ、はははっ」

 

 心の底から乾いた笑いが込み上げてきた。

 つまり、私はまんまとモルモットにされたということか。それが祖国なのか内部の者なのか……国だとしたらメリットがないから、一部の関係者か。

 どちらにしろ、彼らにとって私はその程度の価値なのだろう。所詮は生物兵器か。

 もし私が教官関係……例えば一夏を恨むだとかしていればもっとスムーズに起動していたかもしれない。そんなものは無理だから強制的に発動するように仕組んだのだろう、実際に強制起動と言っていたからな。

 

 しかし不思議なものだ。

 

 酷い仕打ちを受けているはずなのに、全く心が痛まない。まあ、昔からこういう扱いには慣れているからか。

 

 ……どうしたものか。

 

 どこを見ても暗闇しかない、

 

 そのうえ何だか抗う気力も起きない。

 

 もういっその事このままで良いとも思ってしまっている。

 

 まるであの時と同じだな。

 

 ……シュヴァルツェ・ハーゼのみんなは元気にしているだろうか? もし私がいなくなっても……クラリッサは優秀だ。彼女ならきっと隊を導いてくれるに違いない。

 

 ……ああ、そういえば、あいつらには土産を買わなければいけなかったか。全く、人使いが荒い部下を持ってしまったものだ。

 

 …………もう疲れた。

 

 …………ここでも一人ぼっちか。

 

 …………そういえばさっきの零、私のことを呼び捨てしてたっけ。

 

 あれが別れの言葉なんて悲しいな。

 

 おまけに最後に見た夢があれって……。

 

「……ん?」

 

 ふと、前方から声がすることに気がついた。

 誰かが泣いているような、そんな声だ。

 

「? なんだ?」

 

 突然、目の前にぼんやりとしたセピア色の映像が映し出された。

 

 そこには、声の主と思われる子どもが蹲っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

『……ここは何処だろう』

 

 昔むかし、ある所に、とある男の子がいました。

 

 その男の子は自分が何者なのか、どこで生まれたのかすら分からず、ずっと1人ぼっちでした。

 

『(……お腹、空いた)』

 

 男の子はいつも空腹で、酷い時は何日も食事にありつけない時もありました。

 

 ただ毎日、行先も決めずにおぼつかない足で歩く日々。

 そんな彼を助けようとする人は誰もいませんでした。

 

 そして今日もまた、道の途中で蹲っていました。

 

『(……死ぬのは、嫌だ……死ぬのだけは……)』

 

 でも、男の子は生きることを諦めませんでした。例え無視されても、雨に濡れても。

 

『……おい、お前』

『…………』

『……離せって』

 

 そんなある日、男の子は女の人と偶然出会いました。そこまでではないけど、自分より年上の荒れていそうな性格の女の人にしがみついたのです。

 

『……はぁ、たく。何か変なもんにまとわりつかれちまったな』

『…………?』

『いいか? 今から飯奢ってやるから、それ食ったらどっか行けよ?』

『…………』コクッ

 

 男の子はその人と手を繋ぎ、結果的にそのまま拾われることになりました。

 

『今日からお前は零だ』

『レイ?』

『そう、お前何にも覚えてねえからな。適当だ』

 

 そして男の子はその人から[零]という名前を貰ったのです。男の子も、その人のことを姉さんと呼んでいます。

 

 

 

 それから暫くして、男の子に家族が増えました。

 

『あら、可愛い子ね。お名前は?』

 

 ちょっぴりエッチなおばさんです。男の子はその人のことを姐さんと呼んでいます。

 

 

 さらに暫くして、男の子にまた家族が増えました。

 

『なんだよお前、こっち来んな!』

 

 ちょっぴり気性の荒い男勝りな女の子です。男の子にとっては友達でもあり、お姉さん的存在でもあります。

 

 

 そして数年の時が流れて、またまた家族が増えました。

 

『……私も……行きたい』

 

 その子は、とってもとっても可愛い女の子でした。男の子にとって、その子は今ではかけがえのない家族になっています。

 

 それから、男の子はみんなと一緒に色んな場所へ足を運びました。街にも、海にも、男の子は思い出を増やしていったのです。

 

 

 

 それはいいものばかり、とは言えませんでした。

 

 ある日は、

 

『礼子ねーさん……』

『な、零! お前なんでここに来たんだ!』

『ん? お前の知り合いか?』

『あ、いえ』

『ねーさん』

『うっせえ! 帰れ!』

 

 ゴンッ! 

