IS、零   作:歩輪気

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29話目

とある場面で行き詰まってます。ただ時間をかけてもいいので進めて行こうと思います。


零、夜飯、マッサージ

 

 ────────────────────

 

「うーん、どうしようかなー」

 

 夜の七時頃。

 IS学園が臨海学校を行っている旅館、その近くにある崖の上にて、某天災こと篠ノ之束は、投影ディスプレイと睨めっこをするように笑顔で眉を顰めていた。

 画面には、赤よりも紅い謎のISが映し出されており、名目欄には『紅椿』と記載されていた。

 

「ここいらにこの子の初お披露目に使えそうな子は……お、いたいた」

 

 適当にタップやスライドをしているうちに、束は1つの映像を指先で拡大させる。

 白銀の装甲に天使のような翼を生やしたそれは、とある国で共同開発されているISであった。

 

「スペックもそこらの機体より上等だね……さてと、君には悪いけど、箒ちゃんと紅椿のお披露目の『お手伝い』をしてもらうよ」

 

 束は笑顔のままそう呟いた。しかしその顔は喜びや感動といったものではなく、冷淡で軽々しい笑顔であった。

 

 

 

『なあ黎』

『どうしたん雷』

『白騎士にさぁ、さっき水着をプレゼントしたんだ。そしたらあいつ、急に目線逸らしてモゴモゴし始めたんだよ』

『ほうほう、ツンデレツンデレ?』

『で、何言ってんのかわかんねえから顔を近づけたんだ。そしたら白騎士のやつ、なんか知らねえけどいきなり俺の顔押しのけて、そのまま怒ってどっかに行っちまったんだよ……なんかやらかしたかなぁ、俺』

『うーん、ドウテイ野郎』

『え?』

 

 

 

「あれ」

 

 ふと、束は何処かしらから会話が聞こえたような気がしたが、辺りには何も見当たらず、多分空耳だろうと聞き流し、再び画面に顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

「はい、じゃあみんなー」

「「「「「いただきます!」」」」」

 

 楽しい楽しい臨海学校一日目は早くも夜を迎えた。

 そして俺は今、3組用に用意された大宴会場の正座席で、浴衣姿で夕食の刺身を食べている。奥には椅子席も用意されていて、あそこには主に正座に慣れていない外国の子が使っている。本来なら浴衣の正座で食べるのがルールらしいが、どうしてもできない子はあそこを使っていいことになっているらしい。俺は何回も日本に来てるからもう慣れてる。

 今頃、あっちの方にいる一夏達が何かしらハプニングでも起こしているだろう。例えばシャルロットが山葵をそのまま食べるとか……いや、まさかそんな阿呆な。

 

「……美味い」

 

 それにしても、ここの旅館の魚は本当に絶品だ。昼飯に出てきた海鮮丼の鮪やサーモンも美味しかったけど、このカワハギの刺身もなかなかいける。向こうだと刺身を食べる習慣なんてないから、軽いカルチャーショックを起こしている。

 

「うむ、生魚も調理をすればここまで美味くなるのか」

 

 俺の左隣で座るラウラが、慣れない箸使いで刺身を口の中へ運び、とろけるような美味さに思わず声を出す。ラウラの場合は教官時代の織斑千冬からよく正座をさせられていたとのことで、この姿勢には慣れているらしい。

 

「ラウラは今までに生魚は食べたことあるの?」

「サバイバル訓練で生のものを何度か。ただあくまで命を維持するためのものだったから、こんなに美味いものではなかったな」

 

 やっぱり軍ともなればサバイバルとか遠征とかも普通にやるのか。俺はそういうのはやったことないからわかんないな、だって亡国機業と云ってもそんなガチガチな軍隊って訳じゃないし、テロリストから一般企業まで様々だ。訓練に関しては各々がお好きにどうぞって形を取っている、最低限はやんなきゃ本番で死ぬけどね。

 

「よっ、と」

 

