落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
両者のにらみ合いは一瞬のことだった。
即座にトキトが刀を構えなおし、トレントキングへと切迫する。
トレントキングもそれに応戦する形で、枝を振り回しトキトの刀をかわす。
属性付与がされていないトキトの刀ではトレントキングの皮とは相性が悪く、やはり傷を多くつけられているのは、トキトの方だった。
しかし重傷を負わない限り、アカネの回復魔法によってトキトの怪我はすぐに回復する。
そんな進展が見られない攻防が続けられていた。
「グラフォス君、さっきのエンチャント魔法、トキトにかけてあげられない?!」
「やったことはないですが……」
他人に向けて自分の魔法を使用したことはない。あくまで自分が使用する前提でしか魔法を発動したことはなかった。
まあそれはこれまでそういった相手もいなかったということもあるのだが……。
グラフォスはあまり自信がなさそうにページを数枚めくると、本を構える。
「『リリースエンチャント』『ファイア』」
グラフォスは片手をトキトの方に向けて唱える。
本から黄金色の文字が浮かび上がり、魔法陣を形成しようとするが、すぐにその文字たちは霧散して意味をなさなくなる。
「……『リリースエンチャント』『リーフ』」
グラフォスは一瞬思案するような表情をのぞかせるがすぐにもう一度魔法を唱える。
しかし結果は先程と同じ。
トキトの刀に何かの魔法属性が付与される様子は見られなかった。
「無理みたいですね」
「そうなのね……」
グラフォスはこの結果をある程度予想していた。
グラフォスの魔法を使用するには使用する魔法に対する知識とイメージ力が一定量必要だ。
自分に属性付与する感覚ならばこれまでのシュミレーションと実験からある程度のイメージをつけることはできる。
ただしこれまで誰かに対して自分の魔法を使用するということに関しては、やったことがないどころか、
ぶっつけ本番でしれっと使えてしまうほど簡単な魔法ではなかった。
「俺が押し切ればいいんだろ!」
トキトはシャルとグラフォスのやり取りが聞こえていたのか、その額に汗をにじませながら、より一層刀の振りを激しくさせる。
トレントキングの枝が数本切り落とされるようなことはあるものの、それはすぐに回復する。
しかし体内に保有している魔力の消費が激しいのかトレントキングの体はどんどん小さくなっているように思えた。
そしてトキトも同様に傷を負う。
「『ヒール』」
しかしトキトの腹がえぐれるたびに、腕が折れるたびにアカネの回復魔法が詠唱され、トキトの傷は一瞬で回復される。
それは通常のヒールでは考えられないほどの回復量だった。
「僕も一つやるしかないですよね」
進展しない状況にグラフォスも動き始める。
やはりトレントキングに有効なのは炎。それは前回の戦いでも十分に証明されている。
それならば今使える炎の魔法で最大の威力を叩き付けるしかない。
グラフォスが攻撃している間にトキトに技の準備をしてもらって、一気に追い込みをかける。
トレントキングの大きさは前回と同じかそれよりも小さくなっているくらいにはなっていた。
前回と同様の攻撃でも同じように通じると、グラフォスはそう考えていた。
新たに記載したページをめくり、前回の戦闘、そしてシャルと模擬戦をしたときのイメージを強く頭に思い浮かべる。
「『リリースクリエイト』『バーニング——』
『ソレハダメ』
グラフォスの詠唱途中でトレントキングは魔力の流れの変化に気づいたのか、枝の一本をグラフォスの方に伸ばす。
トキトも魔物のとっさの方向転換に対応できず、グラフォスはまともに攻撃を食らってしまう。
高く上空に打ち上げられるグラフォス。
一瞬で頭の中をかき回され、激しく揺らされる感覚に襲われ正常な思考などできるはずもない。
「グラフォス君!!」
かすむ視界、揺れる頭の中でかすかに悲痛な面持ちでアカネが叫んでいるのが目に入る。
あーこれはだめなやつだ。失敗したなあ。バカの一つ覚えで同じ魔法を使ったつけが回ってきた。
耳に三人が必死に自分の名前を呼ぶ声が入ってくるのを感じながら、それを処理できずグラフォスはただただそんなことを考えていた。
そして戦闘していた場所から幾分か遠く離れた場所でグラフォスは地面に激しくたたきつけられ、何回転かその場を転がりまわり、そして目の前が暗転した。