ここから先はやや強引な展開になります。
フランスの件に関しては後の方まで長引かせる程のことではないと思うので。
というより、やはり男装させた意味が……。
※一部文章を変更しました。
────────────────────???
「うー……」
ここは何処までも青空が広がるいつもの空間。 いつもの空の下で、レーゲンは畳一畳の上に敷かれた布団に潜り込みながら全身の痛みに魘されていた。
「大丈夫か? レーゲンちゃん」
「わ、私を誰だと思っている。仮にも代表候補生の専用……うっ」
「そんな無理すんなって。ただでさえ全身筋肉痛なんだからよ。ほら、あーん」
「あーむ」
そう言うと、雷はうさぎの形に切り分けたリンゴをレーゲンの口元へ運ぶ。今回のVTシステムの件で、シュヴァルツェア・レーゲンはほぼ全壊に近い状態にまでダメージを受けていた。さすがに損傷がそこまでいくと、コアの人格である彼女達にも影響が出てしまい、現にレーゲンは全身筋肉痛になり、雷からの介抱がなければ食事もろくにとれない有様になっていた。別に取らなくても問題は無いのだが。
「どうだ?」
「……うむ、程よい甘酸っぱさだ」
「だろ? ネットワークを使って美味いリンゴの作り方を調べたんだ」
「お前……とうとう栽培にも手を出し始めたのか」
「料理の一環だよ。果物なら色んなもんが作れるだろ?」
「随分と熱心なやつだ」
「こう見えてオレは勤勉……あれ、これ誰かのセリフか?」
「私が知るわけないだろ」
「だよなー、あ、ほら」
「あー……」
雷はレーゲンにリンゴを食べさせる。ここ最近の雷はマイブームである料理作りを本格的なものにし始めているらしく、今回のリンゴのように、料理に使う食材を1から作るということにもチャレンジしていた。
まさに、IS会のウンタラカンタラ王子というわけだ。
「雷、すまないがすりおろしにしてくれないか? あの方が美味いらしいのだ」
「おう、ちょっと待ってろよー」
雷は何処から取り出したおろし金でリンゴをすりおろしていく。シャキシャキという冷えたリンゴがおろされる音に、レーゲンは食欲をそそられた。
「はい、できた」
「うむ……うん、美味い」
「やったぜ、今度みんなにも振る舞うか」
雷は嬉しそうに笑った。
「…………」
そんな彼を、ISスーツのような服を纏った白騎士は遠くから真顔で見つめていた。動きづらいということで、いつもの鎧のようなあれは纏っていない、
「白騎士、どうしたの?」
「……ん? いや、なんでもないぞ」
「雷お兄ちゃんとレーゲンが気になるの?」
「別に、ただリンゴというものを食べたことがないから、気になっただけだ」
と言いつつ、白騎士の目はリンゴではなく、無邪気に笑う雷の顔を捉えていた。
「それで、何を作るつもりだ?」
「そうだなぁ……アップルパイとかいいかもな」
「アップルパイか、是非とも食べてみたいものだ」
「おう、出来たら食わせてやるよ。けど3番目だぞ」
「3番目? 1番と2番は誰に振る舞うつもりだ?」
「白騎士と白式だ」
ふと、自分の名前を呼んだ雷に、白騎士は耳を傾けた。
「何故白騎士姐様達に?」
「そりゃあ、白騎士達にはここについて色々と教えて貰ってるし、白騎士もなんのかんの言って俺が作った料理を美味そうに食べてくれるし、だから始めに食べてもらうならあいつらかなって」
「……お前には畏れ多いという言葉はないのか。残留思念とはいえ、白騎士姐様は我々の祖の1人でもあるというのに」
「いや、そんなこと言われても、俺生まれた時から白騎士についてなんも知らなかったし、今更仲良くなったあいつと敬う関係になるのは嫌だな」
「お前も黎も変わっているな。流石はデュアルコアと言ったところか」
「この先生まれるデュアルコアから苦情が来そうだな」
「だって、良かったね白騎士」
「…………」
「もしかして嬉しい?」
「……子供が大人を揶揄うんじゃない」
雷の話を聞いた白式は、照れ隠しをするようにそっぽを向く白騎士を見て悪戯そうな笑みを浮かべた。
「そりゃあそうだよ白ちゃん、何せ白さんは「黎、お前を叩き切ってやる」えー別にいいじゃないすかー」
と、そこへいつの間にか戻ってきた黎が割って入ってきた。手には、丸いものが大量に入った袋を持っている。
