落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
空中から自由落下した四人は街道のわきで揃いもそろって大の字で寝転がっていた。
「くそー、坊主のせいでうまく受け身取れなかった」
「僕のせいなんですかね」
「そうよ。人のせいにしちゃだめよ」
早々に立ち上がったのはやはりというべきか一番耐久力がありそうな鎧を着ている赤髪の少女。
そんな赤髪少女を非難しながら青髪少女も立ち上がり、お尻、背中についている砂を払っていた。
相手と会話はできるもののグラフォスは未だ地面に倒れたままだった。
アカネに関しては落下時に相当の衝撃を受けているはずにもかかわらず、目覚める様子はなかった。
青髪の少女がうまく衝撃を和らげてくれたからか、彼女の疲労が思っているよりもひどいからなのか。恐らくその両方だろう。
「まあそんなことはどうでもいいんだ。問題はあのバケモンだな」
赤髪少女はにらみつけるように森の方に顔を向ける。それに合わせて青髪少女も眉を寄せながら森に目を向けていた。
確かにグラフォスたちはタイレントキングから逃げおおせたわけだが、それは自由になったわけではない。むしろあんな魔物がこんな森の浅瀬に腰を据えているとなると、森には入れる冒険者の数はぐっと減ってしまう。
「どうしてあんなところにユニークモンスターがいたのかしらね……」
「とりあえずギルドに報告しねえとな。ぶっ倒れてるところ悪いが坊主たちにも来てもらうぜ」
「それは全然かまいませんが……あなた達はいったい?」
グラフォスはよくギルドに顔を出すが赤髪も青髪の少女も見覚えがなかった。
こんな目立つ赤い鎧を着ている人がいれば、一度は目にしたことがありそうなものだが。
「私はシャル。職業は『呪術士』よ」
青髪の少女は微笑みながら手に持っていた水晶玉のようなものが先端についた杖を見せてくる。
「俺は芳賀時兎《はがときと》。職業は『刀剣士』だな。まあシャルと同じで見たまんまだな」
シャルに続くように赤髪の少女がその鎧に隠された小さな胸を張って、名乗る。
「僕はグラフォス。隣で伸びちゃってるのはアカネです」
「そうか。まあ詳しいことは街に戻ってもしまた会うことがあればでいいだろ。とりあえず戻るぞ」
トキトはよほど急いでいるのか若干焦るような口調で街に戻ることを促す。
もちろんあの魔物をこのまま放置するわけにはいかないため、グラフォスも痛む体に鞭を入れて何とか立ち上がる。
「坊主は歩けそうか。そっちの嬢ちゃんは……無理そうだな」
「大丈夫ですよ、僕が背負って運びます。アカネは軽いですし」
「あら、前にもこういうことがあったの?」
「まあ、そうですね……」
グラフォスは返事を濁しながらアカネに近づくと、リュックを前に持ってきて代わりにアカネを背中へと抱える。
ミンネのところに来てからはまともな食事をとっているアカネだったが、それでも軽すぎるくらいにグラフォスは持ち上げることができた。
「じゃあギルドに行くぞ」
「はい」
最後にもう一度森へと目を向けるトキトの声をきっかけに四人は街へと戻るのであった。
街に戻った四人はギルドへと真っすぐ向かう。
顔面血だらけの少女を背負う少年と派手な装備をしたトキトとシャルは街に入るなりそれなりに注目を浴びてしまっていた。
しかしトキトはそんなことを気にする様子もなくギルドにたどり着くと押し開けるというよりは、けり破る勢いでギルド内に足を運ぶ。
「おい、あれ……」
「ああ、万年岩等級パーティのトキトだろ?」
「ああ依頼達成率2割以下って噂だぜ」
「今日はシャルも一緒なのか」
「この街に戻ってきていたのか」
「書き師の坊主も一緒じゃねえか」
「あーシャルちゃんにののしられたい」
ギルドに入るなり注目を浴びたトキトに向けられる視線は意外にも冷たいものばかりだった。
目立つにしても、見る限りよさそうな鎧を着ているから有名な冒険者なのだろうと思っていたが、周りの聞こえてくる会話を聞く限りあまりいい噂ではない方で有名みたいだ。
グラフォスもそんなトキトとシャルと一緒にいるわけだから、注目を一緒に浴びるが当のグラフォスもトキトも気にする様子もなくギルドの受付嬢に近づく。
「トキトさん、シャルさん戻ってたんですか!」
「ああついさっき戻ってきたばっかだな」
「今回は依頼は達成できたんですよね? 護衛任務でしたしお二人の実力を鑑みても難しい依頼ではなかったと思うんですが……」
「それがね……またトキトの馬鹿がやらかしちゃったんだ」
「え?」
トキトが受付に立つなり近づいてきたギルド嬢は、親しげに会話をし始めた。
どうやら二人は護衛任務を受けた帰りらしい。
そんな三人の話をグラフォスは盗み聞ぎするような形で静かに聞いていた。
というよりもさすがにアカネを支えていて、腕や体への負担がピークに達していたのだ。
話しかける余裕はなくアカネを落とさないようにするので精いっぱいだった。
そんなグラフォスに気づくはずもなく三人は会話を続ける。
「あの場面に遭遇したらシャルも同じことしてるだろ。それに否定もしなかったじゃねえか」
「それはそうだけどね」
「えっと、なにがあったんですか?」
「ん? まあ護衛依頼の途中に迷子の子を見つけてな。到着までの日付に余裕があったから親を見つけてからでもいいかって言ったら、拒否したんだ」
「だからちょうどそのまま村にいた冒険者に護衛依頼を押し付けて、トキトと二人で迷子の親探しをしてたってわけ」
「別に押し付けたわけじゃねえよ。頼んだら快く引き受けてくれたじゃねえか。両方にとって有益な話だった。それだけだ」
シャルの言い分に不満があったのかトキトはむすっとしながら事の経緯を説明する。
「そんなことはどうでもいいんだ」
「そんなことって……。トキトさんこのままだと本当にずっと岩等級のままですよ? お二人の実力ならもっと上に行けるのに」
「本当にそれはどうでもいいんだよ。それより大事な話がある」
「グラフォス君!」
完全に会話の蚊帳の外になっていたグラフォスの耳に聞きなれた声が耳に飛び込んでくる。
声がした方に目を向けると鬼気迫った表情で近づいてくるドリアの姿があった。
「どうしたの!? ぼろぼろじゃない! それにアカネちゃんも……!」
「ああ、ちょっといろいろありまして……」
ドリアに言われてグラフォスは改めて自分の姿に目を向けるが、確かに言われてみればボロボロだ。
腕を無くしたときに一緒に持っていかれた服は肩から下がちぎれているし、いつも着ている白いローブは泥まみれの砂まみれで、乾いていない血もこびりついている。
トキトが目立っていたのもあったが、グラフォスのこのボロボロ具合も街で目立ってしまっていた要因の一つかもしれない。
「いろいろって……」
「あんたもちょうどいいや。恐らく、いや絶対にギルド指定の緊急依頼を出す必要がある話がある。聞いてくれ」
「え、それってどういうことですか?」
「と、とりあえず上に行きましょうか」
トキトの発言に動揺するドリアとギルド嬢であったが、少し冷静になると四人はギルドの二階にある応接室へと案内された。
ギルド嬢がすんなりとトキトの話を信じるあたり、彼女らはギルドの信頼は高いのかもしれない。
そんなことを考えながら、そして腕の痛さに耐えながらグラフォスはトキトとシャル、そしてギルド嬢たちの後ろをついていった