落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~   作:葵 悠静

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第2節 文字を書くためだけの魔法

 次の日、前日誰にも告げず森に出かけた罰としてグラフォスは店番を任されていた。

 

 店番といってもこんな朝から本屋に来る奴などいない。

 グラフォスは頬杖をつきながら店内にあった売り物である本をつまらなさそうにペラペラとめくっていた。

 

 自他共に認める本の虫であるグラフォスだが、ここにある本はとっくの昔に全て読んでしまっている。そのためつまらなさを感じてしまうのも仕方が無いことだった。

 

 誰も店に訪れないまま時刻は昼を回る。さすがに何度も目を通した本を閉じると、その代わりに焦げ茶色の装丁をした分厚い本を開く。

 

 しかしその本の中は真っ白で、それは昨日ミンネに見せていた本ともまた別物。

 グラフォスは退屈そうな顔を一瞬引き締めると前ページをちらりと覗き、再び白紙のページに戻した。

 

「『ブレインライト』」

 

 自分の体から極少量の魔力を削られる感覚。それに併せるように目の前の白紙のページの上に沿うように、黄金色に輝く羽根ペンが顕現する。

 

 そしてグラフォスの思考がある程度まとまった段階で羽根ペンが白紙の上を滑り、ひとりでに文字が書かれていく。

 

 当の本人は当たり前の光景のようにそこにはあまり目を向けず、相変わらずぼーっと視点の合わない目で外を眺めていた。

 

 今まで同じ魔法を見たことはないが、これはグラフォスが昔から、きっと物心がついた頃から使えてる魔法だ。

 

 自分のまとまった思考を読み取ってそのまま文字にしてくれるこの羽根ペン魔法は、下手な攻撃魔法よりもお気に入りだった。

 

 頭の中に浮かぶ空虚な妄想を取り留めもなく白紙のページを埋めていく羽根ペンを、ぼんやりと眺めるグラフォス。

 このまったりとした時間の流れを感じられる時が嫌いではない。

 

 しかしその時間は突如終わりを迎える。後頭部に激しい鈍痛をおぼえると同時に自分の顔が、目の前の本に突っ伏するのを感じた。

 それと同時に軽快に文字をつづっていた黄金色の羽根ペンはその場から霧散し、背後には人の気配。

 

「いったー……」

「グラフォス! 人前でその魔法は使うなって言ってるだろう!」

 

 顔を上げるといつの間にか目の前にはミンネが憤怒の表情で立っている。

 

「人前って誰も来やしませんよ、こんなとこ……」

「こんなとこだぁ?」

 

 事実グラフォスは店内に客がいないことを確認して、魔法を使用した。この店でグラフォスが店番をしている時に客なんて滅多に来ない。

 

 ミンネが居る時は彼女目当てで数人の人が店に訪れるが、それも客ではなくただ世間話をしに来た邪智な冒険者だ。

 

「そもそもなんで僕が魔法を使っちゃいけないんですか。別に街中で魔法を使っちゃいけないなんて法がある訳でもないのに」

「そんな得体の知れない魔法なんて見たことがないからだよ。何回も言ってるだろ、その魔法を見つけた目ざといやつがあんたにちょっかいをかけてくるかもしれないだろ」

 

 確かにそれはミンネにもう何度も言われている警告。

 グラフォスが彼女の目の入るところでこの魔法を使うやいなやどこにいようとミンネはこの鬼のような顔をしてグラフォスの前に飛んで駆けつけるのだ。

 

「こんな魔法見られたところで……」

 

 確かに同じように自分の頭の中のイメージを文字として表現する魔法なんてものを使う人は、見たことがない。

 

 ただ仮にこれがグラフォスのみが使えるオリジナル魔法だとしてもだ。こんな攻撃にも防御にも使えない魔法を求めて誰かが襲いにくるなんて考えられない。

 

 ただそれを今怒気を放つミンネに言うのはあまりよろしくない。彼女との10年の付き合いの直感がグラフォスにそう訴えていた。

 

「分かりましたよ、なるべく人前ではこの魔法は使いません」

「全く不用心な子だよ……今日は店じまいだ。上に上がってご飯にするよ」

 

 ミンネは深くため息をつくと、さっきまで放っていた怒気を霧散させ苦笑を浮かべながら2階へと戻っていった。

 

「あ、ミンネさん。明日は街に行ってもいいですか?」

「……また1人で郊外に出ないなら構わないよ」

「……善処します」

 

 グラフォスはミンネが浮かべる苦笑によく似通った笑みをその顔に貼り付けると、彼女の後ろをついて2階へと上がった。

 

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