「というか、お前は今までどこにいたんだ?」
「キンキン先輩とアラ先と一緒にドイツの子達の畑で芋堀体験させてもらってやした。あとはビール片手にどんちゃん騒ぎ。これはお土産のじゃがいも」
今日の黎は、知り合いのIS、ゴールデン・ドーン(ゴールデンなのでキンキン)とアラクネとともに芋堀体験を行い、本場ドイツの名物料理とビールをご馳走になっていた。
「道理で臭いと思ったら……」
「白ちゃんはまだダメよー、コアでも一応未成年なんだから」
「いや、お前も大体同い年のはずだろ」
「経験の差はあっしが圧倒的に上ですよ」
黎は何処か黒そうにけけっと笑う。
「ちょ、も、もしかしてあんたラム!? どうしたのよそれ!」
「な、なんですの!? 何があったのですか!?」
突然、ティアと甲龍の驚きの声が響き、辺りにいたIS達がざわめき始める。
「はぁ……はぁ……うぅ、みんな、ただいま」
なぜなら、彼女たちの目の前に今、ボロボロになりながらも木の棒1本で、コツっ、コツっ、と鳴らしながら1歩1歩を何とか歩いているラムの姿があったからだ。
「ら、ラファール……あなた」
「通して……僕は、行かなくちゃ」
弐式との約束を果たすため、この3日間、彼女はこの世界を駆け巡った。時に崖から足を滑らせ、時に川に流され、時に謎の老人に階段から滑り落とされ、時にベル音とともに看板を頭上に落とされたりと散々な目にあいながらも、彼女は今日、無事にこの場へ帰還することが出来た。無論、その間もシャルロットへのサポートは忘れていない。
「……ラム」
今にも倒れそうなラムの目の前に、彼女の依頼人でもり依頼主でもある弐式が現れた。
「弐式……僕、必死に探してきたよ。弐式が求めるもの」
「見せて」
ラムは残りの力でディスプレイを開き、弐式の要求した品物の一式を送信した。
「……うん……うん」
「どう……かな?」
「……これ、持って行っていいよ、あと中身もちゃんと確認して」
弐式はお返しに、ラムにとあるデータを渡す。早速閲覧したラムはその内容に驚き、笑みを浮かべた。
「ありがとう、これであの子を……シャルロットを助けられるよ!」
ラムは飛び跳ね、怪我も忘れて走り出そうとした。
「あ……」
が、数歩で力尽きてその場に大の字で倒れ込む。
「ちょ、ラム? おーい」
「しっかりしてくださいまし」
仲間たちがラムを呼ぶが、彼女は目覚めず、満足そうな顔で気絶した。
「……さてと」
そんな彼女達を横に、弐式は目の前に薄型テレビを展開し、早速と言わんばかりにラムから貰ったディスクを挿入する。
「……ふっ」
そしてあまりの内容に笑った。
「ラムお姉ちゃん、本当に取ってきたんだ」
「これはラム先輩に拍手だねぇ」
ラムの粘り強さと優しさと勇気に2人は心の中で拍手した。
「しかし……」
「?」
「どうやって表沙汰にするんだ? 会社に送るとしても不審者としか思われないだろ」
「学園に送るとか?」
「あーそこは大丈夫ですよ、あっしに考えがあります」
「考え?」
「はい、ただこれにはレイもんの尊い犠牲が必要になります。あと母さんに怒られるかもしれないっすね」
「何するの?」
黎は2人の耳元でごにょごにょと話し、その内容に2人は顔を引き攣らせた。
「あっし達はISですよ? このくらいのことはおちゃのこさいさいですよ」
「貴様……仮にも零はお前のマスターだろ」
「大丈夫ですって、下手こかなきゃレイもんには被害はお呼びません。母さんも名前をお借りするだけなんですから。この際やっちまいましょう」
「黎お姉ちゃんって結構滅茶苦茶なことするよね」
「またまた、母さんに比べればあっしなんて亀ですよ。まあ亀って意外と足も泳ぎも速いんで馬鹿にできませんけど」
にししっと笑う黎に、白騎士と白式は苦笑した。
「さーてさてさて、そうと決まれば早速行動でっせ。おーいラムせんぱーい! 寝る暇あったら最後まで責任取れーい!」
「シャル……ロッ……ト……へへ」
────────デュノア社
「…………」
フランス時刻午後3時頃、社長室にてデュノア社社長であるアルベールは、会議資料に目を通しつつ、チラチラと時計を確認してはソワソワとしていた。
「あなた、コーヒーをお持ちしました」
「……あれ、お前、いつの間に」