 ツルっ

 ベチャッ

 

「あっ」

 

 カワハギの刺身がプルプルと震えるラウラの橋先から滑り落ち、醤油皿に落下する。辺りに軽く醤油が跳ね返った。

 

「あーあー、こんなに跳ねさせちゃって」

「す、すまない……」

「浴衣、汚れてない?」

「大丈夫だ」

 

 そういえばラウラと相部屋になった子達の話だと、ラウラは今まで浴衣を着たことがなかったらしく、初めはどうやって着るのか分からなかったらしい。そんでもって着方を教えるついでにラウラが人当たりが良くて無知(純粋)なのをいいことに、言葉巧みに騙して走らせたり跳ねさせたりさせて勝手に萌えたとかなんとか。そこは普通に可愛いって言えばいいのに。

 

 あとなんか相撲もどきをやった時の浴衣が着崩れたラウラの火照った写真を押し付けられた、悪そうな笑顔で。一体何を企んでいるんだ。とりあえずマドカやレインに見られたらまずい気がするから2重で鍵かけておくか。

 

「やはりまだ箸は慣れないな」

「なら食べさせよっか?」

「い、いいのか?」

「いいよ。このまま浴衣が汚れたら大変だろうし」

「……では、甘えさせて貰うとしよう」

 

 俺はやや赤くなるラウラから箸を受け取り、脂身の乗ったカワハギを掴み、彼女の口元へ運ぶ。

 

「あー」

 

 ん、とラウラは口を閉じて頬張り、刺身を咀嚼する。

 こうやって誰かに食べさせたのはいつぶりだろう。最近、怪我をしてはレインか楯無さんに食べさせてもらってばかりいたから、何だか新鮮な気分だ。

 

「ねえねえ、あれって……」

「食べさせ合いっこってやつ?」

「いいなー、私もやって欲しい」

 

 何だか前からヒソヒソ話が聞こえてきたが、俺は聞き流してそのままラウラに刺身を食べさせ続けた。

 

「も、もういい……あとは自分で食べる」

「そう? 分かった」

 

 が、途中でラウラが恥ずかしそうに手で口を塞いで断ってきた。たかだか食べさせ合いぐらい、相手の口を拭くのと変わらないからそんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。

 

「おう零、ここにいたか」

 

 なんて思っていると、後ろの襖が開かれて浴衣姿の一夏が現れた。へー、浴衣も似合ういい男ってやつか。

 

「一夏、なんか用?」

「いやぁ、昼間は千冬姉が悪いことしたからさ。その、お詫びと言っちゃなんだけど、風呂の後に俺の部屋に来てくれないか?」

「いいけど、何かやるの?」

「それは、来てからのお楽しみだ」

 

 ニヤッと悪意のない笑みを作ると、一夏はそのまま襖を閉めた。ふむ、別に詫びるほどのことでもないと思うけど……いや、折角の誘いだ、ここは素直に行ってみるのもいいか。

 なんて考えていると、何やら周り子達が薔薇やら何やら言い始めた。なんで薔薇なんだ? 

 

「(薔薇……確かクラリッサが少女漫画を読みながらそんなことを言っていたような、何かの表現か?)」

 

 知らないうちに俺とラウラはお互いに首を傾げ合う。勿論ラウラがそんなことを考えているだなんて俺はこれっぽっちも知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

『よお、更識。生徒会のお仕事とやらは終わったか?』

 

『あらケイシーさん、もうとっくの昔に終わってますけど』

 

『そうか、にしても死にそうな顔してんな』

 

『それはもう、徹夜でしたから…………で、何か用かしら?』

 

『なに、たまにはお前とコーラでも飲んで話してーと思っただけだよ。零もいねーことだしな』

 

『奇遇ですね、私もそんなことがしたいなーって思ってたところ』

 

『分かってるなぁ、お前』

 

『伊達に零くんのことであなたと数ヶ月間も争ってませんから』

 

