IS、零   作:歩輪気

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26話

サイレント・ゼフィルスについてですが、本作品のセシリアはエクスカリバーが造られなかった影響に加えて、例の姉妹の教育のおかげでかなり真面目に育ったため、早い段階でブルー・ティアーズを乗りこなし、いいデータを収めていた(偏向射撃はまだ上手く出来ていない)。なので、ゼフィルスを生産する時期が原作よりも若干早くなった。という設定にしています。
かなり矛盾が多くなるうえに無理がある設定ですが。(エクスカリバーについては、後々から回収する予定です)


零、買い物、追跡

 ────────────────寮内

 

「こっち……いや、こっちか」

 

 トーナメントから日が流れた週末、臨海学校が間近と迫ったその日、箒は自室で、自身の背丈程ある鏡の前で一夏との買い物に着ていく服を選んでいた。初恋の一夏と離れて早数年、再会してから1度も共に外出をしていなかった彼女は、彼と買い物をする今日という日をなんのかんの言って楽しみにしていた。

 あれから大人の女性として色々と成長した箒。あの頃とは違う自分を見てもらうためにも、ここはオシャレをきめて一夏にアピールをしたいところなのだ。

 

「よし、これで」

 

 数分後、ようやく服を決めた箒は鏡の前でベタな一回転をして全身を確認する。

 胸の谷間が少し露出したノースリーブとその上から羽織ったジャケット、膝丈より短いスカートを纏ったその姿は、年頃の少女にしては少々刺激が強めな服装であった。これならいくら唐変木な一夏でも見蕩れるに違いない、そんな別の意味で甘いことを箒は考えていた。

 

『箒ー、迎えに来たぞー』

 

 自室の外から一夏の声が聞こえ、箒は1度咳き込んでから皺を正し、平然を装いながら口を開いた。

 

「い、今行く」

 

 ショルダーバッグを肩に下げた箒は扉の前で一旦呼吸を整え自室の扉を開けた。その先では、ラフにキメた服装の一夏が何時もの表情で立っていた。

 

「よっ、おはよう」

「お、おはよ……」

 

 一夏からの挨拶を返そうとした箒だったが、彼の後ろに潜む怪しい人影に言葉を止める。

 

「一夏、これは」

「ああ、2人っきりじゃつまんないと思ってさ。シャルロットも誘ったんだ。なぁ?」

「お、おはよう……あはは」

 

 一夏の背後から申し訳なさそうな顔つきで現れたシャルル改めてシャルロット。その格好は以前のような男装ではなく、例えるなら、私立高等学校の窓側の席に1人は居そうなお嬢様の風貌を纏っていた。

 

「どうしたんだ、箒」

「いや、なんでもない(どーせこうなるとは思っていた……)」

「おう、じゃあ行こっか」

 

 さっさと歩いていく一夏の後ろを、箒は脱力した様子でついて行く。

 こうなることは薄々勘づいてはいたが、それでも2人っきりのお買い物を就寝中でも妄想していた箒は、内心大きな溜息を吐きながら落胆した。

 

「……箒」

「……シャルロット」

「その……ごめんね、話を聞く限りだと2人で行った方がいいって言ったんだけど、どうせならって一夏が」

「いや、いいんだ。あいつはそういう奴だ。ははっ」

 

 箒は生まれてから何度目か分からない乾いた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────交差点

 

「零、何か仰ぐものはないか?」

「仰ぐか……あ、扇子あるけど使う?」

「扇子? ああ、うちわの仲間か」

「多分そんな感じかな」

 

 トーナメントから数日がすぎたある日の週末。俺は今、ラウラと一緒に学園から離れた駅前にあるショッピングモールを目指して歩いていた。

 ちなみにこの扇子はこの前楯無さんから貰ったものだ、なんでも今使っているやつがあるからいらないとか。俺も扇子なんて使ったことないよ。あれ、あったか? 

