IS、零   作:歩輪気

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27話
前回の続きです。

この先の構成を考えているのですが、ワールド・パージ辺りが大きく改変しそうです。

一部文章を変更しました。


零、ハンバーガー

 ────────────────

 

「さてと、買いたいものは買えたわけだし」

「私もついでのものを買えたわけだ。すまないな、荷物持ちをさせてしまって」

「これくらいお易い御用だよ」

 

 水着を購入した後、ラウラの買いものを済ませた俺達は、先程の水着売場近くにあるベンチに腰をかけて休んでいた。にしても、ラウラは随分な量を買ったものだ。なんでも部下の人から日本のスナックが食べたいから送って欲しいと注文されたとか、何とも人使いならぬ隊長使いの荒い部下なんだ。 あとクラリッサさんからはなんちゃらライガー以外にプラモデルの玩具菓子も頼まれたとか(残念ながらライガーはなかったけど)。最近の玩具菓子ってクオリティが高いんだね、もはやラムネがおまけみたいなもんだ。

 

「で、コレからどうする?」

「うむ、そうだな。ここで昼食を摂るのはどうだろうか? 歩き回ったせいか少々腹が空いてきた」

「確かに、僕も空いてきたかも」

 

 そういえば今何時だろ……もう昼過ぎか。随分と早いな。

 

「それじゃあフードコートにでも行こうか」

「ああ……と、その前に」

 

 ふいにラウラは立ち上がると、前方の道の突き当たりまで歩いて行った。誰かと話してるのか? 

 

 あ、戻ってき……ん? 

 

「ダリル?」

「……よぉ」

 

 ラウラが戻ってきたと思ったら、何故かこの場に居ないはずのレインを引き連れていた。確か今日は用事で居ないんじゃなかったっけ? 

 

「先程から私たちをつけていた」

「え? いつから?」

「……交差点の時から」

 

 マジか、結構前から後ろにいたのか。

 

「なんだよ、いるならいるって言えば良かったのに。こんなストーカーみたいなことして」

「……悪ぃ、オレももともとここに用があったからよ。そしたらお前らがいたからついでに、な」

「そ、そっか」

 

 不貞腐れ顔にしてはやけに素直だな、今日のレイン。いつもなら何かしら反論してるだろうに。

 

「折角だ、ケイシーさんも我々と一緒に昼食を取りませんか?」

「……いいのか?」

「何か問題でも?」

「いや、だってお前ら……」

 

 何故か気まずそうに口をモゴモゴとさせるレイン。

 うーん、恐らくレインはデートかなにかと勘違いしてるな。

 

「デートじゃないよ。ただの買い物さ、なあラウラ」

「ああ、今回は単なる買い物だ」

「そうか、それならいい……」

 

 そもそも俺とラウラは付き合ってないから、どう頑張ってもデートにはならないだろに。何を心配しているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────side??? 

 

 その日、オレはストレス発散のために駅前のショッピングモールを目指していた。別に何かやらかそうとしてるわけじゃねえ、ただ単にゲーセンのパンチングマシンの一つや二つ壊すつもりでぶん殴ろうと思っただけだ。

 

 ここ最近、零の野郎は他の奴とつるんでばっかでオレのことを時々忘れている。いや、別に他の奴とつるんでるのが悪いってわけじゃない、あいつだって今までオレやマドカの相手ばっかやって同い年の奴らと仲良くなる機会なんてなかった。むしろ話し相手や友人ができて何よりだ。

 ただそのせいか、最近はオレとの訓練の回数がめっきり減った。

 

 いや、別にそれが悪いことじゃ……あーくそ、なんだよこれ。オレってこんなに面倒臭い女だったか? 自分でもあいつのことになるとむしゃくしゃする。昔はこんなんじゃなかったのに(なかったよな?)。

 

 この前なんかあのドイツ軍人……ボーデヴィッヒからお礼とか言ってキスされたらしいじゃねえか。あいつ、ハニトラには気をつけろって言ったのに……まあ、そのことを勘づいたマドカから嫌いメールを送り付けられてぶっ倒れたのは爆笑したけどよ。ざまあねえぜ。

