IS、零   作:歩輪気

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5話目

辛い日をくぐり抜けた 人だけが持つ輝き


零、兎

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「どういうことだ? 何であの試験体だけ『ヴォーダン・オージェ』が適合しない」

「さあね、他の試験体はちゃんと適合したというのに……ま、あれが出来損ないだったってことよ」

「はあ、結構優秀だと思ったんだがなぁ……期待外れか」

 

 あの日、私の人生はドン底まで落ちた。私は普通の人間では無い、『遺伝子強化試験体』として、1種の生体兵器として生み出された存在だ。

 私はありとあらゆる兵器の操縦技術、及び戦略を修得している、戦いの道具として生きることが私……いや、私達の存在意義なのだ。

 でもあの日……ヴォーダン・オージェを移植した時、私はそれに適合しなかった。何故こんなことになったのか自分でも分からない、何が悪かったのかも不明だ。

 

 それからは毎日が地獄のようだった。周りからは『出来損ない』の烙印を押され、いつも軽蔑した目で見られていた。それもそうだ、私はいつも周りを見下していたのだから、やられていたものにとっては溜まったものではなかっただろう。

 軍内部に私の居場所など一切なかった。

 

「みてよあれ」

「なんであんな出来損ないが私達と同じように扱われるのかわかんないわ」

「やめなって、聞こえるよ」

 

 また言ってる、あの日から毎日のように言われてるからもう慣れたがな。

 

 もういっその事死んだ方がマシなのか? 

 

 

 

 

 

 

 ある日、同じ軍に所属しているクラリッサから外出を勧められた。彼女は唯一私のことを気にかけてくれた人物だった、彼女には感謝しきれない。

 

 

 

 

 

「よし、行くか」

 

 彼女から借りた(というより押し付けられた)服を見にまとい、キャップを深く被り、私は外に出る。そういえば個人的に外出したのは今日が初めてか、いつもは仕事関係のことが多かったからな、身分証と財布と通信機はちゃんと持ってるな? よし。

 

「とは言ったものの、何をすればいいんだ」

 

 あんな息苦しい場所から少しでも離れることが出来たのはいい、しかしこれといって行きたい場所もやりたいこともない。地図は覚えた。

 あそこでは子どもが無邪気にはしゃぎ、それを母親が優しく見守っていた。家族というのはああなのだろうか。

 

「そいつを捕まえて!」

 

 何やら向こうの方で女性の叫び声が聞こえた、と思ったら、何やら男が駆け足で逃げていた。

 

「待て!」

 

 とりあえず目の前で起きたのなら捕まえなければならない。これも仕事の1つだからな。

 にしてもなんだあの男は、なかなか速い、どうせならひったくりなどやめてオリンピック選手にでもなった方がいいだろうに。

 

「ぎゃっ!」

 

 と思っていたら、男がいきなりその場で転けた。隣にいる少年が足を引っ掛けたのか。

 

「て、てめぇ」

「ふん!」

「ぎゃあ!」

 

 とりあえず押さえよう。

 

「…………」

「あ、おい!」

 

 少年は何も言わず、どこかへ去っていった。一言ぐらいなにか言えばいいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────ー

 

 

「はぁ」

 

 全く、ひったくり犯がなかなか大人しくしないわ走り疲れるわ、今日は散々だな。というかなんださっきの警察官、『まだ小さいのに嬢ちゃん凄いねえ』だと、私をいくつだと思っているんだ、少なくとも中等教育は受けられるぞ。

 

 はあ、何だか腹がすいた。あそこでアイスクリームでも買うか。

 

「いらっしゃい」

「チョコと、そうだな、バニラを貰おう」

「はいよ」

 

 何とか上手くいったか。実を言うとこんな経験をしたのは初めてだ、以前一緒に仕事をしていた者がこうやって買ってたからな、見ておいて正解だった。

 

「財布…………あれ」

 

 ない、何故だ。何でないんだ。まさかひったくり犯を追いかけた時に落としたのか? いや、身分証は別に持っているから大丈夫だが。どちらにしろまずい、このままでは食い逃げ扱いで捕まる。

 

「はい、出来たよ。3ユーロね」

「あ、いや、その」

「……3ユーロね?」

 

 まずい、怪しんでる。どうすれば。

 

「3ユーロ、ここ置いとくよ」

「兄ちゃん、この子の連れかい?」

「まあね。とりあえず受け取ってよ、それでいいだろ?」

「ふむ、毎度」

 

 と思っていたら、横から知らない男が3ユーロ(+α)を店員に支払った。

 ん? お前は。

 

「さっきの青年か?」

 

 その男は先程ひったくり犯に足を引っ掛けた少年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきは助かった。礼を言う」

「別にいいよ、それよりもアイスは美味しい?」

「ああ」

 

 私は今、少年と一緒に公園のベンチで腰を下ろしている。

 

「とりあえず、はい」

「ん……ん? それは」

「道中で落ちてたけど、これ、君のでしょ?」

 

 少年から差し出されたのは、間違いなく私の財布だった。

 

「ここいらは治安が悪いんだ、財布なんて落とすもんじゃないよ」

「ああ、そうだな……ん、待てよ。何で私の財布だと分かったんだ?」

「いや、だって。この財布のマーク、君の着てる服と同じ兎のマークが着いてるから。というかあそこでこんな財布持ってるのって多分君ぐらいだし。帽子も上着もズボンも同じマークが入ってるって……」

