落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~   作:葵 悠静

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第28節 それは創造される新たな魔法

「アカネ?」

「グラフォス君よけて!」

 

 アカネの言葉に疑問を返そうとした直後、グラフォスの左腕にすさまじい痛みが走り、意識が一瞬飛ぶ。

 それと同時に魔力によって浮遊していた本も地面に落ちてしまう。

 

 グラフォスの体に走り続ける激痛によって意識を強制的に戻され、痛みが走ったその場所に目を向けると、文字通りグラフォスの左腕はちぎり飛ばされそこから血が噴き出していた。

 

 そしてそれを認識すると同時にグラフォスの体にミニタイラントとは比べ物にならないほど太い枝が巻き付く。

 

「気配がなかった……」

 

 しかしそんなことを言っている場合ではない。足を踏ん張ってなんとか体を持っていかれることを防いでいるが、それがいつまで持つかは正直わからない。

 というよりも現状左腕がなくなった痛みに耐えるのが精いっぱいというところだ。

 

 どうする……! 一体何が残っていたというんだ……。ミニタレントの気配は完全に消失していたし、群れの生き残りが残っていたとは考えづらい。

 

 そもそもこの状況を打破するためには必要な本は地面に落ちている。

 つまり魔法は使えない。いやリュックから出せば多少は何か書いてあったか?

 

「グラフォス君! ちょっと耐えて! 『リペイアヒール』」

 

 グラフォスが体力と思考の限界に挑んでいる狭間でアカネの声が耳に飛び込んでくる。

 直後先ほどまでの刺すような痛みとは違った魔力供給過多による鈍痛がグラフォスの全身を駆け巡る。

 

 痛みによって神経をそちらに割かれたグラフォスの体は一瞬足の力が抜け、それと同時に左右反転するとともに、目の前の魔物をその目にとらえる。

 

 痛みが消えるとともに左腕に違和感。ちらっと目を向けるとそこには生身の左腕がまぎれもなくグラフォスの左腕が生えていた。

 

「……ありがとう、アカネ!」 

 

 完全に欠損した四肢を修復する魔法など聞いたことがないが、今それについて考察をするのは無粋。

 話を聞くことなんて生きて帰ればそんな時間はいくらでもある。

 

 グラフォスはすぐに意識を切り替える。

 今は視界に入ってしまった目の前の化け物を何とかしなければいけない。

 

 それはミニタレントの数倍のでかさを誇っており、パッと見る限り全身に8本以上の枝を触手のように操っていた。

 

「ジャイアンントタレント……!!」

 

 考えろ、考えなければ死ぬ。ここから5秒後には全身に枝が突き刺さって死ぬ。

 幸いなのはミニタレントと同じく命中率がそこまで高くはないところか。

 ただし枝の数は増えているから攻撃は食らっている。

 加えてグラフォスの体は未だに太い枝に巻き付かれて身動きが取れない。

 少なくとも片手が使えなければ今のグラフォスではどうすることもできない。

 

「グラフォス君を離して!!」

 

 思考の隙間、またアカネの声が聞こえる。視界の端にアカネが全身でグラフォスを掴んでいる枝に向かって体当たりをしているのが見えた。

 そのあとに枝から伝わる鈍い衝撃によって、一瞬グラフォスを掴んでいた枝の拘束力が弱まる。

 

 ここ……しかない!!

 

 グラフォスはこれまでの人生で出したことのない力を発揮し、両腕を無理やり枝から引き抜く。

 その際に枝の樹皮と腕の摩擦によって、肉がえぐれたような気がするがさっきまでの左腕がちぎれた痛みに比べれば全然ましだ。

 

 血を垂れ流しながら両腕が枝の拘束から解放されると同時に、アカネの体がジャイアントトレントが放った別の枝によって遠くへ弾き飛ばされる。

 

「アカネ!!」 

 

 その後再び訪れる身体へのすさまじい圧迫感。しかし両腕は自由になった。チャンスはアカネが作り出してくれたここしかない。

 

 ジャイアントトレントはいきなり突っ込んできたアカネに多少気を取られたのかグラフォスへの攻撃が雑になっていた。

 ここでアカネへ追撃させるわけにはいかない。

 

 グラフォスは引きずられる体を支えながら、何とかリュックから一冊の本を取り出す。

 特に何も考えずにやみくもに取り出した本は真っ黒な装丁の本。

 よりによって何の記述もされていないまっさらな本だった。

 

「既存の魔法がないなら……」

 