 

 あーイライラする、ここ最近は何故か更識と変な争いしてばっかだし。

 めんどくせえけど、こういう時は1人でゲーセンで暴れるのが1番、フォルテにも内緒のオレだけの時間だ。

 

 

 

 ……なんてこと考えてたら目の前にアイツがいた。こんな偶然あってたまるか。オマケに女と仲良さそうに……しかもそのお相手があの公然キスをかましたあのボーデヴィッヒだった。これじゃあ先月の噂がホントみたいじゃねえか。おまけに服装まで似てる、帽子に至ってはオソロか? 

 あいつ、いつかマドカに刺されるな。いっぺん刺されりゃいいんだよ。

 

 

 

 そんでいつの間にかオレはアイツらの後をつけていた。というより目的地が同じショッピングモールだった。なんだアイツら、ガチのデートか? 

 

 ん? 水着コーナー? なんであんなところに? 

 

 あ、フォルテから連絡だ……なるほどな、お互いに水着を持ってないから買いに来たと、ついでにオレを誘ったけどいなかった……タイミングが悪すぎるっつうの。

 

「お前、その水着は誰に渡すつもりだ?」

「実家に残した家族だよ。あ、でもこれはダリルにあげようと思ってるよ」

「そうか」

「それじゃあ行こうか」

 

 今なんかオレの名前を呼んだような。フォルテからのメールに気を取られて聞き取れなかったか。

 

 とりあえず、オレはその後もあいつの跡を着いて回った。

 

 途中でウザイおばさんに絡まれたり、何故かスナックを買い込んでいたり、土産屋で菓子を選んでいたり、まるで本物の恋人みたいに買い物を楽しんでいた。

 

 ……オレもあいつとああやって買い物したい。

 

「ケイシーさん、私たちになにか御用ですか?」

「……あっ」

 

 なんて思ってたら、いつの間にか目の前にボーデヴィッヒが立っていた。

 フォルテとおんなじで抱き心地良さそうだな、こいつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩が他の女に浮気しそうな気がするッス」

「どったの、サファイアさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

「いやー、まさか零達も水着を買いに来てたなんてな」

「偶然ってやつだね」

 

 場所は変わって、レゾナンス上階にあるフードコートのソファ席。そこで俺達は、偶然にも居合わせた一夏達と一緒に昼食を食べていた。どうやら一夏達も水着を買いにここへ来たらしい。みんな考えることは同じだな。

 ちなみに全員、席から近いとあるファストフード店のハンバーガーのセットを注文した。あのファストフードの商品は比較的安くて、財布の中身が寒い学生にとっては心強い味方だ。まあ、ここにいるメンバーって特に金には困ってないと思うけど。俺は別に舌が肥えてるわけじゃないから別にここでいい。

 

「にしても凄い量の荷物だな、ラウラ。菓子と……玩具か?」

「ああ、これは部下達へ送る土産だ」

「え、これ全部?」

「水着以外はな。あいつら、厳密には副隊長のクラリッサが大の日本好きでな、日本のアニメグッズやら少女漫画やらを買い込んでいるんだ。他の部下はそう言うのはないが日本のお菓子が食いたいと駄々をこねる始末だ」

「そ、そうなのか……大変だな」

「はぁ、全く。あいつらは私を何だと思っているんだ」

 

 ラウラは疲れながらもどこか嬉しそうにため息を吐いて、注文したハンバーガー(ケチャップたっぷり)に齧り付いた。何のかんの言って部下のみんなから頼りにされてるのが嬉しいんだ、そういう優しい性格だから部下の人とも上手くやっていけてるわけだ。

 にしても、昨日の電話といい話を聞く限りだとクラリッサさんって所謂オタクってやつなのかな? 

