落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~   作:葵 悠静

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第48節 緋音と音緒

 あまりの見たことがない光景にグラフォスの眠気は吹っ飛び、その場で立ち尽くしていた。

 

 直後、昨日氷漬けのパンを食べていた老人の頭が砕ける。

 

「なっ……」

 

「せっかくこの私が、私自らがおぜん立てしてあげたっていうのに、どうしてあんたは死んでないわけぇ? ねえ緋音ーー、答えなさいよー」

 

 頭のない老人の氷像の陰からゆらりと歩きながら姿を現したのは、アカネが着ている物と同じ制服を身にまとった青髪の少女だった。

 しかし少女というには周りにはなっている魔力があまりにおぞましくゆがんでいて、すさまじい冷気を放っている。

 

「音緒ちゃん……?」

「アカネ、彼女の知合いですか?」

「うん、元居た場所の同級生なんだけど……」

「私を放って勝手に話をしてるんじゃないわよ!!」

 

 アカネがネオと呼んだ少女が片手をふるうと、氷の刃が飛来してくる。

 グラフォスはアカネを抱えてとっさに横っ飛びによけた。

 

「私が魔法を使ってあげてるんだから、よけてるんじゃないわよ……」

 

 そんな理不尽なことをさも当然のように口走る彼女は、もともと整っていた顔なのであろうが、こちらに向けてくるネオの目の下には深いクマができていて、目がうつろになっている。

 動いているのにまるで生気を感じられない。

 

「まあいいわ……。緋音、私たちから逃げ出したと思ったらこんなところにいたのね。また男を引っかけてちやほやされてるわけ? この私を差し置いて、さぞかし気分がいいでしょうねえ!」

「私はそんなこと……」

 

「いっつもそう。私のことはだれも認めてくれない。私は全世界に認められる存在なのよ。私が存在していることをみんなが、全人類……いいえ生物全員が知るべきなのよ。それなのに、今この世界で私のことを認めてくれるのはクリート様だけ……」

 

 自分の手を見つめながらぶつぶつとしゃべっているネオは唐突にこちらから意識がそれたように感じられた。

 クリートとはいったい誰のことだろうか? さっきから胸につけた記章を大事そうに触っているが、それが関係しているのか?

 

「音緒ちゃん、どうしてここに……」

 

「なに? 私がここにいたら悪いわけ? まあいいわあ、教えてあげる。私優しいから。私は表世界の各国の視察をしてたのよ。そしてこの街に来たら、緋音とそこの白髪と少年が楽しくガキと話しているのが目に入ってね? たまたまよ、本当にたまたま。でもこれは何かの啓示だと思って、あの時あなたを殺しそこねたし? せっかくだからそこの坊主もろとも一緒に殺してあげようと思ったのよ」

 

 さっきまでうつむいてぶつぶつとしゃべっていたのに、今度はアカネに向かってやけに自信ありげな表情で話している。

 情緒が不安定すぎるような気がするけど、あの子は大丈夫か?

 

「私は考えたわ。どうしたら一緒に殺してあげられるか。魔物を放ってみたり、わざわざこんな場所まで作って、食べ物で毒殺しようとしたり。それなのに……」

「こんな場所って、この場所は音緒ちゃんが作ったってこと?」

 

「そうだって言ってるでしょう? 私が広場を作って、魔法で家を作って、人を創造したの。すごくない? 私ってやっぱり天才でしょ? それなのに結局魔物は言うこと聞かなくなるわ、人が作る料理は氷まみれだから食べられたもんじゃないわ……さんざんよねえ。もっと私の望む世界になるべきだと思うのよ」

 

「どうしてそんなに……」

「あんたが嫌いだからに決まってるでしょう!? いっつもいっつも私が必死に苦労してしもべにした男を横からかすめ取るような真似をして。向こうにいたころから嫌いで、いつか痛い目に遭わせてやろうと思っていたのよ!」

 

 ネオが顔をゆがめながら叫ぶと、その感情に呼応するように周りの家が、人が木っ端みじんに砕けていく。

 魔法で人を作り、動かしていた。そんなことが本当にできるとするのであれば、いやこの目で見たのだから間違いない。それは可能なのだ。

 一体どんな魔法を使ってそんな芸当が可能になるのか、実に気になる。

 

「しょうがないし、めんどくさいし、あんたごときを殺すために、こんなに頑張った私をあんたは認めるべきだから、私直々に殺しに来てあげたってわけ。感謝してよね?」

 

 一見すれば無邪気に笑っているように見えるネオの目は一切笑っていない。冷たい瞳でアカネのことを見つめている。

 

「私は、殺されない」

「はあ? 何生意気言っちゃってるわけ? 私が気持ちよくなるように殺してあげるって言ってるんだから、潔く死になさいよ! どうせ友達も仲間もいないんだから、あんたが死んだって誰も困らないでしょう!? それなら私があんたを殺して私が気分良くなる方がよっぽど合理的ってもんじゃない!?」

 

 ネオの感情はヒートアップしていき、それと同時に彼女の周りの魔力もどんどん凍りづいていく。

 彼女はおそらく氷に特化した魔法士。アカネが攻撃されたとしても、アカネ自身は回復手段しか持ち合わせていない。

 

「あの、怒っているところ申し訳ないんですけど、そろそろ僕も会話に混ぜてもらっていいですかね。できれば人を造る魔法について詳しくお伺いできると助かるんですけど」

 

 ネオの周囲に大量の氷のつぶてが浮かび上がり、今まさにアカネに攻撃を仕掛けようとしていた二人の間に、グラフォスが割り込むように歩を進める。

 

 そしてあまりの場に合わない言葉に、思わずアカネとネオは二人そろって口を開けてぽかんとした表情をのぞかせていた。

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