『零なぁ……あいつ、今頃『箸慣れしてないなら食べさせよう』とか言ってボーデヴィッヒに食べさせてるんだろうよ』

 

『……分かるんですか?』

 

『こちとら長い付き合いだからな。あいつの行動ぐらい予想は着くんだよ。お前だって何となく分かるだろ?』

 

『……途中でラウラちゃんが恥ずかしがる所まで想像しちゃったわ』

 

『で、次に『別に口拭くのと変わんないのに』って考えるのがオチだ』

 

『…………今日は私の部屋で飲み明かしませんか? 生徒会の仕事もなくて零君もいないから静かですよ』

 

『…………いいぜ、つまみもいいよな?』

 

『ええ、もちろん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 時は少し流れて、ここの旅館の露天風呂を堪能した俺は、隣の一夏と織斑千冬のいる教員用の部屋へと向かっていた。

 しかし、料理もそうだが、ここの露天風呂もまた絶品だった。体で食うと言えばいいのか、少し熱めの温泉が肌を温めて今まで身体に貯めてきた疲れを解してくれて、そのうえ真上の夜空が目を癒してくれた。いつかはあの空に飛べる日が来るのか、なんてことも考えた。

 まさか日本の海沿いにこんな素晴らしい旅館があったとは、やっぱりいつか家族みんなでここに来てみたいな。その時はマドカの背中も流して……いや、流石にあいつが嫌がるか。昔は普通に流してたのに、少しばかり淋しい気もする。ていうかここ混浴ないか。

 

 と、あれこれ言っているうちに部屋の前に到着した。鍵付きの襖とは珍しい。さて、何が待って……ん? 

 

『もしかして緊張してるのか? 千冬姉』

『ふん、そんなわけ……あっ』

『うお、硬い。じゃあここは』

『あ、い、一夏……んぁっ!』

『だいぶ溜まってるなぁ』

 

 へー、なるほど。とうとう我慢できずにおっぱじめたかあの二人。いや、本音はドン引きだが、あの様子じゃいつかはやると思っていたから。しかし場所は考えて欲しい、ラウラだっているんだから、しかもこんな旅館で不純異性交遊なんて、礼子姉さんも聞いたら呆れて何も言えなくなるな……と、巫山戯るのもここまでにしておくか。

 

「一夏、上がったよ。入っていい?」

『お、来たか零。鍵開けてるから入っていいぞ』

 

 一夏から入室の許可を貰った俺は入口の襖を横にスライドさせる。

 すると、中では織斑千冬が布団の上でうつ伏せで寝転がりながら、腰あたりを一夏に親指で押されていた。まあ、こんなだろうとは思ってたよ。

 

「ん、巻紙か。お前も一夏のマッサージを受けに来たのか」

「ええ、夕食の時に誘われたんで。マッサージとは聞かされずに『来てからのお楽しみ』って言われて」

「はぁ、一夏。お前はまたそんなことを」

「だってこういうのは秘密にしておいた方が面白いだろ?」

「お前という男は……だから唐変木と呼ばれるんだ」

 

 ツボを押されつつ、織斑千冬は呆れた顔で一夏を睨む。どうやら、そういう面での一夏の鈍感さには彼女も思い当たる節があるようだ。

 そういえば、かなり前にレインが一夏は中学生の時に何人もの女子が泣かせた伝説があるとか言っていたっけ。つまり、こうやって甘い誘い紛いなことを言って、誤解させては相手の子をその気にさせて、後からガッカリさせるってことを何回もやってきたってことか。とんだ女たらしだ。

 

『お前が言うな』

 

 今礼子姉さんの声が聞こえたような気がするけどとりあえず無視をした。

 

「ほら、零も来いよ。お前のも押してやるから」

「ああ」

 

 俺は襖を閉めて部屋にあがり、一夏に誘われるまま隣に座る。

 