 

「……なあボーデヴィッヒ」

 

 さっきからポテトを齧っていたレインがようやく口を開いたかと思えば、どこか疑問を持っているようにラウラに話しかけた。

 

「まさかと思うが、お前にキスのことを刷り込んだのもそのクラリッサってやつか?」

「んむっ……刷り込む、と言うよりは教えてもらった」

「やっぱり」

 

 そうだと思ったぜ、とでも言うようにレインは言葉を漏らし、その場にいたラウラ以外のメンバー全員が目を逸らした。じゃあ俺はその人の謎の刷り込みのせいでラウラからキスをされてマドカに勘違いをされてレインから笑われたのか……何だか残酷な気分だ。『嫁は女に、婿は男に使うものだろ?』って嫁理論に首を傾げてくれたのが唯一の救いか。

 

「で、一夏達はどうなの?」

「え? あ、ああ、俺達も水着は買えたぞ」

「それと途中で千冬さんと山田先生にも遭遇した」

 

 あの2人もここに来てたのか。おおかたみんなと同じで水着を買いにってところかな。

 

「一夏ったら、織斑先生の水着姿に真っ赤になってたんだよ?」

「お、おいシャルロット。そのことは……」

「ん? なんだおめー、姉貴の水着姿に興奮したのか?」

「ち、違……う気がする」

「おい、そこは否定しろ」

 

 頬を赤く染めて中途半端に否定した一夏に、箒の鋭いジト目のツッコミが入る。けど、一夏の気持ちは何となく分かるかな。

 

「おめーも似たようなもんだからな」

「それってどういう意味だ?」

「自分で考えろ」

 

 レインは呆れた顔でコーラをストローでズズっと吸った。もしかして俺がシスコンだとでも言うのか? そんなうさぎじゃあるまいし。

 

 

 

 

 

 ……織斑千冬の水着姿か………………

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

「零、今教官の水着姿を想像していたな」

「え、なんで分かったの?」

「少なくとも私とケイシーさんには分かるぞ」

「ああ、すっげー分かりやすい」

「(分かりやすい……のか?)」

 

 なんで俺の考えていることがバレるのか。周りのみんなが人の心を読めるのか、それとも俺がわかりやすいのか、そんな自問自答をしている俺を横に、一夏達はハンバーガーを食べ進めた。

 

「このハンバーガー……安さの割には美味いものだな」

「俺も昔はよく世話になったなぁ。ラウラのところはそういうのないのか?」

「私は生まれた時から訓練ばかり受けてきたから、こういったものがあっても触れる機会など殆どなかったんだ」

 

 しんみりとしたラウラの話に、一夏はあっと発音するように口を開いて目を逸らし、箒もシャルロットも一夏を見ながら苦笑している。どうやら触れてはいけない話題に触れたと思ったらしい。確かにデリケートな話題だからな。

 

「……だが、零と出会った日に食べたアイス。あれだけは時々出向いて買っているんだ」

「チョコとバニラ?」

「そう、あれは私にとって忘れられない味だ……また2人で食べたいものだな」

「……そうだね」

 

 俺とラウラはあの時のアイスを思い出しながら、お互いの買ったハンバーガーに齧り付き、甘いのとは真逆なしょっぱさを口の中に広げた。

 

「……あ、零」

「なに?」

「口元、ケチャップがついているぞ」

「ん? あ、ホントだ」

「拭いてやるからじっとしていろ」

 

 そう言うと、ラウラはハンバーガーと一緒にトレーに乗せておいたペーパーで俺の口元についたケチャップを拭き取る。もう子どもじゃない……と言いたいところだけど、何だか悪い気はしない。

 

「(は、破廉恥な……いや、しかしこれなら私でも)」

「(これ、恋人じゃないん……だよね?)」

「(……アホ)」

 

 3人(箒とシャルロットとレイン)の心の声も知らないまま、俺もラウラの口元についたケチャップを拭き取った。

 

「忘れられない味かー」

 

 ただ1人、一夏だけは何かを思い出していた。

 