 ジャイアントトレントはさっきの不意打ちがよっぽど癪に障ったのか、アカネの方を注視している。

 しかし吹き飛ばされた衝撃で地面に落下したアカネの意識はあるように見えない。

 

 このままではアカネがたこ殴りにされるだけだ。正直オートヒールも切れかけているこの状況でアカネがやられるとグラフォスの勝機もゼロとなる。

 

()()()()()しかないですよね。『ブレインライト』。こっちを見ろよ、化け物!」

 

 グラフォスは左手でほんの一ページ目、真っ白なページを開くとともに右手で黄金色の羽ペンを顕現。

 それと同時にグラフォスは全身から体内の魔力を大量に放出する。

 

 羽ペンは現れると同時にジャイアントトレントの顔の周りを一周して左手に持つ本の上にペン先を携える。

 

 この羽ペンに攻撃力は皆無だ。しかしジャイアントタレントの気を引ければ十分。

 アカネの攻撃ですら気を割かれる注意力散漫な魔物だ。目の前をちらついた魔力の塊を見逃せるはずがない。

 

 グラフォスの読み通り、のっぺりとした顔をこちらに向けたジャイアントタレントの対象はアカネからグラフォスへと戻る。

 

 しかしそれに合わせてグラフォスを引っ張ろうとする枝の力強さは増す。

 

「でも、もう遅い」

 

 グラフォスは全身から力を抜く。その瞬間枝が入れていた力によってグラフォスの体は宙に浮きあがり、ジャイアントタレントの頭上まで持ち上がる。

 

 ここからが本番だ。地面にたたきつけられるまでに、無数の枝の攻撃が来るまでに魔法を造り上げなければならない。

 

 グラフォスは脳が焼き切れるような熱さを錯覚しながら、これまでヴィブラリーで読んだ本の数々を思い浮かべる。

 それと同時に本の上に浮かんでいた羽ペンがすさまじいスピードで真っ白なページを黄金色の文字で埋めていった。

 

「我創造す。火の剣を持ち、炎をまといて迫る脅威をただ、無秩序に打破せよ。燃え上がる炎はその身を灰塵と化して再生することを禁ずる。『リリースクリエイト』『炎上《バーニング》大剣』」

 

 静かな声だが、森に響く凛とした声での詠唱。

 魔力をまとっていることもあってかそこにいつもグラフォスのけだるそうな雰囲気はなく、先ほどまでの必死な表情でもなくただ厳正な、無表情で冷たい雰囲気が漂っていた。

 

 そして詠唱とともに左手に支えられるように宙に浮いた本の上部から羽ペンによって書かれた文字が宙に浮きこれまでで一番大きい魔法陣を構成する。羽ペンはそれを補助するように欠けているようにも見える魔法陣の隙間を描いていた。

 

 そしてそれと同時にグラフォスの中から多量の魔力が放出される感覚が襲う。

 

 完成された魔法陣は羽ペンとともに瞬く間に霧散し、本の上に火で模った剣が顕出する。しかし本がその火を受けて燃えることはない。

 

 顕現した刃は音もなくグラフォスの右手に吸い寄せられるように近づいていく。

 

 グラフォスはそれを握ることなく、火剣を右手に沿えるように定着した後、ただ大きく右手を振りかぶると、無造作に縦に、目の前の眼前に迫った魔物を切り裂くためだけにその手をふるった。

 

 その手の動きに合わせるように火の剣は動くと、縦に振りかぶった瞬間大きく炎を纏いそれが刃となり、ジャイアントトレントへと鼻先に向かう。

 

 しかしジャイアントタレントも生命の危機を感じたのか一瞬で他方に伸ばしていた枝を目の前の炎を防御するために炎の刃の前に一斉に集められる。それはグラフォスを掴んでいた枝も例外ではない。

 

 グラフォスを手放すことなく強引に動かされた枝によって、グラフォスの体は大きく傾き重力が襲い、掴まれているのとは別の圧迫感がグラフォスの全身に集中する。

 しかしここで魔力を切らすわけにいはいかない。

 

 グラフォスは顔をゆがめながらも右手に携えた炎をまとった火の大剣を消すことなく、集められた枝に向かって振り下ろす。

 

 そして集められた枝の塊と炎の刃がふれた瞬間、枝は炎に包まれて一瞬で灰と化した。

 それはグラフォスを掴んでいた枝も同様で目の前に炎が迫った瞬間、グラフォスの体が炎で包まれてその後唐突な浮遊感が訪れる。

 

 グラフォスが顕出した炎がグラフォスの体を燃やすことはなく、体にまとわりついていた太い指のような枝のみが灰塵へと帰していった。

 

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