落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
外は家が五軒ほど隣接して立ち並んでいる、村というには小さい集落のようなところだった。
そしてその集落の中心にある広場のような場所で複数の子供を追いかけている赤鬼……トキトがいた。
一見すればそれはまるで子供と戯れる優しいお姉さんだが、その追いかけている表情が問題だった。
まるで親の仇、魔物を追い回すような、そんな顔をして必死に子供を追いかけまわしていた。
あれは遊んでるんじゃなくて遊ばれてるんだろうなあ。子供たちは笑顔だし。
あれだけの戦闘をしたというのにまだあれだけ走り回れるとはさすがだ。
グラフォスはそんなことを考えながら周囲を見渡すと木陰に座り、呆れたようにトキトと子供たちの様子を見ているシャルの姿があった。
目が合う形でグラフォスに気づいたシャルは、若干疲れた様子をにじませながらも手を振りながらこちらへと近づいてくる。
「無事なようで何よりです。倒したんですか?」
「まさか。グラフォス君が飛ばされてからすぐに撤退したのよ。撤退したっていうよりは君を追いかけたと言ったほうが正しいかしら」
「僕のことはほっといて、討伐してくれてもよかったのに」
「そんなことしたら隣にいる子に一生恨まれるわ」
シャルが笑いながら指さす方を見ると、アカネが真っ赤な顔をしてふくれっ面でグラフォスの方を見つめていた。
「いや、でも倒せるならそうした方が良いんじゃ……」
「私はそんなことしません」
「いやでも……」
「はいはい。正直あのまま押し切るのは難しかったのよ。三人ともグラフォス君が直接攻撃を食らって少なからず動揺していたしね。それで離脱して追いかけたら、トレントキングも魔力回復を優先してくれたからここまでたどり着いたって感じね」
「そうなんですね」
まあ実際討伐が終わっていなくてどこかほっとしたところもあるグラフォスである。
トレントキング討伐の目的はもはや知識収集だけではなくなっている。二度も遭遇したにもかかわらず、倒し切れていないしむしろぼこぼこにされているのだ。
できることならグラフォスも倒す瞬間に立ち会いたかった。
「それよりここは?」
「さあ、私たちも森の中はある程度把握しているつもりだったけどこんなところがあるなんて知らなかったわ」
「まだ森の中なんですね」
てっきり森の外に出ているのかと思ったが、どうやらまだ森の中にいるらしい。
いわれてみれば森から抜けたにしては周りにうっそうと生い茂った木が生えすぎているような気もする。
「これからどうしますかね……」
「トレントキングを追いかけるに決まってるだろ!」
子供との追いかけっこが終わったのか話にトキトが割り込んでくる。
息は切れていて汗だくだが、その顔はやる気に満ち溢れていた。
広場にいた子供はまだ走り回っていたが、先程のような笑顔ではなく無表情だった。
「今から森に戻るのですかな?」
トキトの提案に悩んでいると、横から話を聞いていた老人が四人へと声をかける。
「今からだと夜になってしまう。夜は魔物の姿が見えづらく、危険性が一気に高まる。よっかったら今晩くらいはここに泊まっていったらどうじゃ?」
確かに老人の言うとおり、日は沈みかけており間もなく夜が訪れようとしていた。
この中を夜に慣れていないグラフォスとアカネを連れて歩くのは難しいだろう。
「お言葉に甘えるのもありだけど……三人ともちょっとこっちに来てくれる?」
「爺さん、ちょっと相談してくるぜ」
「ほっほ。わしのことは気にせんでええぞ」
てっきりその提案を受け入れると思っていたグラフォスだが、トキトとシャルは何やら含みを持たせたいい方で笑っている老人から離れて、集落のすみへと移動する。
「どうしたんですか、シャルさん」
「ちょっと気になることがあるのよね」
「気になること?」
「アカネちゃんとグラフォス君は感じない? ここの魔力の流れ」
シャルに指摘されグラフォスは魔力を感じようと集中してみるが、特に変わったような印象はない。
アカネも同じように魔力を感じ取ろうとしているようだったが、首をかしげているあたりピンと来ていないようだ。
「特に何も感じないですね」
「そう。あまりにも全体に流れすぎているのよ。人それぞれ持っている魔力の量は当然違うわ。だから街に行けば魔力の流れも全然違ったものになる。でもここは全員の魔力が均等すぎるのよ。この場所自体に流れている魔力に合わせるように、一定。気味悪いほどにね」
「トキトさんもそう思います?」
「あ? 俺には魔力とかそういうのは感じられないからな。ただここの奴らはおかしいなとは思うぜ。第一子供の足が速すぎる」
さっきからしかめ面をしているトキトに向かってグラフォスは問いかけるが、トキトからは素っ頓狂な返事が返ってきた。
最後の子供に関してはトキトの主観が入っているように思えて仕方ないが。
「ここにはなにかあるってこと?」
「正直微妙なところね。住んでいる人は普通ぽいし」
「でもあのおじいさんの言っていることも事実ですよね。これから森に行くとしても僕は役に立てないと思います」
話しているうちに日は完全に落ち、あたりは暗くなり始めている。
これ以上暗くなると魔物の捜索おろかそこに立っている木の根に躓いてしまうほどだろう。
「まあ警戒しつつ一泊させてもらうってところかな」
「野営するしかないわね」
意見がまとまった四人は再び老人の元に戻る。
「話はまとまったかの?」
「ええ、お言葉に甘えてここで一泊させてもらうことにしたわ」
「よろしくな」
「かまわんよ。ただ四人が入れる家となると……」
老人は困ったように周りを見渡すが、既に子供たちの姿もなく四人が入れるほどの大きさの家も見当たらなかった。
「トレントキングがまだ近くにいるかもしれねえからな。俺たちは護衛の意味も込めて、野営するよ」
「いいのか?」
「ええ、僕を拾ってくれた恩返しだと思ってくれれば」
「そうか。それならごはんくらいは用意しよう。うちに来ればいい」
「飯だ!!」
「トキトはしゃぎすぎ!」
「そういえばおなかすいたかも……」
グラフォス以外の三人は老人の後をついてグラフォスが眠っていた家へと入っていく。
しかしグラフォスは今の老人の返答に違和感を覚えていた。
ユニークモンスターが近くに出るかもしれないっていうのに、それに対する返答が一切なかった。
あくまで野営することへの確認だけ。魔物に関しては一切聞くことはなかった。
こんな所に住んでいるから魔物の存在に離れているのかもしれないが、それでもユニークモンスターが気にならない住人はいないんじゃないだろうか。
それによく見てみればこんな森の中に集落を作っているというのに魔物の侵入を防ぐような壁もなければ見張りの人すらみかけない。
後でちょっと三人にも聞いてみよう。
今はそれでぬぐえない違和感をごまかしながら、グラフォスも老人の後をついていくのだった。