「一夏にもあるの?」

「ああ、昔な。あ、えーっと……一応、他人には話すなって言われてるんだけど……」

「えー気になるよー」

「……じゃあみんな、ちょっと」

 

 そう言うと一夏はテーブルの中心に顔を引き寄せるようにみんなにジェスチャーを送り、俺達もそれに従うように顔を寄せあった。周りに聞き耳を立てて聞いてる輩はいないな。

 

「……俺さ、昔、誘拐されたことがあるんだ」

「え、誘拐?」

「ああ、第二回のモンド・グロッソの時にな」

 

 一夏のなんちゃって爆弾発言に箒とシャルロットは驚いている。一夏が誘拐されて、それで織斑千冬が棄権したあの事件のことだろう。ちなみにラウラはもともと知っているから驚きはしない。俺とレイン? もちろん知ってる。だってあれやったのウチ(亡国機業)だもん。ていうかそういう話はこういう場所で……もう今更いいや。

 

「その時にさ、誘拐犯の人からハンバーガーを奢って貰ったんだ」

「「…………は?」」

 

 次に飛び出した一夏の突飛推しもない言葉に箒とシャルロットは思わず声を出した。普通はこういう反応が返って来るだろうよ。

 

「何故に?」

「お前がくたばったら元も子もないからって。ついでにその時に姉貴が弟のことをどう思ってるかとか、色々聞かされたんだ…………あの誘拐のせいで千冬姉が優勝を逃したのは許せないし、俺も力不足だったって思う。けど、何だかその人だけは恨めないんだ。あの人のおかげで千冬姉の気持ちが少しだけど分かったからな」

「そ、そうなんだ……」

「あー、あの時食ったハンバーガー、本当に美味かったなぁ」

「「…………」」

 

 誘拐犯からハンバーガーと教えを貰い受けたという思い出に浸る一夏に、箒とシャルロットは呆れに近い表情を浮かべる。それはそうだ、誘拐されたのにトラウマどころかちょっといい思い出話になってるんだから、どんな茶番だ。

 

「……零」

「ああ……」

「?」

 

 俺とレインは目を合わせてため息を吐き、その光景にラウラは首を傾げた。

 

 言えないよなぁ、その誘拐犯が自分の身内だなんて……てか何やってんだよ姉さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「ベャクションッ!!! ……あーっ」

 

「あらオータム、風邪?」

 

「いや、別に引いてねえはずなんだが」

 

「ふーん、じゃあ誰かがオータムの噂でもしたのかしら」

 

「最近、噂になるようなことしたっけか」

 

「零、やはりお前は織斑千冬の毒牙に……私の水着姿ではダメなのか……」

 

「……ねえM。毎回思うんだけど、あなたなんで零の考えてることがわかるの? 超能力かなにか?」

 

「? 何を言っている、普通は分かるものだろ?」

 

「んなわけねえだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

「じゃあなー! 先戻ってるぞー!」

「ああ、また後で」

 

 さて、時は流れておやつが欲しくなる昼の3時頃。フードコートで小一時間食っちゃべったあと、臨海学校の準備もあるということで、一夏達は先に帰って行った。俺はというと、クロエさんのことでこの後ももう少しだけ寄るところがあるからここに残る。

 ちなみにラウラは御手洗に行ってるから、ここには俺とレインしかいない。

 

「……さてと、オレもそろそろ帰るわ」

「もう帰るのか? 用事は?」

「なーんかハンバーガー食ったらだるくなっちまった。また今度にする」

 

 俺たちを追いかけてなんもしない……結局なんだったんだ。まあ、レインも1人になりたい時があるんだろう。

 あ、そうだ。

 

「レイン」

「なんだよ」

「これ、今の内にあげるよ」

 

 俺は水着売り場で貰った紙袋から、包みにつつまれた水着を取りだしてレインに見せた。

 

「な、なんだよそれ」

「プレゼント、いつも世話になってるだろ? だからそのお礼」

「い、いいのか?」

「姐さん達の土産のついでに買ったものだけど、良かったら受け取ってくれ」

「……ついでかよ。まあお前が折角買ってくれたんだ、一応貰ってやるよ」

 

