落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
グラフォスにとっても新しい未開の地。
ほかの冒険者にとっては通いなれた道かもしれないが、木々が一層と生い茂りよくわからない生き物の泣き声が響いている森の中は新鮮そのものだった。
森の入り口だけでは決して感じ取れないような緊張感がある。
グラフォスの手元で必死に羽ペンを動かして森の中の様子を記述している羽ペンに対して、彼の心中は決して穏やかではなかった。
アカネがさっきから何も話してないし、なにより無表情のまま顔を真っ赤にして体をプルプルと震わせているのだ。
「アカネ、アカネ? 大丈夫ですか?」
「……ぷはあ!! な、なんか大丈夫みたい」
「本当に息止めてたんですか……」
「緊張しちゃってたみたいだけど、思ったより何ともないみたい」
一気に息を吐きだしたアカネは照れくさそうにはにかむとグラフォスの方に向く。
さっきまでの嫌な緊張感はなく、そこには和やかな空気が戻ってきていた。
グラフォスが思っていたよりも、そしてきっとアカネが思っていたよりも森の中に入っても森に入っても大丈夫なようだった。
「ごめんね、変な気を使わしちゃって」
「大丈夫です……アカネ、こっちへ」
談笑が始まりそうなほど和んだ雰囲気だった二人だったが、何かの気配を感じたグラフォスは一瞬で表情を引き締めてアカネの手を引っ張って木の陰へと連れていく。
「グラフォス君?」
「しっ」
戸惑っているアカネに向かって口に指をあてて指示して一点を見つめるグラフォス。
そんな二人の目の前、さっきまで二人が立っていた近くから大人と同じくらいの身長の木がのそのそと歩いてきていた。
「あれは……」
「ミニトレントですね」
ミニトレントと言われた目の前で目的もなさそうにゆっくりと歩いている魔物は、木でできた体に局部を隠すようにツタが全身に巻き付いており、枝が四肢のように伸びていた。
その顔はのっぺりとしていて何を考えているのかわからないほど表情を感じ取れない。
実際何かを考えるほどの知能は持ち合わせていなかったような気がする。
その特徴を記す羽ペンを一瞥しながらグラフォスは首をかしげながら、アカネの手を放してもう一冊青い装丁をした本をリュックから取り出す。
「ミニトレントは本来であればこんな森の浅瀬でいるような魔物ではないんですよ。もうちょっと奥に進まないといないはずですし、群れでいることが多いんですが……はぐれたんですかね。やっぱり自分の目で見てみないとわからないものですね」
ミニトレントに聞こえない程度の声でアカネに説明するグラフォス。
しかし片手はしっかりと今取り出した本を取り出してページをめくっていた。
「グラフォス君、なにかするつもりなの?」
「まあ僕の魔法がどこまで通じるのか。試してみる価値はありますよね。本当は最初はゴブリンあたりで試したかったんですが」
そしてグラフォスは目的のページを見つけたのか、そこで手を止めるとミニトレントをまっすぐと見据える。
「『リリース』『ウインドカッター』」
ミニトレントが二人のちょうど背後に立った時、グラフォスは静かに魔法を詠唱するとそれに合わせるように左手に持った本から黄金色の魔法陣が描かれて、一瞬で魔法陣は霧散し、一枚の刃のような形に姿を変えてミニトレントに向かって突っ込んでいった。
気配に気づいた時にはすでに遅く、ミニトレントが振り返って黄金色の刃に枝を向けて反撃しようとした瞬間、その刃がミニトレントの上半身と下半身を真っ二つに切り裂いた。
「まだ弱いですかね。『リリース』『ファイアボール』」
上下真っ二つにされているにもかかわらず、まだ反撃しようと動きを見せるミニトレントに向かって、グラフォスは新たに魔法を唱える。
先ほどと同じように本から小さな魔法陣が顕出すると、その魔法陣は霧散すると同時に小さな球体となって魔物に向かって飛んでいく。
そしてミニトレントに着弾すると同時にその体は真っ赤な炎に包まれて、一瞬でその体は炭となった。
そして炎は周りの木に燃え移ることなく対象の魔物が死んだと同時に自然に鎮火した。
「すごい……」
グラフォスが魔法を繰り出す中でただ隣で見ていることしかできなかったアカネは、一連の動きを見てただただ感動していた。
「
「……本当に初めてだったの?」
「実戦闘を自分だけでやるっていうのは初めてですよ。シュミレーションはしてきたんですが」
シュミレーション通りであれば最初のウインドカッターで魔物を殺すはずだった。
しかし実際は次の手を打たなければミニトレントが持つ微弱な再生能力の特性によって、仕留めきることができなかった。
「実践をしないとわからないことは多いですよね」
「それでもすごいと思うけど……」
今の戦闘内容をしっかりと記述しているグラフォスの横でアカネはただただ感心していた。
はじめての戦闘ということもあり、二人とも気が抜けていたのかもしれない。
二人が隠れる木陰の反対側から数本の枝が飛んできたのはそんな油断していた時だった。
「危ない!」