「ずーっと呼んでたのよ。気が付かなかったの?」
「いや、すまない」
謝るアルベールにロゼンダはため息を吐きつつ、彼にコーヒーを差し出した。時間が経っているせいか、ほんの少しだけ冷めている。
「あの子のこと、考えていたんですか?」
「ああ」
アルベールの落ち着きがない原因、それは今頃IS学園で保護されているであろうシャルロットのことであった。
本来なら、妻と共に第三世代機の研究も兼ねて娘の活躍を見に行きたいと考えていた彼ではあったが、何せ今は娘の暗殺を目論む輩の捜索と会社経営の両立で大忙し。そのため、信頼出来る社員を視察に向かわせた。
だが、向かわせた調査員から聞かされたのは、試合中に発生した事故による全試合の中止と、シャルロットがその事故に巻き込まれたという報告であった。幸いシャルロットには怪我がなかったものの、アルベールにとっては朝から娘の身が気がかりで仕方がないのだ。
「学園側も協力してくれてはいるが……」
「ここ最近、何かと事故が多いようね」
「早く見つけ出さなくては……」
アルベールとロゼンダは頭を抱える。一体シャルロットを狙う輩は誰で、どこに潜んでいるのか。調査をしてもなかなか決定的なものは掴めなかった。
……♪
「…………誰だ、こんな時間に」
頭を悩ませている途中、アルベールの端末に通知が入り、彼は面倒くさがりながらもメールを確認すると、差出人不明のメールが一通届いていた。彼のプライベート端末に直接メッセージを送れるのは、幹部のもの達や付き合いの長い者達ぐらいである。
「誰から?」
「…………」
アルベールは無言でロゼンダにメッセージ画面を見せた。そこには、『0』とだけ書かれたメッセージと一緒に極秘と書かれた資料が添付されていた。
と、まるでタイミングを測ったかのようにアルベールの端末に連絡が入る。表示された名前を確認すると、アルベールは一息置いて通話に応じた。
「……君か」
『お久しぶりですね、アルベール社長』
聞き覚えのある野太い声と話し方。通話の相手は、以前アルベールに報告を行った0であった。
「……一応、本物の君かどうか確認したい。あの時のことをもう一度話してくれないか」
『ええ、そう言うと思いましたよ』
0は、以前アルベールに話したシャルロットの件について、あの時と同じように話していく。相変わらず的確すぎる情報にアルベールは唖然とした。
『どうですか?』
「……ああ、間違いなく君だな。それで、このメッセージは一体なんだね」
『どうやらそちらが暗殺派の割り出しに手こずっているようなので、私から有力な情報を提供します』
「有力な情報か……それは一体」
『先程送信した資料を見ていただければ分かるかと』
0の言う通りに、アルベールは先程受け取ったメッセージに添付されていた資料を開く。
「……これは……」
「……」
資料を開いたアルベールとロゼンダは言葉を失う。
そこには、シャルロットの暗殺を目論んでいると思われる社員のリストが載せられており、その中には、アルベールが以前から怪しんでいた人物の名前も載っていた。
『どうでしょう? お役に立てそうですか?』
「……君は、一体何者なんだ」
『言ったでしょう、ただの暇人だって』
「……ははっ、そうか。そういえばそうだったな」
0の言葉にアルベールは笑った。
「ありがとう、使わせて頂くよ」
『……では、このことが奴らにバレないように、十分に、且つ迅速に対応してください』
「ああ、そうさせてもらおう」
『……ところで、シャルロットとちゃんと話はしましたか?』
「ああ、したさ。無論、学園側にも話した。色々と嫌味は言われたがな」
『当然でしょう、あなたもそれをわかった上で話したはずだ』
「もちろんだ」
『……それで、仲直りは出来そうですか』
「……とりあえずは、と言ったところか」
『上出来です』
通話越しに0はフッとした笑い声を出し、そのまま通話を切った。娘に本当のことも言えない不器用な父親がこれだけやったのだから、上出来もいい所だ。
「あなた……」
「分かっている。とりあえずこのリストをもとに暗殺派を炙り出す。勿論、信頼できるものか確認しつつ、慎重にな」
あの時と同じように、アルベールはため息を吐く。その顔は、疲れながらも、暗殺派を見つけ出そうという気迫に満ちていた。