 そう言うと、レインは小っ恥ずかしそうに包みを受け取った。似合うといいな。

 

「……なあ零」

「なんだ?」

「おめー、向こうに行っても十分気ーつけろよ。腐ってもお前は男性操縦者なんだ、どこで襲われてもおかしくねえってこと、自覚しろよ」

「ああ、自分の命くらい自分で守ってやるよ」

「それだけじゃねえって……」

「ん? 他になんかあるのか?」

「……もう知らねえ」

 

 レインはイライラと拗ねるようにそっぽを向いた。狙われるって……。

 

「まさか、ハニートラップのことか?」

「……分かってんならいい」

「言っておくけど、そんなもんに引っかかるほど俺は女に飢えてないぞ」

 

 そもそも学園滞在中に同じ学園内にいる女子生徒を彼女にしようだなんて思ってもない。最近腕が訛って腐りかけているとはいえ、俺も亡国機業の一員だ。彼女なんてできたら情報流出で俺が危ないうえに、俺に近いその子の身も危ない。いや、大体彼女なんて作ろうとも思ってないから問題はないか。ラウラとの件は少しやばかったけど。

 

「毎度更識に躍らされてるやつがよく言うぜ」

「遊ばれてるって言えよ」

「どっちも同じだろ」

 

 少しイライラが収まったのか、レインは頬を緩めた。

 しかし、もし彼女を作るとしたら、姐さん達みたいに同じ亡国機業内の人になるのか。いや、亡国でも活動部隊によっては派閥とか普通にありそうだし、別部隊との交際となると裏切りとかも……そもそも俺と同い年くらいの女の子なんていたっけ? だいたいみんな店持ちとかで相当年上なうえに、子持ちや既婚者も多い。確か昔姐さんに連れられて行ったアメリカのピザ屋夫婦がそんな感じだった。けどあの人たちは普通にいい人だったなぁ、一目見ただけじゃ亡国なのかすら分からない。

 となると歳が近いのはレインとマドカぐらいになるのか。でも2人とも恋人というよりは家族だ。

 

「零」

「ん? なんっ……だ」

 

 ふと、レインに話しかけられた俺が顔を上げると、いつの間にか目の前にレインの顔が迫っていて、じっとこちらを見つめてきた。

 

「な、なんだ「いいから、目ー閉じてろ」……わ、分かった」

 

 俺はレインに言われた通りに目を瞑る。

 

 

 

 ………………チュッ

 

 

 

 そして数秒後、どこか卑猥な水気のある音とともに、俺の額辺りに柔らかい感触が広がった。

 

「……開けていいぞ」

「お前、一体」

「じゃあな。引っかかったらマドカに告げ口すっから、覚悟しとけよ」

 

 それだけ言い残すと、レインは背を向けて早足で駅に歩いていった。

 

 そんな彼女を、俺は突然のことで放心したまま、駅の中へと消えるまでただただ見ていた。

 

 ……なんだか、男前。

 

「……零」

 

 なんて思っていたら、背後からラウラの声がしてきた。どうやら戻ってきて…………

 

「……何してるの?」

「すまない、試しに着けたら脱げなくなった」

 

 そこに居たのは、例のば〇はーいごっこができるという奇妙なマスクを被ったラウラらしき人物だった。この状態で帽子も被っちゃって、これじゃあ職質されても不思議じゃない。

 

「すまないが脱がしてくれ。息が篭もってハンバーガーの臭いが……」

「はいはい。あ、結構きつい」

 

 さっきのレインの行動はなんだったのか、そんな考えを、俺はラウラのマスク取りで頭の片隅に無意識に追いやっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば箒、さっき何買ってたんだ?」

「ん? ああ、ちょっとした買い物だ」

「そうか」

「(……今度、もし姉さんに会えたら……こういうのもいいかもしれない)一夏こそ、何か買っていなかったか?」

「俺か? いやー、なんにも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────寮

 