 

「にしても暑いなぁ」

「日本の夏は随分と暑いものだな」

「うーん、僕が昔遊びに来た時はもう少し涼しかった気がするけど」

「そうなのか」

 

 日焼けしてしまいそうな熱を放ってくる常夏の日差しを浴びながら、信号の前で俺たちは右手に持った扇子で顔を扇いだ。

 ちなみにラウラは部下の人から渡された子ども服……ではなく、黒を基調としたTシャツとデニムパンツを、俺は普通に黒いTシャツとジーパンを、それとお揃いのベースボールキャップを被っている。これじゃあ友達というよりは兄妹に見えるかもしれない。

 

「ケイシーさんを呼ばなくて良かったのか?」

「うーん、呼ぼうと思ったけど用事があるらしくて」

 

 本当はレインも呼ぼうと思った。けど今日は別の用で外出しているらしく、部屋にはいなかった。フォルテさんの話では俺のことでどーとか。また何か怒らせるようなことをしてしまったか? あるとすればラウラからのキスかもしれないが……あれだってマドカと同じでちゃんと弁明したはずだ、ラウラとはそんな関係じゃないって。『おめー、いつかあいつ(マドカ)に刺されるぞ』とは言われたけど。

 

「おい零、手の甲が赤いぞ」

「ん? ……あ、蚊に刺されてる」

 

 さて、今更でなんだが、何故俺がラウラとショッピングモールを目指しているのか、それは昨日まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────昨日の調理室

 

 ジュウゥゥ…………

 

「どうですか?」

「うん、その調子よ。あとは麺が焦げすぎないように」

 

 その日の夕方、ラウラとの訓練を終えた俺は、調理室を借りて夕食の焼きそばを作っていた。この焼きそばはラウラと作る約束をしたあの焼きそばで、楯無さんの指導を受けながら調理している。今の実力だと不味い焼きそばしか作れないので、ここは料理ができる知り合いの楯無さんから教わった方が美味いものを作れると思ったのだ。

 訓練といい料理といい、何のかんの言ってこの人には世話になってるな。

 

「はい、これで出来上がり」

 

 楯無さんからの合図と同時に、俺は火を止めてフライパンを持ち上げ、焼きそばを大皿に盛り付ける。昔みたいに失敗してなきゃいいけど。

 

「ありがとうございます、楯無さん」

「いいのよ、料理くらい」

 

 さて、早く運ぶか。

 

「お待たせ、ラウラ」

「うむ、美味そうだ」

 

 ラウラのいるテーブルに皿を置くと、彼女は早速フォークを握って焼きそばの麺を絡めとる。箸はまだ使い方に慣れていないとか。

 

「どう?」

「……うん、ソースが効いていてなかなか美味いな。萌やしもなかなか」

「良かった」

「私が教えたから当然よ」

 

 少し自慢げに楯無さんは応える。

 コレで俺の料理のレパートリーが増えた、向こうに戻ったら姉さん達にも作ってあげよう。もうあの時みたいな不味いやつは作らないよ。

 

「あ、ラウラ」

「チュルッ……どうしだ?」

「口のここ、ソースついたよ」

「む、そうか」

「ほら、拭くからじっとして」

「んむ」

 

 俺は自前のティッシュでラウラの口元に着いたソースを拭き取った。

 やれやれ、どうやらフォルテさんだけじゃなくてラウラも俺たちと同じらしい。どうも俺の周りの人達はみんな口元に何かをつけたがる。そういえばレインから他人にやるなって言われたけど……ラウラは知り合いだからいいか。

 

「…………」

「どうしました? 楯無さん」

「んー? べっつにー、ただ何となーくかケイシーさんの気持ちが分かっただけよ」

 

 楯無は引き攣らせた口元を隠すように扇子を広げた。『鈍感野郎』……なんか失礼なことを言われているのだけは分かる。別にソース拭き取るぐらいおかしなことじゃないだろうに、楯無さんだって俺にやったんだから。

 

「私の時とは色々と違うのよ」

「ん?」

 

 何か言われた気がしたが、楯無さんは口笛を吹いて誤魔化していた。

 

「ねえねえ、水着ってもう買った?」

「買ったよー」

「そっかー、やっぱりみんな新しいの買うんだ」

「そりゃあ、学園生活の中で1回しかないんだから。後悔の無い青春の1ページにするつもりで行かなきゃ」

「あー、私も明日買いに行こっかなー」

 

 ふと、部屋の外から女子生徒数人の盛り上がる声が聞こえてきた。多分数日後にやる臨海学校のことだろう。なんでも海辺の砂浜で水着で仲良くキャッキャしながらISの実習をやるんだとか。

 

「ふむ、水着か。零は持っているか?」

「実家にはあるけど、今は学校指定のものしか持ってないかな」

「私も同じだ」

 

 だろうな、軍で自前の水着を着るタイミングなんて休日以外ないだろうし。俺も水着には特にこだわりはない。たかだか3日間着る程度だろ。

 

「もしかして2人とも、学校指定の水着で行くつもり?」

「私はそのつもりだ」

「僕もそれでいいかな」

 

