短編集   作:: 渚 :

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久々の更新です!

前回と違うキャラクターたちの活躍を楽しんでいただけると幸いです!

それではどうぞ!


それをたとえるならば(前)

1時間目、数学の時間だ。俺はこの時間が1番好きだ。

 

別に数学が嫌いってわけじゃないし、成績も良い方だが、教科のせいでこの時間が好きなわけではない。

 

窓から下を見下ろすと、生徒が何人か校舎から出てグラウンドに集まっている。

 

その中に友達とふざけ合う彼女の姿を見て、頬が緩むのを感じた。

 

俺は今、恋をしている。隣のクラスの彼女に。隣のクラスの1時間目が体育と知ってからは、ついこうやって彼女の姿を目で追ってしまう。

 

()()()()()()()()()と分かっていても、衝動は止められない。』昔の俺はそれを見て(何をバカなことを)と思ったが、実際にその通りだった。

 

「では次、芹沢(せりざわ)

 

「はい」

 

数学教師の声に思考を中断し、問題の解答を黒板に書く。チョークの粉が落ちて、学生服の袖を汚した。

 

「…正解だ」

 

「……」

 

まばらな拍手を聞きながら席に戻る。窓の外を見ていたから解けないだろうとでも思っていたのだろうか、馬鹿馬鹿しい。

 

年季の差が違うのだ。寿命の短い人間と俺たち()()()は色々と違うのだから。

 

俺は吸血鬼だ。といっても人間を無闇矢鱈に襲う種族ではない。俺たちの上の奴と人間の上の奴がなんか契約を結んだらしい。上に渡された仕事をこなし、給与やらなんやらを貰う。

 

俺たちの寿命は長いから、仕事も何十年単位だ。ひとつひとつの案件がデカいからな。人間に出来ないことを俺たちがやる。別に汚れ仕事って訳じゃないけど、残飯処理っぽくて俺は好きじゃない。

 

まあその分単位がデカいから報酬も様々だ、俺は食事になる血液と、100年の休みを貰った。そしてまあ人間界で学生を演じている。

 

人間は寿命が短いけど、その分人生をめいっぱい楽しんでいる感じが俺は好きだ。寿命が長い俺ももう少し楽しまないとと思う。新しい経験とか、ひとつひとつ大事にしないといけない。

 

(…まさか、恋をするなんて思わなかったけど)

 

外でやっているのはテニスだろうか、彼女がボールを返し損ねて、少し拗ねたような表情も愛しく思えてならなかった。

 

♡o。+..:*♡o。+..:*♡o。+..:*♡o。+..:*♡o。+..:*

 

彼女に恋をしたのは、春の入学式のときだ。

 

休みをもらって高校の手続きやらなんやらも済ませて、さあ楽しんでやるぞと意気込んだその日だ。

 

入学式も終わって、適当に校舎内をぶらぶら回っていると前の女子生徒がハンカチを落としたのに気付かず、下駄箱に向かっていた。

 

後で気付くだろうが、なんとなく無視するのも気が引けてハンカチを拾った。

 

下駄箱で俺も靴を履き替えて、追い掛ける。

 

そいつは、グラウンドの隅の大きな桜の木の前に立っていた。

 

「_おいあんた、さっき_」

 

振り向くと同時に強い風が吹いて、反射的に目を瞑った。

 

風が少し収まってから、目を開けると桜吹雪の中少しびっくりしたようにこちらを見る彼女がいたのだ。

 

それをたとえるならば、桜の妖精のようだった。

 

「_あ、ハンカチ拾ってくれたんだ、ありがとう」

 

鈴を転がすような声で

 

「…気を付けろよ」

 

「うん!」

 

笑顔はびっくりするほど眩しかった。

 

ハンカチを返して、背を向けた時にも声をかけられた。

 

「ね、お名前は?一緒のクラスだったら仲良くしたいな!」

 

さっきのクラスにはいなかった気がするが、名乗った。

 

「…瑞貴(みずき)、一緒ならよろしく」

 

偽名なのがなんだか後ろめたかった。下の名前しか名乗らなかったのは、なんとなく。

 

「瑞貴くんね!わたしはさくら、普通の桜に歌って書いて桜歌(さくら)!よろしくね!」

 

もしかしたら苗字も言っていたのかもしれないけど、俺には下の名前しか耳に入らなかった。

 

「じゃあ、俺急ぐから」

 

「うん!バイバイ!」

 

手を振る彼女に、少し迷って軽く手を振って、走って校舎に戻った。

 

頬が熱い、心臓の音が鳴り止まない。ここで俺は自覚した。

 

これが向こうで知ることの出来なかった()なのかと。

 

♡o。+..:*♡o。+..:*♡o。+..:*♡o。+..:*♡o。+..:*

 

吸血鬼は、基本的に恋をしない。

 

元々見た目が良いのもあるが、ある程度の力を持つため、パートナーが無くても人生(人じゃないから吸血鬼生?)はどうにかなるのだ。

 

俺もそのひとりだった。

 

別の種族の奴らと、恋人や恋について話し合ったことがある。

 

「俺は別にひとりで生きていけるし、守るものが増えるのは嫌だな。恋はしないだろうし、恋人も要らない」

 

そう答えた。

 

でも今は違う。俺は彼女を守りたいし、恋をしている。どうしようもなく彼女に焦がれている。

 

『恋をした吸血鬼は、想い人の血しか吸えなくなる。想い人の血を全て吸い付くしてしまう。想い人が亡くなってもそれは変わらず、餓死をする。』

 

そんな話を小さい時に聞いた。まあ逸話だが少し事実も混じっているのかもしれない。

 

実際、食欲は湧かなかった。家の冷蔵庫に入っている輸血パックを見ても飲みたいとは1ミリも思わなかったのだ。血を取らないと死んでしまうから少しは飲んだけど、美味しくはなかった。

 

人間の食事でも食いつなぐことは可能だし、餓死はさすがに無さそうだった。学校で流石に血を飲む訳にはいかないので、昼はちゃんと買うなりしていた。

 

また、向こうの奴らにも相談した。内容は「恋をした。血が美味く感じない。どうしたらいい」ってことだが。

 

恋は頑張って叶えろ、血は必要最低限飲め、そして薔薇を食べるのもアリだと。

 

恋をした吸血鬼は、薔薇を食べたという。

 

実際に食べた。普通に花びらを。茎は食べようとしたら手に刺さるし口にも刺さるしで痛かったからやめた。まあ美味くはないが血よりはマシだ。うん、まだ薔薇の方が美味い。

 

しかしいつまでもこのままでは居られない、なんとかしないと。恋を叶えるっつったって彼女は隣のクラスなのだ、接点がほとんどない。

 

強いて言うなら修学旅行だろうか、学年でどこかに出掛けて泊まるやつなら少しくらいは話しかけられるかも知れない。

 

とりあえず接触出来そうなイベント事を考えながら俺はベッドに潜り込んだ。棺桶よりベッドのが寝心地がいい。誰だ吸血鬼は棺桶で寝るなんて言ったの。




珍しく続くタイプのやつです。
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