「もう少し待ってろよ。千冬姉が終わってから……よっ、ほれ」

「んぃっ!? も、もう少し優しく」

「これでも結構加減してる……てっ!」

「あぁぁっ! そ、そこはぁ!」

 

 一夏に痛いツボを押され続け、織斑千冬は狂い悶える。その姿は普段の鬼のようなオーラを纏った武将とはかけ離れていて、弟の攻めに簡単に落とされ、その快感に声を上げてしまう1人の姉だった

 

 ……………………なんだこれ、完全に誤解されそうな文章じゃないか。

 

「へー、一夏ってマッサージもできるんだ」

「ああ、昔はしょっちゅうこうやって押してあげてたんだ…………あ、ここ硬い」

「ん、こいつのは効くぞ巻紙。お前も受ければ分かあぁんっ!」

「うわぁ……(気持ち良さそうですね)」

「お、おい。引くんじゃない」

 

 おっと、うさぎ相手じゃないのについ本音が漏れてしまった。

 にしても、料理もできてマッサージもできるとは、所謂優良物件ってやつか。俺も最近は仕事で疲れた楯無さんの背中ばかり押していたけど、おかげで少しは上手くなったとは思う。

 

「そういえば、零も楯無さんにマッサージとかやってるって言ってなかったか?」

「そうなのか?」

「ええ、でも一夏みたいにそんなに上手くないですよ?」

「ほ、ほう……では試しにやってもらうとするか」

「え」

 

 突然の織斑千冬からの悪い言葉に声を出した。ハッキリ言うとやりたくない、よく分からないけど触った瞬間にマドカから大量にメッセージが送られてきそうな気がするからだ。

 

「そりゃいいな。零、やってくれるか?」

「……いいけど、揉み返しても知りませんよ?」

「なに、日々の疲れに比べればそんなもの、大したことはない」

 

 うつ伏せでリラックスする織斑千冬と、悪意のない笑みでこちらを見る一夏の眼差し……まあ、断る理由もないし、やってみるか。

 

「じゃあ、行きますよ」

「ああ、頼む」

 

 俺は織斑千冬の横に正座で座り、彼女の骨盤の上辺りを親指で押した。

 

 グイッ

 

「あぁぁっ!」

 

 …………うん、よし。マドカからメールはない。

 

「……大丈夫ですか?」

「す、すまない。気持ち良くてつい」

「はは、なかなかやるなぁ零。やっぱ楯無さんで鍛えられてるのか」

「まあね、毎回こうやってここを……よっ!」

「んいぃっ!」

 

 次に小腸のツボ辺りを押すと、またもや織斑千冬はいい声を上げる。ふむ、どうやら楯無さんのおかげで上達しているようだ。

 

「あ、あぁ、あぅっ!」

「はい、次はここを」

「あ、や、やめ……んー!」

 

 それにしても、この人随分と硬いなぁ。いくら世界最強でも体は疲れるのか、教師ってのも大変だな。

 ああ、そういえば姐さんも幹部の仕事で疲れがなかなか取れないとか言ってたっけ。あの人、一応生身の部分も残ってるから、そこのケアはちゃんとしてあげないと。

 

 グイッ、グイッ

 

「が、あがっ、ああっ! ま、巻紙、もっと優しくぅ!」

 

 そうだ、戻ったらレインを1番にマッサージしてあげようかな。あいつには本当にいつも世話になってるし、これくらいのことはやってあげたい。

 で、実家に帰ったら……姉さんかな、これなら姉さんも文句を言わずに喜んでくれるかもしれない。あの時は下手くそ過ぎて悪いことをしちゃったから。

 

「ん、んぁぁっ!」

「はは、千冬姉は大袈裟だなぁ。よし、俺もやるか!」

「い、一夏!? お前何を考えて、あぁぁっ!」

 

 ふと気づくと、俺の隣で一夏が織斑千冬の上半身のあらゆるツボを刺激していて、織斑千冬は悶えを超えて叫んでいた。何だこの光景。まあ、なんか面白いからいいか。

 