「? そんなにへんか?」

「うーん、まあ変と言ったら変、なのかな。とりあえず9歳ぐらいに見えるよ、うさぎ大好きな」

「む、何だそれは。私が子どもに見えるということか?」

「うん」

 

 失礼な、まあ確かに人間で言えばまだ子どもだが。

 

「ほら、アイス溶けてる」

「おっと……はぁ、最近何でこんなについてないんだか」

「何か悩み事?」

「……まぁ、そんなところだな」

「ふーん、良かったら話してよ。ちょっとは楽になると思うよ」

 

 ……こいつ、初対面なのにやけに馴れ馴れしいな、まあいい。

 

「具体的には言えんが……簡単に言えば、この前まで成績トップだったのに今やダントツのビリまで下がった、という感じか。周りからも相当妬まれてたからな、余計あたりが強くなったわけだ」

「……助けてくれる友達とかはいないの?」

「おらんな、ハッキリいって一人ぼっちだ。いっその事、このまま誰か私を連れて行って欲しいものだ」

 

 何でこんなにも話せるのか、私にも分からん。

 

「……昔あるところに、とある男の子がいました」

「?」

「その男の子は自分が何者なのか、どこで生まれたのかすら分かりませんでした。ただひたすら歩く日々、彼を助けようとする人は誰もいませんでした」

 

 突然何を言い出すんだこいつ。

 

「でも男の子は生きることを諦めませんでした。そんなある日、男の子はとある女性に拾われました、それからはその女性と一緒に仲良く暮らしましたとさ、めでたしめでたし」

「? 何の話だ?」

「ま、とりあえず諦めずに頑張れってことだよ。そうすれば運命の人と出会うことができるかもしれないからね」

「……説得力があるようなないような」

 

 正直こいつが言っていることはよく分からない…………でも、少し心がスッキリした気がする。

 

「ん? 姉さんから?」

 

 ピッ

 

『おいごら零! どこほっつき歩いてんだ! さっさと戻ってこい!』

「分かった分かった、そんなに怒んないでよ」

 

 ピッ

 

「はあ、それじゃ、僕はもう行かなくちゃ」

「ふむ、そうか。ではお別れだな」

「あ、そうだ。僕の名前は零、君は?」

「…………ラウラだ」

「そっか、それじゃあまたね、ラウラちゃん」

「うむ」

 

 少年……零はその場を去っていった。

 短い間の関係だった、でもあんなに素で話せたのは今回が初めてだ。

 

 ……とりあえず諦めないことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日以来、私の日常が変わったかといえばそうでも無い。毎日陰口を叩かれる日々だ、しかしそれでも諦めずに頑張った、いつ来るか分からないその日を迎えるために。

 

 そしてあの日、私は教官と出会った。あのお方はとても力強く、ISの適合率が低かった私に徹底的な指導を行ってくれた。そのおかげで私は、再び部隊のトップへと登りつめることが出来たのだ。

 

「教官は何故そんなにお強いのですか?」

「強くないさ。私なんてペーペーだ」

「ペえぺえ?」

「あ……まあ平ってことだ。それに私が強くいられるのは……弟のおかげだ」

「弟、ですか……」

「なあラウラ、お前には守りたいものはあるか?」

「守りたいもの、ですか」

 

 そんな事言われても特にない……あ、でも

 

「守りたいものはありませんが……会いたい人ならいます」

「会いたい人?」

「はい、私にとって心の支えになった人です。今どこで何をしているか知りませんが」

「……そうか、私も会ってみたいものだな」

 

 零に会えるのなら会いたい。あって、あって何をするんだ? まあいい、その時に考えればいいさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 ────────────────ー

 

 

「あのー」

「あ“?」

「すみません」

 

 俺は今、テロリストに捕まっている。千冬姉の応援にドイツまで来たら突然誘拐された。それで真っ暗な部屋で縛られてんだけど……

 

「ほら、早く食えよ。お前がくたばったら元も子もねえからな」

「は、はい」

 

 ボイスチェンジャーで野太い声になってるテロリストからさっきハンバーガーを貰った。

 

「美味いか?」

「あ、はい」

 

 これ、誘拐されてるんだよな? 何かさっきから水渡されたり食べ物貰ったりしてるけどいいのか? いや誘拐されてるから怖いけどさ…………。

 

「あのバカぁぁぁぁ!!!」

「!?」

 

 びっくりしたぁ…………何かさっきからおかしいぞあの人。スマホ持ちながら何やってるんだ? 

 

「はあ……たく、おいお前」

「はい!」

「いいか、本当に姉貴のこと大好きなら心配だけはかけんなよ?」

「え?」

「でもやばい状況なのに何も言わないのもなしだ、余計に心配させるだけだからな、寧ろストレスがでかくなるんだよこんちくしょうが」

「え、でも今誘「いいな?」……あ、はい」

 

 その後はそのテロリストから説教のように姉貴うんぬんかんぬんを聞かされた。姉が弟のことをどう思ってるかとか、心配かけないようにされると余計心配するとか。

 千冬姉もこんな感じのことを考えてるのかなぁって思った。

 

 で、気がついたら千冬姉が助けに来てくれた。結局水とハンバーガーを貰って愚痴を聞かされただけだった。

 

 

 

 あの時食べたハンバーガー、美味しかったなぁ。

 

 

 

 

 

 




ドイツの通貨ってユーロであってますかね?
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