 

『うぐっ……うぅぅっ』

『あ、やば……』

 

 姉さんのお仕事の邪魔をしたり、またある日は、

 

『零! お前オレのセーブデータをよくも!』

『わ、わざとじゃないよ』

『うっせー! ぜってー許さねー!』

『痛っ、わ、わざとじゃないってば!』

『いてっ! 逆ギレすんじゃねー! このやろー!』

『うぐっ! ばか!』

『うわ、アホ!』

『はいはい、やめなさい』

『がっ、お、おば……ざん』

『ぐっ、苦しい……』

『ここまでしないとやめないでしょ、あなた達』

 

 友達と派手に喧嘩して姐さんから絞め技を受けたり、またある日は、

 

『…………』

『れ、────?』

『…………』

『ご、ごめん、ゲーム機、壊しちゃって……あれ、どこにいくの?』

『知るか、ばか』

『え』

『もうオレに近づくな』

『あ…………ぅぅっ』

 

 友達を本気で怒らせてしまったり、またある日は、

 

『どうだ零、かっこいいか?』

『うん! ハイグレさんみたいだね!』

 

 ゴンッ! 

 

『な、なんでぇ……』

 

 悪気のないことを言って姉さんを怒らせてしまったりと、あまり思い出したくない思い出も沢山あります。

 

 

 また、

 

『マドカ、どうしたの?』

『なんでもない……なんでもない……だから、離さないで』

『……うん』

 

 ある日は、大切な女の子が震えるように男の子に泣きついたり、

 

『姐さん? どうしたの?』

『ん? ううん、ちょっとね、昔のことを思い出してて……』

『ね、姐さん?』

『……ごめんなさい、今は1人にして欲しいの』

『う、うん……』

 

 ある日は、いつも明るい姐さんが泣いていたり、

 

『姉さん、どうしたの?』

『ん? ああ、この前やられたバンカーが痛むんだよ』

『……痛い?』

『まあな、これは数日は残りそう……いてて』

 

 ある日は、姉さんが怪我を負ってしまったりと、家族が辛いことにあってしまうという思い出もありました。

 

 けど、嫌な思い出も、楽しい思い出も、男の子にとっては全部が宝物なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして男の子は、

 

『今日の晩飯は俺が作ってやるよ』

『ほんと? 僕、────のご飯美味しいから嬉しい!』

『そ、そうか?』

 

 みんなと触れ合いながら、

 

『零……一緒に寝てくれないか?』

『いいけど、何か怖い夢でも見たの?』

『いや、そういう訳じゃない……なんとなく』

『いいよ、僕も寂しかったから』

 

 少しずつ成長していき、

 

『おい零! 返事ぐらいしろ!』

『うるさいなぁ姉さんは。ただ女の人を案内しただけだろ』

『てかお前未成年だろ!』

『だから何もやってないって』

 

 時に喧嘩をしながら、

 

『零……』

『マドカ……姐さん何ニヤけてんだ?』

『別にー?』

『な、いつからいたんだ……』

 

 時に揶揄われながら、

 

『零、ハグしてくれ』

『なんだよいきなり』

『いいから』

『……全く』

 

 みんなと一緒に仲良く暮らす日々を送ることになりましたとさ。

 

 めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

「これが……お前の過去か」

「…………」

 

 暗闇の中、ラウラはいつの間にか隣で座っていた零とともに、空間に映し出された彼の過去の記憶を観ていた。あいにく映像に出てくる零以外の人物の顔はぼやけているものの、何気ない日常を堪能しているその笑顔は、モヤ越しでも伝わってきた。

 

「はぁ、なんだよ全く。いきなり喰われたと思ったら友達に記憶を覗かれるなんて」

「仕方ないだろう、勝手に映ってしまったんだ」

「……恥ずかしいったらありゃしない」

 

 零はため息を吐きながら、恥ずかしそうに頬をなぞる。断片的ではあるが、自分の知られたくない過去、ましてやプライベートを覗かれるというのは、彼にとっては正体がバレるという危険性以上に嫌なことなのだ。

 と言いつつ、彼も先程までラウラの記憶を覗いていたのだが。

 

「お前も、初めは1人だったんだな」

「……もう昔過ぎて拾われる前のことは覚えてないけど、多分1人だったよ。ただ、死ぬのだけは怖くて、必死に生きようとしてたのは何となく憶えてる」

「それで、今の家族と出会ったわけか」

「まあね」

「……諦めなかった結果だな」

 

 ラウラは笑うように口角を上げる。あの時、零が自分に言ってくれた言葉、それは彼の実体験に基づくものであった。

 

「いい家族だな」

「まあね。最近は喧嘩ばっかしている気がするよ。けど、みんな大切な人なんだ」

「大切な人……か」

 

 ラウラは真っ黒な空を見上げる。何処までも暗闇が広がるこの世界の空に、ラウラは千冬やシュヴァルツェ・ハーゼの隊員たちの顔を浮かべた。

 暫くすると、左目につけた眼帯を外し、その眼差しを零に向けた。

 