「こ、こんな感覚、今まで味わったことが、ないぃ……」

 

 俺と一夏のマッサージが気持ちよすぎたのかそれとも痛かったのか、織斑千冬はとうとう泣き始めてしまった。

 …………前の無人機で怪我した時、マドカのやつ、こんな感じに画面越しで泣いてくれたっけ。正直あいつの泣き顔は見たくないけど、泣いたら泣いたでそれはそれで可愛いと思ってしまう。

 

 ……メキッ

 

「……ん?」

「なんだ?」

 

 バキッ! ドンッ! 

 

「「「ヘぶしっ!!!」」」

 

 入口が軋むような音がすると思った矢先、突然襖が内側に倒れ、女子生徒3人の鈍い声が室内に響いた。

 

「…………何やってんの?」

 

 襖とともに倒れ込んだ箒と鈴とシャルロットに声をかけるが、彼女達は黙ったまま軽く震えていた。その後ろでは、ラウラが黙ってこっちを見ている。

 

「な、何をしている。馬鹿者共」

「どうも、教官」

 

 と、マッサージでヨロヨロになった織斑千冬がむくりと起き上がりながら言う。

 ラウラは頭を下げて挨拶を交し、残り3人はガバッと一斉に体を起こし、困惑した顔で俺たちに視線を向けた。

 

「お、織斑先生……」

「こ、こんばんは、織斑先生…………」

「お、お疲れ様です……じゃ、邪魔しちゃいましたか?」

 

 3人が顔を赤くしながら織斑千冬に挨拶をする。

 

「…………教官」

「どうした、ボーデヴィッヒ」

「……流石にここに来て男子2名を相手にそういったことは」

「ら、ラウラ!?」

 

 突然のラウラの発言に鈴がアワアワとしだした。

 …………ああ、なるほど。そういうことか。しかし、ラウラ、さては分かっててやってるな。

 

「貴様、何を勘違いして」

「先程から外に教官の声が漏れていましたが?」

「……………………」

「あと通りかかった女将さんが困惑した顔でなにやら諸々の準備を「今すぐ止めろぉ!」

 

 その日、教え子からのちょっとしたイタズラ発言に取り乱した世界最強の恥ずかしい叫び声が教員用の部屋に響いた。

 なんだ、こんな顔もできるんだ。この人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────数分前

 

 

 夕食後、部屋の者達と一通り遊び終えた私は、一夏と千冬さんのいる教員用の部屋へ向かっていた。目的としては、昼間に遭遇した姉さんについて千冬さんも含めて少し話がしたかったからだ。姉さんのことだ、どうせまた碌でもないことをし出来そうとしているに違いない。

 まあ、それと一夏に個人的な話も少しはあるが。

 

「「…………」」

 

 なんて思って部屋の前に到着すると、鈴とシャルロットが襖に顔をつけて何やら聞き耳を立てていた。

 

「おいお前達、何をして」

「「シーっ!」」

 

 と、声をかけた瞬間に2人から『静かにしろ』というジェスチャーを送られ、その次に襖に耳を当てるよう指で刺された。全く、一体何をそんなに。

 

 

『あぁぁっ!』

『……大丈夫ですか?』

『す、すまない。気持ち良くてつい』

『はは、なかなかやるなぁ零。やっぱ楯無さんで鍛えられてるのか』

『まあね、毎回こうやってここを……よっ!』

『んいぃっ!』

 

 

「…………は?」

 

 突然の状況に、私は情けない声を出した。

 いや、これ……いや、そんなまさか。千冬さんと一夏が……しかも零まで。というか楯無さんで鍛えてるって…………あ、あいつ、まさか楯無さんと既にそんな関係を? さらには千冬さんのあえ……は、破廉恥な。

 

「……ねえ、コレって」

「で、でもまだ決まったわけじゃ……」

「けど思いっきり声出してたわよ?」

「ま、待て、落ち着け」

 