 俺たちがそう答えると、楯無さんは呆れたと言いたいような顔で笑った。

 

「あのねーあなた達、折角の学園生活の大イベントなんだから、こういう時に遊んでおかないと。2年、3年って意外と忙しいのよ?」

「そうなんですか?」

「そう、だからこの前のトーナメント中止で大半の子は血涙を流していたのよ」

 

 血涙は知らないけど相当忙しいんだろう。うーん、でも俺もいつまでここにいるか分からないし、俺亡国だし、卒業までいるかどうか。

 

「それに、ラウラちゃんは女の子なんだから、スク水じゃなくてちゃんとした水着を買いなさい」

「うーん、しかし……そうだ、少し待っててくれ」

 

 そう言うとラウラは席を立って、離れた場所で誰かに電話をし始めた。一体誰に電話しているんだ。

 

 

 

 あ、戻ってきた。

 

「誰に電話してたの?」

「シュヴァルツェ・ハーゼの部下だ。こういう時は信頼出来る部下に聞くのが1番だと思ってな」

「へー、で、どうだった?」

「それが……」

 

 ラウラはさっきの電話の内容を話していく。

 

 

 

 

 

 

『クラリッサ、私だ』

 

『どうなされました隊長。もしや巻紙零との関係に進展が?』

 

『いや、そういうわけではない。ただ、臨海学校の事で相談があるのだが』

 

『ふむ、臨海学校……さては水着のご相談で?』キランッ

 

『よく分かったな』

 

『もうそろそろご連絡が来る頃かと思いまして』

 

『? そうか』

 

『そして今、隊長は学校指定の水着で行こうとしていらっしゃる……違いますか?』

 

『あ、当たっている(なぜ分かったんだ?)』

 

『はぁ……いいですか隊長、確かに隊長のスク水姿は誰が見ても速攻でノックアウトする代物です。私だって即死です。しかしそれはあくまでマニア受け、色物の域を出ない上に隊長のロリボゲフンゲフン……素晴らしいスタイルを100%活かせるものではありません』

 

『そ、そうか……えー、つまり購入した方がいいと?』

 

『はい、これは隊長のためでもあり、お相手の零さんの為でもあります。ついでに私達のためでもあります』

 

『お、おう、分かった……とりあえず適当に買っておこう』

 

『あ、ついでに試着した写真をこちらに送っt────

 

 

 

 

 

「ということらしい」

「なんかやばい単語が聞こえたような」

「今日もドイツは平和ね……」

 

 何だかとっても危ない匂いがする。ていうか今のドイツ軍ってVTシステムの件で大忙しのはずだろうに。

 

「まあ、クラリッサは優秀なやつだ。彼女の言葉は信用できる。気に入った相手を嫁にする嫁理論は理解できないがな」

 

 ……その人、いろいろ大丈夫か? 

 

「仕方ない、買いに行くか」

「じゃあ、折角だから僕と買いに行くかい?」

「いいのか?」

「ああ」

 

 ラウラが買うならついでに俺も買いに行ってもいいかもしれないな、金もここ最近使ってなかったから結構貯まってるし、ついでに姉さん達にも何か買っていこう。

 

「だがどこで買うんだ?」

「うーん、水着が売ってる場所って……」

 

 ラウラと俺は首を捻る。

 すると、横にいた楯無さんが咳き込んで口を開いた。

 

「こういう時はお姉さんに任せなさい」

「楯無さんに?」

「しかし、生徒会長の手を煩わせるわけには」

「大丈夫よ、それに2人とも水着の売ってるお店なんて知らないでしょ?」

「「はい」」

 

 そりゃあここに来てから外出なんてしてないからな。

 

「だから、ここは私に任せて」

 

 ふふっ、 と不適に笑う楯無さん。別に不適じゃないか。

 

「その代わり、私の言うこ「お嬢様……ここにいましたか」あん、お嬢様はやめ……え?」

 

 突然、知らない女の人の声がしたと思ったら、いつの間にか眼鏡を掛けた女子生徒が楯無さんの背後に立っていた。なんだかドス暗いオーラ……あ、目が死んでる。

 

「う、虚ちゃん……」

「どこにいるかと思ったら、こんなところで油を売っていましたか。オマケに外出の約束まで」

「油を売るだなんて、私はただ零君に焼きそばの作り方を教えて欲しいって言われたから、水着だって同じよ、ねえ零君?」

「はい、ただ水着に関しては知りません。楯無さんから行こうって誘われたんです」

「ああ」

 

