IS、零   作:歩輪気

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『零、口付け、ショック』と『零、買い物、追跡』の間のお話です。かなり短いです。

次回から臨海学校に入ります。


訓練、穴埋め

 

 ────────────────第3アリーナ

 

「おらっ! 当てろ当てろ!」

「くっ…………うおっ!」

 

 ある日の放課後の第3アリーナ、突然だけど、マドカからの誤解が解けた俺は今、ここでレインと猛訓練を行っている。今ちょうど右肩当たりを斬ろうとしたのを躱されて、大きく空ぶったところだ。さっきから空中でスラスターを噴かせて何度も斬りかかっているけど、全部躱されるか双刃剣で塞がれている。

 タッグトーナメントの怪事件で怪我を負ってから約数日間、俺はベッドの上でマドカや姉さん達との会話、そして楯無さんとレインのいざこざを見ながら寝転んでいたせいで、まともな訓練をできていない。

 練習は1日サボると取り戻すまでに3日かかるという言葉がある、それは勉強でも実感したことだ。となると俺は多分10日以上は訓練で培ったものを失ったことになる、だから一日でも早く失った感覚とかを取り戻すために、こうしてレインにお願いしてやり合っているわけだ。気の所為か、前のスパルタよりも少し優しい気がする。

 

「あたれっ!」

 

 数回か剣をぶつけあった後、隙を見つけた俺はすぐさまライザーファングをレインに向かって一直線に放った。

 

 ガシンッ! 

 

「ぐわっ!?」

 

 が、そこは姐さん達に鍛えられてきたレイン。ライザーファングの突撃を右に僅かに逸れるように難なく躱して、そのまま俺に向かって鋭い獣爪のような足で回し蹴りを放ってきた。数メートル吹き飛ばされた上にかなり痛い、前も同じようにやられたな。

 

「おいおい、そこはファングを飛ばした後に次の行動だろ。何ぼーっとしてんだ。前やった時とおなじじゃねえか」

「いてて、ごめん。忘れてた」

「数日分のブランクがもろに来てるな」

 

 吹っ飛ばされた俺に近づきながらレインはあーあ、と言いたいような顔をした。

 正直、自分でもかなり体が訛っている自覚はある。今の攻撃もファングをどう躱されるかをある程度考えないといけなかったのに。悔しいな。

 

「ま、お前の様子じゃ2日3日で戻るだろうよ」

「そんなに早く?」

「ああ、見てれば分かる」

 

 流石はレイン、やり合っただけで分かるなんて、学園のトップ3に入るほどの実力を持っているだけある。

 

「臨海学校までには戻す。だから、明日もオレとやるぞ。安心しろ、フォルテには事前に「あ、ごめん。明日は一夏達とやるって約束したから」……明後日「明後日はラウラと」………………」

 

 俺がそう言うと、レインは笑顔のまま一瞬固まり、後ろに束ねた髪を風で揺らしながらゆっくりと細く目を開けて、なんとも言えないと訴えているような横目で俺を見てきた。

 

「ごめん」

「…………別に謝んなくていいって、前から約束してたんなら仕方ないからな」

 

 と、レインはにしっとした笑顔を俺に向けてきた。けどおそらくこれは作り笑いだ。だって両肩の犬頭があからさまに落ち込んで耳を畳んでいるんだもん、あれにそんな機能あったんだ。

 まさかここまで落ち込ませるとは…………折角訓練に付き合って貰ってるのに。一夏達との約束とはいえ、レインには悪いことをしたな。

 

 

『なあブラッドー』

『なんスか?』

『こいつ、いっぺん焼いてもいい?』

『やりたい気持ちは分かるけどダメっス』

 

 

 ん? なんか今右肩の犬頭が俺を睨んで来たような…………気のせいか。最近、変な幻聴が聞こえることが多くなったからなぁ、とうとう幻覚まで。多分疲れてるんだろう。

 

 

 

 

 

「はぁ、疲れましたわ」

 

