落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
「それで、どう思う?」
血だまりの中にぽつんと落ちていた魔石を拾いながら、シャルが三人に向かって問いかける。
主語のないといかけではあったが、グラフォスたちはすぐにそれが何を射しているのかを察した。
「まあ、あきらかにおかしいよな」
「こんな浅瀬にあんな魔物が出現する可能性は限りなく低いですよね」
「トレントキングに、さっきの大きな狼……森で何かが起こっているとか?」
「そうよねえ、おかしいわよね。人目に付きやすいところにわざと出現してるとか? でも何のメリットがあって?」
「そもそもこんな街の近くの森にあんな魔物が出現しているってことが問題な気がしますが」
「それもそうねえ」
各々が思ったことをそのまま口にするが、それぞれが感じている違和感の解決にはならない。
「まあ何が出てこようが、ぶった切ればいいだけの話だろ」
「さっきみたいな不意打ちでトレントキングに遭遇するのはごめんですけどね」
グラフォスの言葉にほかの三人は苦笑いを浮かべながら歩きを再開させる。
グラフォスは歩きながら先ほどの戦闘を振り返っていた。
銅にも火力に欠けるグラフォスの魔法。基本的に魔法の威力はその魔法に対して使用している魔力量と魔力の練密度に比例する。
魔力量は問題ないレベルで注いでいるはず。
それなら問題は練密度の方だろう。
でも先ほどの戦闘では火力の足りない魔法をジャイアントウルフにぶつけてしまったものの、トキトのカバーによってうまく倒すことができた。
パーティを組もうと依頼をひたすら出していたグラフォスだったが、実際にパーティで行動した数は数えるほどしかない。
しかもパーティを組んでくれていた時期、グラフォスは今のようなリリース魔法は使用することができなかったため、他人と連携するということを知らなかった。
この戦い方は案外ありかもしれない。
一人深い思考に陥るグラフォスだったが、前を歩くシャルの足が止まったところで現実に意識が引き戻される。
「どうしました?」
「隠れるわよ」
「また魔物か?」
「そうね。距離は遠いみたいだけど……逆にこの距離で感じる魔力ってことは相当な大物かもしれないわね」
「本当にどうなってるんだろ……」
アカネがシャルの言葉におびえながら木陰に移動するのを横目に見ながら、グラフォスも同じように自分の体が隠れるように木陰へと身を隠す。
「いよいよ本命のキングが現れたか?」
グラフォスの隣にしゃがみこみ、浮きだった声でしゃべるトキトの顔を見ると彼女は笑いを抑えきれないのか、口角をひくひくと震わせていた。
この人の戦闘能力は高いけど、頭の中が戦闘狂なのが残念だな。
グラフォスはあきれながらトキトから視線を外すと、森の小道へと目線を戻す。
しばらく警戒しながら待機していると、遠くの方から何かを引きずるような音が徐々に近づいてきていた。
そしてその音がなくなったかと思うと、ビュンという音とともにグラフォスたちから少し離れた場所に太い枝が迫ってくる。
「動かないで!」
反射的によけようとしたトキトを制するように小さな声でシャルが警告する。
トキトは立ち上がることなくそのまま警戒体制へと戻すと同時に、飛び出してきた枝はグラフォスたちのところに到達する前に森の奥に戻っていった。
『マダタリナイ』
森に重低音な声なのか音なのか聞き取りづらい音が響く。
直後、グラフォスたちが隠れていた木の葉が見る見るうちにかれはてていき、四人を隠すほどに大きかった大木は、一瞬で先ほどまでの陰もないほどに小さくしぼんでいた。
そしてそれは姿を現す。
森から突き出すほどの巨体を揺らし、道など見えなくなってしまうほどに根と葉を敷きつめた全身。
茶色く太い胴体には黒ずんで炭のような色をしている穴が三個ほど空いていた。
「でやがったな、化け物……」
「あの時のトレントキング……」
「間違いないわね」
グラフォスたちの前に悠々とした足取りで姿を現したのは、以前グラフォスたちが仕留めそこなったトレントキングの姿だった。
短い期間で再び相まみえた存在。しかし目の前に現れたトレントキングは、以前の大きさが小さく見えるほどに大きく成長していた。
枝に限っては、以前グラフォスを攻撃したときに束ねていた10本分の枝の太さを一本一本がその太さになっていた。
「とんでもねえな」
「一体どれだけの自然魔力をため込んだんでしょうね」
「話し込んでいる暇はないわよ。しゃべれるくらいの治世があるってことは、私の索敵呪術の魔力源にも気づくかもしれない。一気に仕掛けるわよ」
シャルはそういいながら物音をたてないように動きながら、杖を構える。
「シャルさんが呪術を使用した後、私が回復魔法をかけるので一瞬三人とも動かないでくださいね」
「了解」
「いつでもいいですよ」
トキトは刀に手をかけ抜刀の準備をする。
グラフォスはリュックから本を取り出し、今持っている本と入れ替えるとページを静かに開いてトレントキングをまっすぐと見据える。
「死んじゃ駄目よ」
「私が死なせません」
「心強いじゃねえか」
「…………」
「いくわよ。3・2・1『止』」
再びトレントキングとの戦いが始まる。