 俺たちが口を合わせてそう言うと、楯無さんは裏切り者を見るような涙目を浮かべた。

 

「と、仰っていますが?」

「いやー、そのー……あれ、虚ちゃんいつもより怖いわよ」

「それはもう、堪忍袋の緒が切れてますから」

「あらまぁ」

 

 ガシッ

 

「さあ、帰りますよ。まだ仕事は沢山残っていますからね、ついでに残りの分も終わらせましょう。早くても明後日まで部屋から出しませんから」

「や、やめて、私にはまだやることが……零くーん」

「焼きそば、ありがとうございました」

「いけずー」

 

 虚さん、という人に引きずられながら、楯無さんは部屋を去っていった。

 

「……なんなんだ?」

「さあ」

 

 とりあえず、後で近くの水着屋について調べるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────昨日の調理室、終わり

 

 なんてことがあって、今に至るわけだ。あの後、部屋に戻ったら机の上に『お嬢様がお世話になりました』って置き手紙と一緒に1杯の紅茶が置かれてたっけ。お世話になったのは俺だけどね。美味かったなぁ、あれ。

 にしてもお嬢様だなんて、楯無さんってやっぱりいい所の娘なのか? まあIS学園の生徒会長に就任するほどなんだから、それなりの名家なんだろう。野良な俺にとってはどうでもいいけど。

 

「で、目的のショッピングモールとはどんな場所なんだ?」

「えーっと、クラスの子の話だと、『あそこになければ市内にない』って言うぐらい品揃えが豊富らしいよ」

 

 3組の子達の話によると、今俺達が向かっている駅前のショッピングモール……レゾナンスだっけ? そこは地下鉄やらバスやら駅舎その他公共機関が融合しているうえに、モール内には子どもから年寄りまで幅広い年齢層が買い物を楽しめるように作られているらしい。こんな場所があるだなんて、俺が姐さん達と日本に遊びに来た時は知らなかったな。

 

「ふむ、ではもしかしたら部下が求めていたものがあるかもしれないのか」

「部下の人から?」

「ああ、なんでも渋谷限定の玩具だとか……なんちゃらライガーとか言っていたな」

「なんちゃらライガー?」

 

 これまたヘンテコな名前の玩具だ。ライガーって確かライオンとトラの雑種だっけ。いくらなんでも渋谷限定なんだからないと思うけど。

 

「それと何とかマスクも欲しいと言っていた」

「ナントカマスク?」

「よく分からないが……ば〇はーいごっこ? という遊びができるらしい」

 

 なんだそれ、そんな遊び聞いたことがない。というかば〇はーい? って何だよ。そんな言葉聞いたことがないぞ。フレーズからして世代そうな姐さんなら知ってるかもしれないけど。

 

 ピロンッ

 

 ん? 誰だ? ……スコール姐さん? 珍しいな、姐さんから来るなんて。

 

 

 

『それ以上言ったら……分かってるわね?』

 

 

 

 ……よし、これ以上追求するのはやめよう。

 

「零、青になるぞ」

「ああ、そうだね」

 

 歩行者用信号が青になると同時に、俺とラウラは並んで横断歩道を渡った。

 昔は信号機が青になると音楽がついてたっけ、レインとマドカと一緒に歌ったから覚えてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────??? 

 

「……うーん、これは」

 

 並んで歩く零とラウラ、そんな2人の後ろを、ツインテールと縦ロールコンビこと鈴とセシリアが後を追っていた。

 

「あの、鈴さん。流石にこのような行為は如何なものかと」

「わ、分かってるわよ。でも気になって」

 

 ちなみに、2人が彼らを目撃したのは全くの偶然であり、もともとはトーナメントで組んだ好で2人で水着でも買いに行こうということになったのだ。鈴自身は一夏を誘おうとしたのだが。

 

「ねえ、あの二人って……どう思う?」

「どう思うとは付き合っているか、ということでしょうか? でしたら零さんが否定していたではありませんの」

「だって、目の前であんな堂々とキスしたのよ? それに」

「それに?」

「……と、特別な人って、ラウラが」

「まあ」

 

 恥ずかしそうに答える鈴に、セシリアは手で口を覆った。

 年頃の娘にとっては、あの一場面は脳内を直接殴りつけられるほどの衝撃だったようで、これには恋を知らないお嬢様であるセシリアも理解した。

 