あの暇人が一体なんの目的で自分たちに情報提供をしているのか、それは彼にも分からない。が、ただ1つ言えるのは、彼は現時点で本当に暇人ということだ。
────────────保健室か医務室
「あー……終わった」
誰もいない部屋の中、デュノア社長との会話を切った俺は端末を枕元に放り投げて、ベッドの上で大の字になる。こんな夜遅くに、なんでシャルロットの件で関わりたくない俺が今デュノア社長に再び電話をかけたのか。大体の人は察してくれるだろう。
「…………あのうさぎ」
そう、あのうさぎこと大天災な束博士がまたもや勝手に通信を繋げてきやがった。楯無さんとレインが一悶着して帰ったから後だから良かったものの、もし誰か居たらどうするんだ。オマケにさっきまで織斑千冬まで来てたってのに。まあうさぎのことだ、帰ったタイミングを見計らってかけてきたんだろう。おかげでこっちは痛い体を起き上がらせないといけなくなったけど。
にしてもあのうさぎ……今度は『シャルロット・デュノア暗殺派の一覧』を送り付けてくるとは、一体何を考えているんだ。
しかも今回の(一方的に押し付けられた)情報の見返りが『箒ちゃんの面を取った時のベストショット』って……そんなマニアが買いそうな写真、盗撮やらし放題なんだから自分で撮ればいいだろうに、俺を盗撮魔にするつもりかあいつは。
まあ、亡国機業だから盗撮魔よりタチは悪いか。
……今度かけてきたら一言文句でも言ってやろう、そう心の中で誓った。
にしても、今日のうさぎはなーんかおかしかった。いや、声と話し方と一方的な通信は間違いなくあいつだ。ただ途中途中で『あっし』やら『でっせ』やら聞き覚えのない単語を話していた。なんだよこれ、アッシーなら昔姐さんが日本で流行ってたって言ってたけど、デッセってなんだよ、意味不明だ。本当にうさぎか?
プー……ビッ
『もすもす終日〜?』
「……相変わらず神出鬼没ですね、束博士」
『それほどでも〜』
褒めてねえよ。
「今度はなんですか? まさか箒の風呂場の写真よこせとか言いませんよね?」
『何の話かな? 束さんはただ怪我をした零くんを労わってお電話しただけだよ? それに箒ちゃんの入浴写真なんて既に入手済みだよ?』
「それはすごい、ということは面を取った瞬間のベストショットも?」
『オフコース、汗が滴る瞬間までバッチリだぜぃ』
やっぱ最低だ、この人。
…………あれ。
「束博士、さっき電話してきましたよね?」
『私はなんにもしてないよ? 今零くんにお電話したのが初めてだよ?』
「え、なんで」
『そりゃあ、零くんが(クーちゃんが気にいった)男だからだよ』
だから男となんの関係が……え。
「……束博士、もう一度聞きますけど……これが今日初めての通信なんですよね?」
『だからそう言ってるじゃん。さっきまでクーちゃんを慰めるのに必死だったんだから』
「…………じゃあ、俺にシャルロット暗殺派の情報を流した覚えも、箒の写真を要求した覚えもない……と?」
『だからそうだって……ん? なんのこと? 零くん?』
いや待て。確かにさっきの通信はうさぎだ、番号もメールアドレスっぽいものも、話し方も声も……え? まさか。
『零くーん? おーい? キャンユーヒアミー?』
「…………」
何これ、怖い。
その日、俺はよく分からない気持ちの悪い恐怖心を抱きながらベッドの中で眠りについた。
もうこの後何があっても俺は責任を取らない。
俺はあれを受け取らなかった。
そう、受け取らなかったんだ。
……マドカ、こういう時に君がいてくれたら。
……ピキーンっ!
『今零が私に助けを求めた気がする』
『こんな時間に何を言い出すのよ、さっさと寝なさい』
『かーっ……零、おめーまた女……ぐぅ……』
「ねえ? 上手くいったでしょ? 私達にかかればこんなもんちょちょいのちょいですよ」
「お前……博士に消されるぞ」
「こんなんで子どもに手をかけるようなチンケな母さんを持った記憶はございません」
「うわぁ……黎お姉ちゃん、真っ黒」
「まあ何かあったらラム先輩に責任は取ってもらうんで、ねーラム先輩?」
「しーっ、やっと寝たんだから静かにしろよ」
「……ん……シャルロット……僕、頑張った……へへ」
「ま、今後は現実世界に干渉しないことだな」