IS、零   作:歩輪気

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24.5話


黒、泣

 ──────────────────ラボ

 

 配線やら機械のコードやらはたまた機械やらが散らばったとあるラボ。まるで機械が根を張っているようなその光景は、まさに機械仕掛けの樹海または森林といっても過言ではない。

 

「んー、どういうことだろーねー?」

 

 そのラボにて、八〇郎も驚くであろうまさに天からの災いな科学者、略して天災科学者こと束博士は、ディスプレイの映像に首を傾げていた。今彼女の見ている画面には、VTシステムを研究している施設『だったもの』が映し出されていた。だったもの、というのは、既に研究所自体が跡形もなく消えているということであり、そこにはただの更地しか残っていなかった。

 

「さっきまではちゃんとここにあったんだけどなー……束さんよりも先にどっかの誰かさんが消しちゃったかな?」

 

 虚無に近い笑顔で束はネットワーク内を捜索する。

 実を言うと、先程まで束もVTシステムの研究所をこの世から抹消しようとしていた。それは彼女にとって容易いことであり、なんなら死亡者も出さずにやれる。

 しかし、消そうとした研究所はどこにもない。あるのは更地だけだ。

 ちなみに今回のVTに彼女は関与していない。彼女ならあのような紛い物でなく、もっと完璧に、十全に作り上げているだろう。

 

「みーつけた」

 

 ものの数秒で、束はネットワーク内からとある映像を入手し、早速と言わんばかりに再生した。

 そこには、更地になる数分前の唯一残っている研究所内部の監視カメラ映像が記録されていた。

 

「ふーん、なるほど、へー」

 

 その内容に束は唸るように呟いた。

 残念ながら監視カメラの映像自体は暗くて殆ど何も見えないが、叫び声や不快な刺音から、やはり自分より前に誰かが『消した』ということは理解できた。

 

「……あれ」

 

 ふと、束は研究者たちを次々と消していく黒い影らしきものがこちらを見ていることに気がつき、少ない光を跳ね返す不気味な瞳と目が合う。

 

「……っ」

 

 瞬間、束の背中にゾゾっとした寒気が走った。

 細胞レベルでオーバースペックなはずの彼女の本能が、この影を、有象無象のものとはまた違う、人間として吐き気を催すレベルの存在と認識したのだ。

 

「…………とりあえずこのままにしとこー」

 

 束は笑いながら逃げるようにディスプレイをスライドさせ、映像ごとごみ箱へ投げ捨てた。自分の不利益にならなければ、この先のことは彼女にとっては大きな暇つぶしになるかもしれないのだ。

 

「……さてと」

 

 ひと段落ついた束は一息つくと、後方へ振り返る。

 

 

 

 

「どれを着ていけば……え? そっち? けど零さんのクロスライザーは暗い色なので……それに第2の操縦者なのであまり目立つ色は……銀色は少し……うーん」

 

 彼女の後ろでは、愛しの愛娘こと、クロエ・クロニクルが、機械仕掛けのリス達と共に服選びに首を捻らせていた。

 彼女は今、零とのお買い物という名のデートに着ていく服選びに悩んでいる。第2の男性操縦者という彼の立場、そして束のお世話になっている自分の立場等々を考えると、どのような服装で行けば正解なのか、かれこれ数時間は鏡に立って試行を重ねていた。リス達の中には暇すぎてリサイクルパーツの上で胡座をかいて眠るものも数匹いた。

 

「束様、零さんはどのような服が好みなのでしょうか?」

「零君はそういうの気にしないと思うよー(今のところマドっちにしか興奮してないし)」

「うう、迷います」

 

 そんな生まれて初めての服選びに悩む愛娘の成長した姿に、束は嬉しそうに微笑んだ。先程の虚無と違い、この微笑みは本物である。

 

「やはりここはいつもの格好で……」

 

 ピロリンっ

 

 と、首を傾げるクロエの端末に一通のメールが届く。

 

「ん? ……あ、零さんからです! …………」

「どうしたんだいクーちゃん……クーちゃん?」

「…………束様」

 

 メールを開封して中身を確認するやいなや、突然落ち込んだ表情をとるクロエ。そんなクロエの隣に束はピョンと跳ねるように移動し、端末を覗いた。

 

「えーなになにー……『すみません、実は学園の大会で事故にあってしまい、怪我を負いました。今度のデートは難しそうです。また別の日にしていただけますか? 本当にすみません』……ね」

「……束様」

「……ドンと来い、クーちゃん」

「…………うぅ」

 

 クロエは束の大きな胸元に飛びつき、その胸の中で泣いた。何故かリス達も涙を流した。

 

「(いやぁ、遠回しにクーちゃんを泣かせるなんて……やっぱあの国には少し痛い目を見てもらおうかな)」

 

 そう言うと、束は右手でクロエを撫でつつ、左手で小型ディスプレイを操作し、こっそり盗撮したとある映像を全国ネットに乗せて発信した。

 VTシステムの件(研究所をやれなかった腹いせ含む)に加えて、娘が楽しみにしていたデート(買い物)の先延ばしの原因を作った彼らには、ちょっとしたお仕置が必要と判断したのだ。

 

 全く違う理由で天から災難が訪れる。彼らにとって、これはまさに天災なのだ。

 

 多分違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……zzz』

「あ、紅椿」

 

 

 

 

 

 

 

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