 ふと、数十メートル隣から乙女のいい声が聞こえてきた。レインと一緒に顔を向けると、そこにはスターライトmkIIIを担いで汗を拭うセシリアさんがいた。

 今、俺たちのお隣では、セシリアさんが俺の訓練用シュミレーションを使って偏向射撃を練習している。何でも未だに偏向射撃が上手く撃てないらしく、そこで今回は実際に撃ち落とす的を相手にやってみたいということで頭を下げてきた。別に頭を下げなくてもセシリアさんなら普通に貸すのに、上から目線になるけどホントに礼儀正しいな、この人。

 

「セシリアさん」

 

 俺はオープン・チャネルでセシリアさんに話しかける。

 

「あ、零さん」

「調子はどう?」

「見ての通り、上手く行きませんの」

 

 セシリアさんは落ち込むようにため息を吐く。浮かぶドローン達を見ると、中央で左右にカーブするように矢印を伸ばした標識看板を持ったドローン(通称:看板型)達が、BTのビームでところどころ黒焦げになって浮かんでいた。あれは相当固めに設定してあるからビーム数発では落ちない仕組みになっている、だから何発も当てられてもああやって空に浮遊できているわけだ。もし落とされても次のやつが出てくるから大丈夫。

 対して本来の的のドローン達は無傷、傷1つないメタリックボディをキラリと輝かせていた。気のせいだろうか、ドローンに顔なんてないのに今ドヤ顔をされたような。

 

「偏向射撃ってそんなに難しいものなの?」

「いえ、空間の把握はいいと言われたので、恐らくイメージさえ出来れば簡単かと……ですが」

「そのイメージが出来ないと」

「はい」

 

 うーん、これは困った。イメージもなにも、ただ単に弾が曲がることを想像すればいいと思ってたけど。昔マドカとレインで仲良く視聴してた番組とかだと普通に曲がる弾とかあったし、レインがやってたゲームにもそういうのが武装として使用されていた。あれをイメージ出来れば…………ああ、セシリアさんってイギリスのお嬢様だから、そういうのに触れる習慣がないのかもしれないか。ならイメージ出来なくても仕方ない。

 

「んー、どうしたらいいと思う、ダリル?」

「そう言われてもなぁ、こればっかりは……えーっと、セシリアだったか。お前がイメージできなきゃどうにもなんねえな」

「そうですか……」

 

 セシリアさんははぁっと落ち込むため息を吐いた。本当だったらマドカが偏向射撃を余裕で成功させた映像とかを見せたいけど今ここにあるわけがないし、かと言って番組を見せたところで……そもそも俺が最近そういうのをあまり見てないからわかんない。

 

「ま、適当に戦闘機が上空でカーブすんのをビームに例えるとか、ベースボールの変化球とか、ボーリングの球が途中で方向転換する動画を見るとか、鏡に光を当ててみるとか、とりあえず曲がるもんでも見とけばいいんじゃねーの」

「そんな適当でいいのか?」

「こういうのはな、大体真面目に考えねえ方が上手く行きやすいんだよ。オレの3年間で蓄えた知恵だ」

「適当に…………ですか、分かりましたわ。ありがとうございます」

 

 セシリアさんは適当なアドバイスを送ったレインに頭を下げ、レインは軽く手を横に振って答えた。そんな適当でいいのか、まあ、レインが言うなら説得力はあるか(あるのか?)。

 それに結構前に姉さんが言っていた、確か成功は本番用に貯められるから今のうちに失敗しとけって。ここは失敗が死に繋がる恐れはない、だからセシリアさんもいつかは撃てるようになるさ。

 

 

 

 その後、俺とレインはとりあえず一通り模擬戦を繰り返して、数日分のブランクをまあまあ穴埋めした。さっきよりも少しハードになったのは気のせいじゃない。

 セシリアさんはというと、ひたすらティアーズビット達を2つ並べて真っ直ぐ飛ばしては、看板型を使ってカーブを描くように左右に別れさせ、曲がる弾道のイメージを捉えようとしていた。セシリアさんならきっと上手くいくよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ねえくーちゃん」

「はい、なんでしょうか?」

「……海、行ってみる?」

「…………はい?」

 




福音戦がしんどいです。
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