落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
応接室でギルド嬢に森であった一件を話すと、途端にドリアたちはあわただしく一階へと戻り、そして数十分後にはトキトが宣言した通り、ギルド指定緊急依頼が発行されることとなった。
依頼内容はもちろんタイレントキングの討伐依頼。
冒険者たちは最初半信半疑だったが、夕方だというのにギルドがあわただしく動き始めたことから、それに合わせるように冒険者も慌てるように装備の調整をしに向かった。
こういったギルドから発行された討伐依頼の場合、その報酬はとてもおいしいものが多くまた複数のパーティが合同となり挑む、レイド型になるため死ぬ確率が低い。
もちろんその分成功率は低いのだが、危険度が低いと踏んだ冒険者は挑戦することが多いのだ。
そしてそんなバタバタしている一階とは別に二階ではシャルによるアカネの治療が行われていた。
治療といってもほとんどの怪我はアカネ自身が極限状態の中でかけたパーフェクトヒールによって消えているため、魔力の供給が主な役割だ。
そしてグラフォスはというと、特に手伝えることもないため、一階で自分を討伐依頼に入れてくれるパーティを探そうとでも思っていたのだが……。
どういうわけか二階の隅っこ、治療の邪魔にならない場所で正座をさせられていた。
本日二度目の正座である。
しかし今回目の前にいるのはアカネではなくドリアである。
「あの、ドリアさん? どうして僕は怒られ待ちな体勢になっているのでしょうか」
怒られ待ちというかもうすでに視線で怒られている。確かにギルドに来たときグラフォスは、森の中に入ることはドリアには伝えていなかった。
しかしよくよく考えてみてほしい。別にギルドの受付嬢に自分の行き先をいちいち伝える必要はないのである。
冒険者登録をしているのだから自分の命は自己管理して当たり前というものだ。
しかしそんなことを今目の前で仁王立ちで腰に手を当てて、ものすごい視線でにらんできているギルド嬢に言うと、きっとグラフォスの命はいとも簡単に散ってしまうのだろう。
そんな予感がするほどに目の前のドリアは怒っているようだった。
「本当に、体はなんともないのね?」
「本当に大丈夫ですって。傷一つありません」
グラフォス自身ありえないことだと思うのだが、あの死闘を乗り越えたというのにグラフォスは傷一つ体に残っていない。
それもこれも今倒れているアカネのおかげではあるのだが。
「それで? どうして森の中に入ってタイレントキングに遭遇したのにもかかわらず、すぐに逃げてこずに、ましてや戦いに挑んだのかお姉さんに教えてくれる?」
「お姉さんって自分で言いますか、こんなときでも」
「こんな時にそういう茶化しはいらないから」
グラフォスのいつもの軽口をドリアは冷たい口調で遮る。グラフォスがケガをしたことはドリアには伝えていないし、戦闘したというのも詳細は省いている。
トキトの方に助けを求めるように視線を向けるが、彼女はこういう空気は苦手なのか居心地が悪そうに腰に下げている刀の鞘で手遊びしていた。
要するに見て見ぬふりである。
「別に僕も戦うつもりはなかったんですよ。でも戦わなければ森から逃げることもできなかったんです。だから仕方なくです」
「トキトさんたちがたまたまこっちに帰ってなかったらどうなってたかはわかるよね?」
ドリアが言いたいことはグラフォスにも十分に理解できた。というか実際にそうなりかけた。
トキトがあの時いなかったら、あのタイミングよりも遅く駆けつけていれば間違いなくグラフォスはあの太い枝に腹を貫かれて死んでいた。
きっとそのあとにアカネも殺されていたに違いない。
「そもそも森に戦闘力のない二人が入ったっていうのが問題なの。冒険者でもそんな無茶はしない。冒険っていうのは無謀なことに挑戦するっていう意味ではないの——」
「グラフォス君! 大丈夫!?」
これは長くなりそうだなと、そんな無礼なことを考えながらドリアの話を聞いていたグラフォスだったが、そんな彼女の説教は突如部屋に響いた少女の声で遮られる。
「ちょっと! まだ動いたら危ないわよ!」
魔力切れから回復して目が覚めたアカネは飛び起きるように立ち上がると、グラフォスの姿を探していたのかきょろきょろと部屋の中を見渡していた。
そしてグラフォスの姿を見つけるや否や、グラフォスの方に走り出す。
しかし回復したばかりの体では満足に体を動かすことができず、そのまま足がよろめきグラフォスの体に抱きつくように飛びついた。
「うっ……! アカネ、そんな心配しなくてもあなたのおかげで僕は無事ですよ」
「よかったぁよかったよぉ!」
いつものアカネであればすぐに顔を真っ赤にしてグラフォスから離れるのだろうが、今は安心と混乱が大きすぎるのか泣きながら顔をグラフォスの胸にこすりつけていた。
「アカネこそそんな急に動き出すと危ないですよ」
「私は全然……」
泣きじゃくりながら返事を返すアカネ。グラフォスもいつもと変わらない泣き虫な彼女の姿を見て、どこか安心感を覚えていた。