 そうだ、流石に千冬さん……織斑先生がそんな間違いを起こすわけがない。確かにあの2人は前々から危ない匂いはしていたが、寄りにもよってこんな場所でそんなことをするはずが。ましてや零まで巻き込んで。

 

『あ、あぁ、あぅっ!』

『はい、次はここを』

『あ、や、やめ……んー!』

 

 そんなことを考えている間にも、襖越しに3人の卑猥なやり取りが廊下に漏れ出る。あと今ここに用があったであろう女将の景子さんが、私達の後ろで顔を赤くしながら廊下を走り去って行った。あれは多分バレた。

 

「おい、お前達。ここで何をぐむっ……な、なんだ?」

 

 後から現れたラウラの口を鈴が塞ぎ、そのまま手招くように襖に耳を当てさせる。

 

『が、あがっ、ああっ! ま、巻紙、もっと優しくぅ!』

 

 

「「「「…………………………」」」」

 

 最悪のタイミングで最悪の叫び声を上げた織斑先生。早速聞いたラウラの顔が真顔のまま止まってしまった。

 

『ん、んぁぁっ!』

『はは、千冬姉は大袈裟だなぁ。よし、俺もやるか!』

『い、一夏!? お前何を考えて、あぁぁっ!』

 

 とうとう3人で始めてしまった。

 中で繰り広げられている地獄絵図に、鈴は顔を真っ赤にしながら夢中になって聞き入り、シャルロットは涙目であわわとし始めた。私は私でもの凄い立ちくらみに襲われた。何故かラウラが耳を離して顎に指を当て始めたが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

 一夏、お前という男は…………

 

『こ、こんな感覚、今まで味わったことが、ないぃ……』

 

 ああ、ダメだ。もう姉さんのことなんてどうでもいい。とりあえずこの地獄を早く終わらせて欲しい。

 というより織斑先生、あなたという人はそんなに男に飢えていたんですか……ダメだ、立ちくらみが。

 

「ちょ、箒」

「お、重い……」

 

 

 …………メキッ

 

 バキッ! ドンッ! 

 

「「「ヘぶしっ!!!」」」

 

 次に気づいた時には、襖が内側に倒れ、私と鈴とシャルロットは思いっきり顔面を床にぶつけた。

 よく見ると、浴衣姿の一夏と零が、同じく浴衣を纏った織斑先生の背中を押していた。

 

 

 あ、これは……………………私の勘違い? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

「全く、何を勘違いしている。馬鹿者共が」

 

 数分後、色々と誤解が解けた織斑千冬は片膝を立てた、下着が見えそうな少し卑猥な姿勢をとって、箒達4人を目の前に置いた座椅子に座らせて軽い説教を垂れていた。簡単に言えば、俺と一夏か織斑千冬といけないことをしていると勘違いしてしまったようだ。まあ俺も初めはそんな感じに思っていたから、聞いたのが他の生徒じゃなかっただけ良かっただろう。

 

「いやぁ、マッサージであんな声が聞こえてくるなんて思わないというか……ねぇ?」

「……てっきり織斑先生が男に飢えているのかと」

「ふん、だからといって弟と間違いを起こすほど、私は愚かではない」

「(ほ、ホントかなぁ?)」

「ん?」

「いえ、なんでもないです」

 

 シャルロットが心の中で首を傾げているであろう表情を取ったことに気づいたのか、織斑千冬はキッとした目を彼女に向ける。

 

「というかボーデヴィッヒ、貴様途中で気づいていたな」

「いえ、実の所は半信半疑でした。しかしもし本当だった場合は乗り込んでまで無理に止めるのは双方に多大なダメージが入ると聞いたことが「わ、わかった……もういい」

 

 真面目に答えるラウラに織斑千冬は頭を抱えて言葉を遮る。

 ちなみに、あの後織斑千冬は大急ぎで女将さんの元に走って必死に誤解を解いていた。その時に浴衣が着崩れてたからさらに勘違いされそうになったらしいが。

 