「しかし、だとしたら余計にこのような行為は……あら?」

「どうしたの?」

「いえ、あれを」

 

 鈴はセシリアが指をさした方角に顔を向ける。

 

 

「…………」

 

 

「……あれって確か、3年の」

「ダリル・ケイシーさんですわね」

 

 2人の更に前方で零達を見ていた人影。その正体は、3年生唯一の専用機持ちであり、零の幼なじみ(家族)でもあるダリル・ケイシーであった。相も変わらず綺麗な姿勢と色々と露出している服装だが、それ以上に熊をも追い払うかのようなしかめっ面が通り過ぎる人々の目を奪った。

 

「どうしたのでしょうか」

「……あー、うん。まあそうなるわよね」

 

 以前、鈴はルームメイトであるティナ・ハミルトンからダリル・ケイシーのことについて聞かされていた。零とは幼なじみであること、彼女のISと彼のISが同じ企業によって製造されたこと、2年のフォルテ・サファイアとコンビを組んでいて学園内で人気なこと、零といつもお昼ご飯を食べていること、そして彼女が零のことになるとやけに乙女になるということ、しょっちゅう誰かさんと…………といったように、本人でもそんなことが話されているとは気づいていないことまで聞かされていた。

 だからこそ、鈴はダリルがあのような表情で零達を睨む理由も大体わかってしまうのだ。

 

「……で、どうします? 追いかけますか?」

「……アタシ達はアタシ達で買い物しよっか」

「分かりましたわ」

 

 零を追うダリルの後ろ姿を、鈴は色んな意味で自身に重ね合わせながら見えなくなるまで見守っていた。

 

 ふと、空のどこかでなぜか『よし、殺そう』と物騒な単語を放つ自分の声が聞こえてきたような気がしたが、鈴はすぐに忘れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────2階

 

「と、言うわけでやって来ましたショッピングモール」

「誰に話しているんだ?」

 

 俺達はショッピングモール『レゾナンス』の2階にある水着売場に到着した。何ともだだっ広い売り場なんだろう。流石はここになければ市内にないと言わしめたショッピングモール、四方八方水着だらけだ。

 

 

『ちょっと雷、ちゃんと全部撮りなさいよ』

『え、俺っすか甲先輩。別に作るんならネットワークのデータでも』

『こういうのは生のやつが1番よ。あんただって姐さんにいいものあげたいんでしょ?』

『まあ、せっかくなんで』

 

 

「なんだ今の」

「どうした?」

「いや、多分気の所為……さてと、どうやって見ていこうか」

「とりあえず適当に見ていけば良いんじゃないか?」

「そうだね」

 

 とりあえず俺達は適当に右の道から順番に水着探索を開始した。

 へー、今の水着ってこんなに種類があるのか。バンドゥ? V? なんだろうこれ、変に際どいな。

 あ、スリングショット。昔姐さんがしょっちゅう着てた奴だ。確か日本の漫画でも似たようなものを着た主人公がいたはずだ、顔にパンツ被った変な人……ん? あれは違ったか? 

 あと礼子姉さんは恥ずかしがって着なかったな。

 

「うーん」

 

 正直、水着の種類なんて全然分かったもんじゃない。みんなIS学園の改造制服並みに違いすぎる。あれ、本当に幅が広いんだよな。レインまではいかないけどなかなか過激な改造をしている人は何人もいるし、ラウラみたいな軍服タイプとまではいかないけどやけにキッチリした人もいる。俺もやってみるか? いや、面倒だから辞めとくか。

 

「水着というのはこんなにも種類が多いのか」

「みたいだね。あ、あれなんてどうかな?」

 

 俺は棚の中間ら辺に掛けられた黒い水着を指さす。ローライズ、だっけ? フリルが付いてるやつだ。ラウラならレーゲンと同じ黒色が似合うに違いない。

 

「うむ、なかなかいいな。サイズもピッタリだ。これにしよう」

「あれ、もう決めるの?」

「お前が選んでくれたのだ。有難く買わせてもらうよ」

「試着は? 着なくていいの?」

「ん? もしかしてみたいのか?」

「まあ、ちょっとは」

「ふっ、なら今はやめておく。向こうで着てからのお楽しみだ」

 

 ラウラはイタズラそうに笑った。

 

「あ、もうちょっといいかな?」

「ああ」

 

 ものの数秒で決まったラウラの水着を横に、俺は姐さん達への土産の1つでも買っていこうと水着を見てまわる。

 

 さて、どれにしようか。

 

