落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
「それでフォス、話っていうのは?」
ご飯も食べ終わって一息ついていたころ、唐突にミンネは思い出したように話し始めた。
グラフォスは思わず姿勢を正してどう話を切り出そうか考える。
「フォス、別に私は何を言われてもすぐに否定はしないよ。とりあえず話してみなよ」
「グラフォス君、大丈夫?」
「ええ、大丈夫。その話っていうのは……」
そしてグラフォスはゆっくりと口を開き話し始めた。
「ミン姉、僕攻撃魔法が使えるんです」
「え?」
「……へえ?」
アカネが考えていたような話の内容ではなかったから驚いたようにグラフォスを見ていた。
対するミンネは眉をひそめるだけでグラフォスの続く言葉を待っていた。
グラフォスはこれまで魔法が使えることを黙っていたこと、アカネを助ける時、魔物に襲われたとき、そしてトキトに連れて行かれた時に魔法を使って戦ったことを話した。
ミンネに緊急討伐依頼を受けることを話すには、グラフォスがちゃんとした魔法が使えるということを伝えるのは、必須条件だ。
そうしなければ経緯がちぐはぐになるし、そもそも自分が何もできないのに危険な魔物討伐に参加するということを許してくれるはずがない。
そしてグラフォスはゆっくりとこれまでのことを話し終えたところで一度口を閉じ、ミンネの反応を待つ。
「話ってのはそれだけかい?」
「いや、どちらかというとこれからが本題なんですが……」
「それなら先に全部話しちゃいな」
ミンネはグラフォスに先を促すように腕を組み、背もたれに深くもたれかかる。
グラフォスは頭の中である程度言いたいことをまとめると、再び口を開いた。
「僕は魔法を使えます。そしてタイレントキングの情報が欲しいです。もちろん僕だけだと適うなんて思いませんし、面と向かって戦おうなんて考えませんでした。でもトキト達と、それにアカネもついてきてくれると言ってくれています。彼女らと一緒なら死んでしまう可能性は僕一人で行くよりも、限りなく低いです。それなら僕はトレントキングと戦って魔物のことを、この世界のことを知りたい」
グラフォスは最後まで力強い口調で言い切ると、今度こそミンネの返答を聞くべく彼女の目をじっと見つめる。
しかしミンネはなかなか口を開くことなく、腕を組んだまま目を静かに閉じてしまった。
何かを考えているのだろうが、何を考えているのか長い付き合いであるグラフォスでも考え付かなかった。
そもそもミンネは性格的に思ったことをそのまま言葉にするタイプだ。グラフォスに対しては特にそれが顕著だ。それだから彼女がここまで悩んだ様子を見せるをグラフォスは、あまり見たことがなかった。
テーブルを挟んで二人の間で重たい沈黙が流れる。
「わ、私もグラフォス君の役に立つように、皆の役に立つように回復魔法を使います。私の持っている全魔力を持って全力でグラフォス君を回復して守ります」
最初に沈黙を破ったのは意外にもアカネだった。
これまで隣でグラフォスの話を聞いていたアカネだったが、グラフォスの説得を後押しするように、言葉を紡いだ。
それをミンネはかみしめるように目を閉じたまま何度もうなずきながら、話を聞く。
そしてアカネが話し終え、再びその場に沈黙が流れる。
実際は数秒だったのだろうが、何分にも思えるほどの長い時間が流れる。
そしてミンネはゆっくりと目を開けると、グラフォスとアカネの顔を交互に見つめ、深く息を吐き出すと口を開いた。
「私は何も言わないよ。グラフォスとアカネで決めたんだ。しっかりと活躍してきな」
反論されると思って身構えていた。しかし返ってきた言葉は全肯定するような内容だった。
思ってもいなかった返答に知らず知らずのうちに固くなっていたグラフォスの体は一気に弛緩して間抜けな表情をのぞかせる。
アカネの方を見ると同じように驚いたような、気が抜けたような顔をしていた。
「なに、止められると思ってたのかい?」
「まあ……そうですね」
「フォスのことさ。どうせ止めたところで行ってしまうだろ?」
「そんなことは……」
「あるね。あんたは気になることとか手の届く距離に新しい知識があれば、どんなにその場所が危険だろうが突っ込んで行っちまう。だから私がとめたところで何かしら理由をつけて、たとえ一人だろうがフォスは森の中に、タイレントキングに挑んでただろ」
ミンネの眉間のしわはなくなり、快活に笑いながらそう言い切る。
「じゃあ魔法のことは?」
「フォス、あんた本気で気づいていないと思ってたのかい?」
ミンネはもはや若干呆れたようにグラフォスを見ながら立ち上がると、グラフォスとアカネが座っている後ろに回る。
「最近はなかったけど、ここ一年くらいほとんど毎晩フォスの部屋からおかしな魔力が流れていて、何度も部屋が光っては消えてってしてたんだ。魔法の練習をしているっていうのは私じゃなくても気づくだろうさ。まあ必要になったらいつかは話してくれるだろうって思ったから、あまり追求しなかったんだよ。あんまり私をなめるんじゃないよ? フォスのことなら
ミンネの口調は決して怒っているようなものではなく、体の内側に染み込んでくるような、そんな温かさを持っていた。
それを聞いたグラフォスは混乱にも似た動揺した様子を見せ、アカネは逆にほっとしたように肩をなでおろしていた。
そんな対照的な二人の動作を見てミンネはますますおかしそうに笑うと、後ろから座っている二人を抱きしめる。
「まあ一つだけ言うことがあるとするのであれば……ちゃんと死なずに帰ってくるんだよ。これは絶対だ」
ミンネから諭すように言われたその約束の暖かさ、そしてミンネが包み込んでくれる体温で、二人は心も体も優しく暖まっていくのを感じ、それをかみしめるように受け入れていた。