「私が身内とその友人にいけないことをするとでも思ったか? やるわけないだろ」

「「「「…………」」」」

「……おい、そのやりかねないと言いたげな顔はやめろ」

 

 おーおー、世界最強が生徒から信用されなくて涙目になりかけてる。ツボを押されて涙腺が刺激されたか。

 

 グイッ

 

「うおっ」

「よーし、終わったぞ」

 

 ちなみに俺は今、この光景を眺めながら一夏から約束のマッサージを受けている。そしてちょうど腰あたりを押されて終わったところだ。いやはや、本当に気持ちが良かった、これならお金も取れるかもしれない。

 

「どうだ巻紙、一夏のマッサージは効いただろう?」

「はい、おかげでこっちもいい汗をかきました」

「ふむ、なら2人でもう一度風呂にでも入って来るといい。私はこいつらと少し話があるのでな」

「そうか? じゃあお言葉に甘えて。行こうぜ、零」

「ん? ああ、うん」

 

 俺は起き上がり、汗をかいた額を袖で拭いながらみんなのいる部屋を後にして、自室へお風呂セットを取りに戻る。織斑千冬、ラウラ達に少しお話があるって言っていたけど、まさかさっきの制裁……はないな。

 

「(……と、マドカからは何も来てないか)」

 

 再度端末を確認するが、家族からのメールは一切ない。いや、ないのが普通なんだけど。いつもなら一通は来そうな空気だったから。ま、来てないならないでいいか。

 さてと、風呂に入るか。ちょうどこの前付けた傷跡も薄くなって特に目立ったものは無いから、これならバレないだろう。

 

 

 

 

 

 ……………………カポーンッ

 

 さて、いきなりだが場面は変わる。

 

 桶のいい音が洗い場に響く中、俺は一夏と並ぶように風呂椅子に座り、汗で蒸れた髪の毛とベタついた体を流している。この時間帯になると風呂場を使う女子生徒はいない、つまり俺と一夏の貸切状態ということになる。さっきも貸切だったから変わらないか。

 

「いやぁ、やっぱ男2人で入る風呂は気持ちがいいなぁ」

「そうだね(そうなのか?)」

 

 一夏からの謎の言葉に俺は内心首を傾げながらもとりあえず肯定した。別に男2人で入ろうと1人で入ろうと風呂の気持ち良さは変わらないと思うけど。

 

「そうだ零、背中流しあおうぜ」

「え、なんで?」

「いやほら、折角IS学園で2人だけの操縦者だからさ。こういうこともしてみたいって思って。学園じゃなかなか時間も合わないしさ、いいだろ?」

「…………うん、じゃあやろっか」

 

 一瞬の間に迷いに迷った末、俺は一夏からの誘いを受けた。ここまで来て別に断る理由もないし、下手に拒否をして関係を悪化させるよりはいいだろう。

 それに俺自身、ほんのちょっぴり男との流し合いというものを楽しみたいのもある。今まで女性に囲まれて生きてきたから、こうやって男の知り合いと風呂に入るなんて体験したことがない。

 あ、でももしこのタイミングで一夏の暗殺なんて命令を出されたら……その時はその時、任務を優先するか、自信はないけど。まあ、俺一応全世界でニュースにされてるから、そんなタイミングを狙った狂った任務は早々ださないか。いや寧ろ出すなよそんな任務。

 

「よし、じゃあ背中を向けてくれ」

「うん…………あ」

 

 俺が一夏に背中を向けると、一夏は泡立てたスポンジで俺の背中をゴシゴシと柔らかく擦る。あー、何だか懐かしい気分だ。昔はレインとマドカの3人でこうやって風呂に入って流し合ったものだ。レインのやつ、いつも肌が赤くなるまで力強くやるもんだから痛くて仕方なかった。マドカは優しくやってくれたのに。