「…………よし、居ないな」

 

 IS学園内の寮に戻って早々、ダリルことレインは自室に相方であるフォルテ含め、誰の姿もないことを確認する。そしてそれを終えるとベッドの脇に座り、さっそくと言わんばかりに零から貰ったプレゼントのラッピング包装の口を締めているテープをビリッと破り剥がして中身を取り出す。

 

「……これは」

 

 中身の水着を広げたレインはやや困惑したように頬を染める。中に入っていたのは、大胆にも胸が開けたプランジングタイプの蒼い水着であった。別に彼女が特別こういった水着が苦手という訳ではない、実際にレインのISスーツ等もこれ以上になかなかな代物となっている。ただ、数年前まで弟気質だった彼からまさかこんな大胆な物をプレゼントされるというのは、レインにとっては嬉しさと恥ずかしさが合わさってしまうのだ。

 

「(まあ、胸と股間だけ隠すあれよりはマシか)」

 

 内心安心しつつ、レインは立ち上がって鏡の前まで移動し、纏っている私服を脱ぎ始めた。ここから先の描写は具体的に書くと官能小説と化してしまう恐れがあるので丸々カットさせてもらう。

 

「……なかなかいいセンスしてんな。あいつ」

 

 零から貰った水着を纏ったレインは鏡に向かってポーズを決める。レインのスラッとしたラインに合わせて水着が形を変え、大きな胸囲と引き締まった臀部分を蒼い生地が包み込み、彼女の全身におけるベストポジションを引き締める。学生とは思えないほどの魅力を放つ彼女の水着姿は、世の男性なら10人に9人は倒れるだろう。残りの1人は唐変木である。

 

「(にしてもあいつ、なんの反応もしなかったな。オレってそんなに魅力がないのか?)」

 

 ふと、レインは今日の帰り際に零にやったあれのことを振り返る。レインにしてはかなり攻めた方なのだが、おそらく零は都合良く気が付かないだろう。そこまでいくと、レインも男勝りな自分に魅力がないのではないかと疑ってしまうのだ。

 

「……よし、今度は唇にしてみっか」

 

 レインは水着姿のまま、次回への意気込みを吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誰の唇にするんスか?」

 

 いつの間にか部屋に戻ってきていたフォルテが後ろにいるとも知らずに。

 

「ふぉ、フォルテ? お前いつ戻って」

「誰の、唇ッスか?」

 

 いつものマイペースな雰囲気と違って、小柄な体でレインに詰め寄るフォルテ。そんな威圧的な彼女にレインは思わず後退りをした。

 

「そ、そりゃあ……まあ、あいつ」

「ふーん、そーッスかそーッスか。先輩にとって私は単なる遊びっスか」

「あ、その、そういう事じゃ……てフォルテ、どこに行くんだよ」

「べっつにー。ただ傷ついた心を癒しに外に出るだけっス。じゃ」

「お、おい待てよフォルテ、おいって!」

 

 レインは水着姿のまま、拗ねるように部屋を出たフォルテの後を追いかけた。

 

 

 

 

 後日、IS学園内にて水着の露出魔を巡る鈍感な幼なじみと恋人のロリによる泥沼な三角関係を噂する記事が張り出されたとか張り出されなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……真耶」

「はい?」

「……弟の恋路の邪魔をするのは邪道だろうか」

「……少なくとも渡さない発言はしない方がいいと思いますよ」

「そうか……そうだよなぁ」

「もしかして嫉妬してますか?」

「そんなわけないだろう」

「ホントですかー?」

「揶揄うんじゃない」

 

 そしてそんな記事が作成されている頃、とあるブラコン教員が、買い物で弟とその幼なじみの距離が近くなったことを感じとって拗ねたとか拗ねなかったとか。

 

 

 

 




暫く書いていなかったせいか、誰がどのキャラとどこまで親交があるのか少し分からなくなって混乱しています・・・・・・特に楯無さん関連。
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