落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
もはや見慣れたシャルの呪術によって真横に迫っていたトレントキングの動きが止まる。
「『オートヒール』」
『コレシッテル』
アカネが魔法を詠唱し四人の体が淡い緑色の魔力で包まれると同時に、トレントキングが言葉を発する。
そして一瞬の間の後、トレントキングは当然のように枝を動かし、その巨体につけた何本も同時にグラフォスたちの方へとすさまじいスピードで近づけてくる。
攻撃準備をしていたグラフォスとトキトだが、思いがけない魔物の攻撃により回避行動を余儀なくされる。
アカネとシャルもばらけるようにその場から飛びのく。
「呪術が効いてないぞ!」
「私の魔力を体内に取り込んで呪術の効果を無効化したのよ! 奴の吸収能力を甘く見てたわ」
もう場所がばれてしまったトキトとシャルは体制を持ち直した後、怒鳴りあうような声のボリュームでそんな話をしている。
グラフォスは砂埃とともに近くに飛んできたアカネを支えるので精いっぱいだった。
「ごめんグラフォス君、ありがとう」
「謝るか、感謝するかどっちかにしてください」
「ありがとう!」
「……行きます」
グラフォスとアカネは相変わらずどこか気の抜けるような会話をしていたが、アカネの声は心なしか震えているように感じた。
グラフォスはそんな彼女を安心させるようにアカネの頭を軽くたたくと、次の攻撃モーションに入っているトレントキングと向き合う。
「とりあえず止めれば何とかなりますかね。『リリース』『フィンガーアロー』」
グラフォスは本を吸うページめくると、手を止めて静かに詠唱する。
本から現れたのは十個の魔法陣。
グラフォスは魔法陣の出現と同時に本から手を放し、すべての指先をトレントキングの方に向ける。
魔力の放出によって宙に浮いている本から出現した魔法陣はその形を保ったまま、グラフォスの両手の指にそれぞれ吸い付くように張り付く。
いつものように魔法陣が霧散することはなかった。
「『リリースエンチャント』『パラライズ』」
グラフォスの詠唱とともに一瞬魔法陣から黄金色の静電気が流れると、直後魔法陣の中心からそれぞれ二本ずつ指の大きさと変わらないほどの小さな矢が射出される。
射出の直後魔法陣が霧散する中、グラフォスの指から飛び出していった小さな矢は小さく静電気のような放電をしながら、真っすぐとトレントキングへと向かっていく。
トレントキングはその矢が胴体への接触を避けようとしたのか、それとも当然の防衛反応か四人に向けていた枝をグラフォスへと集中させると一斉に攻撃を開始する。
「それが狙いなんですよ」
枝は小さな矢を払おうとぶんぶんと振り回していたが、こちらに関しては小回りが利く矢の方が有利だった。
枝の攻撃をよけ続けると、枝の上部に向かって飛び一斉にそれぞれが枝に突き刺さる。
その瞬間トレントキングの動きは一瞬止まり、同時に枝の猛攻も止まる。
矢からは黄金色の電気が流れているのかぱちぱちと音を鳴らしている。
トレントキングは静電気のような放電によりその体を動かせなくなっていたのだ。
そしてそのまま枝を押し込み地面に固定すると、その場から動かなくなった。
「俺の出番だな! 待ちわびたぜ! 『紅蓮斬』」
「『ファイアエンチャント!』」
グラフォスの後ろからトキトが飛び出すと笑みを浮かべながら刀を上段に構える。
そのすぐあと、シャルがトキトに向かって杖を振ると、彼女が構えた刀の刀身に赤い炎がまとわりつく。
「待ってろよー!」
トキトは叫びながら動けないでいる木の枝に上ると、それを駆け上がり本体へと急速に近づいていく。
そして本体の真下まで来ると大きく飛び上がると、一気に刀を振り下ろした。
トレントキングの頂点から切り下された刃は、トキトが落下する勢いのままトレントキングの本体の体を切り裂いていく。
しかし地面に降りる直前でエンチャントが切れたのか、トキトの刀にまとっていた炎は見る影もなくなり、それと同時に弾かれるようにトキトの体がトレントキングからふっとばされる。
吹っ飛ばされたトキトはすぐに体勢を立て直すが、それはトレントキングも同じ。
最後まで真っ二つにされず、かろうじて体がつながっているトレントキングはつながっている箇所から見る見るうちに再生をし、元の状態に戻る。
といっても体は燃えているし、再生のために相当量の魔力を使ったからかその体は先ほどよりだいぶ小さくなっていた。
「ち、もう少しだったのにな」
「さて、どうしましょうか」
グラフォスが出現させた矢も消えさり、トレントキングの枝にも再び自由が戻る。
二人は睨むようにトレントキングを見つめていたが、対する奴はまだまだ余裕だという表情でこちらを見つめてきていた。