ハグの日ってつけたの可愛いですよね。
俺は今、1人の後輩に捕まっている。
「せーんーぱーいー」
「離れろ暑苦しい、あと重い」
「乙女に重いってなんですか先輩!!そんなこと言うからモテないんですよ!!」
「そんな乙女にモテない男に付き纏ってんのは誰だよ」
「私です!!」
「そうか分かってんなら離れろ、俺は忘れた夏休みの宿題を取りに来ただけなんだからな」
俺は今日も今日とて1年のこの後輩に構い倒されている。夏休みに入ってからはめっきり無くなっていたが、うっかり忘れた宿題を取りに来たらどう俺を見つけたのか歩いている最中に背中から抱きつかれたのである。びびった。ちなみに構う理由は春に桜の木の下でぼんやりと花が散るのを眺めていた所を目撃されたらしく、そこがなんとも儚くて綺麗で好き!らしい。まあ要約するなら一目惚れ?らしいのだ。そこから何回か話したり過ごしたりするうちにいつの間にか恋愛攻防に発展していた。
「あのな何度も言うけど俺はたまたま、偶然桜を見ていただけであって、決してお前の思うような人では無いんだぞ?」
「それ何回も聞きました、だから今日こそ先輩に気持ちを受け取って貰えるようにですね…手紙にしたためて来たんですよどうですかこれ!」
分厚い便箋が下から差し出される。なんだこれ手紙の容量じゃない。
「気持ちは嬉しいけど、俺なんかよりいい男がいるからやめとけ」
「嫌ですよ諦めませんからね」
これも何回目だろうか。腰に抱きついたまま離れない後輩を引きずりつつ、自分の教室を目指す。校舎内に他の生徒が居ないのが救いだ。春から夏にかけてこのように構われるのを、周りの生徒は「なんだあれ」と言った感じの目で見ていた。その視線がないだけでもマシだ。というかいくら構うにしても腰に抱きついてくるなんて初めてだ。人の目が無いからだろうか。なんて考えて歩いていたらついに階段の前まで来てしまった。
「…ほら離れろ、登れないだろ」
「引きずったまま登っていいんですよ!」
「…怪我させたら嫌だからな」
「やだ先輩ったらやさしい!」
大人しく離れたのを見てため息をつく。俺はこの子が思うような人じゃない。俺にはもったいない良い子だというのもこの数ヶ月で分かった。断り続けるやつなんかやめて、この青春の期間をもっと良い人を見つけて、楽しく過ごすべきなのだ。
「部活あるんだろ?吹奏楽だっけか。もう休憩終わりじゃないか?」
「いや普通に抜け出してきたので」
なにしてんだこいつ。
「怒られるぞそれ」
「もう終わりますから!先輩一緒に帰りましょう!」
ここで断るとまたまとわりつかれそうなので
「分かった分かった、何処で待てばいい?」
「あ、でも部活の後でちょっと呼び出されてるので…」
「なんかやらかしたのか」
普通に有り得そうで怖い。
「いえ同パートの男の子です、ただの質問だと思うのですぐ終わりますよ」
「そうか、じゃあ下駄箱あたりで待ってるよ」
「勝手に帰らないで下さいね、また後で!」
「帰らねーよ、後でな」
ひらひらと手を振って後輩を見送る。帰りにアイスとか買おうかな、なんて思いつつ、俺は自分の教室へと急いだ。
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12時半。午前で終わる部活の予鈴を聞いてから20分が経過した。
…いくらなんでも遅い。
いや呼び出されてるのは知ってるけど質問だけでここまでかかるか?
さすがに心配なので吹奏楽部の部室に向かうことにした。先程部活終わりの生徒が帰っていくのは目撃したし、今から帰るであろう楽しそうに話している生徒達も居る。
部室についた、中から話し声がする…邪魔するのは悪いか。
盗み聞きするつもりは無いため、離れようとすると
「僕と…付き合ってください!」
中から聞こえたその声に足を止めてしまった。
あぁ、可愛いもんな。これでいいんだ。少しだけ胸の奥がちくりとしたのは気の所為だろう。春からずっと構われていたからそれが居なくなるのが少し寂しいだけだ。
「…私、ずっと好きな先輩が居るんです」
俺は頷けないんだよ、お前の思う人じゃないからさ。
「その先輩は、私が好きって告白しても、俺はお前が思う人じゃないって、断ってきてます」
「知ってる。僕ならそんな思いはさせないよ。本当に好きなんだ」
「でも、私、このままの関係がいいんです」
「「…え?」」
中の男子の声と、俺の声が重なった。中に聞こえてないだろうか、それより
「このままずっとって訳じゃありません。ちゃんと先輩から返事は欲しいです。勢いで一目惚れしたって、言っちゃったんですけど。ほんとは話しかけてからの人柄とか、声とか、笑顔とかそういう所が好きなんです。このままの関係で、思い出とかいっぱい作って、少しでもいいなって思ってもらえれば。それで、YesでもNoでも返事を貰えれば満足なんです。片想いが辛いことばっかりじゃないって。それが分かっただけでも、私が恋したあの時間は無駄じゃないって思えるから」
「………」
彼女の
「…だから、あなたと付き合うことはできないんです。ごめんなさい。好きって言ってくれて、想ってくれて、ありがとうございます」
「…分かった、僕こそごめん」
ハッとして俺は慌てて下駄箱まで戻った。
帰り道で、盗み聞きしてしまったことに関して謝ろう。それと、あれを聞いてようやく気づいた俺の想いと、彼女が今までぶつけてくれた想いへの返事を返さないと。
彼女が見えたら、俺の柄には合わないけど、
飛び込んできても大丈夫な様に、両手を広げて、「帰ろう、大事な話があるんだ」って、言おう。
ギリギリセーフっ!
初短編でした!
これハグの日になるかな…(後で書き直しするかもしれないですごめんなさい)