 

「痒いところはあるかー?」

「ないけど」

「よし、じゃあ交代だ」

 

 俺と一夏は互いの体を真反対に向き直す。俺はスポンジを握って一夏の背中を擦る。

 

「痒いところは?」

「そうだな、肩の辺り」

「じゃあ、はい」

「く、擽ったい」

 

 …………うーん、なんだろう。これは、なんとも言い難いこの気持ち。少なくとも不快ではないかな。

 

「おう、そうだ零」

「なんだい?」

「タッグトーナメントの時はありがとな。お前のおかげで俺もシャルロットも助かった」

「いいって、礼なんて言われるようなことじゃないよ。こっちこそ、あの時撃ってくれて助かったよ」

「はは、あれはまぐれみたいなもんだからなぁ」

「いや、あれがなかったら僕も危なかったよ。一夏って土壇場の時に結構やるよね」

「はははっ、照れるな」

 

 そんな感じに話しながら、俺と一夏は体を流し終え、だだっ広い露天風呂に飛び入るように入浴して、一緒に体の疲れを癒した。

 

「ふう、やっぱ男同士っていいよなぁ。もしここに女子が入ってきたら大変だけど」

「もしそうなったら、一夏は箒から殴られるかもね」

「流石にそうだろうなぁ」

「…………でも、もし入ってきたのが箒だったら、それはそれで嬉しい?」

「ああ…………え、な、何言ってるんだよ!」

「はは、冗談冗談」

「あ、たく……」

 

 ふむふむ、軽く探りを入れたが……この反応を見る限りではやっぱりそうなのかな? これ以上は本人が可哀想だからやめておこう。あとは一夏次第だ。

 

「あー、この空のどっかに人工衛星が飛んでんのかなー」

「だろうね」

 

 実際は宇宙ゴミばっかだろうけど。

 人工衛星か……ああ、なんかエクス何とかのことを思い出したらエクシアちゃんのことも思い出しちゃった。また会いたいな、あの子に。

 

 

 

 そういえば、ラウラ達の方はどうなってるんだろ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

『ぷはー! 大体あいつは鈍感通り越してんだよなぁ』

 

『そうよねー、もう織斑君のこと笑えないレベル』ゴクッ

 

『はは、違いね』ゴクッ

 

『私なんてずっと同じ部屋なのにこの有様ですよ? 初めての挨拶なんてちょっとエッチな格好でからかったら『興奮するわけない』って言われたんですから。私、地味にショックだったんですから』ゴクッ

 

『けっ、そんなハニトラじゃあいつは引っかかんねーよ。下手したら裸でもダメかもな』ゴクッ

 

『んー、否定できない』ゴクッ

 

『…………あのー』

 

『ん? どうしたフォルテ』

 

『もしかして炭酸抜けてた?』

 

『いや、そうじゃなくて…………なんで2人とも、私に抱きついてるんでスか?』

 

『はは、細かいことは気にすんな!』

 

『そうそう、今日はジャンジャン飲んでジャンジャン食べてジャンジャンフォルテちゃんを愛でるんだから!』

 

『最後のは訳わかんないっス、ていうかそれ酒じゃなくてコーラっスよね? なんで2人ともそんなに酔ってるんスか?』

 

『人間なんて酔おうと思えば酔えるもんなんだよ……フォルテ、お前と2人きりの時もな』

 

『こんな時にそんなキメ顔で言っても効かないっスよ』

 

『えー』

 

『まあまあそう言わずに、フォルテちゃんもー』

 

『は、離してください、流石に2人同時に挟まれるのは……きゃ、そこ擽ったい』

 

『はあー、抱き心地サイコー……』

 

『よく眠れそうだ……』

 

『(な、なんで私がこんな目に…………とりあえず帰ってきたら零君に一言文句を言ってやるっス、絶対言ってやるっス)……まあこれはこれで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今フォルテさんから恨まれたような」

「ん?」

 

 

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