「……綺麗だ」

 

 ヴォーダン・オージェの移植手術によって変色した金色の瞳を見た零は素直な感想を呟き、それを聞いたラウラは少しの笑みを浮かべた。

 

「……私にとって、お前との出会いは1つの転機だった。お前の言葉が、私の支えになったんだよ」

「そんな、僕は何もやっていよ」

「いや、やってくれたさ。あのままだったら、私はどんなになっていたことか」

 

 零の話した何気ない言葉、それがラウラにとっては、今の自分の存在を作り上げてきた基盤になっていた。

 だからこそ、ラウラにとって零は恩人であり、大切な友人であり、そして…………。

 

「……で、どうするのラウラちゃん? このままここに居るつもり?」

「そうだな、確かにここは居心地がいい。けど、いつまでもここにいる訳にはいかないな……んっ」

 

 ラウラは手を組むと、そのまま上にぐーっと伸ばして背を伸ばす。その場の居心地のよさよりも、現実世界と向き合うことを彼女は選んだのだ。

 

「ぁぁ……なあ零」

「?」

 

 ふと、伸び終えたラウラは赤と金の瞳で零の目を見つめる。

 

「お前にとって、家族は大切な人か?」

「もちろん」

「大切な人は、家族以外にいてもいいか?」

「ああ」

「なら……お前の『大切な人』の中に、私を入れてもらえないだろうか? そしたら頑張れる気がするんだ」

「……いいよ、ラウラちゃんなら」

 

 ラウラの告白を、零は頷いて了承する。その返しにラウラは瞳を潤ませながら、恥ずかしそうに微笑んだ。

 

「ん?」

「多分、出口だね」

 

 突然、2人の後方から白くて眩しい光が漏れ出す。光からは何やら騒がしい音がこだましている。

 

「それじゃあ、行こうか。ラウラちゃん」

「ラウラでいい。その方が私も嬉しい」

「……じゃあ、帰ろうか。ラウラ」

「ああ」

 

 零が立ち上がり、ラウラに右手を差し伸べると、彼女はその手を掴む。

 

「(これが零の温かさか……なるほど、あの時から私は)」

 

 ラウラが内心呟くなか、暗闇は白光によって照らされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

「……イ、しっかりしろ!」

「……イ君」

 

 暗闇から抜け出して早々、聞き覚えのある声が俺の耳に入ってきた。何度も聞いている2人のうるさい声、けど何だか安心してしまう。

 

「……楯無さん、れ……ダリル?」

 

 目を開くと、仰向けになった俺の顔を覗くように見詰める楯無さんとレインの顔が映った。相変わらず変に際どいスーツだ。

 

「目が覚めた?」

「……何とか」

「たく、心配させやがって」

 

 2人は俺が目覚めたことに一安心したのか、ホッと息を吐いて胸を下ろした。左に目を向けると、ISスーツ姿の一夏とシャルロットが心配そうにこっちを見ていた。

 

「はぁ、良かったぁ。てっきり死んだかと思ったぜ」

「え、縁起でもないこと言わないでよ一夏」

「2人とも……なんでここに?」

「覚えてないのか? お前、いきなり黒い塊に喰われたんだぞ?」

「それで固まったまま動かなくなっちゃって、そしたら突然あれが溶けて2人が出てきたんだよ?」

 

 ああ、そうか。俺、あの時ラウラちゃんを引きずり出そうとして喰われたんだっけ。それで暗闇の中でラウラちゃんの過去と俺の過去を観て……ラウラちゃんは? 

 

「隣で眠ってるわよ」

「運ぶのに面倒だから離そうとしても離しやしねぇんだぜ? こいつ」

 

 楯無さんとレインの言葉を横に、俺は顔を右に向けた。

 

「…………」

 

 隣では、ラウラちゃんが俺と同じように仰向けで眠っていた。しかも俺の右手をしっかりと握りしめながら。

 眼帯はあそこに置いてきてしまったようで、彼女の可愛らしい穏やかな寝顔が露わになっていた。

 

 …………昔と変わんないね。

 

 にしても

 

「……あーあ、変な約束しちゃったなぁ」

「約束?」

 

 それだけ言い残すと、俺は再び目を瞑って意識を暗闇へと落とした。途中、レインが俺を起こしながら約束ってなんだよって連呼してた気がするけど、今はこうして……眠ろ…………。

 

 おやすみ……ラウラ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぜぇ……ぜぇ……なんだよこの不意打ち』

『いやはや、まさか過去の記憶にモザイクかけるのがこっちの手作業だなんて。レイもんは手間がかかるお子様だ』

『こんなのねぇよ……おまけになんでセピア色なんだ?』

『思い出ってセピア色らしいからねー』

 

 

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