 姐さんは赤いスリングショットでいいだろ。いつも似たようなものを着てるし。

 

 姉さんはちょっと柄の着いた……ハイネック? クロスホルダー? 眼帯? 3つとも買っておくか。

 

 レインは……そうだな、あいつは蒼色のプランジングとかいう胸が空いてて臍がギリギリ見えないものにしよう、きっと似合うはずだ。

 

 で、マドカは……そういえばあいつ、離れている間に背丈とか伸びたかな? 一応あいつも成長期だ、今度会う時にはサイズが合わないかもしれない。いや、でもここでひとつ買っておくのもいいか。となるとマドカには、この紫の三角形ビキニを買っていこう。あまり変なのを着せると怒るかもしれないからな。

 

 さてと、これでみんなのお土産は全部か。

 

「…………」

「どうしたの? ラウラ」

「いや、お前、その水着は誰に渡すつもりだ?」

「実家に残した家族だよ。あ、でもこれはダリルにあげようと思ってるよ」

「そうか」

 

 そうだ、ついでにクロエさんにも何か買っていこう。こっちの都合で買い物を先延ばしにしちゃったからな……流石に水着はダメか。あとで別の店に行こう。

 

「ちょっと、そこのあなた」

 

 にしても、これだけ買うとなると出費も馬鹿にならないか。いや、でも長い間離れているんだ。これくらいのものは買っていかないと。

 

「ちょっと! さっきから呼んでるでしょ!」

「……なんですか?」

 

 さっきから知らないおばさんがギャーギャー煩い。

 

「これ、戻しておきなさい」

「……ええ、分かりました」

「あら、随分と物分りがいい男ね。それじゃあよろしく」

「はい」

 

 俺は投げつけられるようにおばさんから水着を受け取り、おばさんはそのままどったどったと去っていった。そして横で何故かムスッとした、というよりは疑問符をうかべた顔のラウラが俺を見ていた。

 

「零、なぜ反論しなかった」

「こんなところで喧嘩なんてしたくないからだよ。ああいうのって1度拗れると面倒臭いからさ、それに今の世の中、その拗れがまかり通るからね。あんまり大事は起こしたくないんだ」

 

 本当は礼子姉さんみたいに、うっせえこの野郎てめぇの(以下規制)の一言ぐらい言ってやりたかったけど、そんな喧嘩をしてもこっちにはなんのメリットもない。それに俺、男性操縦者だし。家族に手を出されたら半殺しにするけど。

 

「弱い男って思った?」

「まさか。それがお前のやり方ならそれでいいのだろう」

 

 ラウラは納得したように頷いた。

 ま、とりあえずああいつやつはそのうち痛い目を見るさ。

 

「……ば〇はーい」

「ばーはーい……あらやだ」

 

 あれ、もしやあのおばさん……世代か? 

 

 まあいいか。さて、さっさとこいつを戻して、あとは俺の水着を探すだけだ。

 どれにしようか、ズボンタイプかパンツか全身か、昔来ていたやつだと半パンタイプだけど、たまには違うやつを選ぶのもいいかもしれない。

 にしてもここ、女物は多いのに男物のコーナーは意外と狭いな。これも女尊男卑の影響ってやつか? 

 

「お前はどんな水着が欲しいんだ?」

「そうだなぁ……着れればなんでもいいかな」

「ふむ、そうか……ならこれはどうだ? よっ」

 

 そう言ってラウラは、少し上段に掛けられた黒色のズボンタイプの水着を背伸びして取る。横に赤い柄が付いている、まるでクロスライザーみたいなカラーリングだ。

 

「うん、なかなかいいんじゃないかな。サイズもちょうどだし、これにするよ」

「本当にそれでいいのか?」

「せっかくラウラが決めてくれたんだから、買わせてもらうよ」

「そ、そうか……ならいい」

 

 何故かちょっと嬉しそうにラウラは笑った。

 別にさっきと同じようにしただけなのに、変なの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、やっぱりこういう水着がいいのかしら」

「あの、鈴さん。流石にそれはハレンチすぎるのでは……」

「ふっ、いいもの持ってるセシリアには分かんないのよ。アタシみたいな人間がああいう奴を振り向かせるには、ここまでやるしかないのよ」

 

 

『いや、アタシでも流石にそれはないわよ』

 

 

「……ん? なんか言った?」

「いえ? 何も言ってませんが?」

 

 

 

 

 

 




9巻の最後に描かれてた亡国らしき2人のハグ絵を見て癒されました。
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